表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

165/217

5-64 楽編へ向かう者達


※読者の皆さん、長い間戦闘シーンばかりでお疲れさまでした。


 今回からは少しの間完全にネタ回です。


 幸助達が試験の合格を受けて二日後。持ち前の回復力の高さによって完治し退院する流れになった。とはいえ今回はランも見た目ほど酷くなかったようで、明日には退院するとのことらしい。


「よかった。ランも明日には退院か」

「まあ、能力上怪我は強制的に治るからな。今回は期間を開けて使用したし、前回より消耗も少なく済んだらしい」

「会議もあるらしいからね。隊長の仕事お疲れさん」

「気にすんな」


 三番隊に入る気満々な様子の幸助。彼が病室を出て行ってすぐ、ランは彼の背中を見て何か思うところがあるようだった。


 ということで病院から出てきた幸助。とはいえ今の彼は正式な配属もまだ決まっていない待機状態。いうなれば暇を持て余していた。

 修行機関から宿泊場所にさせてもらっている部屋に戻り一人これからの行動について考える。


(う~ん、このところずっと何かと忙しかったからなぁ……いざ暇になってみると何をしたらいいのかが分からない……どうしたものだろう……)


 などと考え続ける昼下がり。いったん考え出すとあれもこれもと考えてしまい、次に幸助が気付いたころには夕日が窓に差し込み、もう夕方になっていた。


「えっ!? もう夕方!!? 日中ずっとこんなことしちゃってたのか。う~、我ながら完全に時間を無駄にした」

「アホやなぁ。せっかくを休日を楽しまんでどうすんねん」

「返す言葉がないです……ってウワッ!!」


 幸助は独り言の流れに乗って突然部屋に入り話しかけてきた大吾の存在に姿勢を崩すほどに驚いた。


「よっ、退院おめでとさん。元気そうでよかったで」

「声かけるにしたかってもうちょっと節度があるでしょ普通」

「カ~お堅いなぁ。そんなんじゃこれからするビッグイベントも楽しまれへんで」

「ビッグイベント? 入隊式はまだだけど」

「何を言っとんねん!!」


 ツッコミを入れつつ顔を迫ってきた大吾に若干引く幸助。一方の大吾はこの状態のまま話を続けた。


「そんなんよりよっぽど重大なイベントがあるっちゅうねん!! せっかく誘いに来たんやで! はよ準備しぃ。荷物はなくてええから」

「?」


 大吾の勢いと圧に流されるまま、幸助は何のイベントが行われるのかも分からずに彼について行って部屋を出た。

 そのままついて行くと、二人は別室にてフジヤマをはじめ既に人も集まっている男性陣と合流した。


「あれ? 結構な人数。こんなに集まって何をしようと……」

「お前らぁ!! 準備はいいかぁ!!!」


 幸助を一人蚊帳の外に突然大声を叫ぶ大吾。声を受けた集団は一斉に叫んだ。


「ウオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!」


 あまりの熱気に身を震わす幸助を放置し大吾はまた掛け声を上げた。


「お前らぁ!! 楽園へ行きたいかあぁぁぁ!!!!」

「ウオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!」

「なになになになに!!?」


 一人だけ訳が分からない幸助。大吾は集団の先頭に立ちここで説明を始める。


「よ~しいい覚悟だ! でも心してよく聞け!! 本日我々は、楽園への突入を行う!!」

「楽園?」

「この試練のゆく道には様々な苦難が待ち構えているだろう! だがしかし!! 達成して得られるものは、何にも代えがたいお宝だ!! 地図は頭に叩き込んだか!!」

「なあ、さっきから何の話をしてるの?」


 燃え上がるテンションに水を差す幸助に大吾が瞳に熱を持ったどこかかっこいい様子で答えた。


「今この基地の中には、命を懸けてでも身にするべき楽園があるんや」

「だからそれが何だって」

「この基地の先、廊下を走り何度か曲がった先に、美しき者たちが肌を晒し疲れを癒している場所がある。そこが楽園だ」

「肌を晒して疲れを癒す……おい、それもしかして……」


 嫌な予感が頭をよぎる幸助に、大吾は彼の予想通りの答えを大声で叫んだ。


「行くぞ者ども!! 俺たちの楽園『女湯』へ!!!」

「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!」

「待てえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 大勢の男達の合いの手をかき消す勢いで幸助のツッコミの叫び声が挟まれる。ほぼ全員が幸助の方に顔を向け、代表して大吾が反論する。


