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5-36 裏の目的

 観戦室の中では、戦闘が止まった南達三人の様子がリアルタイムで映し出されていた。

 南が何をしているのかアキには理解が出来ていなかったが、ランは何か理解したように話し出した。


「南の奴、気付いたか」

「気付いた? 何に?」

「タイタン隊長の裏の企みに」

「ええ!? 企みって、どういう?」


 アキが目を見開く。どういうことなのか理解しようとランに問いかけ、彼も素直に説明を初めてくれた。



_______________________



 一方の試験会場。必死な思いでどちらが勝つかもう少しで分かるところの戦いの最中に割って入って来た南に二人、特に厨二病キャラのオーカーはすぐに文句を飛ばしてきた。


「貴様! 神聖な決闘に水を差すとは!! 何のつもりだ!!」

「ああ、それについてはごめんなさい。でも必要のない戦いは、やっぱり避けるべきだと思って」


 さっきも言っていた、『みんなすぐに合格出来る』という台詞といい、南の言い分に二人は疑問を浮かばせるばかりだ。

 黙っていても始まらないと思ったメリーは、率先して南に改めて問いかけてみた。


「その、どういうことデスか? みんながすぐに合格出来るというのは……」


 南はだいぶ息が落ち着いたこともあり、最後に深呼吸をして完全に整えてから説明を始めた。


「二人とも、この試験が始まるときにタイタン隊長が言っていたこと、覚えてる?」


 南がここで指摘したのは、ジーアスが試験の直前に受験者達に話していた第三試験の概要説明についてだ。


『君達は、各受験番号ごとに指示された本をこの中から探し出し、私にまで見せに来て貰う』


 メリーとオーカーがジーアスを台詞を思い出していると、南はそこに指摘を入れてきた。


「タイタン隊長が言っていたのは、本を自分の所まで見せに来ること。提出することとは言ってない」


 確かにそうだと納得する二人。しかしだからといってそれがこの場で戦わなくていい理由と繋がるとは考えにくかった。


「それがどうした! だから本を取り合っているのだろう!!」

「だから! 本を見せたらそれでいいんだよ! 取り合わずに一緒に持って行って隊長に見せれば、それでみんな合格になれるんだよ!!」

「「ッン!!」」


 二人はそこでようやく南の言い分と試験の概要説明との繋がりを理解できた。


「そうデ~ス! 南さんの言うとおり、確かにワタシ達は始めから本を取り合う必要なんてなかったんです!! なんでそんな大事なことに気が付かなかったんでしょう?」


 疑問が一つ晴れて次にまた新たな疑問が浮かぶメリーに、南は一度頷いてからこう答えてきた。


「これは僕の想像なんですが、多分タイタン隊長は、僕達を戦い合うように仕向けるためにわざと気付かせないようにしていたんだと思う」

「わざと?」


 首を傾げるオーカーに南自身もジーアスの説明の台詞回しや、ここまでの試験について思い出しながら仮説を語り続けた。


「まず僕達は、第二試験で実質番号札の奪い合いをして戦っていた。そのことから、受験者の思考の中に戦うことに対する先走りが出来ていた。

 そこに概要説明の時にはなしていた、わざわざ戦闘をする際の諸注意。タイタン隊長はこの試験を、僕達が本を取り合って争うものなのだと勘違いさせようとしたんだ」


 みなみの仮説に納得がいくと同時に、相当驚く二人。

 言われてみれば、戦うように仕向けるようなことを言っておきながら、図書館内の備品を少しでも傷付ければ即失格という戦うにはあまりにも厳しすぎる条件。言葉の裏を読み取れずに下手に戦って備品を傷付けさせ、受験者の振り分けをする目的もあったのだろう。


 つまりメリーやオーカーの二人はもちろん、幸助や黒葉、果てはこの試験を受けている受験者のほとんどが、タイタン隊長の企みの術中にはまっていたのだ。


「クッ! 我としか事が!! 危うく罠にはまって失格するところだったというのか!!」

「南さんに感謝デ~ス。そうでなければワタシ達、本当に危なかったデ~ス」


 メリーとオーカーはお互いを警戒することを止めると、パンパンに膨れた物から余分な空気を抜き出すように上がっていた肩の力を抜いていた。


「フム、まあいいだろう。はやく合格する方がいいし、余計な争いは避けるのが得策なのだ」

「せっかくお祭りで仲良く遊んだ遊んだ皆さんですしね。仲良し一番デス!

 ……って、おや? 今更ながら幸助さんと黒葉さんはどうしました? 一緒にいたはずでは?」


 メリーは気持ちに余裕が出来たことでようやく南が自分と別れる前に本を持ち逃げした黒葉を追いかけていった幸助の事を思い出して彼女に問いかけると、彼女もすぐに答えてくれた。


「ああ、二人には先に話したから。メリーが何処に行ったのかが分からなかったから、手分けして探していたんだ

 黒葉君は知って相当落ち込んじゃったみたいで、いいって言ったんだけどお詫びの印にって被っていた課題の本を僕に渡して行っちゃったんだけど」

「お祭りの時といい、本当にネガティブな御方デ~ス……」

「試験に合格しても、任務の旅に落ち込んでそうだな、黒葉殿は……」


 ここまでネガティブ思考な黒葉のことが心配になったメリーとオーカーに、南も苦笑いを浮かべるほかなかった。


 とりあえずこの場のいざこざについては解決したので、別れてメリー達を探していた二人、特に南とお題の本が被っている黒葉は見つけなければ共に合格出来ないということもあり、優先的に探さなければならないと足を急がせた。


