55 ゴブリン
濃い緑のドブ川のような肌色、木の枝のようなひょろっこい手足、耳と鼻は高く、分かりやすい三角の形、目は常にやらしい目つきをしている。ボロボロに汚れたふんどしのようなもの一丁の姿。
これがこの世界のゴブリンの基本的な姿だそうだ。
「……にしてもゴブリンはやっぱ、臭いな」
鼻をつまみながら鼻声で話す。すっぱい、鼻にツンとする匂い。誤って気持ち吸ってしまうとむせるほどである。
だが、こんな匂いにもかかわらず、リュッカは魔石を取り出していく。
「まあ、ゴブリンは体臭とか気にしないですからね」
「その不潔なゴブリンから魔石を回収できるお前もどうかと思うけどな」
助けられたのにもかかわらず、達者な口を利くラッセ。その発言を聞いて、思いっきり足を踏んだ。
「いでぇっ!!」
「本来なら戦闘で役立たずのお二人さんがやる仕事をリュッカがやってるんだよ。感謝しなっ!!」
ラッセの踏んだ足をさらにグリグリと攻め立てる。
「悪かった! 悪かったからやめろ!」
「ふん!」
「……ラッセ、お前はもう黙ってろ」
友達がバカにされるのは、やはり気持ち良くはない。ましてやこんなクズに言われるのは我慢ならない。
「でもさリュッカ? ゴブリンの魔石なんて要らないんじゃない? お金にもならないでしょ?」
魔石は魔物によって大きさや質、属性が変わる。ゴブリンは元々弱い魔物だ。上位種であればまだしも、このくらいのゴブリンならまともな魔石は取れない。側から見れば小石同然である。
「お金にならなくても、道具屋さんとかでポーションとかにもなるからね。一応」
魔石の使う用途は様々であるらしい。道具屋でするってことは錬成とかかな?
「それにしてもさ……ゴブリンの数多くない? バトソンさん、どうなの?」
「そうだね……この付近にしては多い方かもしれないねぇ」
この森を通り慣れているバトソンすら疑問を抱くほどのゴブリンの数。先程からゴブリンとしか戦っていない。
「繁殖期じゃないよね? 確か……」
「どうだろう? ゴブリンは常に繁殖しようと考えるから……」
今の状況を分析しているところにまた、面白半分に茶々を入れようとする。
「オメェら、メスどもに――」
ゴスっと腹に蹴りを入れる。しかもアソルとほぼ同時。
「お前は黙ってろ……」
「は……はい」
すっかりしゅんと丸くなったラッセを置き去りに話を進める。何せ変なことが起きているなら、用心しなければならない。
「こいつが言おうとしたのって……」
「ああ。ゴブリンは女であれば、どんな種でも交配を行うからね。繁殖力が早いんだよ」
――話によれば、ゴブリンはどこにでも生息、繁殖できる。生まれるのもほとんどオスだそう。メスが生まれてもすぐに苗床になるようだ。そして、女の匂いにはとても敏感で簡単に察知出来るらしい。
女性が一匹でも見かけたら、討伐依頼を出すとのことだが、納得できる理由である。襲われでもしたら、それこそ人生終了である。
つまり、ここには俺を含め、女性が三人もいる。それで引き寄せられたのではと推理する。
「そんな事言い出したら、女は外歩けないってことになるけど、そんなに鼻が効くの?」
「ある程度離れてても察知は出来るらしいけど、獣型よりは効かないはずだよ」
「だったら、私達は関係ないよね?」
結論として、私達の匂い等ではないと判断。
「森の出口まではもう少しだ。森さえ抜ければ、魔物の心配もない」
バトソンに詮索はそこまでにして、森を抜ける事を優先しようと促される。ここで時間を食って考えるより、安全な場所まで移動した方が確かに利口だ。
ゴブリンの魔石を回収し終えると、出発しようとした時――。
カサっと茂みが小さく音を立てて揺れる。思わず構える一同。だが、何も出てこない。
「な、何だよ……」
ラッセはほっとした表情を見せた。だが、気のせいだろうか、さっきから草花や木々がやたらと揺れている。
「……様子がおかしいよ」
すると、道の無い茂みのあたりから聞き覚えのある、不気味な鳴き声がする……ゴブリンだ。
「ギァギァ!!」
無数のゴブリンが何やら逃げている様子。後ろを気にしながら走っているのが遠くからもわかる。
「ゴブリンがくるよ!」
向かってくるので戦闘態勢はとるものの、戦闘の意思があるようには見えない。一心不乱に走り逃げている。すると――。
ヒュゴォーっと風がゴブリン達に向かって吹いた。
「ギァギ――」
その風で無残にも身体をバラバラにされたゴブリン。その近くの草花は鮮血に染められる。さっきの茂みの揺れはこれかと判断。風によって揺れていたようだが、ゴブリンよりヤバそうなのがいるってことになる。
皆、緊張した面持ちでその場で構える。
「ゴブ、ゴブ、ゴブリン、ゴブリンは〜♩」
緊張感が簡単に逸れるほどの不協和音が流れる。思わずこけてしまった。
「ぜ〜んぶ、ぜ〜んぶ皆殺し〜♩」
この不協和音はゴブリンがやられたさらに向こうから聞き取れる。
「魔石もぶちぶち引きちぎれ〜♩」
しかし、音もはずれ、実に下手くそな歌だ。歌詞も酷い。安定したメロディもなく、強弱もバラバラだ。
その酷い有り様の方へ少し近づきみてみると、楽しそうな表情でゴブリンの死体を漁る少年の姿があった。




