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5-24 黒葉とオーカー

 一方の幸助達。彼と南は今、沸点越えかけのファイアの機嫌を取るために食べ物を与えているところだった。


「チィ……本当に腹が立つ。モブ共が揃いも揃ってアタシの憩いを邪魔して……」

「憩いって」

「ラン君とユリさんの二人を影から見るだけだったじゃん」


 そう、三人はファイアを中心とし、ランとユリの二人を影から眺めてニマニマするのを楽しんでいたようだったのだが、人混みのせいで二人を見失ってしまっていた。


「なんでこんなに人だらけなのよ! どいつもコイツもアタシの楽しみを邪魔して!! いっそ全員吹っ飛ばして……」


 今にも怒りが爆発しそうなファイアの機嫌への対処に戸惑う二人。こうなっては暴れかねない彼女の態度に力尽くで対処せざるを得ないかと南は拳を構え、幸助はブレスレットに触れて収納されていた剣を腰に出現させる。


 祭りの場で戦闘が始まってしまうかと思われたそのとき、三人はより数が多くなっていた人混みに飲まれていき、お互いの位置がギリギリ分かるほどにまでもみくちゃ騒ぎになる。


「ああぁ! 更に人混みが酷いことに!」

「こんなときに爆発したら大事になっちゃうよ!!」


 幸助と南の心配はすぐに起こりかねない事態にまで発展していた。


「本当に腹立たしい!!」


 ファイアがもう剣を腰から引き抜くかと思われた直前、ふと人混みの中にいた男性が不可抗力でファイアの肩に手が当たってしまった。


「ああ! すいません!!」

「アッ!?」


 今のファイアに声をかけるのは危険だ。怒りに煮えたぎる彼女は誰彼構わず噛み付きかねない。事実彼女は肩に触れてきた相手を真っ先に切りにかかった。


「アタシの邪魔するなぁ!!!」


 幸助と南は人混みをすり抜けてどうにか近くにまで来るも、至近距離にいた男にはもうファイアの刃が届きそうになっているところだった。


「やばい!!」

「ファイア! ダメェ!!」


 どうにか届かせようと手を伸ばす二人。だがとても攻撃を防ぐことなど出来ず、回避不可だと思われた次の瞬間、三人にとって全く想定していなかった事態が発生した。


 ファイアの着ている浴衣の帯が勝手に緩み始め、まるで誰かに脱がされたかのようにはだけてしまい。公共の面前で下着姿になってしまったのだ。

 おまけに振り降ろしかけた剣も突然手に油でも塗られたかのように滑り落ちていき、僅かな間に彼女は丸腰にされてしまった。


「ハアァ!!?」

「ちょっ!!」


 あまりに想定外の自体にコメントが詰まってしまう幸助と南だが、一番この自体に激しく反応したのは当の服が脱げたファイア本人だった。


「な! 何これ!? 何が起こってんの!!?」


 服が脱げて下着を晒された事に、怒りが一周回って正気に戻ったようだ。とはいってもこのままの姿で置いておいてはマズい。

 ファイアは暴力より先に自分の格好を落ち着かせようと周りの人達を弾き飛ばす勢いで全速力で駆け出しながら出店の列から消えていった。


 取り残された二人と、襲われかかった男。ところがその男は突然地面に手をついて四つん這い状態になりながら落ち込み、なにやら反省の言葉を口にし始めた。


「あ~……またやっちまった! しかも女の子に!!」

「「ん?」」


 まるで自分がファイアの服を脱がせてしまったかのように発言し、幸助と南は首を傾げている。幸助はふと気になって彼に近付き声をかけてみた。


「あの、さっきの服が脱げたの……君が?」

「ん? あっ! 確か第一試験の合否発表で揉めていた!!」

「そんな覚え方されているの俺達!?」


 幸助と南が悪目立ちしていた事実を突き付けられ少しショックを受けてしまったが、そんなことよりも今は彼が言った台詞に指摘する。


「ああ、いやそんなことより! さっき服が脱げたの、君がやったの?」

「あぁ! いやそんな! わざとじゃないんだ!!」


 慌てて言葉を並べる青年。二人はこんな場で落ち込ませるのもなんだと、説得して少し人混みから離れた場所に出て話をすることにした。


「ご、ごめん。あんなところで慌ててしまって……俺、『春山(はるやま) 黒葉(くろは)』。とある世界の日本で男子高校生をしていたんだけど、色々あって君達と共に今回の試験を受けることになった受験生だ」

