5-63 合格証
次警隊の入隊、そしてその最中に突如マリーナ姫を誘拐するために基地内に侵入して来たコクたちユウホウとの激闘。
度重なる大きな激闘を終えた一行。その中でも特に最後活躍したランと幸助の二人は今、基地内の病院にて入院していた。
「振り出しに戻ってんじゃねえか!!!」
病室のベッドに倒れつつ心の内を叫ぶ包帯まみれのラン。もっとも今回はランと幸助が二人並んで同じ病室を共有しており、南は入院していないので前回と細かい部分に違いがある。
だがこの世界にきて最初に入院沙汰になっていたことから突っ込みを入れるのも無理はない。
この事態には幸助も笑うしかなかった。
「アハハ……俺達前回も今回も大怪我だな。でも敵も撃退できたし、よかったんじゃない?」
「何にもよくねえよ!」
怒るランをなだめようと幸助がかけた声にランがすぐに一蹴した。幸助がこの反応に驚いていると、ランの口から事情が語られた。
「今回の件はそもそもが俺たち側の仕込み。敵が来るのは想定内だったんだ。だってのに餌に食いついた魚には揃いも揃って逃げられた。人的被害は出ているし最悪だ」
「え? どういうこと!?」
ランの言うことが理解できない幸助。そこに突然病室の扉が開き、日本酒の瓶を片手に持った入間が入ってきた。
「それは私が説明しようか!」
「入間隊長!!」
「また仕事さぼってやってきたな」
ランの突込みに関しては無視しつつ、入間はランの言い分の詳細を語った。
「この試験の前に隊長たちで話し合っとってん。姫様をゲストにするって情報を組織内に流そうって。内にいる敵をあぶりだすためにな」
「内にいる……まさか! 内通者!?」
入間は病室の扉を閉め、来客用のいすに座って具体的な説明を続ける。
「きっかけはお前たちが旅をしてきた先で連続でフジヤマたちから得た情報やった。私たちが時折遭遇する相手『赤服』。奴らの正体がかつて次警隊が戦っ『星間帝国』やったこと。
こんな大きな情報。奴らの動きの活発さから見て今まで知らなかったんがおかしいと思ってな。組織内の内通者によって情報が改ざんされている可能性が浮上してん」
「そこで、内通者が自分の立場のために喜んで飛びつく情報を作り出し流した。それが……」
「試験のゲストにやってきたマリーナ姫!!」
幸助の頭の中で情報の整理がついていった。第三試験開始直前、唐突に入ってきたゲストコメント。あれも姫がいるという確信を与えて内通者が動くように仕向けていたのだろう。
「そうか! だからあのゲストコメントを用意して。全ては内通者を見つける罠!」
計画はうまく進んでいる部分が大いにあった。だがランの表情はしかめている。幸助がそこについて問いかけようとすると、本人が口を開いた。
「だがこっからが想定外の事態だ。侵入して来たコクが人の多い試験会場に現れるのは完全に想定外だった。計画上下手に情報を広める訳にもいかなかったことが仇になり、隊員の被害を出してしまった」
幸助の担当をするはずだった試験管の隊員。彼の脂肪はランたちにとっても想定外だったらしい。
「そしてせっかくのへ差につられてやってきた奴らも揃いも揃って逃げおおせた。儲けに対して損害がでかすぎる。
入間姉、内通者の方はどうだ?」
ランの問いかけに入間も痛いところを突かれたような苦い顔になりつつ答えた。
「これから尋問……の予定やってんけど、でけへんくなった」
「は? なんでだ?」
ランから飛んでくる当然の疑問に入間は瓶の中の酒を一度飲んでから答えた。
「看守が見回りに行ったとき、すでにモグラは始末されとった。監視システムに異常は全くなし。
おそらくやけど、マーキングした相手を遠隔で攻撃できる能力やろう。ボロは出さんよう徹底している。一周回って関心やわ」
「チッ……コクのやつ、油断も隙も無いな」
最終結果として次警隊の利益は内通者が一人いなくなったこと、それだけだ。基地の破壊にハッキングによる電子機器の状況、そして死傷者と誰の目に見ても明らかに損害の方が大きい。
苛立って拳を強く握るランに入間はフォローの言葉をかけた。
「でもま、ユリがハッキングに気づいてアンタがすぐに試験会場に行ってくれたおかげで受験者は全員無事やった。まあ怪我人は出たけど、命に支障はない。まずはそれを喜びぃ」
ランは自分の中にある悔しさに納得はできない。だがここで文句を言っていても何にもならないのも事実。彼は激情を抑えて話の話題を切り替えることにした。
ランは侵入者との対決の件とは別に、いや、ある意味では関連しているとあることが気になっていたのだ。
「ところで入間姉、今回の入隊試験、結果はどうなったんだ?」
いつの間にかまた酒瓶に口をつけている入間。さっきよりも量を飲んでから瓶を口から放すと、息を吐いて答えた。
「フゥ……まあまずまずって感じやな。平々凡々に合格した奴がほとんど……やけど中には数人、見所のあるやつが入ったと思うで。お前もあった奴らや」
入間は酒瓶を近くのミニテーブルの上に置いてから髪留めのクナイ型デバイスを操作し、ランに数人の合格者の資料を送った。
