52 突然のお別れ
「え? ここまでってどういう事?」
ザーディアスは申し訳なさそうに頭をかいて話す。
「まあその……なんだ。依頼主からな、さっさと魔石を持ってこい! 待ちくたびれたぞ、今すぐ持ってこい! ……だそうだ」
ひょうきんに話して見せる。そこで疑問に感じたことがある。このおっさんのコロコロ変わる態度からあることが頭をよぎった。
「……おっさん、サボったろ」
ギクッと反応、ピタッと停止。図星のようだ……ロボットみたいな動きになっている。
「ごめ〜んちゃい☆」
明るくふざけた謝罪をして開き直った。ぺろっと舌まで出して随分な開き直りだ。
「ほほう……」
その態度に怒りがふつふつと沸いてくる。その感情を表現するように杖を取り出す。そんな俺をアソルは両腕で脇から腕を通し、肩を持って止める。
「待って待って! リリアさん抑えて! 何か事情があったんだよ」
「そうだぞ〜。まだ大丈夫とか、行くのめんどいなとか、あっ、明日行こうとか決して思ってないから」
キリッと真顔で答えた。それを見て、ぶちっと堪忍袋の尾が切れた音がした。
「絶対思ってただろうがぁ!! 真顔で言うんじゃねぇ!! ムカつくわっ!!」
ジタバタと暴れる俺に止めるアソルを見て、事の発端さんは大笑いしている。
「あの……では、あのゴーレムはこちらへの攻撃意識はないと判断してもよいと……」
困った顔をして本題に戻そうとするイケメン隊長。
「ん? ああ。あの魔術式もあくまで邪魔されないように施した防御式と伝言だけだったからな」
「でも、拳を振り上げてるけど? あれは?」
ゴーレムを指差し、尋ねる。ゴーレムはあれから時間が止まったかのようにピクリとも動かない。
「それはおじさんがもう一晩だけ、な? って言ったら、おじさんを潰そうとしてさ。全く、主人に忠実ってのも考えもんだぜ」
「サボり癖のおじさんはあれぐらいのげんこつの方が効くんじゃない?」
「たかが一年くらいで?」
「いや! サボり過ぎ!!」
そりゃあ依頼主も痺れを切らして、あんなの寄越すよ。Sランクの信用どこいった。
「それでは早く向かわなければならないのでは?」
「おう。だからな銀髪嬢ちゃん、坊主」
俺達二人の頭にポンと軽く手を置く。
「おじさんが面倒見られるのもここまでだ。流石にあれを暴れさせる訳にゃあいかねぇからな」
「当たり前だ! あれのせいでここのみんなが迷惑してるんだ。とっとと行け!」
突っぱねるように話す俺に冷てぇなと微笑を浮かべる。アソルは少し俯き、物思いにふけているかと思ったら、すぐに頭を上げた。
「ザーディアスさん、色々ご迷惑をおかけしました」
だが、すぐに頭を下げた。
「ウチのメンバーのことや戦闘でのこと……ザーディアスさんや本来、護衛しなければいけない彼女達にさえ、魔物の討伐を任せきりで、情けない限りです」
ザーディアスは軽く鼻を鳴らすと、優しい表情で言う。
「お前さんも途中から嬢ちゃん達の戦闘に混じって、何とか頑張ってるじゃねぇか」
「で、でも――」
「あの二人はまず、あの腐った根性から叩き直す必要がありそうだがな……」
俺達のラビットフットの戦闘の後、彼だけは積極的に魔物討伐に参加してたのだ。ポンコツでも肩書きは冒険者、そして男だからと踏ん切りがついたのか、あれだけ慎重に戦っていたポンコツアソルは、リュッカをフォロー出来るほど強くなっていた。
一応、プロってわけなのねと少し感心したのは内緒だ。残り二人は相変わらず安全に戦おう感が酷い。
「そんな弱気な態度でどうする。おじさんがいなくなったからって出来ねぇじゃ困るって言ったぜ?」
「……」
「男だろ? 女にカッコいい背中……見せてやれよ、な?」
ザーディアスは青年にエールを送る。その言葉を聞いても納得いかずに顔を伏せる。多分、自分に自信が持てないんだ。
最近まで魔物討伐を行わなず、安全な仕事を弄ってしてたんだ。急に自信を持てというのは無理がある気がする。
……ここは俺の出番か。
「そうだよ。頼りになるとこ、もっと見せてよ。おっさんにしがみつくような見っともないとこ見せて、不安にさせないで……」
すがるようにではなく、自信を持つよう優しく諭す。こいつは媚びを売るような言い方じゃダメだろう。あの二人には効くだろうが。
その言葉を聞いて、何か決心した表情でザーディアスに向くとはっきりした声で宣言する。
「……はい! 僕……頑張ります!」
「おう! よく言った!」
バンバンと今度は強くアソルの背中を叩く。女の子に背中を押されてなんて野暮な事は言わなかった。
でも、やっぱり女の子って効くな。男の一番注意するものは女と酒とはよく言ったものだ。
「じゃここでお別れだ、銀髪嬢ちゃん、坊主」
「あの他のみんなには……」
「あのゴーレムさん、あのままだと気が気じゃねぇだろ? もう行っちまうわ」
さっぱりと別れを切り出す。名残惜しさは残さない言い回しだ。こういうところは男らしい。
「……わかったよ。他の人にはちゃんと言っとくよ」
「おう。頼んだぜ、銀髪嬢ちゃん」
この空気を読んだのか、アソルも別れの言葉を口にする。
「ザーディアスさん、ありがとうございます。また会いましょう」
「堅いなぁ兄ちゃん、次会う時にゃあ……おじさんみたいに余裕のあるダンディズムになるんだぜ」
「はい!」
「おっさんみたいにだらしなくなられたら、こっちは困るからね」
ザーディアスの別れ言葉に水を差す。相変わらずだなぁと、しかし嬉しそうに笑った。
「それじゃあな」
「はい! 元気で……」
「もう、迷惑かけないでよ」
「おう」
そう言うと黒コートの男は森の中へと颯爽と姿を消したのだった。




