突然のお休み
いつも通りシンドリの工房に行った俺は、工房内の異様さに驚かされた。
昨日シンドリに対して、単純作業は自動化したらいいんじゃないか? と提案したが、ロボットを作るほとんどの工程が自動化されていた。
自動で動いているロボットたちのど真ん中で寝ているシンドリを起こして聞いてみると、俺が帰った後に徹夜をして自動化ロボットを作りまくったらしい。
「わしは眠いんじゃ。ロボットが勝手にやるからお前に任せる仕事もないしのう。明日から何をさせるから考えるから、今日は帰っていいぞ」
と言われたのでシンドリの工房から撤退する。といって、他のみんなが働いているのをよそに自分一人で休むことなんてできない。俺は、みんなの仕事を見て回ることにした。
まずは、ドワーフたちが共同で管理しているスクラップ場に向かった。ドワーフたちの製鉄ゴミなどが打ち捨てられている場所で、使えるものがないか探しているのだ。
ここにあるものは、誰でも何でも持ち帰っていい。むろん、ゴミだから捨ててあるので使えるものが早々に見つかる訳ではないけれど。
スクラップ上をしばらく歩くと、ガレキの山の上にスカジを見つけた。
「おーい、スカジー」
声をかけると、ビクっと驚いて俺に向き直る。顔が会うとびっくりしたような顔をした後に顔を綻ばせて俺にかけよってきた。
「どうしたの?」
「昨日、作業を自動でロボットにやらせるようにしたって話をしたろ?
今日行ってみたらさ、ほとんどの作業が自動化されてたんだよ。それで俺はお払い箱になったって訳。だから、みんなの仕事を手伝おうと思って」
「ロボット沢山できてるの?」
「うーん、どうだろ。あんまり詳しく見てきた訳じゃないから」
「明日からまたロボットと戦えるかな? 最近、ゴミ漁りばっかりで身体がなまってる気がするのよね」
「それもどうだろなぁ。結局、性能テスト用の戦闘ロボットに勝てないと俺たちが戦う機会は回ってこないしな」
それに俺たちのレベルが高すぎるせいか、ロボットはあまり強くなくて相手にならない。
「いつまでやらされるんだろうね」
確かに今のままだと終わりが見えないので、そろそろシンドリともその辺りの話を明確にしないといけない。
シンドリの所で働くことで、給料は貰っている。だから、宿屋代などの心配はしなくていいのだが、ここに留まり続ける訳にもいかない。
毎夜、フレイとの約束を守るためにフノスに手紙を書かせているが、「いつフノスは帰ってくるのか?」と何度も問われているのだ。同じ手紙の中で、平均3回くらいはその問いが書かれている。
ドワーフたちはその時の気分によって、言うことが変わるので、酒でも飲ませながら話をするのがいいだろう。
よくもまぁここまでゴミを出せるもんだ、と感心するほどの巨大なスクラップ場をスカジと一緒に探索する。
それにゴミとは言っても、まだ使えるモノが多い。ただ単に、ドワーフたちが飽きてここに放りだしただけものモノも多いようだ。
少しずつではあるが着実にロボットを作る材料が集まってくる。
集めた材料は、スクラップ場の端に置かせてもらっている。ロープで場所を区切って張り紙を貼って区別しているのだ。
いつもより1人分、労働力が多いのでその分多くの材料が集まった。俺とスカジは手頃なゴミの上に座って休憩することにした。
「これはこれで結構トレーニングになるんじゃない?」
俺はじっとりと浮かんだ額の汗をぬぐいながら言う。俺たちは金属片の類を集めているので、けっこう重量がある。見つけるのも一苦労だし、運ぶのも一苦労だ。ゴミに埋もれている場合が多いから、そこから引っ張りだすのも容易なことじゃない。
「筋肉トレーニングにはなるけど、あんまり気の修行にはならないもん。
金属に気を打っても壊れるだけだしね。……あ、いや、あれ以来はやってないよ!」
罰の悪そうにスカジが慌てて言う。ガレキ漁りの初日に、ガレキの山を崩すために波動掌を打って迷惑をかけたのだ。
余りの威力にガレキが吹き飛び、俺たちパーティーは難なくそれを避けたが、ここを案内してくれていたドワーフにぶつかって気絶させてしまっていた。 怒ったドワーフに出入り禁止にされそうになったところ、平謝りをして何とかゴミ漁りをさせてもらっている。
「ここが使えなくなったら困るのは俺たちなんだから、気をつけろよ」
「だ、大丈夫だって。あれからは使ってないから」
俺の顔を正面から見ようとしないスカジ。分かりやすいというか、なんというか……。明らかに嘘をついている。まぁ、管理者のドワーフにバレていないなら別にいいんだけど。
しばらくすると、シギュン、フノス、ヒルドの3人がやってきた。この3人は大抵セットで出現する。シギュンとフノスは遊び相手。その2人をヒルドが見守るという構成だ。
ここへはシギュンに定期的に来て、たまっているロボットの材料になりそうなものを火魔法で溶かしてもらっている。シンドリの工房でも材料を溶かすことはできるが、そこまでいちいち持って行くのが大変だし時間もかかる。
シギュンならこともなげに一瞬でやってくれるのだ。溶かした鉄などは容器に入れてためておく。
「今日はいっぱいだねー」