 この場でも南はメリーが味方にいてくれて本当に助かったと思っていた。

 普通ならこの増刷量のとても多い実質的に迷宮とかしている図書館の中から別れた二人を探さなければならないところだったが、彼女の能力のおかげで、今二人が何処にいるのか野正確な情報がすぐに手に入ってくれた。


「場所が分かりました! まずはここから近い位置にイマ~ス幸助さんの所に行きましょう!!」

「ありがとうございます! メリー」

「う~む……本や本棚とも話を……何処からでも情報が手に入るとは、我は相当にとんでもない者を相手取っていたというのか」


 オーカーはいくら自分が入隊試験に合格するためとはいえ、メリーをここで入らせなかったら組織全体にとって相当な損失になりかねないことを理解させられてしまっていた。


 そこから数分して幸助と無事合流した一向。彼の試験の裏事情を知ったためかはやくメリー達を探し出さなければと焦っていたようで、顔から汗を流し息切れを起こしていた。


「よ、よかった……南ちゃんが、止めてくれたんだ」

「めっちゃ息切れしてマ~ス! 大丈夫デスか? 幸助さん」

「お、俺は平気平気……南ちゃんは知ってるとおり、俺は疲労しても普通の人よりめちゃくちゃはやく回復できるみたいだから」

「何なのだその能力! お主も中々に鬼畜だぞ幸助殿」


 自分がついこの前お祭りの中で出会って一緒に遊んでいた人達のとんでもないスペックに仰天することが続くオーカー。


「なんとも強者揃いの試験に参戦してしまったものだ……各試験で隊長が試験管をやっている事と言い、今回の試験は相当力が入っているようだ」


 三人はそこから再びメリーの道案内の元、今度は黒葉を探し出すために移動を始めた。元々手分けしてメリーやオーカーを探すため別れていたので幸助がいたところからだとかなり離れているようだった。


「ここに来て別れたのが裏目になってしまったね。メリーの案内を受けても、結構走ってる」

「道なき道を通るショートカットコースもあるんデスが、皆さんを連れてそちらを行くのは混乱を招いてしまいかねないので」

「ショートカット? まさかそれで我に追い付いてきたのか?」

「ハイ! といっても隙間を抜けたり低めの本棚を飛び越えたりしていった文字通りの獣道なんですがね」


 やりようによってはメリーの能力で本棚を動かしてしまえばいいのではないかと思ったオーカーだったが、次にこのモノが密集している図書館の中で下手の大型の物を動かしてしまえばお互いを擦って器物損壊になりかねない事情もあったのだろう。


 幸助を捜し当てたときの倍の時間がかかってはしまったものの、四人はようやく本棚の角を左に曲がった先でようやく黒羽の姿を発見した。


「あ! いた!! 黒羽君!!」

「案内のおかげで近道出来ましたが、結構離れていましたね」


 声をかけられた事で黒葉の方も四人に気が付いたようで、振り返って走ってきた。


「みんな! よかった合流できたんだ!! ……ってことは結果的に俺が迷子になってみんなに迷惑をかけてしまったって事か……」


 走りながらにドンドン気分が重くなっていき、足取りが悪くなっていく黒葉。


「ウワッ! 走りながらドンドン暗くなっていってる!!」

「そんなことないから! 結果的にこうなっただけ! 偶然だから!!」


 またしても落ち込んでいく黒葉のテンションをどうにか通常に戻そうと励ましの声をかける幸助達。

 そんなとき、突然図書館の天井からジーアスの声が聞こえてきた。おそらくアナウンスなのだろう。


「受検者諸君、試験終了まであと十分だ。各自、健闘を祈る!!」


 黒葉を除いた全員が天井の方に激しい形相を向けて声を上げてしまった。


「「「「あと十分!!?」」」」


 こうなっては黒葉一人の落ち込んでいるのもいちいち気にかけている場合ではないと、幸助が彼の服の襟を掴んで引っ張る形で連行した。


「痛い痛い痛い!! 何何々!!?」

「急いでゴールに行くんだよ!! でないともう合格出来ない!!」


 焦る幸助としては正直今目の前に広がっている本棚を破壊してでも近道を進みたい気分だったが、試験のルール上そうするわけにもいかない。


 メリーを戦闘に彼女が声をかける間もなくとにかく付いていく形で本棚の道を進んでいった。


 体感にして八分後、ようやく五人は目の前にジーアスが待ち構えている試験のゴール地点が見えてきた。


「よし戻れた!! 後は本を見せれば!!」

「といっても、南さんが予想したってだけのことでしょ? もし間違っていたら俺達の内二人は脱落だ!」

「このタイミングに不安などおさらばだぞ黒葉殿! 今は一心不乱に走るまでだ!!」

「当たっているのかどうか! お願いどうか!!」


 五人は同タイミングに飛び出し、それぞれがそれぞれの課題の本を片手ずつで持ち合う形でジーアスの前に提出した。


「「「「「お願いします!!!」」」」」


 ジーアスの少しの間の沈黙は、五人にとって相当精神的に答えるものを感じさせていた。


(やっぱり違ったのかな? いいや、そんなことは……どうか!!)


 南が頭の中で必死に祈っていると、ジーアスがゆっくり口を開き、五人に告げた。





「よろしい、合格だ!!」

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