「ああ、だから俺達の騒ぎを知って……って! 男子高校生!?」

「それで、自分がファイアの服を脱がしてしまったっていうのは?」


 青年、春山黒葉は自身の両掌を広げて自分の目で見ながら説明した。


「俺は呪われているんだ。この手で触れた人の着ている服、持っているもの、全て揃ってはだけさせてしまうんだ」

「何だそのハーレム系ファンタジーの主人公みたいな能力!?」

「はーれむもの?」


 思わず頭に浮かんだ言葉を突っ込みで口に出してしまう幸助と、彼と違い創作物の文化に疎くハテナを浮かべてしまう南。

 そして当の本人である黒葉も、自身の能力に関して涙を流しながら幸助の言い分に答えた。


「俺だって最初はそう思ったよ! でも現実にこんなもの! 周りから変態扱いされるだけだった!! だから抑えようと試みても、さっきみたく不意に能力が発動してしまう!! こんな能力! 最悪以外の何でもねえよ!!」


 すると話の最中に気分を落としていった黒葉はまた重力に押し潰されるかのようにこの場で四つん這いになる。


「ワワッ! 急に四つん這いに!!」

「自分の吐いた台詞で落ち込んじゃった!!」


 黒葉は四つん這いで下がっていた頭をそのままに若干自暴自棄気味な台詞を吐き出す。


「分かっているさ! そんな変態が次警隊に入るなんて馬鹿馬鹿しいことだって!! でもこんな俺にだって出来ることがあるって!! 役に立つことがあるって思って俺はぁ!!」

「叫び散らし出した!!」

「面倒くさい! この人結構面倒くさい!!」


 ネガティブ思考な叫び癖のある青年、黒葉に対する対応に追われることになった二人。頭に浮かんだのは、揃って同じ言葉だった。


(この試験の受験者……)

(変な人多過ぎ!!)


