229ザクスを助けに(ウイリアム視点)
(ウイリアム視点)
これなら間に合うかと思っていたオリビア達が調査に出た3日目の夜遅く、ユーキが怖い夢を見て起きてしまった。
この前の城での事件以来、前にも増して夜泣きが酷くなっていた。時々偽物が夢に出てきてユーキを拐って行こうとする夢を見てしまい、飛び起きては私達が偽物ではないと確認が取れるまで泣き続ける。私達が本物だと分かっても落ち着くまで時間がかかってしまうのだ。
そしてユーキを抱っこしてあやすのだが、
「かあしゃん、かあしゃん。ヒック、えぐっ。」
どうもこういう時オリビアの方が落ち着くらしい。私と何が違うのか分からないが、これは母親だからという理由もあるのかもしれない。なんだかんだとオリビアはあやすのが上手いからな。
そしてやっと寝たと思ったら、太陽が昇ってすぐまたユーキが起きてしまった。本人はバッチリ目を覚ましオリビアを出迎えると私に着替えさせさっさと玄関に行ってしまった。目を擦りあくびをしながらユーキの後を追う。
アンソニー達が昨日の夜泣きを知っていたのか来てくれてユーキの面倒を見ていてくれると言うのでもう1度寝に戻ったが、寝てすぐ今度はオリビアが帰ってきたとアシェルが呼びにきた。………報告で何もないようなら今日は昼寝をしたい。
朝食まで時間があったため、休憩室でオリビアからの報告を聞く。今回はカージナルの近くでは魔獣の大移動は無いようだ。
毎年この季節には魔獣の大移動が各地で見られる。大小様々だがかなりの魔獣が集まっての大移動もあれば本当に小さな群れの移動もある。ただ移動するだけなら問題は無いのだが、必ず暴れまわるからタチが悪い。理由は分かっていないが暴れながら移動するため森や林は破壊され、下手をすれば街にまでやってきて破壊しながら移動していく。
街に被害が出ないように、この季節は殆どの街が魔獣の大移動に対応するために調査隊などを組み、魔獣の集まりがないか確認をする。オリビア達は冒険者ギルドの調査隊と共に魔獣の調査に出ていたのだが。
オリビアの全く問題ないという報告に胸を撫で下ろす。せっかくザクスのおかげでここまで街が復活することが出来たのに、また魔獣達に破壊されたらたまらない。まあ城壁もあるし我々が魔獣を退ければ良い話だが、何もないに越したことは無い。
「かあしゃんまじゅうこない?」
「大丈夫よ。近くの森には全然…。」
オリビアが話しているときだった。アシェルが部屋に入って来るとすぐ私のところに来る。何かあったか?
「ザクス様が使者を。緊急との事です。魔獣の大移動に関係があると。」
「分かったすぐに行く。部屋に通してくれ。」
すぐに着替えに戻りそして仕事部屋へと移動した。ザクスが使者を送って来るなど初めてではないか? それだけ緊急という事だろうが、魔獣の大移動に関係することとなると、ザクスの治めるラグナスの街が魔獣の大移動にぶつかったか?
部屋に入ってすぐアシェルが使者を連れてきた。そしてザクスからの手紙を受け取り、その手紙を開けながら簡単に話を聞く。
「クイントン様の治めている街ポートリーナが、魔獣の通り道になりそうなのです。」
「それは確実なのか。」
「はい。これは確定だと。通り道になったことに関してはクイントン様も、その場に居られたコンラッド様ザクス様も仕方ないと。ですが規模が問題なのです。通常の規模ではなく今までにない程の規模で。」
「何だ? 倍くらいに膨れ上がっているのか?」
「いいえ。通常の5倍の規模なのです。」
「何だって!!」
5倍という言葉を聞き、アシェルも驚きの表情をしている。私は慌てて手紙を読み始めた。手紙にしては短いものだが。
『こんなことを頼むのは間違っているのは分かっている。これは自然の脅威。俺達が勝手に森を切り開きそこに街を作り住んでいるのだから、魔獣達の大移動で通り道になり破壊されるのもしかたがないこと。受け入れる準備はできているつもりだ。
だがいつもなら少し直せば良いだけで終わるが、今回はそうもいかない。クイントン兄貴の街がなくなろうとしている。街も人も。
どうか頼む。手を貸して欲しい。街の人々を守るために街を守るために。お前の息子の力を借りたい。』
簡単にはこんな感じだ。
息子…。ユーキのことで間違いないな。そうだろう。5倍なんて量の魔獣を止められるとしたらエシェット達ぐらいなものだ。
私としては力を貸したい。今までずっと私達の力になってくれたザクスだ。これで手を貸さなければ私はなんて非道な人間なのか。しかし…。マシロやエシェット達がこの話を聞き手を貸してくれるかが問題だ。基本ユーキの危機にしか動かないマシロ達が、ザクスのため他人のために動くとは考えにくい。だが説得するしかないことも分かっている。
私は使者を休ませるため部屋を用意させ退室させると、オリビアにハロルドそれからマシロにエシェットを呼んできてもらう。オリビア達は私の様子から大体のことを察したらしい。さあ、これからマシロ達に話をしなければ。
