ココラー7 闇取引の兵器獣
翌朝、ココラは白目を向いて困惑した様子でとあるビル内にある廊下の壁際に立ち、緊張で体を震えさせていた。
(な、何がどうしてこんな事に!?)
昨日の鈴鹿からの頼み。自分を護衛するのはココラの身にして欲しいとの要望。当然聞いて最初にフジヤマもオーカーも反対した。
だが今回の事件の犯人が何処からモンスターを召還したのかが分からない中で自分ばかりを守っていても犯人本人が現れるとは思えないと指摘されてしまえば、二人はぐうの音も出なかった。
そのため今日からはココラが鈴鹿の護衛を。フジヤマとオーカーは犯人の捜索に力を入れることで話が付いたのだ。
(今日から一人で鈴鹿さんの護衛。誰かを守って過ごすのは旅以来だなぁ……)
ココラの脳裏に勇者達との旅の光景が思い出される。魔物との戦いで仲間を守ったり、回復していく自分。正直ココラは自分に戦闘が向いているとは思えない。だが今回は護衛。倒すことより守る事こそが使命だ。
(でも、昨日あんなことがあったのだから、鈴鹿さんの安全を鑑みて今日は休みになるでしょうし、部屋から動かないのなら守りやすいはず!)
ココラが自問自答をして気合を入れていると、彼女の意識の外から矢を指すように飛んで来た。
「あ、いた! ココラ! 今日からよろしくね!!」
「ひゃいっ!!」
驚いたココラは思わず変に高い声を出しながら足元から頭のてっぺんにかけて毛が逆立つように震えさせてしまう。
「ウワッ、変な反応! 何か集中してた?」
「ああいえ、ちょっと考え事をしていただけなので大丈夫です」
「それ、大丈夫なの? しっかりしてよ。私の護衛として信頼しているんだから」
「は、はい……善処します」
昨日あんな事件に巻き込まれていたとは思えないほどに最初に合った時と同じテンションで接してくれる鈴鹿だったが、ココラは彼女の腕の震えに気が付くと、優しく両腕を回してそっと抱きしめた。
「ちょ! 何!? 何するの!?」
「こうすると、なんだか気持ちが落ち着くんです。温かさに包み込まれるっていうか……」
「何よそれ……根拠のない言い分……でも、なんだかいいわね……こういうの」
抽象的かつ根拠のない説明。だが裏表のない優しさを行動で与えてくれたココラに、鈴鹿は目を閉じて受け入れた事で上がっていた肩の荷が少し下りた。
鈴鹿の気持ちを知れたココラは緊張とは違う鋭い目つきで目を開けて耳元で鈴鹿に囁いた。
「……大丈夫です。私が貴方を守ります」
「……ありがとう」
気丈にふるまっていても、やはり昨日の事件は鈴鹿にとって精神的にかなり厳しいものになっている。
ココラはさっきまでの空気に流されたものとは違う自分の意志によって鈴鹿を守る覚悟を決めた。
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一方ココラと離れたフジヤマとオーカーは、昨日の事件現場にて早速調査に乗り出していた。
フジヤマが会場内の監視カメラを調べている中でオーカーは昨晩撃退したモンスターの死骸からこれが何者なのかを判定している。
「フジヤマ殿」
「何だ?」
調べ物の最中に呼びかけられたフジヤマが振り返ると、オーカーは手に持った機材を話しつつ何処か悲しそうな顔をして彼に伝えた。
「お主の言った通りだ。この魔物共、この世界以外の生物だったところに機械技術を融合させられた痕跡がある。全部『兵器獣』だ」
「そうか……やはり……」
調べ物をしている手をつい止めてこぶしを握り締めてしまうフジヤマ。
『兵器獣』。宇宙にあるいくつもの星々を侵略し併合した巨大国家、『星間帝国』。その帝国が各世界にて鹵獲した生物同士や機械技術を合成した生物兵器だ。
フジヤマは元々その帝国を出身としている上、悪用された形とはいえ現在の兵器獣の生成システムを進化させってしまったのは、他でもない彼なのだ。
その兵器獣がこんな場所で現れた。フジヤマにとっては胸が閉まる思いだった。
「今回の犯行の内容からして、犯人の目的は侵略ではない。にもかかわらず兵器獣を使役してきた。やはりこれは……」
フジヤマとオーカーがこの世界に来た理由。きっかけは所属した次警隊にとある情報が飛び込んできたことからだった。
「情報通り、闇取引された兵器獣……だな」
ラン達の報告により滅んでいたはずの星間帝国が存在していたことに続き、隠密を得意とする二番隊の調査により発覚した衝撃の情報。兵器獣が闇取引の品物になっているという事だった。
調査員が捕まえた売人は黒幕の事を知らなかったが、ゲームの世界での大会にてそれが使われる情報を得ることが出来た。そのため隊員内でも兵器獣に精通しているフジヤマが選ばれ、補佐役としてオーカーが就くことになったのだ。
「来ていきなり派手にやられるとは……我らが早めに来ておいてよかったぞ」
「兵器獣が商売されている……信じたくない事実だったが……」
フジヤマの拳が出血しかねない程に強く握りしめる。
兵器獣の売買が事実ならば本当に黙っていられるものではない。凶悪な生物兵器が金さえ出せば手に入ってしまう。そうなればどんな悪用をされたものかたまったものではない。
「何としても止める! 俺の責任だ」
重くなる様子を見かねたオーカーがフジヤマの背中を軽く叩く。
「責任を一人で追うなフジヤマ殿。アキ嬢も、そんなお主を思って救護隊員の勉強をしているのではないだろう」
