5-55 アブソバの能力
ランの元に駆け付けた幸助。すぐにランの元にまで近付き、彼のことを心配する。
「ラン! 大丈夫か!?」
「いくつ世界を回ったと思ってんだ。このくらい大したことはない」
「幸助君! 将星隊長!!」
二人を呼びかける声。幸助に続き彼と共にいたオーカーも合流してきた。
「おう、お前も来たか」
「将星隊長! 怪我を!!」
「ああ、心配の台詞はもういい。それより二人とも耳貸せ」
ランが幸助とオーカーの耳元で何かを呟いている中、幸助の登場に敵側二人。特にアブソバは白目が血走るほどに驚き、怒りが湧き上がってきた。
「あの男! 何でもう復活を!? あれだけ攻撃したのに!!」
苛立ちから拳を握る力も強くなるアブソバの肩に触れて暴れるのを止めると、彼女より前に出て幸助に話しかけた。
「ホントにタフだねえ、君。こんなに短時間で復活するなんて思ってもなかったよ」
あれだけ攻撃をしておきながらなんてことのない会話をしてくるコクに目付きを鋭くさせながらも、最初のように怒りにまかせて突撃することはしなかった。
睨みは効かせつつ幸助はランに小さめの声で話しかける。
「てことは、ランやオーカーが彼女に触れると途端にアウトって事か。でも俺が触れても魔力奪われてさっきの二の舞になるし……本当に大丈夫なの?」
「そこはオーカー次第だ。やれるか?」
「が、頑張ってはみようと……思います」
「お前そんなキャラだったっけ?」
ランはここまでフレミコの乗り移り状態のオーカーとしか話したことがなかったので、今の素の彼女の自信なさげな返事に少し自分の策が心配になるラン。
だが向こうがこっちの動きを伺うほどお優しいことはしない。何より余裕のない状態でコクとアブソバの二人を相手取るにはこれが一番妙案に思えた。
「まあいい。とっとと片付けるぞ」
「オウッ!」
「ハイッ!」
ランのかけ声を合図に彼と幸助の二人が真正面から突撃を仕掛けた。
「ここに来ても正面突破。アタシが充填切れとでも思ったのかしら? 甘い!!」
アブソバが両手を伸ばして電撃を放って来た。火炎よりも素早い攻撃が二人に襲いかかるが、彼等は一切足の動きを止めようとはしない。
すぐに雷撃が二人に接触するとなったそのとき、突然雷撃は消え去り、ランと幸助がテレポートでもしたかのようにアブソバに至近距離まで近付いて来た。
「ナッ!?」
訳の分からない事態に動揺しガラ空きになったアブソバに二人が剣で切り裂きにかかる。だがコクが素早く割って入ると、パワー形態に変身して二人の剣を受け止めた。
「危ない危ない……でも残念」
「そうでもないぞ」
ランの台詞にコクが表情を変えている間に、幸助が拳を構えてコクの腹に振るっていた。
「<七光拳>」
回避するにはスピード携帯に変身する他ない。だが変身すれば今抑えている剣で切られてしまう。判断に迷っている内にコクは幸助に殴られてしまい、自分にやられたランと同様に嗚咽を吐いた。
「カハッ!!……」
「コク!!」
だが以前吸血鬼の世界ではゴンドラのリーダーを軽く倒して見せたこの技も、コクの身体は吹き飛ばされずに耐えた。
「中々いい拳だね。でも俺を倒すには足りなかった」
「安心しろ、次も用意してる」
直後、コクが手で掴んでいたはずの二人の剣が振り下ろされ、彼の身体を×字に切り裂いた。
(掴んでいたはずの剣? でも掴んでいる感触はある!?)
「コク! 腕が!!」
アブソバに指摘されたコクは初めて気が付いた。自分の両腕が手だけ残して消えている事に。
「俺の腕が!」
負傷よりも一瞬にして両腕がなくなった事態に動揺するコク。当然こんな事案はコクにとって予想外だったために注意が散漫になり、剣を掴んでいた手が床に落ちた。
アブソバも彼と同じく驚いて近付こうとするが、足を一歩踏み出した途端に一切ポーズに変化のないままランと幸助が間合いに入り、下がっていた剣を振り上げて攻撃を仕掛けた。
直前に後ろに下がったために軽くかする程度だったが、アブソバは自分が負傷したことに目付きを悪くする。
(何がどうなっているの!? さっきから明らかに不自然だわ)
続けざまにランと幸助二人から代わりばんこに隙がなく攻撃を仕掛けられ続けられ、反撃にも出られないアブソバ。
それも二人揃って明確な大技ではなくなんなる剣術だけで攻めていた。通常ならばこの好機に能力も使わず攻めるのは手間を増やす行為に思えるが、二人はわざと技を使っていなかった。
理由は直前。二人とオーカーが戦う直前にランが残り二人に耳打ちした内容だ。
「エネルギー変換?」
「ああ、おそらくそれがあの女の能力だ。自身に受けたあらゆるエネルギーを吸収、変換して撃ち出す。
お前の技が吸収されたのも触れられた途端に体力が減った要因もそれだろう」
『エネルギー』何かしらのものを動かしたりする力の総称。人間が生活するには、このエネルギーを別のエネルギーに変換する行為が不可欠となっている。火力発電やLEDの点灯など、身近なところにも必ず行なわれている。
アブソバの能力はこれを自分の身体の中で行ない、放出することが出来るというものだ。そのため彼女から放たれる攻撃は熱による炎や電気、そして光といったエネルギーとして変換できるものだった。
幸助がアブソバに触れられた途端に力が無くなったことにも説明が付く。人間も生きるために身体を動かす力、俗に言う『生命エネルギー』が必要だ。
