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6-11 隊長の立場



 ランの次警隊三番隊隊長の立場が危ぶまれている。言葉としては聞いていたユリだったが、その意見を唱える派閥がどのくらいいるのかについてランは彼女に話していなかった。

 スフェーは一度間を置いてから事の状況をより明確に告げる。


「次警隊の隊長は全員で十一人。大隊長も含めれば十二人いる。本人はもちろん含まないが、実質的な人数は半数ということになる」


 半数もの隊長がランの解任に賛同した。かなり崖っぷちな状況ということが明白だった。

 だがここでランが気になるのは自分の事ではなく、これを聞いて視線を逸らしている幸助と南についてだ。


「なんでそれでお前たちが微妙な顔をしてるんだ?」

「いやあ、その上でユリアーヌ隊長に聞いたんだけど」

「近いうちの仕事次第で、隊長の立場を失うことになるかもしれないって」


 ここに来てランの表情が動いた。ユリはこれを聞いていないとランに詰いろいろめ寄る。


「ラン! それってどういう事!?」

「あぁ……それはだな……」


 ランが嫌そうな顔をしながらもユリに責められてしまっては隠しているわけにもいかないと口を開きかけるも、お前と妹に会話はさせたくないとばかりにスフェーが話に割り込んできた。


「この所こいつはミスを重ねている。赤服との戦闘で二度も連続して取り逃がした。何より護衛対象であるマリーナをさっきも守りに遅れていた」

「それは! 私が勝手に動いたことが原因で」

「「それはそう」」


 外野から冷静に指摘は入れる幸助と南。話に再び参戦して来た二人にランはもう一度話を投げかけた。


「それでお前らが微妙な顔になっているのは、俺が首になった時の自分達の立場についてか? まあ三番隊はなくなるんだから移動は必須だわな」

「その移動先を私の元にすればいい。という話を持ち掛けたのだ」


 聞いてもいないのに勝手に答えてきたスフェーにランはジト目になって反対する。


「それは嫌だなぁ」

「何?」

「裏切り者が出た部隊に俺んとこの隊員や家内を預ける? それこそ危ない気がしてならねえな」


 スフェーにとって引っかかる単語を出したことでランの突っかかりにスフェーの顔もまた歪みお互いに睨み合いが始まる。


「確かに部隊内から次警隊の意に反するものが現れた。だが我が一番隊の隊員が全てそんな薄い信念で動いているわけではない!

 貴様の様に宇宙平和も人のためも思わない男とは違うのだ!」

「だが裏切り者が出たのは事実だろう? 完璧主義が聞いて呆れる」

「人を碌に束ねた事もない貴様が言えたことか!!」

「束ねて失敗するよりよっぽどマシだ! それにこいつら二人はそう纏まりに入って郷に従えるタイプじゃねえよ。人のピンチ見たら他の事ほっぽって行っちまうからな」


 ランのわざと嫌味風に口にする台詞に幸助と南は胸に針を突き刺されたような思いになる。そんなランの言い回しにスフェーは追及する。


「それは優しさの証拠だ! お前は彼等のそれすら否定するというのか!?」

「お兄様!」


 二人の終わらない言い合いに割って入って止めに来たのはある意味もちろんながらユリだった。


「マリーナ。これは君のためのことで」

「だったら私はランの元にいたい! ダメなの!?」


 あまりにもドストレートな反論。だが妹に甘いスフェーにはこれがかなり効いていた。


「そ、それは……妹よ、君の意思を尊重したい気持ちは私にだって山々なのだが……それでも」

「それでももへったくれもない! さっきから聞いている内容を整理すると、この今起こっている問題を解決すればランの立場は考え直すって事でいいんですよね!?」

「あ、あぁうんそうだけど」


 あれだけランに口論をしていたスフェーだったが、大好きな妹からの圧と勢いに押されて声が引っ込んでしまう。逆にユリはこの勢いに乗ったままにスフェーを言い負かしにかかった。


「だったらこの事件を解決したら! お兄様もランの事! いい加減隊長として賛同してくださいますよね!!?」

「えぇ!? ああぁ……う、うん……」

「だって、ラン」


 スフェーに文字通り強引に承諾を取ったユリは険しい顔を引っ込めて後ろにいるランに振り返って顔を向けた。


「だってってよ……まあいいか。どうにしろ解決しないとやばい事だしな」


 小競り合いが途切れてランな納得したような顔を作ると、ユリは少し口角を上げた。ランは一旦悶着に区切りがついたと外部に立ち尽くしていた幸助と南に声をかけた。


「つ~ことだ。今回の事件、どうあがいても解決しないといけなくなったって事で、お前らにも色々働いてもらおうか」


 少々上からな言い分をしているもいつもの調子に戻ったランに幸助と南も固まっていた顔付きが少し緩んで近づいて来た。


「働いてもらうって、とりあえず今はここまでと同じく清掃員のふりをして調査するしかないんじゃ」

「最も調査しようとしても、中々有益な情報は手に入らないんだけど……」


 正直なところ現状はあまり良くないと思っている南。幸助もそれに関しては同じ気持ちだ。

 そこにランから告げ口が入って来た。


「それについてだが、一つ引っかかる事がある」

「はい?」


 キョトンとする南にランはユリの肩に触れつつ説明した。


「ゾンビについてだ」

「え?」

「これについては俺の根拠のない仮説にすぎない。だが当たりなら色々フワフワしていた点が一気に引っ付くぞ」


 ランはこの場にいる仲間達に自分が立てた仮説の結論を単刀直入で口にした。


「あのゾンビ、兵器獣なんじゃないかってな」


 ランの言い分に全員が目を大きくして反応するも、他の誰かに聞かれでもされてはマズいとどうにか声を抑えながら質問した。


「ゾンビが兵器獣? なんでそんな」

「生で二度見た感想だ。ぱっと見の見た目からの情報だがな」


 ラン達が現場で見たゾンビの姿。全て人間のシルエットをベースに別の生物の要素を足したような出で立ち。それはまさしくフジヤマやブルーメ達、人間ベースの兵器獣の特徴のそれと同じだったからだ。