「なんやいきなり大声でツッコミを入れて」

「なんやも何もないだろ!! この集団みんな揃って女湯を覗きに行こうとしているってこと!!?」

「ああ、他では見られない天然の楽園にな。なんせ今回の受験者達は……美女が多い!!」


 ファイアにオーカー、メリーと今回の試験に参加した美少女達の入浴シーンを妄想してにやける男性陣。キリっとかっこつけて台詞を吐く大吾に幸助はまたツッコミを入れる。


「キリっとするなキリっと! この組織って警察組織なんだよね!? なんでその合格者達が揃って自分から軽犯罪を犯そうとするんだよ!!」


 幸助の最もな言い分。しかし大吾はこれを受けても全く動揺することはなく、右耳に小指を突っ込んで耳かきをしながら軽く言い返した。


「警察組織? 知らんのか? 次警隊なんて側だけ警備部隊っぽく取り繕っとるだけで、その実は世紀末漫画よろしくのヒァッハー集団やぞ」

「そうなの!!? 嫌そうだとしても普通にアウトだから!!」

「さっきから説教うるさいな~……せっかく疲れをねぎらって誘ってやったちゅうのに気分悪くなるで。もうええ。お前は来たくないんなら帰りぃ」

「いや! そんなの聞いて帰れるわけないだろ!! みんなを止めてでも!!」

「落ち着け西野」


 興奮してツッコミが止まらない幸助を止めたのは、集団の中に紛れていたフジヤマだった。


「フジヤマさん! フジヤマさんなら分かってくれますよね!? こんな事何にもならないって!!」

「わかってないのはお前だ西野!!」

「ええぇ……」


 予想外の反論に顔をしかめる幸助。フジヤマは普段の冷静な表情はそのままに幸助に語り掛けた。


「確かに俺たちが今から行おうとしている行為はとても褒められたものではない。だが! 男はタブーだとわかっていても止められない衝動があるんだ。

 濡れ場で雫を流し、体を洗うアキ(婚約者)の天女にも勝るとも劣らない姿……こういう場でしか目にすることが出来ない至高

「フジヤマさあああああぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」


 幸助が頭の中に描いていたどこか冷たい部分があるものの、頼りがいがあってかっこいい大人なイメージが音を立てて崩れ去っていく。

 幸助がショックのあまり放心状態になった瞬間、大吾が隙をついてみぞおちを何度もしばき、その場に倒れさせた。


「だ! 大吾……」

「残念やわ、お前とはもっと仲良くやれると思っとったのに」


 倒れた幸助をその場に放置し、大吾は集団の先頭に出て再び声を上げた。


「よっしゃあ! そんじゃ行くで!! 俺たちの求めし! 楽園へぇ!!」


 先陣を切った大吾が部屋を出ようと扉を開き大きな一歩を踏み出した。すると次の瞬間、彼が踏んだ床板がピンポイントでスイッチを押すように沈み、天井から数本の矢が降り注いだ。

 興奮のあまりに気付くのに遅れた大吾は矢を頭に直撃させ手うつ伏せに倒れてしまった。


「リーダーアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!」

「幸先悪いスタートだな疾風弟……」


 声をそろえて駆け寄る隊員達と微妙な様子で指摘するフジヤマ。だがここは流石というべきか、すぐに大吾は立ち上がった。


「ま、まあ……幸せのために困難は付きものや。こんなもんへっちゃらやで」


 減らず口を叩き頭に刺さった矢を引っこ抜く大吾。顔に付いた血液を拭うと調子を戻して女湯へ向かうため先を進んでいく。


「おおぉ! 流石俺達のリーダーだぜ!」

「あの人について行ったら間違いない! 俺達も行くぞぉ!!」


 大吾が右腕を突き上げて何人もの男性隊員が熱血をもって走り出す。だが一つ目の曲がり角に差し当たったときに突然前方の壁が開いて砲口が姿を現し、大吾たちに対して火炎放射を直撃させた。


「アガアアアァァァァァァァァ!!!!!」

「ホントわざとかかりに行っているのかってくらい綺麗に引っかかってるな、アイツら」


 後方にいたフジヤマは大吾たちの状況に冷や汗を流しつつ罠に引っかからないよう慎重に追いかけた。

 対する先頭集団もアフロヘアに黒焦げとわかりやすい爆発後状態になりつつもまだまだ元気だった。


「ケホッ! ケホッ……俺の知らんとラップ予想以上に増えとるみたいやなぁ……困難は多い、望むところや!!

 お前ら! こんな事で俺たちの心に宿った炎は消えやしないだろう!!」

「その通り!!」

「よおし! 進むぞ! お前らぁ!!」

「オオオォォォォォォォ!!!!」


 大吾たちが暑苦しいとまで言える熱血で駆け続けるのと同じタイミング、気を失っていた幸助が火炎放射の音が耳に入った事で意識が戻った。


「ハッ! イッツツ……しまった、大吾たちを追いかけないと!! (というか今日俺、ぼ~っとしてること多すぎるような……疲れは抜けてないってことなのかな?)」


 後ろから幸助が追いかける中で、大吾たち男性陣は廊下を進んでいくたびに次々発生するカラクリ屋敷のトラップを搔い潜って(ほとんど直撃したのをそのままに……)ゴールに向かって道を進んでいく。


 ここに至るまでに先頭を走っていた大吾は頭にはより大量の矢が突き刺さり、服はボロボロで全身が黒焦げ。もうそこまでして当選する意味があるのかとツッコみたくなる状態になっていた彼らだったが、それでも足を止めはしなかった。

 もっともトラップを集中的に受けているのは先頭集団のみで、後ろの方に警戒しながら進んでいたフジヤマ達は一切ダメージを負ってなかったりするのだが。


 だが負傷はあるもののアドレナリンと気合、そして何よりこの先にある楽園への興奮によって痛みを引っ込ませていた。


「よぉし! あともう少しだお前ら!! この先にある角を左に曲がり直進すれば!! 楽園へと辿り着けるぞぉ!!!」

「オオオォォォォォォォ!!!!」


 ますます気合が入る男性陣。だが大吾の言う廊下の角を曲がってすぐにて彼らは自分の目を疑うトラブルに遭遇した。


「ナッ!!」

「な、何故ここにいるんだ!!?」

「お前らは!!……」


 大吾たちの前に現れた者達。温泉ののれんの前には、黒葉をはじめとする大吾に()()()()()()()男性受験者達が立ちはだかっていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