ココラー12 雷太の経緯
雷太から語られる事実。何故彼が他のプレイヤーは持っていない謎の機器を持ち、二度も事件現場に居合わせたのか。
事の発端は、雷太がGINGAGAMEの入社試験を受けた後の合否発表の日。だが彼に届いた報告はお祈りメール。つまりは『不採用』という事だ。
(勉強不足だったかなぁ……さすがは世界有数のゲーム会社。もっと必死に頑張った人じゃないと入社は出来ないのかな)
ため息を吐いて猫背になってしまう雷太。こんな時にでも脳裏に浮かぶのは、一人会社の誘いを受けさせ、プロゲーマーとして名をはせた鈴鹿の顔だ。
気晴らしに出ていった散歩でも大きく心に引っかかっていたのか、言って何かが変わるわけでもないというのに自分が失格になった会社の前にまで足を運んでしまっていた。
自社ビルの壁に大きく張られた幼馴染の写真。立派になった鈴鹿の姿に誇らしい部分もあれば、何も果たせずにいる自分をみじめに感じてならなかった。
「ハァ……何をやっているんだ俺は。こんなことしたって何にもならないのに……」
雷太が鈴鹿の顔から眼を背けてGINGAGAME本社ビルから離れて以降を足を動かしかけたその時、何処かから激しい怒りが混ざった叫び声が雷太の耳にまで響いて来た。
「どういうことだ!! 僕が不合格とは!!」
不合格という言葉に引っかかる雷太。おそらく自分と同じくGINGAGAMEの入社試験に失格したのであろう。
とはいえわざわざ本社ビルにまで乗り込んで文句を言い出すとはある意味で凄い事をする人物だ。
ここまで足を運んでいる自分に近いシンパシーを感じた雷太は、離れていくはずだった自身の足取りの向きを反転させて声の聞こえる方へと進めていった。
雷太がGINGAGAMEビルの正面出入口にまでたどり着くと、一目見ただけで激情に駆られている雷太と同じくらいの背格好の青年が受付の女性に対し一方的に怒鳴りつけていたのだ。
先程耳に入ったのは自動ドアが開いたタイミングに彼が発していた怒鳴り声が外へ飛び出したものだったのだろう。そんな男に受付のスタッフは丁寧に対応している。
「ですから、先程から申し上げている通り、合否の詳細につきましてはここでは申し上げられないと先程から何度も……」
「お前らが答えられないのならとっとと担当者を連れて来い!!」
「ですから! 試験担当者は別の仕事で出てまして」
「今すぐ呼び戻せ!! この僕を落とした間抜けを追い落としてやる!!」
次々と止まらない一方的なクレームに受付の女性のメンタルは限界に近付いているように見える。
長時間怒鳴り続ける男に流石に看過できなくなった警備員二人が止め入るも、男はそれすらも撥ね退けてスタッフをのなり続け、とうとう男は警備員によって連行され、会社外へと放り出されてしまった。
この流れでは偶然ながらこの場にやって来ていた雷太も不審者扱いされてしまうかもしれない。面倒事に巻き込まれる前に退散するべきと判断し会社外にへと出ていった。
思いもよらないトラブルの現場に立ち会ってしまった雷太は、ただでさえ試験に落ちてしまった上にこれ以上嫌な目に遭いたくはないと後ろ向きな気持ちで帰ることにした。
「鈴鹿……俺はお前のようにはいかないな……」
自分の現状にまたしても頭が俯く雷太だったが、再び同じ人物による怒声が騒ぎ声が否が応でも耳に響いて来た。どうやらここから近い場所でまだあの受験者による強引なクレームが続いているらしい。
もう巻き込まれたくはないと聞こえないふりをしている雷太だったが、彼はすぐに目を向けざる負えなくなった。あれだけ騒いでいた音が一瞬で止み、不自然に静まり返ったのだ。
「あれ? 騒ぎ声が聞こえなくなった?」
異変を感じる雷太の耳に次に響いて来たのは、クレームを付けていた男の叫び声だった。
「ウアアアアァァァァ!!!!」
叫び声を受けてすかさず飛び出してしまう雷太。角を曲がってまず目にしたのは、男を拘束していたはずの警備員達が全員体の何処かを欠損して殺害されている現場だった。
「なんだよ、これ……」
驚きと恐怖で目が震える雷太。ふと前方に目線を上げると、引っ張られるようにして奥の角に消えていく人間の手が見えた。
おそらくあのクレーマーの手ではないかと思った雷太は、訳の分からないこの状況を理解したいがために走り、角の直前で足を止めた。何故自分でもそうしたのかは分からなかった彼だが、直後に見たものから本能で察知したのではないかとさえ思ってしまった。
人気のない角の先にいたのはクレーマーの男と、赤いローブに身を包んでシルエットの判別がつきにくい怪しい人物。そして二人の間にトカゲを人の背格好にしたようなモンスターの姿を確認した。
モンスターの口元が生々しい赤色に染まっており、さっきの警備員は奴の仕業なのではないかという予想が浮かぶ。
(モンスターが人間を殺した!? いやいや、モンスターは立体映像、人を殺せるわけが……)
すかさず自分の仮説を自分で却下する雷太。だが盗み見ている光景から聞こえてくる会話は、実物のモンスターなどが存在するはずのない世界に暮らしている雷太にとって信じられない内容だった。
「今の、何なんだよ!?」
「見た通りの事です。この兵器獣の力によって始末しました」
「へ? へいきじゅう?」
フードの人物はクレーマーに対して淡々とした口調でこのモンスターについてセールストークのように説明した。
自分達が異世界からやって来た存在であること。近くにいるモンスターが、生物を改造して製造された実物であること。そして兵器獣を男に提供したいとの内容だった。
