59お片付けは静かにね。
水がバシャッーって、勢い良く溢れました。その水が、近くでお片付けしてた、オリバーさんの靴に掛っちゃいました。
「びちゃびちゃ…。」
僕は、見たまんまを言いました。見ただけでも分かるくらい、オリバーさんの靴は濡れちゃってます。お掃除して、汚れたお水です。
それにオリバーさんが、せっかくお掃除した床も、水浸しです。ありゃりゃです。
お父さん達の動きが、止まりました。ピタッて。ノアさん達は、シルフィー達追いかけてた格好のまま止まってて、顔だけはオリバーさんの方、向いてました。
動いてるのは、シルフィーとディル達だけ。
「シルフィー、妖精達、止まりなさい。」
いつものオリバーさんの声なのに、何か違う気がする。その声に、シルフィー達もオリバーさんの方、振り返って止まりました。
それと一緒に、お部屋の中に、白いモヤモヤが出てきて、急に寒くなりました。寒くて体がガタガタしちゃうくらい、とっても寒いです。
「とうしゃ、しゃ、しゃむいでしゅ…。」
「あ、ああ、そうだな。よし、ユーキには私の洋服を着せてあげよう。」
お父さんが自分が着ていた、1番上のお洋服を、僕に着せてくれました。ちょっと暖かくなったけど、それでも、お部屋はどんどん寒くなります。
オリバーさんが僕に、これからオリバーさんが、ディル達にお話するから、何て言ってるか教えてくださいって。こくこく僕は頷きます。
「あなた達は今、私達が何をしているか、分かっていますか?」
僕はディル達の言ったこと、オリバーさんに伝えます。オリバーさんの言葉に、ディル達は、はいって。
「そうですか。では、私がここを綺麗にしたのも、ちゃんと分かってますね。」
「はいでしゅ。」
「今のこの状態を、どう思いますか?完璧に綺麗にした床が、水浸しです。そして私の靴も、びしょびしょに濡れてしまっています。これをどう思いますか?」
ディルとリュカが、ふらふらって飛んできました。そしてオリバーさんの周りを少し飛んだ後、オリバーさんの足元に座りました。正座です。プルプル震えてます。その事、オリバーさんに言ったら、なんで正座してるのか、ちゃんと言いなさいって。
「ごめんしゃいでしゅ。」
「何がですか?」
「おへや、よごしまちた。オリバーしゃんのくちゅ、びちゃびちゃでしゅ。ごめんしゃいでしゅ。」
よく分かってるじゃないですかって言った、オリバーさんの顔が、笑っているのに、とっても怖い感じです。
シルフィーも、ディル達見てたけど、オリバーさんに近付いて来て、ちょこんとお座りしました。それで、ごめんなさいしました。シルフィーもプルプルしてます。
「良いですか。片付けているのは、もともとあなた方が汚したせいです。あなた達に掃除ができるんですか?出来ないでしょう。それを私達が片付けているんです。それを何ですか。私が綺麗に掃除した所をまた汚して、挙句私の靴を、こんな状態にするような行動をとって。少しは反省しなさい。さも無ければ、私の全力であなた方に罰を与えますよ。」
オリバーさん怖い。そして、言葉の攻撃が止まりません。3人とも、プルプルしたまま、動かなくなっちゃった。何回も、ごめんなさいって言ってる。
僕も怖くなっちゃって、お父さんにしがみ付いちゃった。お父さんが、その辺でもう良いんじゃないかって言ったら、オリバーさん、今度はバッと振り返って、リアムさん達の方へ。
リアムさん達、いつの間にか、固まってた格好から、ピンッと、真っ直ぐ立ってました。そして今度はリアムさん達が、怒られ始めました。
リアムさんと、マシューさんには、いくら止めようとしたからって、周りをちゃんと確認しないのは、騎士としてどうなのか。確認は基本中の基本じゃないのか。あなたは確か前にも、私の洋服をダメにした事があったんじゃないか。もう1度、見習い騎士から始めた方が良いのでは?って。
ノアさんには、支援担当の騎士だとしても、戦闘だってしているでしょう。あなたも騎士の端くれなら、もう少ししっかりしなさい。精霊と言っても、まだそんなに力のない精霊ですよ。か弱い魔獣と一緒です。それなのに逃げられるなんて、改めて訓練が必要ですか?って。
やっとオリバーさんの、言葉攻撃が終わった時には、皆んなぐったりしちゃってた。顔色もなんか悪いよ。それに僕も、寒くてブルブルです。
「おい、もう止めとけ。ユーキの顔色が悪い。皆んなちゃんと分かった。そして私も謝る。すまなかった。」
「ああ、ユーキ君、大丈夫ですか?ですが分かりましたか?人の苦労を、無駄にする事、大事な物を汚くしたり、壊したりする事は、ダメな事です。良いですか。」
僕は頷いて、お父さんの胸に、顔をくっ付けました。
それからは皆んな、自分がしなくちゃいけない事を、素早く終わらせました。その間ずっと、オリバーさんが見張ってました。
お顔が綺麗になって、お掃除も終わって、そしたら綺麗になったマシロが帰って来ました。
「ん?何だどうした?ずいぶんと疲れているようだが。」
「「マシロ~!」」
ディルとリュカが、綺麗になってふさふさになった毛の中に、潜り込んじゃいました。シルフィーを抱っこしたエシェットが近付きます。
「気にするな。ちょっと皆んな掃除で疲れただけだ。」
マシロが不思議そうにしてました。
お洋服は今、洗えないから、お宿に戻ってから替えます。皆んなで馬に乗って、さあ、帰りましょう。
お父さんのお仕事見れて、お絵かきして楽しかったけど、とっても疲れちゃいました。オリバーさん、お靴汚しちゃってごめんね。
あっ、せっかくオリバーさんの絵描いたのに、渡してない。でも、貰ってくれるかな?心配になってきちゃった。
後ね、お父さんが教えてくれました。オリバーさんは、得意な魔法が何個かあって、その中に氷の魔法があるんだって。だからさっき、怒った時に、お部屋の中が、寒くなったんだね。オリバーさんの氷魔法は、皆んなを凍らせることも出来るんだって。すごい魔法だね。最後にお父さんが、こそっと。
「私達は皆、1度凍らされている。死なない程度に…。」
あれ?そう言えば、オリバーさんが怒ってるとき、エシェット何処にいたの?不思議に思って、お宿に着いてからエシェットに聞いたら、気配消して、壁の隅にいたって。…1人だけ、逃げてたよ。




