ココラー13 封じれない思い
雷太のここに至るまでの経緯を聞き、納得するフジヤマとオーカー。そして雷太を除いたこの場で一番鈴鹿と仲良くしていたココラは目を丸くし、焦りが強まった。
「それじゃあ、あのムールって人は、鈴鹿さんに酷い事をしてGINGAGAMEを潰すきっかけを作ろうとしているってことですか!?」
「あぁ……」
「なんとも自分勝手な奴だ。自分の失敗を人のせいにした挙句、逆恨みで兵器獣を使いテロまがいの事をやるとはな」
フジヤマはムールの醜悪さに腹を立てる。自分の開発した技術がそんな使われ方をされているのだ、無理もないとオーカーはフジヤマの怒りを理解する。
「貴方が何故コソコソ動いていたのかについては聞かないでおこう。確かにこんな突拍子もない話。普通に言っても信じてはもらえないな。
疑ってしまいすまなかった。鈴鹿さんが拉致された件については俺にもお前を邪魔してしまった責任がある」
フジヤマは雷太に対して自分の判断ミスのせいで状況を悪化させてしまった事を謝罪した。雷太も事情を話していなかったがために衝突してしまった事に対してのミスを感じていたがためにそこまで攻めることもしなかった。
だがどうであれ鈴鹿が攫われてしまった事実は変わらない。一番焦っていた雷太は事情を説明し終えた事もあってすぐにこの場から移動しようとする。
「鈴鹿が攫われてしまった今、いつアイツが危険な目に遭うか分からないんだ! 俺の事情は伝えたし、俺はもう移動させてもらう」
「待たれよ雷太殿! 鈴鹿譲の居所が分からない中で闇雲に探したところで見つかりなどしない!!」
オーカーの言い分も雷太は聞く耳を持とうとすらせず去っていく。オーカーは心配になって追いかけようとするが、走り出す前にフジヤマに止められた。
「止めておけ」
「何故止めるフジヤマ殿!」
「ここはあのエルフさんに任せておいたほうがいい」
「え?」
フジヤマに言われたオーカーが辺りを見渡すと、いつの間にかココラの姿も消えていた。そのココラは、フジヤマ達の視界から雷太が離れたタイミングで彼の右腕を後ろから掴んだ。
「何だ!? これ以上時間をかける訳にはいかないとさっきも!!」
「少しだけでいいんです! 二人でお話出来ませんか?」
「そんな時間など!!」
「大切な人が危機に陥って焦る気持ちは分かります! でも、だからこそ一度立ち止まって欲しいんです!!」
「何でそこまで! アンタには関係ないだろ!!」
腕を振り払って去ろうとする雷太。だがココラは負けじと握る力を強めて逃がさなかった。
「確かに! 私は鈴鹿さんとはついこの前であったばかりで! 貴方程あの人を知っているわけでもないです……でも! 私は貴方を放っておけないんです! 一人で無茶をしちゃいそうで……貴方みたいな人を、見てきたから……」
雷太はココラの沈んでいく表情を目にして振り払おうとしていた腕の力が弱まった。彼の頭には以前に見た鈴鹿の悲しげな表情が浮かんで来たのだ。
「一人で無茶」。自分が一方的に関係を切った時の鈴鹿も今の彼女と同じような思いだったのだろうか。雷太の思考に合わさって激情は小さくなっていった。
「俺みたいな人って、どんな奴だったんだ?」
雷太は鈴鹿にどことなく似ているココラが言う自分に似た人物について少し気になった。
ココラはいざ問いかけられるとは思っていなかったのか雷太の腕を放して一瞬混乱しかけるも、自分の知るその人物について改めて思い出しながら語った。
「その人は……元々別の世界で生まれた人で、私のいた世界に迷い込んできたんです。
本当は余所の世界を守る義理なんて何もないはずなのに、私達に恩があるからって自分から率先して前線に戦いに行って、危ない目に遭って……それでも自分は大丈夫っていつも笑って言ってて……」
語っていくたびにココラの頭には一緒に旅をしていたころにその人物が彼女に見せてくれていた顔が次々に浮かんでくる。
行ったことのない場所に到着して楽しそうにする顔。予定以上に単独行動をとってしまって叱られた時の怒った顔。だが真っ先にかつ一番強く思い出されるのは、何度も自分からわざと印象強く残すように見せていた優しい笑顔だった。
だがココラは同時にこの表情の半分かそれ以上かが本心ではない作られたものであることを察していた。自分たち全員が危機に陥った時、いつも彼はココラ達に不安をかけさせまいと笑顔を作り、直後に怒りが籠った激しい表情に変化して敵に向かっていくのが常だった。
その激情に歪む顔に、その人物と雷太は重なる部分があったのだとココラは察した。雷太もその人物の話に引き付けられるものを感じたようで、問いかけてきた。
「それで、その人はどうなったんだ? 今も貴方のいた世界で旅をしているとか……もしかして、突然あなたがいなくなって困っているんじゃ!!」
話の流れで雷太に浮かんだ可能性。だがココラは首を横に振ってこれを否定する。
「魔王を倒して翌日に旅に出ていきました。自分の故郷へ帰るために……私がそうするように進言しましたから」
「そうするように、進言した?」
ココラは少し顔色を暗くして頷き、首が上がる速度を遅くしながら話を続けた。
「本人は忘れてしまっていたみたいでしたけど、私にはずっと彼が元の世界へと帰りたい思いがあることを知っていたから……
私から問いかけて、思い出させて……別の騒動でやって来た方と一緒に異世界に旅立っていきました」
