35ユーキが居なくなって…(ウイリアム視点)
「すまない。迷惑かける。」
「気にするな。お前と俺の仲だ。それにオリビアも動いているんだろう。我々には我々の出来る事をしよう。必ずお前の息子を助けるぞ。」
「ああ、必ず!!」
「それ、その腰に付けてる剣のおもちゃ、息子のか?」
「…ああ。」
私は今、ラグナスの街へ来ていた。この街には私の友人で貴族のザクスが住んでいる。私は彼の力を借りに来ていた。…ユーキを助けるために。
あの日ユーキが消えた場所には、このおもちゃの剣だけが落ちていた。私はそれを震える手で拾い上げ握りしめる。ユーキのお気に入りの剣だ。
「団長、あの闇魔法は対象物を自分で確認できないと使えません。近くに居るはずです!」
一瞬止まっていた私は、オリバーの声と共にいっきに現実に引き戻された。ボケッとしている暇などない。すぐに動かなければ。私はオリバー達に指示を出す。
「探せ!近くに居る不審者は全員捕まえてこい!」
オリバー達が動き出す。
「あなた、ギルドへ行ってくるわ。少しでも情報集めてくるわね。それと、仲間にも捜索手伝って貰えるように頼んでくるわ。」
「頼む。ユーキが見つからなくても昼には1度戻れ。状況と情報をまとめ直す。バラバラに動きすぎるのも良くない。アメリアも連れて行け!」
オリビア達も動き出した。ギルドの方はオリビアに任せて良いだろう。私が冒険者ギルドに行ったところで、役には立たないからな。私は私の出来ることをしなければ。
「アシェル、あれは闇の魔力石を使った闇魔法でも、かなり強力な魔法だ。それにマシューの今朝の報告を合わせて、ユーキを攫った奴が1人で全てをやっていると思うか?」
「いいえ。そうは思いません。魔獣と人を拐い、それを監視し人殺しまでするのは、いくら力が強くても不可能かと。おそらく仲間が居るはずです。大体、連れ去った本人がここに居るならば、何処かへ拐われた側のユーキ様を監視する人間が必要です。この時点で最低でも3人は必要です。」
アシェルの言う通りだ。マシューの朝の報告から、私も一瞬闇ギルドのことを考えたが、ここまで力の使えた者が居たか?指名手配されている奴らの中には居なかった筈だ。そうなると、我々が知らないだけか、それか、闇ギルドとは違う新たな組織が新しく出来たか。
「アシェル、一応手配されてる闇ギルドのメンバーと、アジトがあると思われる場所の資料を集めてくれ。闇ギルドでなくとも、こういった事件を起こしそうな奴の資料も頼む。私は昼、指示を出した後、あいつの所へ行ってくる。」
「ザクス様の所ですね。」
「ああ、今の時点で1番信用ができ、騎士団を動かせるのはザクスしか居ないからな。」
「畏まりました。屋敷の人間を使い、全ての資料を集めます。」
こうしてアシェルの集めてくれた資料を持って、私はザクスの所へ来た。
彼は私の家と同等の力を持つ貴族だ。何故こんな小さい街にいるかと言えば、ただゆっくり過ごしたいと言う理由だけだ。要は楽がしたかっただけだ。
そんなザクスと私が出会ったのは、騎士学校だった。彼の自由でやる気のない性格と、それと一緒の性格の私が気が合わないはずがない。すぐ友達になった。
しかし、やる時はやる男だった。指揮した作戦は、全て完璧にこなし、部下を思いやる気持ちは人一倍強かった。そしてそんな彼を慕って、集まって来る者も多かった。
今、私が欲しいのは、人手と戦力だ。これから、今わかっているだけの闇ギルドのアジトを、一斉摘発に向かうのだ。少しでも何でもいい。ユーキに繋がる情報が欲しい。その為には彼と彼の部隊は最適だ。
だが…。探しているところが、全く違う所だったら。闇ギルドなど関係なく、新しい組織が生まれていて、そいつらが犯人だったら…。
「おい、お前がそんな悩んだ顔をしていてどうする。お前は1番上の人間だ。部下に示しがつかんだろう。それに今の段階での行動としては、これが1番の最善策だ。」
「ああ、分かっている。しかし。」
「何にでも自信を持つお前はどうした。そんな事じゃ、助けられる物も助けられないぞ。今騎士を集めている。準備が出来たらすぐ出発だ。それまでにいつものお前に戻っておけよ。分かったか?それに、そんな弱気な親父、息子に見せられんぞ。」
「…ああ、そうだな。あいつの為にも、しっかりしなくてはな。」
そうだ。ユーキの為にも、弱気になってなんかいられない。それに今不安なのは私ではない。今頃泣いているかもしれない。必ず見つけ出し、抱きしめる!そしてあの可愛い笑顔を見るんだ。
「その顔は、もう復活したみたいだな。」
ザクスには本当に助けられる。こいつと友達で良かった。
騎士団の準備が整い、いよいよ各目的地へと移動を開始する。
私はカージナルから3日ほど離れた大きな街、レシックと言う街へと向かう。運が良いのかその街に、闇ギルドで1番大きいとされるアジトがあるらしい。急いで街へ向かえば、2日で着くはずだ。
拐われたユーキが無事で居られるかは、時間との勝負だ。マシロ達がいるから、そう簡単には殺されないだろう。しかも鑑定石で能力を見ていれば、ユーキに魔力があると分かっている筈だ。こんな事をする奴らだ。せっかくの力をそうそう手放したりはしないだろう。殺されない、そう思いたいだけなのか。しかしアイツのやらかしは、私達の想像をいつも超える。そのやらかしに期待しながら、私達は街へと馬を進めた。




