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5-7 入るか否か

 最後、諸々の活躍を全て入間に持って行かれる形になって解決した今回の騒動。戦闘が終って数分後、これまたどうして場所が分かったのかが分からない大悟と零名が現れた。


「よっすどうも」


 大悟は簡単な挨拶、零名は小さくお辞儀をしてとりあえずの社交辞令を済ませると、攫われていた人達が何処から来たのかの身元確認を取り始めた。


「全くアイツ、ホント色々な世界から拉致って来てんなぁ。こりゃあ送還に時間がかかりそうやで」

「愚痴……意味無い……」

「お前は人を励ますって事をもうちょい学んだらどうや?」

「お前……不要……調子乗る」

「んやとお前!!」


 大悟は零名の冷たい態度に怒りだし、身元確認用のデータページを閉じて彼女に対し怒鳴りだした。


「毎度毎度お前って奴は毒を吐きおって!! ガキのくせにどうしてそう可愛げの欠片もないねん!! ランの奴は、あんな可愛いユリちゃんと毎日イチャコラしおってるってのに!!」

「他人……関係無い」

「やかましいわ! 大体俺は、美少女と二人で組んでアハハでウフフな旅がしたいって前から言っとるやろ! せやのになんで俺の相方はこんな生意気なチビガキやねん!! 不公平にも程があるやろう!!!」