私は簡潔に要点だけを話した。余計な細かい話しをしても仕方ないからな。マシロとエシェットの答えは大体決まっている。
「我らには関係ない。」
「我がなんで人間のために。ユーキの家族ならともかく、お前の知り合いまで助ける義理はない。」
やっぱりだ。まぁそうだろうな。だが引き下がるわけにはいかない。なんとか説得しなければ。あまり使いたくない手、しかもこれで了承するとも思えないが、
「お菓子を箱に6個でどうだ?」
「はぁ、あなたそんな交渉してどうするの? もう、あなた人間相手に上手く交渉するのに魔獣とかにはダメなのね。」
仕方ないだろう。まさかこんな交渉する日が来るなんて誰が思うんだ。ユーキが居なければこんな経験はしていないはずだからな。
オリビアは私からザクスの手紙を受け取るとサッとそれを読み、マシロ達との交渉が下手な私に代わりに2人と話しを始めた。
「もしユーキちゃんがあなた達にお願いと言ったら手伝ってくれるの?」
「それが本当に主の願いならばな。お主たちが主に言わせるのではなく、心から主が願うのなら我らはその願いを叶えよう。」
「我はあまり気が乗らないが、ユーキがそう願うなら仕方ない。が、やはりそれだけではな。別にユーキにこの話をしなければ良いことだからな。そうすれば我らは面倒を押し付けられることもない。」
「あら、何にもないみたいな言い方ね。もしユーキちゃんがユーキちゃんのお願いを叶えてくれる、カッコいいマシロやエシェット達を見たらきっとたくさんなでなでしてくれるわよ。ずっとカッコいい凄いって言いながらね。」
オリビアの言葉に2人の動きが止まった。そしてそれぞれが何かを考え始めた。
この後必ずユーキ自ら願うなら手を貸すと2人の了承を得るのだが。2人はちゃっかりお菓子も条件に入れてきたのだった。
「いいか。我らは最低限しか手を貸さない。あとはお主達がどうにかしろ。さあ主の所に戻るぞエシェット。」
と、念押しして先にユーキの元へ戻る2人。それを見届けオリビアが、2人は案外単純なことで動くのよと言っていた。今回はユーキのなでなでが決め手だったようだ。そんなことで? と思ったが、最近ユーキは新しく契約したホプリンを多めになでなでしていた。虐められて可愛そうだったからという理由らしいが、その分他のメンバーのなでなでの時間が少なくなっていたからな。その影響もあるかもしれない。
さぁ次はユーキに話す番だ。
(ユーキ視点)
「ふおお! ザクシュしゃんのにいしゃん、たいへんでしゅか?!」
カージナルには魔獣来なかったけど、ザクスさんのお兄ちゃんの街にはいっぱいの魔獣が来ちゃうかも知れなくて、今ザクスさんとっても困ってるみたいです。えっとカージナルの街が3つくらい埋まっちゃうくらいいっぱいです。
「たいへんでしゅう! まちこわれちゃうでしゅ。」
「ああ。それでなユーキ、お父さんザクスのお兄さんを助けに行くんだ。」
「ぼくも!! ぼくもいく!!」
僕も一緒にザクスさんのお兄ちゃん助けに行く。街が壊れちゃうのダメダメです。街に住んでる人がお怪我するのも。そうだ! 僕はマシロ達の前に立ちました。マシロ達に助けに行くって言わなくちゃ。だってマシロ達とっても強いから、暴れちゃってる魔獣捕まえてどっかに投げてくれるよね。ホプリン見たことないしちょうどいいよ。
「マシロ! みんなでたしゅけにいくでしゅよ!」
「…分かった行こう。(やはりか。まあ、なでなでのためだ。)」
僕ちょっとだけあれ?です。いつもエシェットとかいろいろ言うのに、今日は何も言わないの? でもマシロ達が行こうって言ってくれたからザクスさん達助けに行けます。僕がフンっ!!って力入れたらリュカ達もみんなでフンっ!!って。
僕達見てお父さんがお約束してきました。絶対にお父さんやお母さんマシロ達誰かと居ること。勝手に1人でどこかに行かないこと。他にもいっぱいお約束です。う~ん。最初のお約束なんだっけ?
よし! 行く準備しなきゃ。僕は急いで自分のお部屋と遊びのお部屋に行きます。くろにゃんに荷物持って行ってもらおう。僕はいろいろくろにゃんに荷物持ってもらいます。絵本とおもちゃとそれからぬいぐるみは僕が自分で持っていって。だって魔獣やっつけたら、ザクスさんのお家にお泊まりするかも?です。あとあと魔力石も持って行きます。僕の水の魔法ザクスさんに見せるの。
今準備してるのはお泊まりする準備です。魔獣達倒したらきっとお父さんとザクスさんお話いっぱいするはず。だって前もいっぱいお話していっぱいお酒飲んで、ザクスさんたくさんお泊りしたもん。お父さんもきっとたくさんお泊まりするはずです。だからお泊まりしたときに遊ぶ準備。
「何か遊びに行くみたいな準備だな。」
「間違いなく遊びに行く準備だね。まあ良いんじゃない? これくらいいつも通りの方が僕達だって気が楽だし。」
僕が準備してる後ろで、先に準備が終わったお兄ちゃん達が何かお話してました。




