これまでとこれから
「アリカにぃたちはなんで旅してるの?」
「俺は……なんでだろうな。他にやることがないからかな。
勇者として召喚された理由自体が、……まぁ、戦う為だし」
「魔王をやっつけるの?」
ちらりとシギュンを見たが、びくりと反応しただけで特に発言はしない。
ロキから魔王関連の話をしないようにとシギュンも口止めされている。
ただ、口は閉じているが俺の方を不安そうな瞳で見てくる。
「何か悪いことをしているなら、かな。
色々と旅をしながらこの世界のことを知ろうと思ってる。その上で、何かできることはないかな、と」
「へー、なんかいいね。そういうの。スカジねぇは?」
「あたしは旅したくて冒険者やってたし。それにアリカについていきたい」
「スカジねぇってすっごい一途だよね」
「えー、えへへ。そうかな」両頬に手を当てて照れるスカジ。
「私だって一途ですよ!」
「イズンさんは、なんか焦ってるっていうか……」
「焦りもしますよ。スカジさんがすぐ抜け駆けしようとするから」
「だから、そんな事なんてしてないって」
「したじゃないですか。異性に興味ないフリして、とんでもないことしでかすんですから」
わーわーといつものように喚き始める。
ごめん、また始まっちゃった。とフノスは謝った。別にフノスのせいじゃない。
俺のせいで2人ともよく喧嘩するのかな? と思ったが、そもそも冒険者の酒場の頃からそうらしい。
普段は凄く仲がよいのだが、どちらも頑固で譲れない一線があるとかないとか。
喧嘩するほど仲が良い、とでも思って無視するに限る。
「ヒルドさんはなんで旅してるの?」
「アリカが私を目覚めさせてくれたからですよ。私は私を起こしてくれた英雄と運命を共にする役目があるのです」
「運命?」
「ええ、私とアリカは運命の糸で繋がっているんです。定められているのですよ」
「情熱的なのか、盲目的なのか分からないね」
「どちらも同じですよ」にっこりとほほ笑むヒルド。
「シギュンちゃんは?」
「えー旅は面白いよー。アリカも好きー」
言いながらシギュンが俺の方にタックルしてくる。ぶつかる前に肩を抑えて、そのまま脇に手を差し込んで抱っこする。
「だよねー。面白いよね。
それにしても、アリカにぃってみんなに好かれてるんだね」
「まぁ、一緒のパーティーだしね」
「なんかアリカにぃって、すぐそうやって誤魔化そうとするよね。みんな大好きって言えば良いのに。
好きなんでしょ?」
「恥ずかしいんだよ……」
「アリカにぃがそんなだから、2人とも喧嘩してるんじゃないの?」
あごで言い争いをしている2人を指し示す。
「そんな簡単な問題かな? もっと酷いことになりそうだけど」
「全然違うよ。アリカにぃが、そんな恥ずかしがってるから不安なんじゃない?
誰を選ぶか、じゃなくてみんな選んで好きだって言ってあげればいいんだよ」
そうなんだろうか? 口喧嘩に集中して俺とフノスの話が聞こえていない2人を眺める。
いまいち実感がわかない。好きだって言ったら、「どっちが好きなんですか!!」とか聞かれそうだ。
そう言ってみると、「まぁそうかもね」とそっけなく返されてしまった。
「結局の所、女の子は愛するより愛されたいんだよ。もっと沢山構ってあげなくちゃ!」
「なんかやたら詳しいな」
「ママの受け売り」
いや、それは何か違うだろ……。俺の怪訝な顔を見て、フノスがニヤリと笑う。
「アリカにぃは優柔不断だから、ママくらい強引な方がいいんじゃない?」
「純情だからやめとくよ」
「4人もお嫁さんがいるのに?」
「元々知らなかったんだよね。血の誓いで嫁になるって」
「そうなの?」
「スカジとイズンの時は知らなくて。知った後でヒルドとは誓いした。シギュンもそう」
「じゃ本命はヒルドさんとシギュンさん?」
やべっ、恐る恐る振り返ると、口喧嘩していたはずの2人が俺を睨み付けている。
「なに、アリカ。もしかして、あたしとの結婚を後悔してるの?」
「知らなかったから私たちは本妻じゃない、とでも言うつもりですか?」
こういう時だけ結託するのはやめて欲しいんだよな……。
