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5-12 幸助が危ない?

 幸助、南とフルー。受験者間にて意見がぶつかり合い険悪な空気が流れ出した。

 三番隊の存在を罵倒するフルーと、それを否定する二人。第一試験合格者発表中に人混みの中で発生したいざこざは、当然すぐに周りからの注目を集めた。


「え? 何?」

「おい、こんなところで喧嘩かよ」

「三番隊?」


 しかし視線を受けている中でも三人、特に幸助は仲間を馬鹿にされた事案に苛ついているようだった。フルーの方も自分の意見が正しいと確信しているのか、一向に引こうとはしなかった。


「幸助君、周りに見られてるよ。ここで揉め事は」


 視線に気が付いた南から忠告が耳に入っていないのか、幸助はフルーに対し、腰に携えた剣を鞘から引き抜こうとすると、突然二人の間に鱗だらけの腕は映り込んだ。見覚えのある腕に顔を向きを変えて映ったのは、予想通りフジヤマの姿だった。


「フジヤマさん!」

「こんなところで何をしている? せっかく次に進めるのに、揉め事で失格になる気か?」


 フジヤマの鋭い視線に幸助とフルーはお互いに怒りを抑え、それぞれ反対方向に足を運んでこれ以上事態を悪化することなく鎮圧した。


 機嫌を悪くしたまま歩いている幸助。隣の南がほっとした様子でついて行っていると、人が少なくなったところにてた再びフジヤマと遭遇した。


「よう、さっきはどうも」

「……どうも」


 南は礼儀正しいが、幸助は分かりやすく不機嫌なことが伝わるような、何処か雑な挨拶を返した。すぐに南は先程のお礼を述べる。


「さっきはありがとうございます」

「いい。お前達には大きな恩があるからな。だがま、合格したいんならこれ以上の揉め事は止めてくれ。庇いきれなくなる」

「は、はい」


 フジヤマの忠告にヘコヘコとする南。次の試験があるためこの場でまた別れ用と離れていったが、直前にフジヤマは幸助に声をかけた。


「西野、いくら苛ついても先に剣を抜いたら、それはもう喧嘩ですまなくなるぞ」

「ッン! 分かりました。ごめんなさい」


 幸助は、自分のしかけた行動を見透かされていたことに眉が動き、素直に謝罪の言葉を吐き、それからこの場を離れていった。

 自身のプライドよりも人に謝罪することを優先するのは幸助の良いところなのだが、フジヤマにはその小さくなっていく背中に少し心配を覚えていた。


 一方の観戦室。ふと会話の中でランがこぼした言葉にアキが反応していた。


「幸助君が、危うい?」


 この場でも、丁度幸助について触れていたようだ。ランはここまで共に旅をしてきた中で、『西野 幸助』という人物について感じていた事があったらしい。


「何がどうなってああなったのかは知らないが、アイツはかなり危うい思考をしている。下手をすれば俺以上に」

「おいおい、そんなにかいな」

「勇者の世界で出会って、アイツの仲間が赤服に攫われたときに……」

「おい、無視してんじゃねえぞ」


 いつの間にか部屋に入っていながら、当然のごとく無視された大悟は若干目を細めて苛ついた。隣にいる零名が軽く彼の背中に触れて同情している。

 ランは一切二人の存在には触れず、そのまま幸助の説明を続けた。


幸助(アイツ)は、仲間を助けるために後先を考えずに俺が持っていた結晶を奪い取ろうとしてきた。交渉もなく襲いかかった来やがった。

 俺が防御してなかったら、関係無い民間人に魔術が降り注いでいただろうよ」


 その場をランの側でぬいぐるみの姿で見ていたユリも思い出し、彼女も思い浮かんだ例を挙げていた。


「それで言うと、吸血鬼の世界のときも。ユレサさんを助けるためとはいえ、王城を壊しかねない勢いでゴンドラを攻撃していた。

 皮肉だけど、あの時は負けていなかったらより大変なことになっていたかもしれないわね」


 ランとユリの言い分にアキは驚くも、直に修行をしていた入間は顎を引き、腕を組んで用雨な態度を見せている。


「そうやなぁ……確かにあの力、ただでさえ危なっかしいのにそれを力任せに振るってる。言いようによってはもはや厄災や。今まではな」


 入間の含みのある言い分にランとユリが彼女に注目する。


「これまでの旅の経緯は知らんけど、つい昨日までの三週間は私の元で鍛え上げてたんやで。こっちはただ仕事さぼりたくて適当にやっていたわけやない。

 ま、次からの実技試験を見ていやと言うほど驚くことやな」


 両掌を重ねて後頭部に置き、椅子の背もたれに深く重心をかけてくつろぐ入間。

 ところがここからも観戦する気満々だった入間に、近くにまで歩いてきた大悟がふと口にした。


「いや、ここで観戦する気満々な様子やけど、次の試験官姉ちゃんやろ」

「はえ!?」


 弟に指摘されて表情が歪むほどに驚いている。本当に忘れていたようだ。


「ほえ? ちゃうわ。そもそも俺がここに来たん、集合時刻になってもやって来ない傍迷惑な試験管を連行するためやし」


 大悟の隣で零名が二度頷く。

 というわけで尚も椅子にしがみついて抵抗される前に入間の服の裾を掴み、彼女は二人の手によって連行されていった。


「ほら、行きまっせ隊長」

「いや~! 働きたくなんてない~!!」

「はいはい、文句は終ってからいいましょうね~」


 見送りをしようと部屋の入り口付近集まった一行は呆れた顔付きになって引きずられる入間を眺めていた。


