6-12 ジネス追跡
さて、いざRAIDER基地内にあるであろうゾンビの遺体回収、及び研究用であろう施設を探すために動き始めた次警隊三番隊。
一日を終えて翌日も幸助、南は引き続き清掃員の姿に扮してその場所に関する情報を手に入れるために逐一聞き耳を立てて調査を行う。
一番隊であるスフェーは万が一の可能性を考慮してビルから離れていった。その背中がどうにも重いものを背負っているかのように悲しげであったことを幸助達の印象に残していた。
そしてラン。ぬいぐるみの姿になっているユリを胸のポケットですぐに見えるように意識は残しつつ清掃作業。と見せかけてたった今すれ違った人物に軽く会釈をすると見せかけて目で追った。
(いたか。ジネス)
この組織の討伐隊の隊長であるジネス。組織内である程度の立場にいる彼の足取りを追いかけていくことで何か掴めるのではないかと踏んだのだ。
ランはジネスの後を追いつつユリの頭を優しく指で撫でながら声をかける。
「お前がやっていた事の延長戦。今度は俺も一緒だから、念を押すが離れるなよ」
ランの忠告を受けて少し不貞腐れたような態度を取るユリ。ランは再度一度彼女の頭を撫でて小さく笑いかけると、目線を戻してジネスの後を追った。
朝の出勤から始まってそのままビル内の部所に入り、他の社員と同じようにパソコンを操作して事務仕事に励むジネス。
(普段は他の社員と同じように事務仕事。対ゾンビ用の組織ってだけじゃ仕事は回らないって事か)
その後も午前中の間は他の社員から受け取ったプリントで増えた作業をも黙々とこなし、席を立ったのは昼休みだ。
当然背景に紛れ込みつつランもジネスを追いかけると、ジネスは会社内のコンビニにて適当な軽食を買い、その近くの休憩所のベンチに腰掛けて食事をしつつ、スマートフォン型のデバイスを操作している
(昼休み中は一人。デバイスの操作はネットか、連絡か?)
昼休みが過ぎると、ジネスはまたも移動。今度は訓練場らしき場所へと赴いた。ランはブレスレットの能力で服装を変化させつつ念のため用意した帽子を深く被って顔を隠し訓練場に入る。
訓練場にてランが見たのは、隊の他の面々達とは馴れ合いもせず一人で射撃訓練やイメージトレーニングによる模擬戦をしているジネスの姿だった。
(ここまで誰とも協力していない。一人が好きなのか、コミュニティに興味がないのか)
その日は特にゾンビ出現による出動要請もなく時間は過ぎていき、夕方になるまでそのたった一人による訓練、トレーニングは続いた。
定時のチャイムが鳴る。ジネスの動きもそこで止まり、即座に移動して着替えると、これまた誰とも一言の会話もせずにRAIDERのビルを後にした。
ランもジネスに見られないように再度服装を変化させつつ少し遅れてビルを出た。
「アイツ、本当に会社内で誰とも会話しなかったな。ぼっちかよ隊長格のくせに」
ふと呟くランに服装変化の度に移動させられたユリが『アンタも幸助君達と出会う前は同じようなもんでしょ』とでも言っているのが伝わってくる態度を見せる。
ランもユリの言いたいことを察して苦い顔をした。
「俺も似たようなもんってか? 俺にはお前がいたんだアイツほどぼっちじゃねえよ」
しれっと口にする台詞にドキッとさせられるユリ。口にはしないものの内心では何処か動揺していた。
(ホントもう、ランってなんでこうかっこいい口説き文句を天然で言うのかしら。聞いてるこっちが恥ずかしくなるわよ)
「ランから幸助へ……ランから南へ……」
着信をかけたランに幸助はすぐに反応した。
「どうかした? ラン君」
「情報が手に入ったのか?」
「いや、例の隊長さんが仕事を終わった。昨日のユリじゃないが、機密場所がビル外って可能性もある。一応追ってみる」
「「了解」」
短時間で通話を切ったランは、目視できるギリギリのあたりの位置でジネスを追いかけ続けた。途中で電車に乗り更にビルから離れていく三人。
ジネスが電車を降りて駅の出入り口に行きランもこれに続く。ここに来てランが見たのは、事前にこの場所に到着して待っていた人物がいた。
(あの女は)
その人物は先日ランとユリがたまたまジネスと共に出会った女性、リコルだ。彼女はジネスの姿を見て明るく手を振り自分を見つけさせる。
ジネスは軽く駆け足になりながらリコルに近付くと少し謝罪の籠った挨拶をした。
「ごめん。予定より遅れた」
「ううん全然いいよ。私がお昼に急に誘ったのに、来てくれてありがとう」
普通ならほかの音に混ざって聞こえないであろう会話だが、ランの優れた聴力はこれをすぐに聞き分けることが出来た。会話の内容からしてジネスが昼休みにスマホを操作していたのはリコルとの連絡を取り合っていたからだったのだろう。
リコルと合流したジネスは二人で再び移動した。リコルの装いからしてデートに行く感じだろう。
「仕事終わって即効デート。今日は出動がなかったものの忙しい奴だ。ま、基本的にこういう仕事は交代制だろうから、少しでも遊べるときに遊びたいって事か」
結果的にデート中のカップルをつけ回すストーカー行為になってしまっている事に少々引っかかる。なんてことはなく黙々とジネスの追尾を続けるラン。
その後の彼の動向は特に変哲もないデートを楽しむ姿ばかり。ハッキリ言って有益な情報は得られないままに夜になっていた。
ある程度の後に駅前にまで戻った二人は会話をしている。
「お仕事帰りにありがとう。今日もこれから、行くの?」
「ああ」