ランが送られてすぐに見てみると、それは縁日や兵器中との格闘であった者達の顔が映っていた。
「フジヤマにファイア、メリー、黒葉、オーカー……そして南か」
南の合格証を見たとき、ランの表情がどこか緩んだ。幸助はこれを見て反射で気に上半身を上げてしまい痛みに襲われた。
「イッタッ!!……南ちゃん、合格してたんだ!!」
「ああ、目ぼしい奴らは全員合格だ。お前を除いてな」
「へ?」
痛みで倒しかけた身体がふと固まってしまう幸助。そこにランはわざわざもう一度指摘してきた。
「お前を除いてな」
「アッ!……」
突然の襲撃者との連戦から入院。あまりにバタバタしていて忘れていたのだが、この騒動に流れて幸助は第四試験を受けていない形になってしまった。
そのため、彼は試験に合格出来なかったのだ。
「お、俺……もしかして失格?」
姿勢が固まったまま身体を震えさせて全身から冷や汗を滝のように流す幸助。そんな彼に対しランはあまり動じていないように見えた。
入間も酒の効果で頬を赤くしつつ幸助の顔を見て笑った。
「カッカッカ! まあ心配せんでええ。もうすぐ来るはずや」
「も、もうすぐ?」
幸助が冷や汗を止めて首をかしげると、病室の扉が再び開き、今度はユリと南が部屋に入ってきた。ユリの右手には小さな封筒が握られている。
「どうも、調子はどうお二人さん」
「あ! 入間隊長も、どうもです」
例ぢよく入間に挨拶をする南。一方のユリは少しジト目になりつつランに近づくと持っていた封筒を手渡した。
「ほら、頼まれていた仕事代わりにやっておいたわよ。副隊長様に感謝してよね」
「ああ、すまないな」
ランは封筒を受け取ると、封を開いて中に入っていた紙を取り出した。幸助は姿勢はそのままにランに問いかける。
「ラン、それは?」
「俺から……というより次警隊からお前へのプレゼントだ。入間姉、体動かすの頼む」
「はいよ~」
入間の浮幽によってランの体は動かされ、ベッドから立ち上がって幸助のもとに迫った。
ここでランは急にかしこまった態度になり、丁寧な口調で話し出す。
「西野幸助。次警隊隊員を代表し、君の入隊試験合格をここに認める」
「ほえっ!?」
ランは両手に持った合格証を手渡してきた。だが当の幸助は気が動転して白目を向いてしまい、声が出ないままに動こうとしない。
少し時間が経過すると、ランの態度が普段のものに戻って話してきた。
「はやく受け取れ。無理やり体動かしてるから結構響くんだよ!」
怒り交じりの言葉を受けて幸助はようやく我に返った。
「アアァごめん! いや、すみません! ありがとうございます! 受け取ります!!」
幸助は合格証を受け取ると、すぐにランは入間の操作でベッドに戻っていった。一応の形式が終わってすぐに幸助が自分の合格証を眺めていると、ユリと南が彼のもとに近づいて声をかけた。
「おめでとう、幸助君」
「おめでとう! 一緒に合格出来てよかった!!」
「南ちゃん、君も合格したんだって?」
「はい! 零名ちゃんに認めてもらって、いただきました!!」
南も嬉しそうに合格証を見せ、幸助もこれを嬉しく思った。そこに入間から説明が入る。
「試験は受けられなかったけど、その場の襲撃での実践戦闘での活躍、ユリが映像を残しといてくれたんや。ここまで結果を出されたんやから認めざる負えんやろ」
「隊長……ユリちゃん……」
「ま、合格できるように口利きしといてくれたんはランやけどな」
「ランが!!?」
思わぬ合格事情に幸助が驚いて身体を振るいランを見ると、彼は恥ずかしさからか反対方向の壁に体を向けて寝転んでいた。
同時に幸助がアドレナリンで誤魔化されていた激痛が気持ちが落ち着いてきたことで一気に流れ出してきた。
「イッテエエエェェェェ!!!!!」
痛みに涙を流しながら頭を枕に落とす幸助。だがすぐに痛みを引かせて横になると、やはりうれしさが込み上がってくる。
「よっしゃ!! これで俺と南ちゃん、三番隊に入れるんだ」
「それはまだわからん」
「「はいっ!!?」」
こぼれた声に関して入間に指摘され、即座に彼女に驚きの視線を向ける幸助と南。
「生憎やけど、二人がどうなるのかについてはまだわからん。今度行われる会議次第や」
「会議?」
オウム返しのようにまた質問を飛ばしてくる幸助。入間はまたも説明した。
「次警隊では定期的に隊長格と大隊長が集まって行われる『隊長会議』っちゅ~もんがあってな。いつもは各部隊の経過報告や今後の活動についての話し合いが主な内容としとる。
入隊試験に合格した隊員がどの部隊で所属することになるのかの振り分けは、試験で判明した得意不得意、適性を元に会議で話し合いになんねん」
話を聞いた幸助と南は眉をしかめて微妙な顔になった。
「じゃあ、俺たちがどこの部隊に所属することになるのかは、会議の結果次第ってことなのか」
「確定じゃないんだね」
少し落胆する二人。そんな中で何かを察してランを見るユリ。彼女に視線を向けられている欄は、何かを思いながらあまりいい表情をしていなかった。