「オーカー」
「我もお主と同じ次警隊四番隊の仲間だ。共に頑張ろうぞ!!」
言葉が途切れる度にいちいち独特なポーズをとるオーカーにツッコミかけた言葉を飲み込みつつ、彼女のなりの励ましを受けたフジヤマは鬼気迫っていた顔つきが柔らかなものに変わった。
「ああ、頼りにしている!」
「それで何かカメラから分かったことはあったのか?」
さっそく話を本題に戻すオーカーにフジヤマは顔を前に向き直して再び機器を操作しながら現時点で分かっていることを彼女に伝える。
「正直特に異常は見受けられない。俺は最初てっきりカメラに細工をされてステージを見ていたのだと思っていたのだが、その線がないとすると一番可能性があるのはあの場に直接いた事だが」
フジヤマが接続した機器にてカメラの映像を早送りにしながら確認していると、突如オーカー目を開いて反応しフジヤマに声をかけた。
「ちょっと待てフジヤマ殿! 映像を止めてくれ!」
「ん?」
フジヤマがオーカーの言うとおりに映像を一時停止すると、オーカーは映像の左端、観客席から出口へ向かう箇所にて歩いている男性に指を差した。
「この者の手、アップで映してくれ!」
「この者? ああ、この男か」
フジヤマが機器を操作してオーカーの指定する人物の位置を拡大すると、その人物の手元に見慣れない小さな道具が握られている事に気が付いた。
この世界にて使われているゲームログイン用の機器ともまた違うこれにフジヤマも注目する。
「これは」
「奇妙な道具。それにこの時間、実態モンスターが現れる直前なのだ!」
「確かに、そのタイミングに観客席から離れるのは奇妙だな」
オーカーの指摘に納得したフジヤマはその人物の顔を拡大して映す。イケメンとまではいかないものの平凡並みかその少し上くらいに容姿は整っている顔つきをしている青年。背丈と顔の見た目からして高校生から大学生辺りといったところだろうか。
「この人物、調べるか」
「そうだな」
フジヤマとオーカーは引っかかった手掛かりをより深く調べようと努めている中、鈴鹿と共に招かれた別部屋にてココラは驚きの声を上げていた。
「何を言っているんですか!? マネージャーさん!!」
礼儀上出来るだけ私語は出してはいけない仕事場の中であることを分かった上で思わず飛び出してしまう。それだけたった今マネージャーが二人に告げた言葉はココラにとって信じがたい事だったのだ。
マネージャーはココラの反応を受けてなおもう一度同じ事を口にした。
「本日開催するトークイベントに、予定通り鈴鹿に出ていただきたいと言っているんです」
つい先日怪物に襲われ命が危なかった鈴鹿に自ら目立つ場所に出向てという。当然そんなことをすれば昨日の二の舞になりかねない。
「危険すぎます! 今度こそ怪我を……最悪死んでしまうかもしれないんですよ!! こんな時に仕事だなんてどうかしています!!」
「それが会社の決定だ!!」
ココラの言い分に即刻理不尽な反論をするマネージャー。鈴鹿が黙ったまま顔を俯かせている中ココラは反対し続ける。
「会社の決定だからって! 人の命より仕事を優先させるだなんておかしいです!! 大体昨日事件があったのだから、どうにしろイベントなんてできないんじゃ」
「事件など起きていない」
「え?」
マネージャーはココラに自身のスマートフォンの画面を見せてスワイプさせつつ説明した。
「昨日のイベントは無事終了した。そう我が社がしたんだ」
「情報を……改ざんしたんですか!?」
「それが社のためだ。イシヒメも、私も! すべては会社のためにある。そうやって私たちの生活は成り立っているんだ」
「そんな……そんなのって!!」
「もういいわ!!」
反論を続けようとしたココラを被害を受けた鈴鹿自身が止めた。ココラが汗を流しながら見つめると、鈴鹿は声のトーンを抑えてマネージャーに返事をした。
「仕事は予定通りします。それでいいでしょ? 行こうココラ」
ココラはモヤモヤが取り切れないままに鈴鹿について行って部屋から出ていった。
移動の最中、やっぱり気になったココラが鈴鹿に話しかける。
「こんなのおかしいですよ! 命より仕事だなんて」
「貴方にはおかしいのかもね。でも、この世界ではそう珍しくはないの。たくさんの人を楽しませるには、作る側の見えない力がつきものなのよ。どんなジャンルにもね」
「だからって!!」
ココラが話を続けかけたタイミングにふと鈴鹿は足を止め、連れられたココラは出しかけた言葉を喉に引っ込めてしまった。
すると鈴鹿が一度貯めてからどこか悲しそうに口を開く。
「おかしいわよね……私もそう思う。だから……」
鈴鹿はココラに振り返ると、何処か悪い笑顔を浮かべて本題を口にした。
「ココラ、私と一緒にこんな会社抜け出しちゃわない?」
「……はい!!?」
ついさっきまでの流れと浜反対の提案にココラは汗がはじけながら驚きの声を上げてしまった。
ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!
『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク book1.adouzi.eu.org/n6426it/
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