4-29 星間帝国軍 遊撃治外法権特殊部隊
吸血鬼の世界から場所は離れ、現代日本とも違う、人工的な光に照らされた明るい夜の町。
飲みに来ている人が多いのか周りの店が盛り上がりを見せる中、二人の女性がガヤの声には一切目もくれずに歩いていた。
そこに脇から酒の飲み過ぎか酔っ払った男が現われる。酔い覚ましの水と間違えて更に手に持った酒を飲んでしまう男は、人目視線を向けただけで女二人に釘付けになった。
一人は暗めの緑色のくせっ毛を左肩にカールにして下ろし、血の色の瞳に肌色の肌をした体。
赤いシャツに髪色と同じ色のスカートをはいたラフな格好をしつつ、細くしなやかな印象の体つきをした女。
もう一方は青い髪をボサボサにしつつも、それが気にならないほどに出るところは出て引き暇る所は引き締まった身体をし、へその空いた赤いノースリーブに紺色のジーパンをはいている黄色い瞳をした女性。
どちらもとても見られないよな美人だったがために男は顔をにやつかせ、酒に酔った勢いで彼女達に話しかける。
「ね、そこの君達」
「ん?」
「お兄さんと一緒に食事でも行かない? おごって上げるよぉ」
ヘラヘラとした態度が癪に障ったのか、青髪の女が冷たい声で断ってきた。
「おあいにく様。アタシ達これから先約があるの」
女のツンとした態度が鼻についた男は、不機嫌な顔をして彼女の腕を掴もうとする。
すると女は目にも止まらぬ動きで逆に男の腕を掴み、地面に押しつけて取り押さえた。
「イタタタタ! 何すんだコイツ!!」
「アタシ、セクハラは大嫌いなの。もっと強くなってから出直す事ね」
手を放し離れていく二人に、男はムカついてブーツの中に隠していた拳銃を取り出そうとする。
「お前ら! 俺を誰だと思っている!! 俺はこの帝国の溜めに働く兵士で……」
「馬鹿やめろ!」
名乗りの最中に止められた男。現われたもう一人の男は拳銃を抜きかけた男の動きを静止しつつ彼女達のことについて伝えた。
「あの女達は『ユウホウ』だ。近付いたらえらい目に遭うぞ」
「ゆうほう? 何だそりゃ?」
「お前知らないのか!? 良くそれで兵士やれてるな!!」
男は酔っ払いに彼女達が何者なのかを説明した。
「『星間帝国軍 遊撃治外法権特殊部隊』。本国直属に据えられた特別部隊だぞ!!」
「ナニィ!!? あんな華奢な女共が特殊部隊!?」
「それがそうなんだよ! しかも一人一人が下手な兵士の何十倍の強さがあるとかいう噂だ」
『星間帝国軍 遊撃治外法権特殊部隊』
星間帝国が皇帝の実子、コク ゴース リベリオルを筆頭に、五人の女性が集まった小隊。本国直下の命令にのみ従い、その課程における必要な行動であったのならば、そのための犯罪行為、代償は全て本国から容認されている特別待遇になっている。
コクが皇帝の息子という立場であることも重なり、実質的に彼等は何処で好きかってに暴れようとも、犯罪を犯そうとおとがめ無しになっている。
団員の規模は小さいながらも、強さは通常部隊の比ではない。
何より恐ろしいのは、団員の女性陣全員が改造手術を受けて成功した人間ベースの兵器獣となっており、大抵の兵器や巨大生物ですら、いとも簡単に撃退してしまう強さを持っていることだ。
しかしこれを率いるコクも、決して弱いわけではない。むしろ皇族の血筋としては異端なほどに、彼自身も戦闘のエキスパートとして名を上げている。
名実ともに隙のない、星間帝国きっての戦闘組織。それがユウホウなのだ。
解説を終えた男は酔っ払っている同僚に巻き込まれて下手な目に遭いたくないがために、彼を無理矢理引きずって場を離れた。