アブソバは他者の肌に触れることにより生命エネルギーを奪い、自分の技に変換することも出来るらしい。尋常じゃない魔力を見に宿している幸助だからこそ耐えられたが、普通の人間ならば即死していてもおかしくなかったのだ。
「それじゃあ、ランやオーカーがアイツに触れたら、その時点でやられちゃうって事!?」
「俺の場合ワンチャンあるだろうが、全員二度やられればアウトだろうな。かといって飛びド尾久も奴にとっては格好の餌だ」
「それじゃあどうやって戦うんですか!?」
「そりゃあもちろん、ぶった切る」
「「はっ!?」」
聞いた始めは首を傾げた反応をしてしまった二人だったが、ランの立てた策は上手くいっていた。
エネルギーを使った能力は吸収されてしまう。逆に言えばただの物理攻撃に対しての防御方法はなかったということだ。
もちろん肌に触れられればやられてしまうリスクはある。だから剣での戦い。それも結晶や魔力は使わない単純な剣術のみでの畳み掛けで勝負を仕掛けた。
とすると問題となるのは単純な戦いに持ち込まれた途端に厄介になるコクの存在だ。アブソバの能力に警戒している内に隙間を縫うように動いて重い一撃を叩き込んでくる。
二人の連携は並大抵のことでは崩せない。そこで鍵になったのがオーカーの存在だった。
オーカー、というよりフレミコの能力により一度武器を掴ませたコクの腕を飲み込ませることで動揺を誘い、闇飲みや闇吐きを駆使することでランと幸助が瞬間移動する。
ランは相手の情報整理が追い付く前に片を付けようとしていたのだ。
幸助と共闘することで二対一の時よりも周りに気を配れる余裕が出来たランは、コクが立ち上がりかけたのを見て後方に控えるオーカーに対し軽く左人差し指外に弾くように立てて合図を送った。
するとオーカーは闇飲みを行ない、瞬時に立ち上がったコクに跳び蹴りを直撃させた。
「ガッ!」
受け身を取りつつ立ち上がったコクだが、軽口を吐き続けていた彼も胸を切り裂かれた後に背中を蹴られたこともあってか不機嫌な顔を浮かばせている。
「酷いもんだなぁ……ぼこすかにしてくれちゃって……」
「ついさっきまで二対一で俺をぼこすかにしていた奴が何言ってんだ」
「こっちは腕失ってるんだよ」
「だからどうした?」
両腕のないコクに攻め立てるラン。一方の幸助は急に一人になりつつも奮戦し、いつまで経ってもエネルギー充填が出来ないアブソバは焦りを感じていた。
だがアブソバの能力はあくまでエネルギー変換。別に人間にのみ作用するわけではない。
アブソバは剣を振り下げてきた幸助に対し自傷覚悟で彼の手首を蹴り上げた。狙いは命中し剣が空中に弾かれ彼の意識がそっちに向いた瞬間、彼女は高めにジャンプして真上の位置にある電灯に手を触れた。
「しまった」
「もう遅い!」
アブソバは電灯の光エネルギーを吸収。変換して電撃を撃ち出してきた。ランよりフットワークが遅い幸助はこれを喰らってしまうが、そこは彼の頑丈な身体。そこまで大したダメージにはならない。
そしてこの状況は幸助に有利に働いた。空中に飛んだために身動きが取れないアブソバはオーカーの闇飲みで一瞬で幸助の間合いに入れられる。
「ッン!?」
強制的な瞬間移動をさせられて思考を回すのにどうしてもラグが起こるアブソバ。幸助も空中に剣を飛ばされ武器使用は出来ないかと思われていたが、彼はランの話しから直接相手に触れなければいい事を理解する。
ならばと上に上げかけた腕を下げつつ身体をくの字に曲げて彼女の腹に蹴りを入れた。
通常攻撃の耐えそこまで威力はないが、既に消耗していたアブソバに幸助の常人より重い攻撃は十分効果はあった。
倒れはしないものの腹を抱えて痛みを気にしているようだ。
「こっの……」
二人が別々の敵と対峙するこの状況。だがランが全体の状況を見回しオーカーに指示を送っているのと同じように、コクもまたこの戦いの状況をよく観察していた。
(俺の腕のことといい変な瞬間移動といい、理屈はよく分からないけど、空間に干渉する能力か。その貫目になっているのは奥で突っ立っているあの女。
なんだかよく分からないけど、あの女潰せばこっちに流れが傾くか)
とすればとコクは真っ先にオーカーの方に向かって行った。だがランがそれを防ごうと立ちはだかる。
だがランはコクが眼前に来たのと同じタイミングに剣を突き刺したが、手応えは一切なく、瞬きする間に姿が消えた。
「チッ! また残像」
本物のコクはスピード形態に変身しオーカーの元に向かって行く。彼女はすぐに距離を離そうとするが、突然フレミコが腹から蹴り飛ばされるようなショックに襲われた。
「フレミコ!?」
「へ~、あのちっこいのに吸収されていたんだ。頭の中で暴れさせるよう意識してみたら出て来た」
メリーは取り込まれた服を暴れさせることで身体を一部を吐き出させていたが、コクはそれを生身での気合いだけでやってのけてみせた。
コクは五体満足になってすぐにオーカーを始末しにかかった。
「まずは一人」
(間に合わない!)
オーカーは自分の回避が間に合わない恐怖から目を閉じてしまい、コクが容赦無く拳を突き立てかけた。だがここで突然背中に何かをぶつけられ、ぶつかった何かに攻撃されて攻撃を方向がずれ、オーカーを仕留め損ねた。
「今度は何かな?」
引きつった様子で立ち直り振り返ると、床に尻餅をついて痛がっている幸助がいた。
「イッタタ……大丈夫? オーカー?」
「幸助……君!」




