5-20 第二試験突破!!
第二試験の制限時間が終了し、合格者達は入間によって広間に集合させた。
少しの間ザワつきつつも、入間が手を叩いてすぐに静かになり、彼女もスムーズに話を始めることが出来た。
「まずはこの場にいる受験生の諸君。第二試験、合格おめでとう。しかしまあ、正直予想していたよりも受験者の数が減ってしまったようやな」
入間が見渡す先にいる受験者達は、想定していた半分よりも更に数が減っていた。ファイアがアンチランの受験者達を倒したこともあるだろうが、おそらく二つ番号札を持っているところでも別の受験者との交戦があったのだろう。
「次の第三試験、第四試験が行なわれるのは三日後や。皆、しっかり身体を休めて臨むように。以上!!」
入間からの挨拶が終わり、解散となった受験者達。幸助に合流した南はまず最初に結果的に吹き飛ばしてしまったことを謝罪していた。
「さっきはごめん!! やっぱり人がいるかも知れない先で壁や襖を吹き飛ばすのは危なすぎたよね」
「ああ、いやいいよ。別に南ちゃんがやったわけじゃないんだし」
「いや、でも僕が止めていれば」
「ふ~ん……アンタがもう一人の三番隊志望ね」
「「ウワオッ!!」」
二人は突如前触れもなく出現したファイアに驚いて思わずバックステップをしてしまった。
しゃがみ込んだ姿勢だったファイアも立ち上がり幸助の方に顔を向けると、南はすぐに問いかけた。
「ファイアさん!? いつの間に!? 何でここに!!?」
「呼び捨てで良いわよ。さん付けされるのは気持ち悪いわ」
一度南の方に顔を向けてことわりを入れつつ、再度幸助の方に顔を戻しながらファイアはここに来た事情を話した。
「なんでここに来たのかって? 簡単な話よ。ラン様と共に旅をしたっていうもう一人の人について知りたかったの。
でも何というか……試す必要もなさそうね。見たとおりのお人好し馬鹿って感じだわ」
「会って数秒でいきなり酷いこと言われた!!」
「ファイア! 失礼過ぎ!!」
後ろからの南の説教を意に介さず高圧的な態度を取っていると、幸助はファイアという名前を聞いて思い出した。
「ファイアって! さっき南ちゃんが言っていた、俺達を吹っ飛ばしたっていう!?」
「そう、『ファイア タック』! ランユリ熱狂ファン第一号よ!!」
「ら、ランユリ?」
「ラン君とユリさんのカップルが好きらしくて……ちなみに、五番隊隊長の娘さんらしいよ」
「エェ!? てことはお嬢様!!?」
幸助も南と同じく彼女の思想よりも彼女が五番隊隊長の娘だということに驚いていたようだった。しかし当の本人はこの反応に眉間にしわを寄せて露骨に機嫌が悪くなった。
「その呼び方は止めて!! アタシは家柄で特別扱いされるのが大っ嫌いなの!! あの人だって、そうなんだから……」
「あの人? それって」
「皆さん! ここにいたんですネエ」
幸助が何か言いかけたタイミングで何処かから聞こえていた声。三人、特に幸助はこの声がすぐに誰のものなのか分かったが、姿が見えなかった為に首を横に振って捜す。
「メリーさん? 一体何処から」
「いますよ~……貴方の後ろに」
幸助は途端に背中に寒気が走り、前方にジャンプしながら振り返ると、捜していたメリーの姿があった。
「毎度毎度後ろから出てくるの!? ビックリするから止めて欲しいんですけど」
まだ微かに震える身体を押さえる幸助。南とファイアは面と向かって話をするのはこれが初めてだったために、メリーの印象が薄かった。
「この子、確かアンタと一緒にアタシが吹っ飛ばした」
「『メリー』です。よろしくお願いしま~す!!」
元気の良い笑顔の自己紹介。南も礼儀よく軽く頭を下げて挨拶を返した。
「『夕空 南』です。さっきは本当に失礼しましたメリーさん」
「メリーでいいデスよ。試験に合格すれば同期なんで~すから!!」
「何というか不思議な子ね。一瞬警戒を促すような感覚があったけど、今はなんだかほがらかな感じ」
まだ試験が終っていないこともあってなのか、ファイアはメリーを見定め、観察するような目付きを取っていた。
そんな目で見られていることに気付いているのか否か、メリーは笑顔を崩さずに三人に問いかけてきた。
「それで、皆さんはこれからどうするんデ~スか?」
メリーが聞いて来たのは、次の試験が始まるまでの幸助達の動向についてだ。これに幸助はいわれて初めて考えたといったような間の抜けた態度を取ってしまう。
「あ~……そうだな……とりあえず第二試験合格のことを、ラン達に報告しに行こっかなぁ。まあ、試験の光景はリアルタイムで配信されていたらしいし、もう知っているんだろうけど」
「ラン!? ラン様!! ラン様に会いに行くの!!? アンタ達今ラン様がどこにいるのか知ってるの!!!?」
ランの名前を出した途端にテンションを上げて寄ってくるファイアの対応に困ってしまう幸助。すると先に交流があって多少はファイアのことを分かっている南がフォローに入った。
「ま、まあ落ち着いて、せっかくだからファイアも一緒に会いに行こうよ。メリーも」
「ワタシもですか?」
「僕達が連れてきたって言えば、多分大丈夫だから」
「何よその自分達は特別です感! ちょっとムカつくんだけど!」
目を細めてすぐに不機嫌になるファイアに再び困ってしまう二人だったが、とりあえずいつまでもここにいても何にもならないと思った幸助の意見により、四人は入間から事前に聞いていたラン達のいる場所に向かっていった。