雷太はココラの様子を見て何かに気付いたようで自分の目線を下げてココラに合わせながら呟いた。
「寂しんだね」
「え? いや! そんなことは……」
咄嗟に顔を上げて否定するココラだったが、雷太はそんな彼女の反応に言及する。
「隠さなくていいだろ。たとえ相手のためを思って自分から距離を取ったとしても、やっぱり寂しい。
そして時がたつほどに改めて思ってしまう……その人がどれだけ大切だったか、また会いたいと思ってしまう!!」
雷太もそれが相手のためになると思って自分から鈴鹿から距離を取り、彼女とGINGAGAMEが繋がるように橋渡しをした。
だがいざ鈴鹿と離れてしまうと、やはりどうしても寂しいと思う気持ちは残り、日を増すごとにそれが強くなっていった。
ついには自分もせめて鈴鹿に近い場所にいたいがためにGINGAGAMEの入社試験を受け、そして不合格になってしまった。なのに鈴鹿に対する割り切れない勝手に会社に足を運んでしまう。
そして今は鈴鹿に迫る危険を解決するために奮闘している。どこまで行っても雷太は鈴鹿に会いたい一心で体が動いてしまうのだ。
雷太はココラが心に抱えている引っ掛かりは、雷太の中にあるものと同じだ。だから雷太はココラに口を開いてこういってしまう。
「君、俺がその異世界に旅立っていった人に似ているって言ったね」
「はい。なんというか、眼差しや立ち向かう姿勢というか……」
「そうか? 俺自身はなんだか貴方に似ている気がするんだけど」
「私、ですか?」
ココラは思ってもいない台詞にキョトンとしてしまう。雷太はココラ自身にはやはり自覚がなかったのかと思いつつ話を続ける。
「俺も君も大切な人のためを思って行動し、そして離れたからはその人物の事が忘れられずに行動してしまっている。
自分の中でいくら忘れようとしても、離れようとしても……一緒にいたくて仕方ない。抑えられない。 まあ、度を越えたら危ない人だけど」
最後に行き過ぎは良くないと程度はわきまえつつも自分なりの持論を語った雷太。そんな彼の脳裏にも未だ鈴鹿を心配する部分がある。
「勝手な話、ですよね……」
「かもな。でも、それだけその人が大切って事なんじゃないか? その思いを封じたくても、とても出来るもんじゃない。俺の場合それで一方的に体が動いちまってこの様さ。
鈴鹿はもう、自分を裏切った俺の事なんて、とっくに嫌いになっているかもしれないのに」
雷太は過去に鈴鹿をGINGAGAMEを繋いで以降、彼女に会ったことはない。実際のところ鈴鹿が今自分の事をどう思っているのかについて自信がないのだ。
だが鈴鹿はこの世界に来て最初に自分を助けてくれた鈴鹿の事をよく覚えている。その彼女が雷太についてどう思っているのかも。
「そんなことありません!! 鈴鹿さんは、出会ってからずっと雷太さんの事を思っていました!!」
「鈴鹿が!?」
「はい! それこそ会社に黙って仕事を抜け出すほどに……」
事情はあれどあまり感心しない行動によって振り回されたためか冷や汗を流すココラ。だが今はしょうもない事を考えている場合じゃないと表情を戻すと、雷太に訴えかけた。
「とにかく! 鈴鹿さんはずっと貴方に会いたがっていたんです!! 嫌われているだなんてこと、絶対にありません!!!」
ココラの真っ直ぐかつ力強い言い分に、雷太は目を丸くして心の底に響いたようだった。
「……そうか……鈴鹿も、俺に会いたいって……」
ココラの台詞に張り詰めていた何かが緩んだかのように怒りの表情が完全に緩んだ雷太。瞳が潤んでいき雫がこぼれかけた彼だったが、体の震えを気合で止めて潤みかけた涙の雫を自力で引っ込めた。
「それなら、もうコソコソする必要もないな! はやく会って、謝罪しないといけない!!」
「はい! そうですね」
雷太に合わせてガッツポーズを取り彼と同じく気合を入れ直すココラ。だが彼女の思考にはさっきの雷太の台詞に引っ掛かりがあった。
『それだけその人が大切って事なんじゃないか? その思いを封じたくても、とても出来るもんじゃない』
(思いを封じたくても、とても出来るものじゃない……私も、そうなのかも……)
「話は終わったか」
「ほえっ? あっ! はい!!」
ココラが考え事に眉が下がりかけたとき、外野から聞こえてきたフジヤマの声によってまた我に返った。
フジヤマは雷太のスッキリしたような顔を見て事態が好転したことを察しつつ二人に話しかける。
「終わったのなら早速行くぞ。ムースを逮捕して事を終わらせる」
「逮捕って……何処へ行ったのかも分からないのにどうやって?」
「フフフ、舐めるでないぞ二人共」
フジヤマの背中からひょっこり出現するオーカーが自慢げな様子で話し出す。
「こういう時に救助に行けない程、我ら次警隊の技術はへぼくはないぞ!」
呆気にとられるココラと雷太。二人はフジヤマとオーカーから説明を受けた。
ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!
『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク book1.adouzi.eu.org/n6426it/
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