ココラー11 トークイベント
静まり返るスタジオ。今からここで鈴鹿のリアルタイムトークイベントが始まる。
本来ならイベント会場での観客も入って出のイベントにする予定だったが、事件の事によるマネージャーと上の間の交渉によってこういう形にまでとどめることが出来た。
ココラは鈴鹿のいるセットのすぐ脇で、フジヤマとオーカーは撮影スタッフの中に混ざる形でこの場に紛れ込んでいる。いつどこから襲撃が来てもいいよう、全員に緊張が走っていた。
カメラマンがカメラを構え、監督が古明声を途中で切りつつハンドサインを送る。
「じゃあ本番行きま~す!! 5! 4!……」
3からのカウントダウンはハンドサインで行う監督。あっという間にカウントは0になり、ライブ配信が開始した。
ここでココラは圧巻した。あれだけ仕事を嫌がっていた鈴鹿だったが、いざ撮影が始まった途端にわがままなキャラが消えて仕事モードである明るいキャラに早変わりし、場の空気を一瞬で変えてしまった。
「こんにちは皆さん! 『GINGAGAME TALKSHOW』、パーソナリティの『イシヒメ』です!
今回は急遽オンライン配信になってしまいましたが、実物の現場じゃなくても皆さんが楽しんでいただけるよう! 頑張っていきます!!」
鈴鹿の言っている台詞に自然と視線が引き寄せられるような感覚に落ちたココラ。すぐに我に返って警戒に戻るココラだったが、自分が先程まで一緒にいた人物がどれだけ凄い人物なのかを肌で知れたと思った。
(ほんの一瞬で回りの空気まで変えてしまうなんて……鈴鹿さん、本当に凄い人だったんですね……私も、自分のやる事を頑張らないと!!)
そこからのトークイベントはしばらくの間特にトラブルもなく着々と進んでいった。フジヤマとオーカーも何も問題ないままにイベントが終わるのではないかと思い始めていた。
だがやはりというべきか、鈴鹿が仕事を始めた時点で既に仕掛けられていたらしい。
「それでは続きまして! 事前に募集しましたメッセージ、質問に答えるコーナーです!! 最初に届いたメッセージは……」
デバイスから出現させたメッセージを見て鈴鹿は台詞が止まってしまった。書かれていた内容は、台詞回しに覚えがあるものだったからだ。
『このメッセージを読んでいるということは、僕の言いつけを守って仕事をしたね? ならばこちらも宣言通り、より楽しいゲームを提供しよう』
はい所にメッセージを見た鈴鹿を筆頭にフジヤマとオーカーが同時に反応し、少し遅れてココラも周囲の様子から察しがついて警戒を強めた。
直後、カメラマンの後ろ、スタッフが誰もいない空いた空間にゲームモンスター出現時と同じ方法で黒ずくめの首から下に金色に目立つ頭をした人間サイズの兵器獣が出現した。
またしても突然に出現した兵器獣は間髪入れずに近くにいるカメラマンを襲撃しようとする。
だがすぐに気付いたフジヤマは走りながら両手を握って横に重ねて鞘から剣を引き抜くように動作をすることで水圧の剣を出現させ、兵器獣を横一線に切り裂き撃退してみせた。
「はやっ!!」
「我ら出る幕なしか!?」
フジヤマのあまりに早い対応に拍子抜けしてしまったココラとオーカー。だがフジヤマはまだ気を張った状態で振り返り二人に「気を抜くな」とでも言いたげなアイコンタクトを送ってくる。
睨まれたカエルのように一瞬肩が上がって白目を向いてしまったココラとオーカーだったが、次に出現した同型のモンスターが目に入った途端に目つきを切り替えて迎え撃った。
その後も兵器獣は複数体現れるも、襲撃をかける間でもなく次々と撃退されていく。撮影の場は混乱に落ちかけるも、正直まだまだ軌道修正が出来てもおかしくない程の小さなレベルの状況だった。
(よし、順調良く倒せている。いくら兵器獣といっても売買によって手に入れたもの。前回の時にあれだけたくさん出していたのなら、ここまでレベルが低くなっていてもおかしくはないのかな?)
順調そのものな戦闘に、ほんの少し何か引っかかりを感じるオーカー。
一方のフジヤマ。ココラ達と同様に戦闘は継続しつつ、周りに怪しい人物がいないか細かく気を配る。するとスタッフ内に地味な服装をしつつ帽子を深く被っている、体格から見て成人男性らしき人物が見えた。
(アイツ、怪しいな)
この状況ならば思い立ったら即行動を起こすことが吉と判断したフジヤマは出現させた剣をそのままに怪しい人物に迫る。
相手側は近づいてくるフジヤマに気付いていないのか何かに焦っているのか目線を前方向に向けたままに正面へ走り出した。フジヤマが改めて相手の全身を視界に収めると、監視映像で見たものと同じ小さな道具が握られている事に気が付いた。
(あれは! 確定だな!!)