「役に立ててるようで嬉しいよ」
「それにしても毎日毎日よくこんなにも材料が集まるよね」
フノスが不思議そうに首を傾げて言った。
「みなさん仕事熱心ですからね。その分、ゴミも出るのでしょう」
ヒルドが答える。「そんなもんかな」とフノスは相槌を打った。
「次から次へと、飽きもせずに色々作るよね。作ったら、それで満足しちゃってここに捨てに来るんだから。何の為に作ってるのか、ボク分からないよ」
「作ること自体が楽しいのでしょう」
フノスはピンと来ていないようで、首を傾げた。俺も、ヒルド言っている言葉の意味は分かるが、理解はできない。
ここ数日、ロボット作りの手伝いをして、出来たロボットが性能テスト用のロボットに壊されるのを見て、心を痛めているくらいだからだ。
おまけに、その性能試験を通ったロボットは、俺やスカジと戦うことになる。自分で作ったロボットと戦うのは気乗りがしない。それも、戦闘データが取れたら取り壊して部品として再利用したりしているからなおさら気がめいる。
「ヒルドたちの方はどう? うまく行きそう?」
彼女たちは、シギュンの先ほどの仕事以外に明確な目的はない。単にゲストのフノスがやりたいことを一緒にさせているだけだ。ただ一応、名目として情報収集をしてもらっている。
ドワーフは気分屋なので、いつシンドリに約束を反故にされるとも限らない(と言って、ドワーフたちの中では約束を守る義理堅さを大切にしているらしい。だが、その基準が俺たち外の人間にはよく分からない)。
だから、他のドワーフたちと仲良くしておいて保険をかけようとしている。
「フノスさんがお話が凄くお上手で、うまく言っていますよ」
ヒルドの言葉にフノスが「えへへ」と照れる。人に好かれることに天性の才能があるんだろう。……母親と同じように、と言ったらフノスは嫌がるだろうが。
「ですが、みなさん口を揃えて『シンドリの仕事を奪う訳にはいかない』とおっしゃっていますね。シンドリさんが仕事を断らない限り、自分が請け負うことはない、とおっしゃっていました」
「そっかー。ちょっと厄介だな」
シンドリが約束を反故にした時の保険、くらいにしか使えないだろうか。
昼は宿泊している宿屋に戻って食事を取る。俺たちは早めに切り上げたので、テーブルについてもイズンはまだいなかった。いつもの時間より少し遅れてイズンが訪れる。「おなかすいたー」とシギュンはご立腹だ。
「あら、やっぱりもうこっちにいたんですね」
イズンは俺を見て言った。
「ああ、ちょっとね。シンドリはもう起き上ってた?」
「いえ、昼食を届けたんですが寝てました。アリカさんの事を聞いても『しらん』の一点張りで……。もしかして朝からずっとああなんですか?」
「徹夜で仕事してたらしくてね。今日は休業なんだ。俺も今日は他のみんなの仕事を手伝ってたんだよ」
「私以外の、ですか」イズンの声が低くなった。期限を損ねたらしい。
「午後からはイズンを手伝うつもりだよ」
「私は後回しなんですね」
「その代わり2人きりだよ」
今朝方はスカジとも2人きりだったが、その事実は伏せておく。
「なら許してあげます」
単純なもので、イズンはすぐに機嫌をよくした。
「シンドリは食事もとってないのか?」
「一応、作り置きはしておきましたから食べてもらえると思いますけど。
でも、凄く眠そうでした」
「徹夜って言ってたけど、俺が行く直前まで作業してたのかもしれないな。
作業場のど真ん中で寝てたし」
「そうなんですか? 私が行った時には、ベッド……の近くの床で寝てましたけど」
「眠すぎてベッドまで辿りつけなかったのかな……」
「一応、起こしてベッドの上に寝て貰うようにしましたけど」
徹夜するのも良いが、次の日がまるまる潰れるくらいなら、早く寝て次の日も働いた方が効率が良い気がするんだけどなぁ。
明日以降、体調でも崩してなければいいけど。まぁ、ドワーフたちは身体は頑丈だといつも威張っているので大丈夫だとは思うのだが。
午後は約束通りイズンと一緒に仕事をすることにした。といっても、イズンの仕事は買い出しやシンドリの身の回りの世話だ。掃除や炊事などをするのが仕事となっている。だから、わざわざ2人でやる必要が余りない。
シンドリの家は初めて見た時は恐ろしく汚かったが、何日もイズンが掃除をしているので、今では割とすっきりとした家になってきた。そろそろ手持ち無沙汰になりそうなので、作業場を掃除し始めても良い頃合いかもしれない。
そんな状況だから、手よりも口を動かす方が多かった。イズンも現状とこれからについては、色々と悩んでいるようだ。でも、2人で話合ってもあまり進展はなかった。
ドワーフたちの考え方は俺たちから見ると特殊なので、考え方を理解するのがいいのかもしれない。
あるいは、スキールニルからもらった手紙でもう一度脅しをかけてみるのもいいだろうか? どうも、シンドリはあの手紙の事を忘れている気がしてならない。
ドワーフは、モノを造るという事に関しては天才的だが、それ以外のことはまるで出来ない。仕事に熱中し過ぎて、他の物事なんてさっぱり覚えてないんじゃないか?




