強力な雷魔法
ビューーーッ! ビューーーッ!
受付のお姉さんの話にあった通り、ダンジョンの中へ入った瞬間、ものすごい風が襲ってくる。
「うッ……」
けど、ある程度時間が経つと、風も徐々におさまってきた。
どうやら突風は吹き上がる周期があるみたいで、そのタイミングをやり過ごせば、普通に進行することができそうだ。
風穴を避けながら、草木の生えた通路を進んでいく。
内部は思ったよりも明るくて、【グラキエス氷窟】の時のように水晶ディスプレイを点けたままでいる必要もなさそう。
「……ん?」
そのまま歩いていると、突風に混じって何か覚えのある魔獣の声が聞こえてくる。
一度、風がピタリと止む瞬間まで待って耳を澄ませてみる。
(この声は……ギルム?)
ギルムはC級ダンジョンによく出現する鳴き声が特徴的な魔獣だ。
僕も何度かその姿を見たことがある。
大きな受け口を持つ四足歩行の魔獣で、体は黄色の毛皮で覆われていて、大きな青い目を持つ。
巨大な腕で攻撃を仕掛けてくるんだけど、図体が大きい分、動きが恐ろしく鈍かったりする。
(ギルムならまだマシかな)
もちろん強い敵ではあるんだけど、今の僕なら倒せない相手じゃない。
少しだけホッとしつつ、声の主がギルムであるかを確認するために、さらに先へ進んでみることに。
◇
「ギギギギギイギギ……」
風穴から十分に距離を取りつつ、柱の影に隠れて敵の姿を確認する。
(やっぱりギルムだ)
水晶ディスプレイを開くと、それをギルムにかざして《分析》をタップする。
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[ギルム]
LP15
HP450/450
MP20/20
攻40
防40
魔攻30
魔防35
素早さ5
幸運5
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ステータスだけを見れば、ビッグデスアントとそこまで変わらない。
当たり前のように、E級ダンジョンのボスレベルの魔獣がいるんだもんなぁ。
たしかに、C級ダンジョンで躓く冒険者が多いのも頷ける。
けど。
(この程度の敵は簡単に倒せる。こっちには<バフトリガー>があるんだ)
ホルスターからウルフダガーを引き抜くと、慎重にギルムへ近付いていく。
でも、その途中で風穴から突風が吹き上がってきて
ビューーーッ!
「……っ、どわぁ!?」
足元を風に煽られた僕は、体勢を崩してその場で尻もちをついてしまう。
「ギギギギギッ!」
「ヤバっ!?」
それでギルムは、僕の存在に気付いてしまった。
ギロリと青い目を光らせて、こちらへ向かって突進してくる。
が。
<バフトリガー>の恩恵を受けた僕に、鈍足のギルムが敵うはずもなく。
「っ!」
とっさに立ち上がると、ウルフダガーを構えつつ、相手の懐に飛び込む。
その流れですぐさま《ソードブレイク》を撃ち込んだ。
バシンッ!
「ギイイィッ!?」
まずは1ヒット!
続けてギルムの攻撃を避けつつ、さらにもう1発!
バシンッ!
「ギギ、ギギイィッ……!」
素早いこちらの攻撃にギルムは手も足も出ない。
なんとか反撃を試みてくるけど、僕の速さに全然追いつけない様子だ。
トドメにもう一度叩き込む。
「片手剣術初級技――《ソードブレイク》!」
ズオッビシュパンンンッッーーー!!
3ヒット目でギルムは閃光とともに真っ二つに引き裂かれ、声を上げる間もなく絶命した。
ひとまず1体目の討伐に成功だ。
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〇結果
◆魔獣討伐数
・ギルム×1
◆ドロップアイテム
・ポーション×2
・鋭い牙×1
・銅貨×1
・青銅貨×3
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「……けど、ちょっとこれ効率悪いかも」
ギルムがドロップしたアイテムを拾いながらふと思う。
1体倒すのに、もうMPを12も消費しちゃってるよ……。
《ソードブレイク》を繰り出すのに相手と間合いを取るから、ある程度動く必要があるし、この先これを続けるのは体力的にもけっこうしんどい。
「うん。やっぱり雷魔法を習得してしまおう」
突風が止むタイミングを見計らって、ギルムのLPを<アブソープション>で吸収し、LP+15。
水晶ディスプレイを開いて、雷魔法一覧から《サンダーストライク》をタップする。
『LP20を消費して《サンダーストライク》を習得します。よろしいですか(Y/N)?』
『(Y)』
『《サンダーストライク》を習得しました』
指での操作を終えると、ビーナスのしずくから一度手を離す。これで雷魔法を使うことができるようになった。
すると、ちょうどそのタイミングで。
「!」
通路の奥にギルムの集団が姿を現す。
全部で3体いるみたいだ。《サンダーストライク》を試すのにはちょうどいい機会かもしれない。
ビューーーッ! ビューーーッ!