絶妙なコンビネーションで攻めてこないで欲しい。
「そんなことある訳ないだろ。
始めは知らなかったけど、ちゃんと受け入れてるよ」
「受け入れてるってなに」「なんか引っかかる言い方ですね」
「2人も……その、……ちゃんと、好きだよ」
「2人とも?」「ちゃんと?」
「2人も、ちゃんと」俺は言葉を繰り返す。
「ちゃんとなんなんですか?」
「……好き、だよ」
スカジはちょっと顔が赤くなるが、俺を見る目は厳しい。
イズンはまだ疑わしげな目で見てくる。
「きちんと言葉にしてくれたし、それでいいんじゃないの?」フノスが助け舟を出してくれた。
「ふん、まぁ今までよりは扱いがマシよね」
「これからも、ちゃんと言葉にしてくださいね」
まだ機嫌は悪そうだが、なんとか許してくれるらしい。
気を取り直しまして。
「フノスはどうするの? 今回の旅は小人族の街までって話になってるけど」
「1回既成事実作っちゃえば、後はなんとかなるでしょ」
そうか? フレイの言いざまだと、初めて会ったあの日のようにフノスに勝手に抜け出されると困る。
だから、今回だけはフノスの気のすむようにさせてやってガス抜きをする、という感じっぽいけど。
「もしかして、あたしたちに次の旅もくっついて来ようとしてるんじゃないでしょうね?」
スカジが目ざとく言葉を反芻して、じと目でフノスを睨みつける。
「えー、どうだろ。アリカにぃが良いなら付いていきたいけど」
「アリカさんに聞くのはやめてください。どうせ、『いいよ』とか軽く答えるでしょうから」
いいよ、答えようと口を開いたら、イズンに口を塞がれた。
「気軽に言わないでください。気苦労が絶えないんですから」
既に戦力になるレベル、かつ後衛として魔法弓のサポートができ、短剣での前衛もいける。
これだけの優良物件もそうそうないような気がするんだけどな。しかも、可愛い。とにかく可愛い。
親戚の幼女になつかれているような感覚なので、俺としては是非とも一緒に旅をしたい。
どこぞの人間とパーティーと組むよりは、少なくとも俺たちのパーティーと組んだ方が身も安全なはずだ。
たぶん。
自分の力を過信し過ぎてはいけないが、今までの旅での運の良さもあり戦闘には自信がついている。
「フノスはどんな風に考えてるんだ? これからのこと」
「うーん」
じと目のスカジとイズンを見ながら、考え込む。
「ボクにとって一番のベストは、アリカにぃたちのパーティーに加えて貰うことだね。
それだったら、フレイにぃとかスキにぃは安心して送りだしてくれると思うから」
「ダメ」「ダメです」
2人の言葉を無視して、フノスは続ける。
「次に良いのは、アリカにぃたちみたいな少数のパーティーを見つけて加えて貰うこと。
フレイにぃたちが認めてくれるような、ね。
それが駄目なら、一人旅だけど。これは今までやろうとして、毎回連れ戻されてるから無理そう。
スキにぃはこの一帯の情報ならすぐに把握しちゃうから逃げきれないんだよね」
「一人旅って、この間より以前からやってるのか」
「うん。何度も試してるよ。
ちょっとずつ逃げる時間も伸びてたけど、でも、もう限界が近いかな。
エルフの姿だと外界に出た時に危険だから、変身の杖がいるし、でも杖を取るとバレやすくなっちゃう」
それから、それから……と、フノスの逃走方法論を何パターンも聞いた。
だが、どれを試してもスキールニルから逃げおおせたことはないらしい。
いい加減、手詰まりでもう試せることがない、というタイミングで俺たちに出くわしたとのことだ。
といって、俺たちに出くわしたからこそ、あの日の逃走劇は失敗したようだけど。
「だから、ボク、アリカにぃたちのパーティーに加えて貰えるように、今回の旅はばっちり頑張っちゃうね」
フノスは最後に笑ってそう締めた。
「頼もしいですね」「わーい」とヒルドとシギュンは喜ぶ。
もちろん、スカジとイズンはダメダメと言うので、俺は宥める。
「強い仲間が多いに越したことはないよ。何によ、明日からの旅でフノスのことをちゃんと面倒みよう」