「私も一緒に……」
「いい。俺一人で行く。今日も会えてよかった。じゃあな」
カップルの会話とは思えないさっぱりとした台詞で切り上げてリコルをやや置いてけぼりにしながら駅からの改札をくぐっていった。
ランは顔を知られているリコルに気付かれないように慎重になりつつ改札をくぐり、ジネスと同じ電車に乗って移動する。
続いてジネスに続けて降りた。時間経過の合間に空模様が悪くなり雨が降る中でジネスの後ろに続いてランがついていき見たのはとある病院。見た途端にポケットの中のユリがランの服の袖を引っ張ってきたことでランは一度足を止めた。
「あ? あぁ……ここお前が昨日勝手に移動していた病院か。てことはアイツがここにやってきた要因も自ずとわかるな」
口ではそういいつつもより詳細な情報を目視で得るために中に入ろうとしたその時だ。突然ランの耳にガラスが割れるような音が響いていた。
「何の音だ?」
ユリと共に顔を上げるランは、揃って窓から飛び出しているシルエットを見つけた。雨雲の暗さでハッキリ分からなかった二人だったが、効果不幸はそこに稲光が照らした。
その姿はダークグリーンの身体に返り血の赤色を纏ったような風貌をした不気味な怪人。一度生で見た事のあるランとユリにとってとても驚くべき相手だった。
「ヘレティック!?」
どういう訳か病院から飛び出していったヘレティックは驚異的な身体能力で壁を蹴り、別の建造物の屋上に降り立ってそのまま真っ先に走り出していった。
「なんでアイツがあんな所から飛び出すんだ? ジネスは病院の中か? どっちを追うべきか……」
などと独り言に近い問いかけをするランにユリはぬいぐるみの柔らかい右手で彼の身体を軽く叩いて諭した。
(私が言うまでもないでしょ? 放っておけば片方が被害者が出るかもしれないんだから)
「とでも言いたい感じだな。了解した」
ユリの指示を聞いた体で自分を誤魔化しつつランは素早い動きで移動していくヘレティックを追いかけるためにアルファ号を出現させて搭乗した。車輪の突いたベータ号よりも空間を立体的に移動できるアルファ号の方が追跡に向いていると踏んだのだろう。
アルファ号がある程度空中に浮かび上がったところでランが周囲に目を凝らすと、ここでまた稲光により離れながらもヘレティックの居場所を確認できた。
「よし場所は分かった。国家らは出来るだけ低く移動だな。雷に打たれたらひとたまりもない」
今回ヘレティックの正体を掴むのに素晴らしい手掛かりになったものの、一歩間違えれば自分達にも危険を及ぼしかねないのが自然現象。ランは細心の注意を払って時折視野の広がる場所からヘレティックを確認しつつ後を追いかけた。
(頑丈チートの幸助がいたら雷でも平気な気がするが、まぁ今いない奴の事を考えても仕方ないな。ヘレティック、足も止めずに何処に……ッン!!)
ランが次にヘレティックの姿を見たとき、またも驚かされてしまった。ヘレティックが屋根から飛び降りて行ったのは、ランにとっても見覚えのある遊撃車への襲撃だったのだ。
(RAIDERの遊撃車!? 出動命令は出ていないのに何で!? いや、そんなことよりヘレティックか)
ランがホバーバイクを人の目につかないギリギリの位置にまで移動しつつブレスレットに収納すると、遊撃車後部を破壊して今まさに搭乗員を襲おうとしていたヘレティックに飛び掛かった。
タックルを受けたヘレティックは体重が軽いのかランに押されて遊撃車から離される。二人がお互いに立ち上がると、ランはダメ元で問いかけてみた。
「お前、目的はRAIDERの襲撃なのか?」
ヘレティックは問いかけに答えようとはせず、邪魔をするならお前も敵だとばかりに真正面から鋭い爪による攻撃を仕掛けてきた。
流石にいくら素早いといえど攻撃事態は単純な詰めにより斬撃や突きばかり。感知に鋭いランが警戒している中ではそうそう当てることは出来ず、逆にランに間合いに入らせる隙を与えた。
「話をする気はないのか出来ないのか……だがこっちは忙しい上人がやられると面倒な事案なんだよ。ややこしい事になる前に撃退させてもらうぞ」
ランはブレスレットを秘かに変形させていたバッドを振るいヘレティックの右脇腹に一撃を当てた。普通の人間ならば重症、気絶になってもおかしくない一撃だ。
「おいおい、マジかよ」
ランが驚いたのはヘレティックの動きだった。普通の人間はもちろん、兵器獣とて不意の素早い一撃に反応し体を動かすことは難しい。フジヤマでさえ、あくまで異能力による効果という特殊な方法で防いでいた。 だというのに、ヘレティックは動いた。腕を動かし止めたのだ。
驚くべき身体能力に打つ手なしに思われた。だがランに一切焦りの表情はなかった。それもそのはず。彼は一つ失敗して終わるような単純な手など考えていなかったのだ。
次の瞬間、ヘレティックの右手から出血した。掴んだバットから言開けていたいくつもの棘に貫かれたのだ。
「単純に見せかけたやらしいやり方。効いてくれた感謝だぜ」
激しく降った雨が弱くなっていく中、血の雫が地面に店となってこぼれていた。
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『FURAIBO《風来坊》STORY0』 http://book1.adouzi.eu.org/n6426it/
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