風穴から突風が吹き上がる時は、ものすごい風音がフロアに吹き荒れるから、3体のギルムはそれに気を取られ、まだこちらの存在に気付いていなかった。
というか、そもそも視野が狭いのかもしれない。これまでギルムから先制攻撃を仕掛けてきたなんてことはなかったし。
魔法は遠距離でも放つことができるから、まさに追い風が味方しているような状況だ。
魔法ポーチから水晶ジェムをそっと取り出す。
「〝魔法発動〟」
そう唱えると、握り締めた水晶ジェムから光が溢れ、手の甲に小さな魔法陣が浮かび上がった。
あとは、突風が吹き止むタイミングを待つだけ。
右手をかざして、ギルムが3体攻撃の範囲に入るように狙いを絞っていく。
運がいいことに、目の前のギルムたちは揃って行動をしていた。
今ならいける……!
フロアの風が緩やかになった瞬間、僕は思い切って飛び出すと詠唱を始めた。
「〝一閃秘める殺戮の紫電よ 我の命に従い その流転する稲妻で慈悲なく敵を撃ち砕け――《サンダーストライク》〟」
バチッバチッバッチーーンッ!!
激しい渦雷が轟音とともに手から放たれると、そのままギルム3体に直撃する。
逃げる間も与えず、一瞬のうちにオーバーキルすることに成功した。
「やった! 上手くいったぞ!」
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〇結果
◆魔獣討伐数
・ギルム×3
◆ドロップアイテム
・ポーション×4
・マジックポーション×2
・水晶ジェム×2
・鋭い牙×2
・青銅貨×11
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ギルムがドロップしたアイテムを魔法ポーチに入れつつ、もちろんLPの吸収も忘れない。
「〝アブソープション〟」
両手を前にかざすと、ギルムの亡骸が発光し、手のひらへと吸い込まれていく。
「えっと、ギルムのLPは15だから……って、これ。かなり増えたんじゃ……」
すぐに水晶ディスプレイで自分のステータスを確認してみる。
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[ナード]
LP51
HP150/150
MP113/130
攻106(+15)
防106(+25)
魔攻106
魔防106
素早さ106
幸運110
ユニークスキル:
<アブソープション【スロットβ】>
<バフトリガー【ON】>
属性魔法:
《ファイヤーボウル》《サンダーストライク》
無属性魔法:《瞬間移動》
攻撃系スキル:<片手剣術>-《ソードブレイク》
補助系スキル:《分析》《投紋》
武器:ウルフダガー
防具:革の鎧、バックラー、シルバーグラブ
アイテム:
ポーション×8、マジックポーション×6
水晶ジェム×21、鋭い牙×3
貴重品:ビーナスのしずく×1
所持金:2,400アロー
所属パーティー:叛逆の渡り鳥
討伐数:
E級魔獣80体、E級大魔獣1体、C 級魔獣4体
状態:ランダム状態上昇<雷魔法10倍ダメージ>
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LP51!?
すごい……これまでの最高数値だ!
しかも、さっき《サンダーストライク》を習得するのにLP20を消費したばかりなのに。
「ちょっと<アブソープション>ぶっ壊れすぎだって……」
自分で使っておきながら、その性能には恐怖すら感じる。
「……けど、これならひょっとすると、今日中にC級ダンジョンクリアできちゃうかも」
【グラキエス氷窟】の時のように、攻略には何日かかかるって覚悟していたけど、このペースでLPが増え続けたら、魔法もスキルも覚え放題だ。
それに、<アブソープション>のほかにも、同じくらいエグい性能を持った<バフトリガー>を僕は所持している。
最初は、自分には関係のないスキルだって思っていたけど、とんでもない。
<バフトリガー>がなかったら、E級ダンジョンだってクリアできていなかったわけだし。
2つの神がかったユニークスキルのおかげで、ここまで強くなれているんだ。
「受付のお姉さんだって驚いてたもんね」
ダンジョンの通路を歩きつつ、今朝、冒険者ギルドに顔を出した時のことを回想する。
そもそもC級ダンジョンにソロで挑む冒険者っていうのは、高ステータスを授与された人に限られる。
一応、<バフトリガー>をOFFにした状態で受付に行ったけど、それでも僕のステータスが上がっていることに、受付のお姉さんは目を丸くしていた。
仕事柄、業務以外のことは口出しできないのか、特につっこまれなかったけど。
でも、めちゃくちゃ不思議そうにしていた。
(あと、念書を書かされるとは思わなかったな)
C級ダンジョンからは魔獣の強さが格段に上がるから、冒険者ギルド側は〝ソロで挑むってことは1人で死んでも自己責任だからその辺よろしく〟っていう感じで、ソロプレイヤーには念書を書かせているみたいだ。
もちろん、僕はこんなところで死ぬつもりはない。
今ここで自分が死んだら、ノエルの面倒は誰も見れなくなってしまう。
そう思うと、さらに強くならなきゃっていう気持ちが大きくなってくる。
「そうだよね。この先にはボス魔獣だっているんだし」
LP51ってことは、今なら《プラズマオーディン》を習得できる。
下層階に降りるに従って、魔獣もどんどん強くなっていくんだろうし。
10倍ダメージのバフがある以上、《プラズマオーディン》を覚えることは決して無駄じゃないはず。
一度その場で水晶ディスプレイを開くと、LP50を消費して《プラズマオーディン》を習得してしまう。
「……これで少しは安心できるかな。大抵の魔獣は倒せるようになったはず」
C級ダンジョンはE級ダンジョンに比べて広くて深いから、ボス魔獣のいるフロアまでまだまだ先は長い。
気を引き締めつつ、僕は下の階へと降りた。




