86それぞれの大切な者・物
<エシェット視点>
まったく人間も獣人も、いつの時代も欲に溺れる者達ばかりだ。どうしてこう、自分の欲の為に、争い事ばかり起こすのか。しかも関係のない魔獣や他の生き物達を、無理矢理契約までして、その欲求を満たそうとすると。
我々には到底考えられん。我々はお腹が空けば、相手を狩り腹を満たす。そして後は毎日をゆっくり過ごす。それが1番ではないか。まあ、たまに縄張り争いがあるが、それも一瞬の出来事。本当に信じられん。
ユーキの父親ウイリアムに呼ばれ、我とマシロ、妖精からはリュカが部屋に呼ばれた。そして今起こっている事を聞かされた。そして我々の事を、ここに居る男に話した事を聞いた。そして聞いてきた。
「マシロ達はどうする。戦力として入れない方がいいんだろう?」
「ああ、そうだ。人間と獣人の揉め事は、そっちで勝手に解決しろ。それはそっちの問題だ。」
なぜ関係ない我々が、手を貸さなくてはいけない。だいたいその盗賊とやらを、今まで野放しにしていた、此奴らにも責任はある。
「エシェット、マシロ達も、お前達の言っている事は、ちゃんと理解している。そして多分そう言ってくるだろうとも思っていた。しかし、1つだけお願いがあるんだ。」
お願い?お願いとは何だ。契約魔獣の相手でもしろと言うのか。生き物同士、どうにかしろとでも。だが、ウイリアムから出た言葉は、我の思うものとは違っていた。
「ユーキを必ず守ってくれ。それだけ約束してほしい。」
「ユーキを守る?何を当たり前のことを?我々はユーキの為に存在しているようなもの。まあ、妖精はちょっと違うかも知れんが、全ての害するものからユーキを守るに決まっている。この前のような事にはならん。マシロだけでなく、今は我もいるのだから。それがどうしたのだ?」
「いや何でもない。聞いておきたかっただけだ。その言葉を。そしてもし、我々が死ぬような事があれば、何処へでもいい。ユーキが幸せに暮らせるような場所を見つけて、そこで暮らしてほしい。」
何だ。そんなに大変な奴らと戦うのか?お前達が死ねば、ユーキが悲しみ泣き続けるぞと言ってやれば、そんなに簡単には死なぬから大丈夫だと言う。笑ってそう答えていたが、ウイリアムの目は、真剣そのものだった。
そうか、この者は覚悟を決めているのだな。そしてユーキの幸せを1番に考えている。街の住民、ユーキ以外の家族、仲間、全てが守る対象のはずだが、1番はユーキか。我々と同じだな。
我は少し考えた後、マシロ達と話し、1つだけ協力してやる事にした。
「もしその害する者達が攻めてきたら、ユーキから見える範囲の、魔獣や盗賊は我々が排除してやる。しかしそれだけだ。後は自分達で何とかするんだな。まあ、排除した時に、お前達が相手にしている奴らも一緒に、排除してしまうかも知れんがな。」
ウイリアム達は驚いた顔をしていた。それからすぐ、3人が我々に頭を下げてきた。まあ、この辺が妥当なところだろう。我々が力を貸すのはここまでだ。だが、それだけでも、ウイリアム達にとっては、良い話のはずだ。
ユーキの居る部屋へ戻り中へ入ると、ユーキの遊び部屋は、お菓子だらけになっていた。そしてとっても可愛い笑顔で、こちらへ駆け寄って来ると、おやつの時間が楽しみだとそれはそれは嬉しそうに言ってきた。頭を撫でてやり思う。
ユーキを死なせる事は絶対にない。あってはならない。そしてユーキが悲しむ顔を見る事もあってはならない。家族がもし居なくなってしまったら、ユーキのこの、太陽のように暖かい心が、無くなってしまうのではないか?
そんな事はさせない。絶対に守ってみせる。我はそう心に誓った。それは、マシロ達も同じのようで、真剣な目をしてユーキの事を見ていた。
さて、これからどうなるか…。
<ユーキ視点>
お菓子食べたかったけど、お兄ちゃん達にダメって言われたし、マシロ達もどっか行っちゃったし、食べるのはやっぱりおやつの時間まで我慢我慢。でも…。並べて見てるだけなら良いよね。お兄ちゃんにそう言ったら、お兄ちゃん笑った後に、食べないなら良いよって。
「ディル、シルフィー、おやつならべるでしゅよ!」
「よし!分かった!」
「僕、木の実並べる!」
皆んなでどんどん並べます。ザクスさん、お菓子も木の実もたくさんくれたから、全部並べなくても、お部屋の中はおやつでいっぱいになっちゃった。
「ふおおおおお、じぇんぶ、おやちゅでしゅ!しゅごいでしゅ!」
「いや、うん、これは凄いね。僕も初めて見たよ。部屋中おやつだらけって。」
お兄ちゃんもびっくりしてました。そしたらジョシュアお兄ちゃんがお部屋に入って来て、やっぱりびっくりしてたけど、僕達のおやつ取ろうとしたんだよ。ダメだよ、僕達が貰ったんだから。ちゃんと僕達にちょうだいしないとあげないもん。
僕達は急いで車に乗って、ジョシュアお兄ちゃんに突撃です。
「とちゅげきー!おやちゅまもるでしゅう!」
「「おおー!!」」
車で、お兄ちゃんの足に突撃です。お兄ちゃんはおっと、って言いながら僕達を避けます。もう1回向きを変えて、2回目の突撃です。
「ちゅぎいくでしゅよ!とちゅげきー!!」
僕達の突撃と一緒に、お菓子や木の実が、いろんな所に飛びます。3回目の突撃しようとしたら、お兄ちゃんが悪かったって。おやつ取らないから許してくれって。アンソニーお兄ちゃんが僕を抱っこして、
「ユーキ達の勝ち!」
そういって僕は片手を上げて、シルフィーもディルも片手を上げて、
「「「かち!!」」」
って、ポーズしました。よし、おやつはちゃんと守れたよ。僕達すごいでしょう!