 途中から完全に自分の境遇に対する文句でしかなくなっていることに零名がジト目になって呆れた顔付きをしている。


 彼女が言葉をかける気すら起きないほど面倒に思っていると、間に割って入って来た入間が二人の肩を組んできた。


「カッカッカ! まあまあ弟よ。そうカリカリせんでもええやないか」


 陽気な調子の入間に対しても大悟は別の文句を吐き続ける。


「事の張本人が何言っとんねん。わざわざ事件の後処理だけの為に呼び出しおって」

「まあいいやろ。今回の件で良い収穫もあったみたいやしな」


 入間は南の方に視線を向け、彼女と幸助は入間の台詞に思うところが出来た。


「仕事って……まさか、始めから全て知っていて俺達にお使いを!?」


 幸助が自分達が旨いこと利用されていた事に表情を歪ませると、入間からの説明が入った。


「近頃、近い異世界間にてカップルばかりが誘拐されるという事件が発生していてな。

 その被害がこの近辺にて起こっている情報が入ったんで、良い感じのカップルになれそうなコンビに出てもらおうかなっと」

「いいように利用されたわけだ」

「恨んでくれても構わんで。だがこれこそが次警隊の仕事。体験としては十分なものだったろ」


 入間の強引なやり方に、弟である大悟がため息をついて突っ込んでいた。


「いやいや、色々突っ込むところあるで。隊員でもない奴らに何も事情を知らせんと危険地帯に放り込むなんてな」

「アンタだって、ゴンドラの調査を彼等に任せたやないか」

「そんときはランがいたからな。あくまで俺が頼んだのはアイツにや」


 一応の節度は守っていたと言葉を並べる大悟に、入間は笑って


「カッカッカ! まあええやないか。責任はこっちで持つ。それに今のお二人さん。最初にときよりもスッキリした顔になってるで」


 二人、特に南には入間の言葉が響いていた。無茶苦茶なやり方だが、入間から送られた試練は確かに二人にとって大切なことを再認識させる良い機会となったようだ。


 入間は暗く静まったものから少々ほがらかになった二人の表情を確認すると、左目を閉じ、改めて幸助と南に聞いて来た。


「それでお二人さん。こうして一つ事件を解決したわけだが、今の心境はどうや?」


 唐突に聞かれて一瞬こわばるも、事件を通して感じた事を口にした。


「単純な言葉だけど、やっぱり晴れやかって感じです。誰かが酷い目に遭っているのを見過ごせない。身体が勝手に動いてしまう」


 幸助が勇者の世界での旅路を思い出しつつ話していると、隣にいる南が話に入って来た。


「僕も同じです。色々怖くなって、考え込んでしまっていたけど、やっぱり人を助けたいって思ってしまう。そこに深い理由なんてない。ただ……」


 ここまでは南の意見も幸助と同じだったが、ここから彼女は自分の握った右拳を見て、幸助とは違う言い分を口にした。


「ただ僕は、やっぱり悪い人にも、死んで欲しくはない。殺しをしたくはない。それも、ハッキリと思いました。人を助けるのに、甘すぎる考えかもしれないけれど」

「南ちゃん……」


 幸助は南の優しすぎるとも取れる言い分に、とやかくは言わないもののやはり思うところがあるようだった。

 彼は彼女の意見に対する返事となる言葉を頭の中で探していると、先に入間の方が彼女に近付いて率直な返事をした。


「ああ、確かに甘いな」


 入間のストレートな一言に、南は分かっているとはいえ目線を下げて顔を少ししかめてしまう。

 だが次にその入間が口角を上げながら話を続けた。


「でも、私はそういう考え方をする人が嫌いじゃない」

「ッン!」


 南はてっきり否定されるものだとばかり思っていたために、入間から肯定の言葉が飛んできたことに逆に反応に困ってしまう。

 そんなたじろいでいる南をみて笑いながら入間は自分なりの意見を述べた。


「カッカッカ! 否定されるとでも思ったか? そんなに私は鬼やないで。

 次警隊は警察団体や。本来の目的はそれこそ相手の身柄を逮捕すること。相手の命を奪うのはあくまで最終手段や」


 これを言われて幸助と南の頭に、これまででのランと赤服との戦闘の場面がよぎってきた。


 言われてみると、確かにこれまでランは赤服を撃退する前に必ず降伏するのかどうかを聞いていた。

 毎度毎度相手には断られて結局命を奪う流れになっていたのだが、ランはランなりに出来るだけ相手の命を奪わないように心がけていたのだろう。


 ランも自分も同じであったことを理解した南に、入間は彼女の左肩に自身の右手を置いて彼女の言い分を決して否定はしなかった。


「お前さんはお前さんの思うままにやれば良い」

「疾風……隊長……」

「それじゃあ弟と被るやろ。さっきまでと同じ、入間でええ」

「は、はい! 入間隊長!!」


 自分の名前を呼ばれてにっこりとした顔を浮かべた入間だったが、次に少し手の掴む力を強めて顔を真剣なものに変えた。


「ただしみなみ。そういうことを口で言うのは簡単。やけどこの宇宙には、どうあがいても相容れない奴だっていくらでもおる。

 それでもお前さんが自分の心の中にある維持を貫き通すと言うなら、それなり以上の覚悟がいることを忘れるなや!」


 入間のさっきまでの何処かふわいつたものとは違う威圧のかかった声に、南は肩の荷が詰め込まれたような思いを感じた。


 入間の言うとおり、南が心に抱いている事を現実にするのは並大抵なことではない。それでも彼女は怯みはせず、身体に力を入れて圧をかける入間に正面から向き合った。


「はい! 絶対に!!」


 南の肝の据わった姿勢に入間は少しの間体勢を変えずに目を合わせていたが、時間が経過しても変化しない彼女の態度を確認して肩に乗せていた手を離した。彼女の覚悟を見て納得したようだ。


 幸助は、自分が何処か恥ずかしくなった。彼には南のように正直に平和的な思いを持って悩むことも、ランのようにあらゆる可能性を考えて器用に事件を出来るだけ平和的に納めようと考えたりすることもなかった。


(俺は情けないな……いつも直情的に動いて、相手と平和的に解決しようなんて考えもしなかった。

 結局元々いた世界でやっていたことも、一方的な魔物の討伐でしかなかったんだろうな……)


 幸助は謙遜しがちな南のことを考えて敢えて口に出して言うことはしなかったが、それでも彼女の意見は彼に心にも大きく響き、考えさせられた。


 一行によってある程度の解決がした後、全員がフラクの空間から脱出した。フラクは逮捕し転送されたが、その他のことについては、次警隊についてあまり知らない幸助と南にとって気になっていた。


「入間隊長、犯人逮捕までは分かるけど、攫われた被害者達はこの後どうするんですか?」

「僕も気になってました」

「安心しろ。被害者達は身元を確認し座標が分かり次第元の場所に返す」


 それもそうだが、南が入間に聞きたいことはもう一つあった。


「あの! 犯人に従わされていたイエティ達はどうなったんですか!? その、彼等も多分、あの男に指示されただけで、悪気は……」

「やろうなぁ。質の悪い生物は上手いこと人を利用することもあるけど、今回はそうでないと見て良いから、保護処理が妥当やろう」

「安心しな南ちゃん! 君が心配するイエティ達は俺が全部丁寧に届けておくよ!! こういう生物の世話は、六番隊に預ければ良いから!!」


 いつの間にか現れ、突然と口を挟みつつ南の両手を包み込む大悟の尻軽な態度に、入間は少々苛ついて彼の頭に肘打ちをかける。

 南がしばかれている大悟の様子に微苦笑を浮かべている中、入間は話を続きをした。


「そういうことや。命を取る真似はせえへん」

「そうですか、よかった……」


 肩の荷が下りた南。逆に本人が知らないうちにしかめた顔になっていた幸助。入間の声かけに我に返った。


「お二人さん。勝手な事だけど、今ここで返事を聞かせて貰ってもいいかしら?」


 入間はそれぞれで全く違う態度を取る幸助と南を見比べながら顎を引くと、二人に空中散歩中に聞いて来た事柄をもう一度口にした。


「私達の組織、次警隊に入るか否か」


 入間から提案の答えを求められたことに身を引き締める二人。南は胸の奥で引っかかっていた悩みが解決したことの想いから。

 幸助は彼女とは逆に自分の欠点を理解し思うところがあるからこそ、最初にランを越える決意を改めて実現させるために。二人は偶然同じタイミングに重なって叫んだ。


「「入ります!!」」


 二人は全く同時に声が出たことに驚いてお互いの顔を見てしまう。入間はそんな二人のキョトンとした姿勢を見てまた笑い出した。


「カッカッカ! よろしい!!」


 後ろにいた大悟はここまでの流れを見て事件の処理を進めながら隣にいる零名と話していた。


「丸く収まったふうやけど、単に二人が上手いこと流されてないか? あれ」

「否定……隊長、内心の本音……出しただけ」

「そうか? まあ、生半可な考えで入れる程次警隊は甘くない。まずはこの先の試験で受かるかどうかかららな」


 後のことがどうなるかは別としても、二人はここで次警隊に入る決心がついたのだった


 ……のだが、病室に戻ってランに事を話したときに帰ってきた返事は


「却下だ」

「「えっ?」」

「お前達を、三番隊に入れる気はない」


 真っ向からの反対だった。


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