作り物のような夕空のした
澪架と遼介がどんなに互いを大切に思っているかを知り、それでもたった一日しか会えない。そんな二人に身分は違えど、大切な人にいつでも会える自分たちがかけられる言葉など到底なかった。
「遼介さん…澪架さん…。」
真央は小さく呟いてきゅっと拳を握った。
「ねぇ、由紀…。」
真央が小さな声で呟くと由紀は同意したように微笑んだ。そしてふっと頷いた。
「真央の思うようにすればいい。」
どうやら考えてることは同じだった様だ。
「今日は私たちは帰るわ。」
真央が唐突に言った。由紀はそんな真央を抱えるように後ろから抱きしめている。
「あと半日…二人でお過ごしなさいな。私たちはいつでも会えるもの。二人にも幸せに居て欲しい。では。」
真央と由紀はその言葉を合図に踵を返した。すぐに反応したのは澪架だった。
「真央!由紀!なんで…。」
でも澪架の言葉を真央は遮った。
「言ったでしょう?お二人に幸せをと…。私たちの事は気にせずに…。」
そういって二人は扉を開けた。自分達の世界に帰っていくのだ。二人の話によれば、彼女たちの時代は身分制度のある時代なのだという。しんな時代の姫である真央とただの護衛役である由紀。そんな二人の恋は認められることなどありはしない。どの時代も姫は親の決めた相手との結婚を義務就けられているからだ。
「だって二人は…。」
尚も心配そうに呟く澪架に、今度は由紀が振り返った。
「澪架さん。ご心配なさらずに…。失礼します。」
由紀は少し頭を下げた。
真央と由紀は幼馴染みで身分の違いからココでしか恋人で居られないのに…。
不気味な部屋には遼介と澪架二人が残された。
「澪架…大丈夫だよ。あぁ見えても真央は強い。身分なんて関係ないくらい…。」
真央は大国の一の姫君だ。それこそ世界を簡単に動かす事のできるほどの…。
そして由紀は真央の護衛役。
「うん。…そうだよね。」
それから二人はたわいも無い会話をした。この百年、どう過ごしたかやなにを思ったか。でもその間は決して離れることはなかった。でも別れはすぐにやってくる。
「遼介…。私は、本当にあなたが好きだわ。他の人なんか目にはいらないくらい。愛してるから…また百年後にあおうね。」
「あぁ。澪架…。」
そして目を閉じるとふとこの腕にあったはずの温もりが掻き消えた。理由は知っている。帰ってきたのだ。
再び目を開けると、大量の光の元に仰向けに倒れていた。
「また…帰ってきたのか。」
もう十回も経験した喪失感。でも決してなれることなどない。澪架の消えた腕にはまだ、温かい温もりが残っている。仰向けに寝転がる遼介に近づく足音が聞こえる。
「お兄ちゃん!お帰り。」
足音の主は遼介の姿を見つけると嬉しそうに微笑んだ。
「遼子…あぁ。ただいま。」
つられて遼介も微笑む。でもその頬からは一筋の涙が…。遼介は声も出さずに泣いた。座り込んだまま額に手を当ててまるで涙を隠すようにしている。妹の遼子も心配そうに遼介を見つめる。
「遼子は…ちゃんと好きな人と幸せになれよ。俺みたいに…なったら駄目だ。大切な人…と一緒にいられるのはとてもいいことだから。」
「お兄ちゃんさ、優しくなったよね。」
遼子は唐突に呟いた。遼介は大きく目を見開いてそして呟いた。
「それが人を好きなることで知った僕の生き方だよ。」
人間が…人間の温かさを知らない頃の僕はただの空き缶だった。でも、いまは違う。澪架と出会って恋をして、僕は人になった。人に…なれた。
「なんで…僕達は同じ時に生きられないんだろう。」
キレイな夕日の見える丘とか海とか、見せたいものだけはたくさんあるのに、澪架はここにいない。澪架と一緒に見れるのはあの神託からみえる作り物のような紫色の夕空だけだ。




