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ダンジョンの異変

 【プロケッラ風穴】攻略2日目。

 僕はギルムと対峙しつつ、焦っていた。


(なんで!? 直撃だったはず……!)


 《サンダーストライク》を当ててもギルムは倒れない。

 昨日は、瞬殺だったのに!


 そんな風に混乱していると


「ギギギギギッ!」


「っ!?」


 不意にギルムの体当たりを受けてしまう。


 ビューーーッ!


 ちょうどそんなタイミングで風穴からも突風が吹き上がり、僕は追撃のチャンスを完全に失ってしまった。


 一度態勢を立て直すために、ギルムから素早く距離を取ると、ビーナスのしずくに触れる。

 開いた水晶ディスプレイをかざして、《分析(アナライズ)》をタップ。


-----------------


[ギルム]

LP15

HP362/450

MP20/20

攻40

防40

魔攻30

魔防35

素早さ5

幸運5


-----------------


(HPがほとんど減ってない!? どうして……)


 仕方がないので、ホルスターからウルフダガーを引き抜くと、突風が止む瞬間を見計らって《ソードブレイク》を2発撃ち込み、なんとか討伐することに成功する。


 <アブソープション>で相手のLPを吸い上げてから、僕は自分のステータスを確認した。


-----------------


[ナード]

LP26

HP150/150

MP117/130

攻110(+15)

防110(+25)

魔攻110

魔防110

素早さ110

幸運110

ユニークスキル:

<アブソープション【スロットβ】>

<バフトリガー【ON】>

属性魔法:

《ファイヤーボウル》

《サンダーストライク》《プラズマオーディン》

無属性魔法:

《ヒール》《ヒールプラス》《瞬間移動(テレポート)

攻撃系スキル:<片手剣術>-《ソードブレイク》

補助系スキル:

《分析》《投紋(キャスティング)

《アルファウォール》《風のカーテン》

武器:ウルフダガー

防具:革の鎧、バックラー、シルバーグラブ

アイテム:

ポーション×23、ダブルポーション×2

マジックポーション×18、マジックポッド×1

水晶ジェム×38、鋭い牙×11

貴重品:ビーナスのしずく×1

所持金:9,300アロー

所属パーティー:叛逆の渡り鳥(バードオブリベリオン)

討伐数:

E級魔獣80体、E級大魔獣1体、C 級魔獣15体

状態:ランダム状態上昇<全魔法・被ダメージ半減>


-----------------


 すぐに、そこに表示された違和感に気付いた。


「<全魔法・被ダメージ半減>? 昨日と内容が変わってる……!」


 でも、そっか。

 <バフトリガー>のランダム状態上昇の内容は毎日変わるんだった。


 つまり、10倍ダメージの恩恵を受けられなくなったから、《サンダーストライク》でギルムを倒せなくなっちゃったってことかな。

 くぅぅ……。せっかく《プラズマオーディン》 を覚えたのに……。


 ちょっとだけ残念に思いつつも、<全魔法・被ダメージ半減>もなかなかぶっ飛んだ内容だってことに気付く。

 《風のカーテン》を上掛けすれば、ビーストクルーザーの風魔法も十分に防げるに違いない。


「けど、バフがない以上、《サンダーストライク》はほとんど役に立たないかも」


 雷魔法はグループ攻撃だから威力自体は低い。

 昨日は、グループ攻撃ってことが利点になっていたけど、ランダム状態上昇の恩恵がないなら、わざわざ威力の低い《サンダーストライク》を使うメリットはなかった。


「ギルムが単体で現れた時は、攻撃を避けながら《ソードブレイク》を3回繰り出して倒して、グループで現れた時は、《プラズマオーディン》 を2回詠唱して倒す……と。今のところこれが一番効率的かなぁ……」


 単純に、昨日よりもギルムを倒すハードルが上がってしまったけど、マザーヴァファローやビーストクルーザーを相手にするよりはまだマシだ。

 このダンジョンでLPを稼ぐなら、ギルム以外に最適な魔獣はいない。


 今後の方針を決めたところで、先へ進むことにした。




 ◇




 それから1時間近くかけてダンジョンを探索しつつ、この間にギルムを7体撃破することに成功する。


-----------------


〇結果


◆魔獣討伐数

・ギルム×7


◆ドロップアイテム

・ポーション×7

・ダブルポーション×1

・マジックポーション×5

・水晶ジェム×6

・鋭い牙×5

・銅貨×2

・青銅貨×18


-----------------


「〝アブソープション〟」


 両手をかざすと、倒れたギルムが光とともに手のひらへと吸い込まれていく。

 これでLP+105。


 正直、このペースでLPが増えると嬉しいんだけど、案の定というか、徐々に見かけるギルムの数が少なくなってきた。もっといっぱい討伐したいのに。


「……いや、ここは一旦冷静になろう。僕はべつにギルムを狩るためにここまで来たわけじゃない。このダンジョンをクリアするためにやって来たんだよね?」


 自分にそう言い聞かせると、熱くなっていた気持ちが落ちついてくる。


 ひとまず、マジックポーションを5つ使ってMPを全回復させると、気を引き締めてマザーヴァファローがいるエリアへと降りていく。




 ◇




「今日は、昨日と同じ手には引っかからないから……」


 1人で呟きつつ、慎重に周囲を見渡しながらゆっくりと歩く。

 突風が止むのを待って、耳を澄ませてみるも


(……おかしいな。なんでだろう?)


 しばらく進んでも、昨日のようにマザーヴァファローが壁に向かって激突を繰り返す物音が聞こえてこない。

 辺りはしーんと静まり返っていて、魔獣の気配をまったく感じられなかった。




 それからさらに30分近く歩き回っても結果は同じだった。


「なんかおかしいよ、絶対」


 これまでいろいろなダンジョンに入ってきたけど、30分歩いて魔獣と1体も遭遇しないなんてことは一度もなかった。


 考えられる可能性は……。


(狩りつくされた?)


 でも、僕は昨日このダンジョンに入ったばかりだ。それにマザーヴァファローは1体も討伐していない。


 どこか不思議な気分になりながら、さらに下のフロアへと降りてみることに。


 ――その時。


「?」


 風穴から吹き上がる音に混じって、何か物音が聞こえることに気付く。

 昨日のように激しい音じゃない。耳をよく澄ませないと、聞き逃してしまいそうなほどのか細い音だった。


「……声?」


 誰かが何かを叫んでいる? 


(いや、ちょっと待って。なんでここに人が……)


 少し戸惑いを覚えつつ、さらに耳を澄ませていると


(――ッ!? やっぱり人の声だ!)


 助けを求める切迫した声が、重なり合うようにして聞こえてくる。

 

 考えるのは後だ!

 僕は、助けを呼ぶ声がする方へ向かって、全速力で駆け出していた。

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