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そうして観戦室にてランとユリに合流した四人。まずあってランが彼等に向けてきたのは、分かりやすく何でここに来たとでも言いたげな大きく表情の歪んだしかめっ面だった。
(凄い機嫌悪そう)
(もはや一種の変顔レベルに顔が歪んでる)
顔を見た乾燥が頭に浮かぶ幸助と南に対し、ついにランと対面できたファイアは目を丸くして瞳をキラキラと輝かせていた。
「お! お久しぶりですラン様!! ユリ様は! ユリ様はどこにいるんですか!!?」
空き巣の勢いで部屋の中に入ってユリを捜すファイア。ランはまだ外にいた幸助達に迫って問い詰めてきた。
「おい、なんでアイツを連れて来た!」
「アイツって、ファイアのこと?」
「そんなに嫌だったの!?」
ランは何処か味の悪いような顔をして詰めた顔を離すと、部屋の中でテンションが上がっているファイアに視線を向けながら彼女についての印象を話した。
「嫌いってわけじゃないが……お前らも見ただろう。
アイツは俺とユリの関係を見て楽しんでいる上、俺達を否定する奴に対して容赦がない。挙げ句戦い方は文字通りのド派手、言わば『めちゃくちゃ』だ。生長してより拍車がかかっているしな」
幸助も南も、ランの言い分を否定できなかった。実際試験の最中も、彼女の手によって何人もの受験者達が撃退された上、彼女の攻撃は周りにも被害が出かねない強引なものばかりだった。
「父親もかなりの豪快な男で、ファイアはその主義を受け継いでいる。悪い奴ではないんだが、正直ちょっとな……」
ランがファイアを苦手としている理由に納得した二人。すると問題の本人がアキが少し困っているのも関係無く部屋中を駆け回って来たのか、焦った様子でランに近付いて来た。
「いない! いない!! ユリ様は一体何処に!!?」
「あれ? そういえば」
幸助と南も、ファイアが指摘したことで初めて部屋にユリの姿がないことに気が付いた。
「ユリさんは、今どこに?」
「アイツなら、ジーアス隊長と別室で話をしているところだ。後で入間姉もそっちに行くだろう」
「ジーアス隊長って、四番隊の?」
「うん、私達がこの三週間お世話になった人」
話しに入って来たアキ。自身の知り合いの名前が出て今なら会話には入れると踏んだのだろう。
「アキさん」
「二人ともお疲れ様。ヒデキ君は……一緒じゃないのね」
アキはフジヤマが幸助達と一緒にいないことに落胆した声を出しているが、彼女自身失礼はいけないと体勢を直し、次に問いかけてきた。
「それで、二人と一緒にいる、その可愛らしい人は? モニターでは、幸助君と一緒にいたように見えたけど」
アキが指摘したのは、ここまで誰も触れていなかったメリーの存在だった。ランも彼女に言われて初めて意識した様子だ。
「メリーです! 幸助達と共に第二試験を突破しました! 三番隊隊長さんに会えるなんて感激デス!! よろしくお願いシマ~ス!!」
ファイアとは違う、言い意味で元気の良い挨拶を向けるメリーに、素直に礼をして返す二人。
幸いこれでファイアの話題が途切れたことを良いタイミングに、幸助がこの場にいないユリのことについて聞いて来た。
「それで、ユリちゃんは隊長さんと何の話を?」
「なあに、ただの世間話だ。もうじき帰ってくる」
隊長相手とわざわざ別室に移動して世間話。幸助は来ていて浮かび上がる違和感に表情を曇らせていたが、そんな彼に後方から聞き慣れた声が入って来た。
「私がどうかした?」
幸助が振り返ると、当の話の内容になっていたユリが筋骨隆々の大男と共に歩いている様子が見えた。
「あっ! ユリちゃ」
「ユリ様アアアアアアアァァァァァァァ!!!!!」
幸助が声を掛けかけた瞬間、後ろから飛び出だしてきたファイアによって弾き飛ばされ壁に激突させられた。
ファイアは謝罪の言葉もなくユリの元に駆け寄り、念願の相手に話しかける。
「お久しぶりです! ユリ様!!」
「ファイアちゃん!? 何でここに?」
「エヘヘ、あそこの幸助と南に連れて来てもらって」
ファイアは後ろを振り返ると、丁度ランと南によって壁に頭がめり込まされていた幸助の救出作業が執り行われていた。
「「よいしょっと……」」
頭を出させて貰って白目を向いた顔を元に戻す幸助。ファイアとユリは少しそれを見ていたが、ファイアが見なかったことにして話を続きをした。
「本当にお久しぶりですねユリ様!」
「今見た光景をなかったことにしようとしたわね」
「相も変わらず自分勝手なようだなファイア嬢」
「あ、ジーアス隊長。どうも」
「君も私に対しての扱いが雑じゃないか」
ジーアスはランとユリと同様に冷めた対応を取られたことに少しショックを受けていると、後ろから更に入間、そしてフジヤマの姿もあった。
「おいおい、それ以上ジーアス隊長をぞんざいに扱わないでもらえるか。世話になった人なんだ」
「それに、敵に回すと怖いしな」
二人の告げ口にファイアも身を引いて軽くだけ頭を下げた。
ランは幸助を立たせると、入間の何処か楽しそうな様子を指摘した。
「皆さんお帰りのようで……何か楽しそうだが、また悪だくみか?」
「失礼な言い方やなぁ。せっかくお遊びに招待しようと思ったのに」
「お遊び?」
すると入間は背中に隠していた複数着の着物を前に出して見せびらかした。
「二番隊プレゼンツ! 次警隊縁日の開催やで!!」