「俺に? こいつを?」
「一体だけではありません。その気になればこの世界すらわがものに出来るほどの戦力を与えましょう」
ローブの人物からの持ちかけに雷太はもちろんの事、直接話をしているクレーマーの男ですら流石に疑ってかかり、当然の疑問を問いかける。
「何故自分にそんな力を?」
当然聞いているであろうことが分かっていたローブの人物は、問いかけに対して納得のいくような理由を話した。
「大した理由ではありません。有り体に言えば運用実験です。この兵器獣は従来より小型化し大型の機器を用いることなく複数体を操ることが出来る。
ですが大軍勢として運用するにはまだデータが足りないのです。そこで我々は、これを扱えるであろう優秀な人物の手を借りることにしたのです」
「それが俺だと?」
疑う部分は消えないものの、つい先ほど自分を否定されたところに告げられる誉め言葉は、男の恐怖心を減らしていく。
ローブの人物はこれを見逃さず、更に上手い言葉を並べて男を持ち上げた。
「ええ、貴方のような逸材は宇宙を探し回ってもなかなかにいない。しかし何の皮肉化、そういう人物は得てして社会からは評価されないものです。遅れた文化の世界は、せっかくの才能を異物と見なして攻撃するものですから」
つまりはクレーマーの男こそが宇宙が求めている逸材だとでも言うような物言い。男はこれを受けて少々口角が上がり、フードの人物の話に乗るようになってきていた。
「確かにな……そうか、アイツらは俺の才能が理解できない程に馬鹿だったわけだ」
「ええ、この世界は見た目などの都合の良い部分でしか人を判別していない。この世界のアイドルのように」
ここでフードの人物が挙げてきたのは、男が不採用になったGINGAGAMEにてアイドルプレイヤーをしているイシヒメ、鈴鹿の事だった。
「彼女は貴方と違い才能も努力もしていない。なのに風貌だけでもてはやされ、人気を得ている。我々のような正しい価値観を持つ者からすれば許しがたい事だ」
「そうだ……そうだ! 俺は才能がある! ずっと努力だってして来た!! なのに! なんでその俺があんな女に負けるんだ!! おかしい!! こんなのは絶対におかしすぎる!!」
元々懐疑心を向けていた相手に対しての同意の意志。たとえ上辺だけの言葉だったとしても、これは男にとても心地よく響いた。
フードの人物に唆されるがままにクレーマーの男は言い分を受け入れ、いつしか相手に対する警戒心は完全に消えていた。
「共にこの世界の矛盾を正しましょう。この世界をより良くするために」
「ああ、より良くするために」
握手を行い、手を組む意思を示す男。フードの人物はそこから手短に細かい兵器獣についての説明を行い、男は素直にこれを聞き続けていた。
「つまりこれで兵器獣を操れて、こっちで俺自身も人間を超えた力を得られるんだな」
「はい。安全性は保障します。代わりに運用データはすべてこちらに転送されますので」
「ああ、分かった」
「それでは、この世界がより良いものになることを祈っております」
そう言うとフードの人物の背後の壁が突然ガラスが割れるかのように異空間と繋がり、その人物は足を進ませて何処かへと消えていった。
残った男は自分が手に入れた力に口元をにやけさせ、湧き上がる喜びが大声での叫びになって周囲に漏れないよう丸まって抑え込んでいた。
「やった……やったぞぉ!! 俺は、俺はこの世界を超える力を手に入れたんだ!!」
男は手に入れた力をどう使うのかワクワクしながら考える。そして一つ決まったようで丸まった背筋を伸ばした。
「まずは俺の才能を認めなかったあのGINGAGAMEに復讐してやる!! 見た目だけで成り上がったいイシヒメをズタズタにして、俺の素晴らしさを証明するのだ!!」
「やめろぉ!!」
声を挙げて飛び出した雷太。ここまで一連の流れをすべて見ていた雷太は相手が一人になり、油断するタイミングを見計らっていたのだ。
雷太の狙い通り相手の男は突然叫ばれてギョッとし怯んでしまい、左手に持っていた自分用の装備召喚アイテムを雷太に奪われてしまった。
「ナッ! 貴様何を!?」
「話は全部聞いてた。馬鹿なことはやめろ! 試験に失格しただけで会社ごと潰すなんて絶対におかしい!!」
雷太による常識的な当然の呼びかけ。しかし初対面な上に先程上手い話にかどわかされたばかりの相手には全然届いてはいなかった。
「ケッ! 俺の復讐を邪魔するな!!」
男は与えられた力を自慢気に操作し、先程警備員を殺害した人間サイズの兵器獣を雷太に差し向けた。
一方の雷太も盗み聞ぎしていた方法からアイテムを起動させ、ゲームプレイヤーのものにした装備品を装着する。
数分の悶着をして何とか兵器獣を撃退した雷太だったが、戦っている間に男、ムールには逃げられてしまった。
「俺が止めないと……鈴鹿が!」
以降、雷太は鈴鹿、ひいてはゲームの世界そのものを危機から救うため一人奮闘していたのだった。
ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!
『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク book1.adouzi.eu.org/n6426it/
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