フジヤマは走る速度を上げた事で相手の人物が鈴鹿に近付く前に腕を掴んで動きを止めることに成功した。
一方の相手側は腕を捕まえられたことでようやくフジヤマの存在に気が付いた様で、口を広げて汗を流してフジヤマの方に顔を向けた。
フジヤマに見せたその顔はまさしくカメラに映っていたものと同じ。つまりはフジヤマが建てた一番怪しい容疑者『宇高 雷太』だった。
「やはり現れたか、宇高雷太。お前に話を聞きたい。大人しくしてもらおうか!!」
「放せ! 放してくれ!! じゃないと鈴鹿が!!」
雷太の必死な様子。フジヤマは彼の焦りが自分が捕まった危機に関してではなく、今自分が近づこうとしていた鈴鹿に対して向けているようだった。
フジヤマが雷太の様子を妙だと思ったその時、突然映像を映していた複数のカメラが全て機能を停止し、直後に鈴鹿は後ろから首を掴まれた。
驚くままに首が締まる思いになり、引き上げられるようにその場に立たされる鈴鹿。後ろを振り返った見たのは邪悪に笑う不気味な青年の顔だった。
「貴方! 何を!?」
「今の自分の状況から分からないか? なら!」
青年は空いていた右手にいつの間にか持っていたリモコンのような道具のスイッチを押す。すると二人とココラ達の間に二メートル程の身長をした兵器獣が出現。戦闘員ではなく三人ではなくスタッフに襲い掛かからせた。
自分達がただ戦うのではなく守りながらの戦いとなるとどうしても気が散ってしまう。ココラ達が防戦する中、鈴鹿は自分を拘束する人物に驚いた。
「まさか、貴方が襲撃犯の『ムール』!?」
「正解。だが一歩遅かったな。ゲームは私の勝ちだ!!」
ムールがリモコンの別のボタンを操作すると、二人の背後の景色が突如ひび割れ、中に赤い空間を出現させた。
「あれは!」
「星間帝国の転移ゲート!? 兵器獣だけじゃなくそれも手に入れていたのか!!」
「待てっ!! 鈴鹿!!」
「雷太!? 兄!!?」
思わず叫んだ雷太に気が付く鈴鹿。だがフジヤマに一度捕まえられてしまったがために雷太の対応は間に合わず、鈴鹿を引き連れてムールは赤い空間の中に入り込もうとする。
「鈴鹿!! くそう!!」
裏にいたマネージャーも事態に耐え兼ねて今助け出せるのは自分しかいないと表に顔を出しムースに向かっていった。
「ハッ! クソゲー会社の犬が! 大人しく情報だけ渡しとけばよかったんだよ!!」
ムースがリモコンをマネージャーに向けて操作すると、突然マネージャーの左足に激痛が走り、彼を転倒させた。
「こ! これは!?」
痛みに耐えかねたマネージャーが倒れたまま足元に視線を向けると、自身の左の靴の側面に引っ付いた気イサナ機械の存在に気が付いた。
「まさか、これはぁ!!」
「盗聴器さ! イベント前に侵入して付けさせてもらった。おかげでいろいろ情報は知れたさ! 感謝するよ!!
さらばだ諸君! GINGAGAME随一のアイドルプレイヤーの身柄はいだたいて行くよ!!」」
自分のせいで情報が漏れていた事実を知らされ青ざめるマネージャーを見下し、ムースは鈴鹿ごと完全に赤い空間に身を入れた途端にひび割れは瞬時に元の状態に戻り、機材や壁紙が見える状態に戻ってしまった。
「鈴鹿さん!!」
目の前の敵を撃退し手を伸ばすココラ。しかしその手は届かず、修復されていく空間内に見えた鈴鹿の恐怖に暗くなった瞳を最後に完全に塞がってしまった。
ほぼ同じくしてココラの脳裏に自分の知らない何かがフラッシュバックする。鈴鹿のものと同じ恐怖に暗くなった瞳。
そしてもう一つ、動揺す震える目つきで自分を見ている何者かの顔が浮かんだ。
「……誰?」
「ココラ殿! 後ろ!!」
オーカーの声にココラが身を返しながら杖を振るうと、いつの間にか間合いに入っていた兵器獣の攻撃を聖壁で防いだ。
「<衝撃>!!」
ココラの攻撃により兵器獣は弾き飛ばされ、壁に激突し倒された。
この場に召喚された兵器獣はどれも前回のものよりもスペックの弱いものばかりだったようで、数分にしてすべて撃退が完了した。
だが場にいる全員が動揺、もしくは悔しい思いになった。黒幕のムースにまんまとしてやられてしまったのだから無理もない。
撮影現場では、一番目立つ存在であった鈴鹿が誘拐された現実に対して混乱が止まらず、時間が過ぎる程に騒ぎは大きくなっていく。
鈴鹿を助けられなかったことを悔やむ気持ちが残る三人だが、今は後悔をしている場合ではないと危険地帯での経験が長いフジヤマが冷静に判断し、自分の近くにいた雷太を引き連れ、ココラとオーカーと共に現場から素早く離れた。
突然引っ張られる形で現場から離れたココラが戸惑っていると、フジヤマが事情を説明する。
「あのまま撮影現場の混乱に巻き込まれたら身動きが取りづらくなる。こうなった以上、まずは情報が知りたい。そして不幸中の幸いで、情報源は手に入った」
フジヤマはこの場で一番焦っているのかどうにもソワソワして落ち着いていない青年を指す。
「この方は?」
問いかけるココラにフジヤマが続きを話すより先にオーカーが驚きを見せながら答えてしまった。
「もしかして! 宇高雷太!?」
「ええっ!!?」
ココラは驚いて一度オーカーに顔を向けるも、すぐに戻して改めて雷太の顔を見る。
「貴方が、鈴鹿さんが話していた、雷太さん!?」
心ここにあらずといった様子の雷太だったが、ココラの口から鈴鹿の名前が出てきたことで途端に目を見開き彼女の顔を凝視した。
「鈴鹿から!? 君、一体……」
「私、一応鈴鹿さんから護衛を任されていて……失敗してしまいましたが、その……何か知っていることがあったら、教えていただきたいんです!! 鈴鹿さんを助けるために!!」
ココラからの熱の入った声を受けた雷太は、一瞬護衛を失敗した彼女を咎めかけた怒りを収め、代わりに自分を落ち着かせてから語り出した。何故自分がコソコソと動いていたのか、その経緯を。
ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!
『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク book1.adouzi.eu.org/n6426it/
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