そんなことなど興味もない二人だが、青髪の女のさっきの行動に対して緑髪の女は指摘の言葉を入れていた。
「ハグラ、あんなのにいちいち突っかからないで。こっちが迷惑よ」
ハグラと呼ばれた青紙の女は不機嫌そうな顔で文句をこぼす。
「何よアブソバ、文句でもあるって言うの? アタシはああいう何の取り柄もないへなちょこな奴が大っ嫌いなの、知ってるでしょ!! 横から愚痴を言わないで」
「愚痴を言っているのは貴方の方でしょ。ウチは極力、面倒ごとには関わりたくないの。ワンワン吠えるのなら骨でも加えた方がいいんじゃない。犬のように」
「途中から完全に罵倒になってるわよ。この天然ドS」
口喧嘩がここから更に横行するかと思われた二人だったが、突然それぞれが持っている低めの円柱型をした掌サイズの通信機に着信が入った。
すぐにポケットから出して繋げると、コクの立体映像が映し出される。
「俺だ。悪いがすぐに戻って来てくれ。ブルーメが重傷だ」
「重傷? 何処かで事故ったの?」
仲間の一人が重傷を受けた事実を信じ切れなかった二人だが、連絡を受けてすぐに赤服のブレスレットを正面にかざす。
目の前の空間にヒビが入り、ガラスが割れるように砕け散って異空間が開き、二人は口論をやめて異空間の中に入っていった。
別の空間のヒビが割れ、豪邸の屋敷の中とも入れるような空間に出てきた。
部屋には吸血鬼の世界方帰還してきたコクと、重傷のまま倒れているブルーメの姿がある。
「アララ! 本当に重傷になっちゃってるじゃない!!」
「酷い怪我……何があったの? どんなドジをしたの? 貧相に道端に落ちてるものでも拾おうとして事故った?」
アブソバは心配の言葉を徐々に罵倒の言葉に変換させていきながらブルーメの元に近付き、彼女の身体に触れた手を光らせた。
するとあっという間にブルーメの苦しそうな表情が緩和され、怪我の傷も少しずつ回復していく。
「それで、誰にやられたの?」
アブソバと違って普通に聞くハグラに、ブルーメは眉にしわを寄せてマズいものを無理矢理口にしたような顔になって事情を話した。
「次警隊の隊長よ! あの白ローブのせいで……」
「まあ、そうカッカするなよブルーメ、この通り無事に帰ってこられたんだし」
「無事じゃないわよ!!」
軽いことを言い出すコクにブルーメのツッコミが飛び出す。ブルーメが腹を立てているのは、自分をこんな状態にした相手にコクが興味を持っていることもあった。
「何よコク、なんか楽しそうね」
コクの態度を見て彼の気持ちを察したハグラに、コクも素直に肯定する。
「ああ、その白ローブのの男が見ていて面白かったんだ」
「フ~ン……アンタが男を気に入るなんて珍しいわね」
普段からのコクを知っているハグラは、彼の珍しい行動に感心しているようだ。するとそこに、彼女達とは違う別の足音が聞こえ、コクに対する文句を口にしていた。
「それが重傷と迷子の言い訳って事?」
聞こえてきた声にコクが一瞬体を震わせた。現われたのは、コクと共にランが出会った女性、ノバァだ。
「ゲゲッ! ノバァ……」
ノバァは無表情な顔は眉一つ動かさないままに近付きつつ、吸血鬼の世界にてコクが突然戦闘中に現われるところまでの経緯を口にする。
「ゴンドラの生け捕りのために先陣を切ったブルーメに追い付こうと計画を立てていましたのに……
貴方は勝手に外に出た挙げ句、現場に遅れて標的は捕らえられず、挙げ句私をそのままに勝手に帰還していただなんて……」
コクがそっぽを向いて大量の冷や汗をかき出す。詰め寄るノバァの圧に押されて徐々に部屋の端にまで追い込まれるコクは、次に彼女が問いかけたことに素直に答えるしかなかった。