 先程出会った少々正確が個性的な青年黒葉も成り行きで共に回ることになったお祭り。彼はイまだ消えない申し訳なさに眉を下げたままついてきていた。


「本当にありがとう。こんな俺まで気を使ってくれて」

「いやいいよ(あのまま叫き続けられるとそれこそ騒ぎになっちゃうし)」


 一部心に留めた部分もありながらも、幸助と南が今度こそ祭りの出店を楽しもうと思ったそのとき、またしても何処かから彼等に語りかける声が聞こえてきた。


「オヤ! コウスケさんにミナミさ~ん。またしても会えましたね」

「あれ? この声」

「もしかして、メリー?」


 声の主を予想する南に、答えの人物が姿を見せないまま返答してきた。


「ハイ! メリーです! 今貴方の後ろにイマ~ス」

「ウワオッ!!」


 思わず前に飛び出る南。確かに彼女がついさっきまで立っていた場所のすぐ後ろにメリーの姿があった。


「それ、毎回やらないといけないものなのか?」


 幸助からの指摘にメリーは首を傾げる。どうやら彼女にとってあの行動は天然でやっている挨拶らしい。

 既に何度か経験しているために段々慣れてきている幸助に対し、初見である黒葉は呆気に取られていた。


「えっと? この人は?」

「メリー。俺達と同じ今回の受験者」

「ああ、なるほど」


 メリーは初対面の黒葉に軽く頭を下げ、更に一人追加した四人で出店を回る流れになった。


 とはいっても四人で何をすれば良いのか分からないままに歩き続けていた一向。先程のラン達と同じく遊びの出来る出店に行こうとするところ、ふと知っている人物を見かけた。


「ねえ幸助君、あれ!」

「あれは」


 二人が見た先にいたのは、出店の店番をしている浴衣姿の零名と、彼女と何か話をしている見知らぬ少女だ。

 グルグル巻のマフラーで口元を隠している零名にも言えることなのだが、彼女が話をしている少女はそれを軽く越える奇抜なファッションをしていた。


 肩を露出した黒がメインの袖の短いゴスロリワンピースに、白いドクロが描かれた眼帯を左目につけ、右腕にはわざとらしく包帯を肘の手前当たりまで巻き付けている。


「和風のお祭りにゴスロリファッション!?」

「というか、中二病?」


 近付きながら会話の話題に上げていたからか向こうが幸助達の存在に気が付いたようで、左手を振って声をかけてきた。


「幸助……南……どうも」

「あ、どうも」

「零名さん、ここでお店番?」

「え? 二人の知り合い?」

「おや? 観戦室にいた少女さんデスネ~」


 またしてもついてこれていない黒葉を余所に会話が始まるかに思われた矢先、先に何かを話していたゴスロリ少女が割って入って来た。


「お主ら、邪魔をするな。我はこの娘は今我との会合の最中だぞ!」

「か、会合?」

「お店での話し合いってことじゃ……ていうか、このお店!!」


 南は変な物言いをするゴスロリ少女のことではなく、零名が開いている出店の方に衝撃を受けた。

 ひな壇の上に並べられたお菓子やおもちゃの数々は普通なのだが、店の中心に目立っていたのは、丸い壁紙に磔にされた上に猿ぐつわをはめられて号泣している大悟の姿だった。


「何これ!? 何で大悟が貼り付けられているの!!?」


 南の突っ込み混じりの質問に零名がいつの間にか持っていた射程用の銃をもう一方の手に当てながら説明した。


「射的……的……スカッとする……」

「的!!」

「腹十点……腕五十点……眉間百点!」


 最後の圧のこもった一言を聞き、幸助と南は大方大悟がまたしょうもないことをやらかして零名を怒らせたのだろうと納得したが、残りの面々は見知らぬ人物が号泣しながら磔にされている事態に引いていた。


「誰これ!? 何で縛られてんの!?」

「私が言うのもなんですが、恐怖映像デ~ス!!」

「フッ……何を恐怖しているのだ。これは生け贄。我らを楽しませるための供物ぞ」


 黒葉とメリーは隣のゴスロリ少女がいちいち作ったポーズを取りながら台詞を語る姿に大悟の姿とは別の意味で引いていた。


「というか、さっきからここで何か話しているみたいだけど、君は?」

「フンッ! 我の名を知りたいか! よかろう、答えてやる!!」


 大悟の有様のインパクトについぞ忘れていたことにゴスロリ少女の存在に触れた黒葉。


 幸助達も彼が口にしたことで全員が彼女に注目すると、ゴスロリ少女は口元をニヤけさせつつ左手で眼内の部分を抑え、もう一方の腕を前に出しながら決めポーズを作りながら自己紹介を始めた。


「我が名は『オーカー トダマ』!! この左目に封印されし邪悪なる力を操り、いくつものある多世界の秩序を真に正すものとして、未知なる試練に挑む者である!!」


 ゴスロリ少女ことオーカーが何度かポーズを変えて終えた自己紹介。直後に縁日の中でどこか冷たい風が吹き抜け、反応に困った残りの面々が沈黙してしまった。

 少ししてどうにか口を開くことが出来た幸助は、オーカーの台詞から一つ気が付いた。


「試練に挑むって……もしかして、君も今回の試験の受験者!?」

「そうだが? そうかお主らも試練に受ける者達か。よろしく頼もう」


 分かりやすい中二病の台詞回しに微妙な顔を浮かべながら差し出してきた手に握手をする。

 幸助は握手をしつつ、残りの面々はこの様子を見ながら頭の中で同じ事を思い浮かんでいた。


(次警隊の隊員って……変な人ばっかり……)

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