6-7 カウンター勝負
下手な攻撃をすればその途端に捕えられ、直後にその相手を喰らうゾンビ。かといってマシンガン程度の飛び道具ではその硬さに対処が出来ず隊員達が指示待ちで途方に暮れかけていた。
ところがランは何かを思い立ったかのようにヘルメットの奥で顔つきを変化させると、今しがた助けた隊員が持っていたマシンガンを取り上げた。
「アッ!……」
「借りるぞ」
マシンガンの持ち主も含めた部隊の他の隊員達が呆気に取られている中でランは両手に武器を持った状態で再び走り出した。
だがランの向かったのはゾンビに近付く方向ではなく、困惑して動けていない隊員達にだった。
「貴様! 何を!?」
「うるさい。アイツを倒すのに道具が多くいるんだよ」
怒声を飛ばすジネスにランは冷たく言葉を返しつつ走り回り、隊員達から次々と武装品をパクっていった。完全に隊員個人の勝手な行動に止めに入ろうとするジネスだが、ある程度数を揃えた所でランは方向転換をし、全速力でゾンビに向かっていった。
対するゾンビは物騒な相手が走って近付いてきているにもかかわらず視線を向けるのはおろか全く反応すらしていない。ランはこのゾンビの動きに思うところがあった。
(やっぱりだ。このゾンビ警戒心が全然ない。というか警戒する思考を持ち合わせていない感じか?
体が硬く弾きでは効力がない。一定以上の深いダメージを受けた途端にセンサーの様に反応して相手を捕え喰らう。一か所からなら即座に反応される。なら……)
もちろんランは最悪ゾンビのこの行動が罠である可能性も考慮しつつ、敢えて真正面から最短距離で突撃すると、一本の武器から既に展開させていたブレードをゾンビの左側面から突き刺した。
当然これにゾンビは反応し、突き刺されたブレードを固定して殻が外側部分から離れて形に変形させ、ランの身体を拘束しようと素早く動かしてくる。
(すばやい。だがこれならどうだ!?)
ランは自分がゾンビの大口に喰われるよりも先に別の隊員のものだったブレードを別方向から刺し込んだ。ゾンビはこれにすぐに反応するも、たった今受けたダメージの対応で口を広げていたところでの別方向からの攻撃に一瞬動きが止まった。
(やはりか)
ランがゾンビの一瞬の硬直に何かを察すると、直後にゾンビは二度目に刺した一の取り囲むように口を出現させて丸のみにしようと仕掛けた。
「させるかよ!」
ランは即座に動いて更に別方向から別のブレードを刺し込むと、今度は足を止めることなくゾンビの近くを周回して次々に隊員達からパクっていったブレードを某パーティーゲームのおもちゃの要領で突き刺し続けた。
「何をしているんだアイツ?」
「一人で勝手に動いて、武器を無駄にしているだけだ」
ランの意味不明な行動にヘルメット越しに汗を流して次にどう動くべきかを悩んでいる隊員達。隊長であるジネスは彼等の様に混乱こそしていないものの、ランの行動にはどうにも警戒を向けていた。
一見するとただがむしゃらに動いているだけに見えるこの行動。しかしランの服の中に隠れているユリだけは理解していた。彼が経った今も無意味な行動などしていないことを。
そして周辺にいる討伐隊員達にも、もう少し事件が経過してランの行動の意図について目に見えて予想が付き始めてきた。
「おい、なんだか変だぞ?」
「ゾンビの様子が……」
隊員達が外野から見る形になっているゾンビは、ランから絶え間なく攻撃を受け続けている合間にどの攻撃に反応して口を広げるべきかが判断が付かなくなり、処理が間に合っていないパソコンがフリーズするように行動を停止してしまっていた。
「ゾンビが攻撃してこない!?」
「まさか、これを狙って次々刃物を!?」
隊員達が仮説を口にしている。今回のゾンビは銃撃では無反応。しかし隊員の一人がブレードを突き刺した途端に反射的に攻撃をして来た。
つまりこのゾンビはピンポイントに一定以上の物理ダメージを受けることで動く出し、カウンターで相手を喰らってしまうような生体になっているのだろう。
ならば一攻撃を一人でしか対処できないのならば次々攻撃を当てれば処理落ちして行動不能になるのは無理もない。
だがランのこの行動にはもう一つの目的があった。行動不能にするだけならば遠距離からの銃撃でも打ち方を工夫すれば可能だったはず。しかし彼はそのもう一つの目的のために敢えて近接武器での連撃に切り替えた。
ランは走り回りつつ、ゾンビの身体を下から上まで観察するように見回し、あるものを見つけた。
(よし、出てきたな)
ランがゾンビの身体に見つけたのは、圧力の高い鋭利な物体の突きを受け続けた事で出来た装甲のヒビ、更にそこから左肩の装甲が崩れた綻びだった。
ランは動かない相手の装甲の綻びに即刻近づき、左手を周りに見えないように身体全体で覆い隠すように構えた。そこでランはブレスレットを寸鉄に変形、綻びに鋭い打撃を叩きこんだ。
攻撃を受けたゾンビの左腕はそのまま反応のないままに鋭く内部に響いていき、付け根を破壊してみせた。
(砕けた! やはりこのゾンビは攻撃個所に反射的に動こうとする分その瞬間に防御はおろそかになる。あれだけ大口を広げていたら無理もないな)
驚く隊員達。だがランにとっては予想通りの結果だった。
だがここから先はランの予想から離れていった。ランは相手の動きが鈍っている内にもう一度追撃を仕掛けようとした。ところが直後、ゾンビはここまでで一番に巨大な口を出現させ、ランに襲い掛かって来たのだ。