「人に仕事押しつけたツケだな。同情の欠片もなし」

「ある程度はちゃんと本業もやらせないとね。あの人強いけどすぐサボるから」


 冷たい言葉を吐くランとユリにアキは冷や汗をかいて苦笑いを浮かべていた。



_______________________



 隊員達の裏事情を知らない受験者一向。第二試験の説明のために集まっていた彼等は、予定された時間になっても現れない隊員にザワついていた。


 しかし次の瞬間、突然会場を突風が吹き抜けて行き、ほとんどの受験生が受け身を取って目を閉じてしまう。

 そして次に彼等が目を開けると、目の前の台の上に先程より弱めながらも風を発生させる中心になっている入間の姿が現れていた。


「どうも受験者諸君! 初めましての奴も多いやろうから自己紹介。今回、第二試験の試験官を担当させてもらう。二番隊隊長の『疾風 入間』や!!」


 入間が自己紹介をした途端に、受験会場が一気に湧き上がった。概要説明でランが現れたときと違い、全方面から黄色い歓声を浴びていた。


「疾風隊長!! 疾風隊長だ!!」

「スゲェ!! 本物の疾風隊長初めて見た!!」

「今回隊長ばっかり来るじゃん! ホントに今回の試験受けてよかったぁ!!」


 受験者達の歓声に包まれる幸助と南は、改めて自分がどんな相手と関わっていたのかを気付かされた。


「ランといい、入間隊長といい……俺達が気軽に関わっていた人達って、本当にとんでもなかったんだな」

「アハハ……何というか、他の人より感覚が麻痺している気分」

「自分達がどれだけ贅沢な環境にいたのか思い知らされるね」


 一方の入間を追い払った観客室では、さっきまでのいや狩りが嘘のようにテキパキと仕事をしている彼女を見てランとジーアスがコメントしていた。


「あからさまにかっこつけてるな。俺ら達の前とはえらい違いだ」

「忍者が人前に出るなんて珍しいのだ。大衆に目立つ場では、イメージを良くしておきたいのだろう」


 二人の言い分にユリは頷き、アキは反応に困っていた。


 場所は戻り盛り上がる会場内。テンションがあがRのはいいがこれでは本題が進まないと、入間は軽く手を叩いて吹き抜ける風を少し強めて受験者達と黙らせた。


「よろしい、静かになったな」


 入間は発生させていた風を沈めると、本題の説明に入った。


「それでは、第二試験の説明を始める」


 台詞を続けながら何故か不自然に上げていた両手を突然高い音を立てて叩いた。

 すると受験者達が付けていた番号札が突然光り輝きだし、全員が一瞬にして姿を消してしまった。


 次の瞬間に幸助が視線の先に見たのは、日の光が差す明るい広間から一転して、周りに窓の一つも無い薄暗い和室の部屋の中にいた。


「何だ! ここは一体?」


 幸助はもちろん、南を始め、各受験者がそれぞれ別の部屋の中に一人ずつ転送されていた。突然上級が変わったことに誰もが少なからず動揺していると、何処かから入間の声が聞こえてきた。


「全員配置についたな? そこは今回の試験のため用意された、楽しい仕掛けいっぱいのカラクリ屋敷や。試験内容は簡単。これから二時間以内に、そのカラクリ屋敷を脱出しろ

 ああ、先に言っとくけど、用意された正規の出口以外からの脱出は、コースアウトって事で失格にさせて貰うで」」

「ハイッ!!?」


 幸助を含めた受験者の何人もが思わず声を上げた。当然だ。

 今の今まで広間にいたところから飛ばされ、地図もない、地の利のない場所。右も左もどう動けば良いのか分からない屋敷の中を攻略して脱出してこいというのは、ハッキリ言って無茶だ。


 更に入間はただで突破の難しい試験内容に、追加で条件を突き付けてきた。


「そしてもう一つ条件を付けさせてもらう。これがクリアされていなければ、例え屋敷からすぐに脱出できても不合格となる。

 君達がそれぞれ付けている番号札。これを二つ以上手に入れた状態で脱出することや」


 幸助は目を丸くした。居間の入間の言い分が本当ならば、普通に考えて半分の受験生が誰かから番号札を奪われ、失格することになるということだ。


 受験生達に一気に緊張が高まり、何人かは肩幅に脚を広げてどこから来るかもしれないライバル達に警戒し始めた。


「屋敷内にあるものは全て使用しようが破壊しようが何でもあり。受験者同士がいくら闘ってくれてもかまわへん。

 ま、説明し終え、理解して貰ったところで、さっそく……」


 入間は一人残った広間にて、右手を挙げて振り降ろしながら号令を叫んだ。


「スタアアアアアアアアアァァァァァァトオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 全て見える観客席から見えるシュールな光景を切り出しに、全受験生中半分が失格することが決定づけられた次警隊入隊試験 第二試験 『脱出ゲーム』が始まった。


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― 新着の感想 ―
第二試験はカラクリ屋敷ですか。しかも、相手の番号札を奪わなければ合格できないとは、なかなかに厳しい試験で続きが楽しみです!
[良い点] 第二試験は脱出ゲーム。からくり屋敷とは考えましたね。 忍者としては良い試練となりますし、見事だと言えます!
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