「ちょっと待って! ゾンビってこの世界の人達が突然変貌する存在なんだろ!? 兵器獣は赤服の連中が人為的に生物を融合させた存在! 話がかみ合わない!!」


 幸助からの指摘にランは冷静な顔を崩さずすぐに返答する。


「それは確かにな。だが俺達が聞いたゾンビの情報はあくまで地域住民の噂程度のものだ。確定のものじゃない」

「つまり何が言いたいの? ラン君」


 南が首を傾げていると、ランは一呼吸間を置いてわざと印象付けるようにしながら続きを話した。


「この世界の何処かで、兵器獣が作り出されている実験施設があるかもしれない! もしそんなものがあるのなら、次警隊の裏切り者さんがこの世界にいるとして立ち寄らない手はないと思わないか?」


 ランの言い分に全員の顔が納得に至った。即ちゾンビの事を調査すれば、裏切り者の動向に行き着く可能性がかなりあるという事だ。


 何も情報がないと思ったところに気付かされた大きな手掛かりに汗を噴出させて考える幸助達。息を飲みこんだ幸助はそれが本当として次の疑問を浮かべる。


「でもさ、ゾンビから調査をしようにも戦闘現場では討伐部隊が囲っているんだ。その状況じゃあ近づいて調べるって訳にも……撃退後どうなっているのかも分からないし」

「ああ、それなら討伐部隊がそのまま持ち帰っていたことが分かっている。ちゃんと見た」

「抜け目ねぇ……」


 相変わらずのランの抜け目のなさに半分呆れる幸助。


「それじゃあゾンビの遺体はこのビルの何処かにあるって事?」

「可能性は高いだろう。つまりはそいつを見つけ出してこっそり調査……が理想ってところだろうな」


 鶴の一声から途端に現実的な道筋が見えてきた一行。やる気も満ち満ちてきている三番隊の隊員達だったが、ここにきて一人部外者であるスフェーは冷たく言い放った。


「貴様の仮説は大いに納得がいく。私はその調査には乗れないな」


 上がりかけたテンションにブレーキをかけられて微妙に動きがガタついてしまう三番隊。一番大げさに動いた幸助が態勢を立て直しスフェーに反論した。


「な、何でですかユリアーヌ隊長!? ランの言っている事の説得力に納得しているのに」

「まあね。ただしそれが必ず正解とは限らない」


 幸助の反論の動きが止まった。確かにこれはあくまでラン個人の仮説。確定の情報ではないのだ。可能性は高いとはいえ、全員で同じ行動をして完全に的外れであれば大いに危機に陥りかねない。


「念には念をだよ。万が一の場合に備えて私は別で調査させてもらおう。手分けして捜索した方が見つかる確率は上がるだろう」

「単に俺に協力したくないだけだろ」


 紳士的な態度をしながら理由を話していたスフェーに単純明快な嫌味を飛ばすラン。スフェーはこれを受けて瓶にギリギリ保っていたところに文字通り水を差された事で溢れてしまう怒りを感じた。


「本当に……貴様という奴は会う度に毎度毎度人の気に障る事を平然と言ってのける!! 本当に失礼というものが分からない奴だレオトラと同じで!!」


 レオトラ、ランの育ての親の名前が口に出された途端にランの目つきが変化し、スフェーにメンチを切りながら怒り交じりの返答をした。


「その言葉当たっているが腹立つな! アイツをよく知っている親父さんならまだしもてめぇに言われるのはよぉ!!」

「大隊長だ! 貴様こそわが父であり次警隊の長たる相手に対して不敬が過ぎる!! やはり性根を叩き直してやらればならないな!!」

「やってみろ、今度こそ返り討ちにして地べた舐めさせてやるよ」

「二人共!!」


 再び間に入ったユリの声に諫められるランとスフェー。二人共彼女の前には頭が上がらずに口論を止めてそっぽを向いた。


「こんな時にしょうもない言い争いはやめて! 急がないとその裏切り者がどう動くか分からない! 道筋が決まったのなら早くやらないと!」


 ユリの言い分に怒り顔が緩んでいくスフェーに彼女は今なら言えると兄に告げた。


「それとお兄様、私はこの仕事、もう一人で動いたりはしない」

「おお、それは良い事だ」

「ランと一緒に動くから!」

「なら私と……何!!?」


 ユリの言い出した台詞に目が飛び出る勢いの変顔になるスフェー。


「なんだ! 何を言っているのだマリーナ!」

「今回の件でランの今後が決まるんでしょ? ならなおさら私はランといたい! 妻として!!」


 ユリの最後の一言。スフェーの中で何度も頭の中でエコーがかかって響き渡る。時間にして一瞬ながら、彼の脳内では数分数時間数日にも思えるような感覚で妹との思い出が振り返られていった。


(マリーナ……私の可愛いマリーナ……あんなに私を慕ってくれていたマリーナが……こんな奴に……)


 現実、数秒にしてスフェーは力なく膝を付いた。結果的にどう動くべきか決定されたのだった。


作品を読んでいただきありがとうございます!よろしければブックマーク、評価もしていただけると嬉しいです!


更によろしければこのシリーズの他の作品もよろしくお願いします!!


『FURAIBO《風来坊》STORY0』 http://book1.adouzi.eu.org/n6426it/


PURGEMANパージマン』 http://book1.adouzi.eu.org/n9975ki/

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