578最終準備(ビリダス視点)
「おい、ビリダスは何処だ!」
「はっ、ビリダス様はあちらに」
「まったく何をしておるのか」
俺が部下のスピードと、これからの事について話しをしていると、向こうからドカドカと煩い足音が聞こえてきた、その煩い足音の後ろからはもう1つ足音が。
あの煩い歩き方、そしてスピードの表情が、面倒だという物に変わったのを見て、やはりアイツかと思いなから振り向く。そこにはやはり、ワザとそういう歩き方をしているのか?と聞きたくなるような、ガニ股で変に大股で歩いて来るブレデイルの姿が。そしてその後ろには、エチゾロス様の姿が。
俺達はすぐに、エチゾロス様に頭を下げる。そう、エチゾロス様にだ。まぁ、こうしておけば奴は自分にも挨拶をしていると勘違いするからそれで良いだろう。
そして俺達の前に着いたブレデイルは、俺達がエチゾロス様に挨拶をする前に怒鳴りつけてきたのだが。お前は挨拶というものを知らないのか?
「おい、これは一体どう言う事だ!! まだ霧の精霊の精霊の石を奪えていないとは!!」
そうして俺の顔を、持っていた魔法の杖で殴ってきた。と、それを見たスピードが止めようとしてきたが、俺は奴に気づかれないようにスピードを止めると、そのまま頭を下げ続ける。面倒だが頭を下げておいた方が、コイツとのやり取りを早く終わらせる事ができるからな。俺より自分ができる人間だと、そう思わせておけば、コイツはその気になって、それで話が終わる事が多い。
「あれからどれだけ時間が経っていると思っている! ワシは早く石を奪えと言ったはずだ!!」
「申し訳ありません。邪魔が入りまして」
「邪魔が何だ! 全くお前と言う奴は。エチゾロス様、申し訳ございません。私の無能の部下が、エチゾロス様に新たな力をお借りしたと言うのに」
「…問題はない」
「次は私も石を奪いに、そして必ずや石を手に入れます」
「頼りにしているぞ」
「はっ、では私はこれからの事について、『私の部下』と話しを」
俺の方を睨んだ後ニヤっと笑い、ブレデイルは自分に、いつも金魚のフンのように付いている者達の方へ。本当に面倒な奴だ。
「それで、今の状況は?」
エチゾロス様が俺に聞いてきた。俺達は他の者達に聞かれないようにその場を少し離れると、結界を張り話しを始める。あの問題の子供とフェンリルが現れた事。いつものように子供が力を貸し、精霊はその力で精霊の石を守った事。そのせいで精霊の石の周りの結界と霧の力が、今までで1番強くなってしまった事。全てを話した。
「なるほど。確かにその子供、お前の言う通り、あの問題の子供で間違いないだろう。全く余計なことをしてくれる」
「1回相手をしただけでかなりの被害が、ですがその者達の回復も全て終わり、あとはもう1度石を奪いに行くだけです。奴ではありませんが、確かに時間がかかり過ぎてしまった」
「霧の精霊の予想外の抵抗に、予想外の子供か」
「それともう1つ気になる事が。この結界の外、あの子供といつも共にいる者達が、結界を破ろうとしています」
本来なら今、この結界はすぐに解くことはできない。俺達があの新しく作られた魔力石で張った、新しい結界だからな。傷をつけられても、奴等が入れるだけの隙間はできない。が、俺達も完全に使いこなせているわけではない。
それが証拠に、ここを縄張りとしている霧の精霊は、他の者達よりは力を使う事ができ、力を求めて結界から何とか出て行っていたからな。その間に石を奪おうとしたが、命懸けの奴の結界により奪う事が出来ず、ここまで時間がかかってしまった。
そして時間がかかったせいで、今度はあの子供が。そして外にはいつも子供と共にいるもの達が、結界を破ろうとしている所で。今まで不思議な力で、散々俺たち組織の邪魔をしてきた者達だ。今はまだ破られてはいないが、完璧ではない結界、もしその不思議な力を使われてしまえば。結界を破られ戦いになれば、いくら新しい武器があるとはいえ、全員がやられかねない。
「それで、石の方は奪えそうなのか?」
「どれだけ子供により回復されたから分かりませんが。作戦は考えてあります。まぁ、多少の犠牲は出るでしょうが」
そう言いながら俺はブレデイルの方を見る。エチゾロス様もそちらを見て、俺の考えている事が分かったようだ。奴も私の役に立てるのだから、文句はないだろうと。
次に私は子供の話しをする。せっかく向こうから現れたのだ。ついでに子供を奪えればと、考えている事をエチゾロス様に伝えると、予想外の言葉が返ってきた。
「今は放っておけ」
「それは何故でしょうか?」
「あの子供についてだが、先程、ここへ来る前のあの方々の話し合いで、少しの間あの子供には手を出さない事に決まったのだ。私も理由は分からないのだが、今全ての者に、この事について知らせを送っているところだ」
「何かあったのか…」
「あの方々がお決めになられた事だ。良いな、今回は奴等は無視しろ。それよりも石を手に入れる事だけに集中するのだ」
「了解しました」
「私は少し様子を見たら先に戻るが。良いか、子供には手を出すな」
俺達は元の場所に戻る。そこではブレデイルが大きな顔をして、色々指示を出している姿が。そして俺の姿を見るとニヤッと笑い。ここまで何もせずに、俺に全てをやらせていた人間が、手柄だけを持っていこうと。全く本当に馬鹿な男だ。これから自分がどうなるかも知らないで。