「何っ!?」
想定外の後範囲攻撃にランはすぐに回避行動をとって後ろに下がる。口の大きさは二倍程だが動きの速さはこれまでの攻撃よりも素早く、尚且つ威力範囲も高いと来た。
ランは一歩遅ければ全身丸ごと飲み込まれていたであろう攻撃をギリギリのところで回避した。
だがゾンビはこの攻撃の衝撃を利用しかのか偶然か、強風に推し飛ばされて体を浮き上がらせる要領で移動し、かなりの距離を離してしまった。
「マジか! あんな奥の手を反射でやるのかよ!」
「チッ! 何をしている!? 移動するぞ!!」
ランがゾンビの大きな動きに驚く中でジネスは彼の勝手な行動に苛立ったのか、それともゾンビを仕留めきれなかったことに対する怒りからなのか、故百々にも分かるほどの不機嫌な声色で指示を飛ばした。
隊員達が遊撃車に乗る中ランもすぐに移動しようとしたが、ここに来て何故か態勢が崩れてしまった。
「何だ?」
ランが視線を下に向けると、かなり大掛かりに抉られている自身の膝下に気が付いた。
「かすっただけでこれかよ」
自分の肉体のダメージに苦い顔をしているラン。ジネスは一瞬そんな彼に目線を向け、他の隊員も彼に問いかけてくる。
「隊長! 負傷者が!!」
「構わん! ゾンビを駆除するのが優先だ! 速く行け!」
「は! はい!!」
ランの救助ではなくゾンビの討伐を優先するジネスの怒声交じりの指示に隊員は震えて足を急がせた。
ジネスもすぐに移動し、ランは負傷したままこの場に取り残されてしまった。
「参ったな……掠っただけでこれかよ……」
このままでは置いてけぼりにされてしまう。ランがとりあえず応急処置だけしてすぐにジネス達に追いつこうと身体を動かそうとする。
しかしその前にランの動きは誰かに後ろから抑え込まれた。
「止めなさい。まずは回復よ」
声ですぐに誰なのか気付いたランは抵抗を止めて尻を地面に付けた。
「勝手に出るなって」
「怪我人回復は私の仕事よ。文句はないでしょ」
反論しながらランの前方に回り込んできたユリは、彼の足を自分の異能力で治癒していく。
雲行きが暗くなり、雨が降り始めた。ユリが回復を完了させた少し後には、かなり本降りの激しい雨に変わっていた。
「ありがとな。だがすぐに戻ってくれ」
「急かさないで。今は近くに誰もいないでしょ?」
「それでも風邪をひかせるわけにはいかないだろ」
ユリはランはサラッと言ったセリフに少し頬を赤くするも、素直になれずに反論を口にしてしまう。
「ナッ! 自分の事は棚に上げて!!」
「すぐにアイツらを追う必要があるからな。こうなればバイクでも使って手早くいくさ」
バイク。ユリはランの口から出た単語に勇者の世界で彼を乗せたバイクの惨状を思い出して赤くなった頬が引っ込んだ。
「アンタ……また壊したりなんてしないでよね!!」
「……善処する」
うやむやに話を切られてユリはまたぬいぐるみに姿を変え、ランの服の中に隠れた。ランはそこからおいて行った遊撃車に追いつくために『ベータ号』に乗り、スピードを速めて移動する。
どうやって追いかけるのかと思われるが、そこは抜け目がなかった。遊撃車から降りるときに小型の発信機を張り付けていたのだ。
「もう少し先か。流石に街一つ飛びなんてことはないからな」
ランは更にバイクのスピードを上げて疾走した。そしてようやく発信機の信号を検知した場所の周りにまでやって来た。
「ここいらか」
ランは誰にも見つからない内にバイクから降りてブレスレット内に収納すると、足音を消しつつ近付いて行く。
「さて、攻略法は知ったしもう討伐されたのか……」
ランが仮説を立てて慎重に動いていたその時、突然曲がり角から何かが飛び出し、地面を擦って倒れた。
「何だ!?」
ランが飛び出した存在に目を向けると、それは先程逃げたゾンビだ。だが今のゾンビはランがちぎった片腕だけでなく、もう片腕に足も既に破壊されている。
「何だこの状態? アイツ等がやったのか?」
ランは間髪入れずにここに近付いてくる音を聞き取り少し下がった。するとゾンビと同じ場所からもう一つ何かが飛び出して来た。
ダークグリーンの身体に返り血の赤色を纏ったような風貌をした不気味な怪人。この世界で子の存在を表す言葉は一つしかない。
「もう一体の、ゾンビ?」
そのゾンビの手には、もう一方の倒れているゾンビ物のらしき右足が握られている。そしてこれを潰した途端、新たなゾンビは間髪入れずに相手の間合いに入り胸の中心を鋭い爪をした右手で貫いた。
攻撃を受けたゾンビは数秒間悶えて力尽き、力をなくして動かなくなった。
もう一方のゾンビは突き刺した右手を引っこ抜いて立ち上がると、この手に付いた相手の血をほんの少しだけ呆然と目視し、聴覚に敏感なランの耳に響く甲高い雄叫びを大きく上げた。
思わず耳を抑えるランは、目の前に残った相手に驚きながら率直な印象を思い浮かべていた。
「ゾンビ狩りの……ゾンビ!!?」
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『FURAIBO《風来坊》STORY0』 http://book1.adouzi.eu.org/n6426it/
『PURGEMAN』 http://book1.adouzi.eu.org/n9975ki/