「とりあえず、何か私に言うことは?」
「ご、ごめんなさい……」
ノバァは怒声も出さず暴力も使わない。ただ独特な目付きで見てくるだけだ。
しかしあれだけ強いコクでさえ、彼女には確実に尻に敷かれているようだ。これではどちらがユウホウのリーダーなのかわかりゃしない。
ノバァはとりあえずの説教を終えたところで、部屋の出口の方に顔を向けてこの場にいない誰かの名前を叫んだ。
「リサート! 仕事は済んでいますか!?」
「は! はいっ! ノバァ姉さん」
名前を呼ばれたことで部屋の先の廊下から、この場で一番身長の低い幼さの残る少女が焦った様子で部屋の中に飛び込んできた。
やって来た少女、リサートはずれてしまったメガネの位置を調節しながら自分が付けているブレスレットの立体液晶を操作する。
「い、言われていたとおり……かき集められるだけ……かき集めといたよ。こ、これで、いいかな?」
表示された資料を差し出し、ノバァは出来る秘書のごとく流れるような視線の動きで一瞬にして資料を読み終える。
「よろしい。とりあえずまとまってますね。アブソバ、ハグラ」
「ん?」
「なぁに?」
突然呼び止められた二人は文句をつくこともなくそれぞれ顔を向けると、完全にコクを差し置いてリーダーのように支持を告げる。
「帰ってきて早々に悪いですが、貴方たちに頼みたい仕事が」
「エェ……さっき一つ片付けて帰ってきたばっかなのにぃ!?」
「全くブラックな。まあ仕方ないわね。勝手に怪我を負ってくれた誰かさんの分はカバーしておかないといけないし……」
またしても台詞回しの流れで罵倒の言葉を混ぜ込んできたアブソバに腹を立てたブルーメ。強がる姿勢で反論を飛ばす。
「ナッ! あ~しだってまだまだいけるわよ! こんな傷すぐにでも」
「やめておきなさいブルーメ。今回はお留守番です」
反論を述べている最中にノバァが話を切った。カッとなっていたブルーメも、ノバァの向ける視線を受けて表情こそ不機嫌なもののままながら、アングラの時と違って矛を収めはした。
ノバァは納得したブルーメからは視線を外し、最大の悩みであるコクに再び意識を向ける。
「と、いうことなので……今回こそはよろしくお願いしますよコク。くれぐれも! 勝手は行動は慎んで頂くように」
圧のこもった台詞でこれ以上迷惑をかけないように釘を刺してくるノバァの姿勢に、コクは両手を軽く上に上げて降参を意思を彼女に示した。
「ハッ……ハ~イ……すいません」
本当にどちらが部隊のリーダーなのかといった状況。ノバァの光る目線を受けながらコクは部屋の中心にまで移動すると、格好だけ威勢のいい態度を取ってそれっぽい台詞を吐く。
「そ、それじゃあ、まあ……皆々、それぞれ怪我することなく、自分の仕事をし~っかりこなしていきましょう! それでは!!」
コクは台詞を言い終わってすぐに走り出し、一目散に部屋から出て行った。これ以上のバァの説教を受けたくないのが見え見えだ。
「あ、逃げた」
「ダッサ……」
部屋を離れて一人になったコク。一息ついた彼は独り言を呟いた。
「ホント毎度怖いなぁ……ま、しばらくの間は機嫌を損ねないように気を付けよ」
再び歩き出すコク。頭の中には、吸血鬼の世界で出会った青年の姿が浮かんでいた。
「また会えるといいな~ あの風来坊」
今回で第四章は終了しました。誰かに連れて行かれたラン達一行はどうなってしまったのか?
次回からは新章! 今までお話より少し長めになる予定ですが、これから先に活躍する新キャラ達も登場させる予定ですので、楽しんでもらえると嬉しいです!!
よろしければ『ブックマーク』、『評価』をヨロシクお願いします。




