竜車内でドタバタ
せかせかと切れ端を織り込んでポケットにしまいながら、バフォさんに向かって話しかけます。
「元々はバフォさんのもんなんやから、来てもらってとーぜんやろ? どっちかって言うと、ワイらが相乗りさせてもろてるんや。駄目なことなんかあらへんでー」
「まぁ! シマオちゃんったら!」
シマオの言葉を聞いたバフォさんが、両手を組んで顔の横に寄せ、目を輝かせています。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの! これはアタシも、サービスしてあげちゃおうか、し、ら?」
「そ、そーゆーのはおとんとやってくれんか? 後生! 後生やから……」
「恥ずかしがらなくても、い、い、の、よ~?」
さて、何やら新しい世界に引っ張られそうなシマオは置いておいて、私は私で自分の欲望についての情報を吟味しましょうか。
そっとシマオをバフォさんの方に押し出した後、私はしまい込んだ切れ端をもう一度確認しようとします。
兄貴達が見つけてくれたお店も良さそうですが、他にも何か……。
『マサト』
「マ~サト」
そう思っていた私の元に、オトハさんとウルさんがやってきました。
ビクッとした私は取り出そうとしていた切れ端を、ポケットに突っ込みます。
『なんか熱心にパンフレット見てたみたいだけど、どこか面白そうな所でもあった?』
「そもそもボクらはパンフレット持ってないしね~。良かったら見せてよ」
「いえ、あの……」
不味い。シマオの奴が観光パンフレットとか言った所為で、オトハさん達に興味を持たれてしまいました。
風俗街の情報が詰まったこの切れ端、彼女達に見られる訳にはいきません。何としても誤魔化さないと。
「え、えーっとですね、これはその、そんなに大したものじゃないと言いますか……」
『? でもさっきからいっぱい見てたんだよね?』
はい、その通りです。でも貴女がたに見せる訳にはいかないのです。
「大したものじゃないなら、ボクらに見せてくれてもい~じゃんか」
ですよねー。おっしゃる通りです。
「ああ、あの、です、ね……こ、これはちょっと……」
「野蛮人ッ! なんですのこれはッ!?」
私が口ごもっていると、突如としてマギーさんの怒声が響きました。全員で一斉に声のする方に目を向けます。一体どうしたと言うのでしょうか。
「このハレンチなお店がまとめられた紙は何ですか!? 貴方まさか、みんなの旅行中にこんなお店に行こうとしていたのではありませんことッ!?」
「い、いやー、これはその……な……」
「エドワル様。ママは悲しいでございます。そんなに肌色が恋しかったのであればいつでもママが……」
「イルマも何をしているのですかッ!?」
向こうで兄貴がしくじったのか、あの風俗情報がまとめられた切れ端がマギーさんにバレて問い詰められています。イルマさんも一緒なので、あれは逃げられないでしょう。
そしてその様子を見ていたオトハさんとウルさんが、何かを察したのか、二人で顔を見合わせて頷いた後に、揃って私の方を向いてきます。
あれ、嫌な予感が。
『……マサト。わたし達も疑ってる訳じゃないんだよ? でもさ、確認は大事だと思うんだ』
ゆっくりと、オトハさんが近づいてきます。
「……君がポケットに隠してるの、さ。まさか、ね。まさかだよ? エド君とおんなじ物なんじゃないかな~、って思ってさ……そんな訳、ないよね~?」
ウルさんも一緒になって近づいてきます。
そんな訳があるんですよ、これが。私は冷や汗をダラダラと流しながら、近づいてくるお二人を交互に見ていました。
『ちょっとそれ見せてくれるだけで良いから。なんでもないから』
「そんな訳なかったら出せるとね~……ね?」
「こ、これは……その……です……ね……」
『……ウルちゃん、取り押さえてッ!』
「合点承知ッ!」
一向に隠した切れ端を出さない私の態度にしびれを切らしたのか、オトハさんが魔導手話を上げました。それに合わせてウルさんが私に襲いかかってきます。
私は思わずその場から飛び退きました。ま、不味いです。こんな狭い竜車の中で、果たして逃げ切れるのか……。
『……あの態度は黒だと思うな』
「……うん。白状したね」
そしてそんな私を見たお二人が、何か確信を得たみたいです。やってしまったか?
いやそもそも、見せられない以上、これはどうにもならなかったのでは?
「この変態野蛮人ッ! 貴方という人はッ!!!」
「やめ、止めろってッ! 竜車内で木刀振り回すんじゃねーよッ! あぶなッ!?」
「さあ、エドワル様。ママは準備完了でございますです。いつでもママの子宮に帰って……」
「「何脱いでんだこの駄メイドォッ!!?」」
「シマオちゃん、こっちへ来なさいよ。男は男で、悪くないわよ~……」
「わ、ワイは、ワイはおなごが好きなんやー! か、堪忍! 堪忍してくれー!」
『"呪縛"。うん、よし。お母さんから教わっておいてよかった』
「さあて。手こずらせてくれたね、マサト。んじゃ早速ボクらに見せられないようなわる~いチラシを拝見させて……」
「後生ですからそれだけはーッ!!!」
ガッタンガッタン揺れている竜車ですが、全く問題なく進んでいきます。凄い運転技術です。御者さんってすげー。
「……こんな作戦になるとは……」
御者さんが何か呟いていたみたいですが、私には聞こえませんでした。
こうして、私たちの三泊四日の温泉旅行が始まりました。




