46 騎士の仮設基地
森は朧げなオレンジ色の光に当てられ、長く影を伸ばす。木々は昼間とはまた違う姿で佇む。何処か儚げで切なく、不気味に染まる森の中、その風景に白い人工物が見える。
三角の白い布がいくつも設置されている。建物もあるようだ。木で作られたレトロモダンな小屋だ。その屋根にはぱたぱたと旗が靡いて、エンブレムが書かれているようだ。この国の国旗だろうか。それらを囲むように木の柵が張り巡らされている。
入り口だろう木で作られた大きな門の前にたどり着く。
「……旅の者か?」
若い門兵が業務的な声で尋ねてくる。愛想がないというか何というか。だが、手馴れたようにバトソンは話し掛ける。
「ああ、王都までの道中さ……」
するとズボンの右ポケットから何かカードみたいなものを取り出す。ザーディアスのギルドカードに似ている。門兵はそれを受け取り、じっと軽く見るとすぐにカードを返却した。
「他の連中は?」
おそらく身分証明だろうか。俺達にも見せるよう、これまた業務的に話してくる。硬派なイメージがつきそうな門兵だ。
「ほれ、これでいいか? 兄ちゃん」
ザーディアスはギルドカードを見せた。ちらっと見ると表情変えずに返却。
アソル達も同様にカードを手渡すと同じように返却。アソル達はともかくおっさんはSランクのはず。
少しは驚いてもいいものではと思うが表情筋一つ動かない。
ストイック過ぎない? この門兵。
「……? そこの娘達は?」
表情変えずに疑問を投げかける。せめて首を傾げたり、眉を動かしたりしてほしい。
「えっと、私達は――」
「彼女達はまだ、身分証がないんだよ。アルメリアの方から来た田舎者さ……」
バトソンはアルメリア山脈を指して語る。
何でも王都のような都会ならある程度幼くても身分証を発行してもらえるらしいが、田舎では基本的に必要ではない為、発行しない人が多いそう。
「なら、彼女達の身分は貴方が証明できるのだな? 何か問題があれば責任を取れるのだな?」
まるで疑うかのように責め立てる冷静な口調で聞いてくる。そんなに信用がないように見えるのだろうか。
「勿論だよ」
ただ、バトソンはその一言だけ。優しくも落ち着いた物言いで、彼女達が危険ではない事を物語る。
「わかった。通れ。向こうのテントに隊長がいるはずだ。バトソンだったか……ここを利用するつもりなら挨拶してくるように……」
「ありがとさん」
門兵は一つのテントを指差す。礼を言うと馬車を軽く走らせて指定されたテントへと向かった。
「じゃあ、すまないけど、ちょっと待ってておくれ」
そう言うとゆっくりと馬車を下りて、テントの中へ入っていった。
「普段、ここってこんなに明るいの?」
いくつもの白いテントの中から黄色い光がぼんやりと映っている。中の人影は流石に映らないがおそらく人がいるものと思われる。
「多分、周期なんだろ」
「周期?」
「この付近には王都が所有権を持つ迷宮がいくつか存在する。中の魔物が強くなりすぎねぇように周期的に討伐するんだよ。または……あれだ。魔石の回収だろうな」
要するには鉱石の採掘みたいな感じか。それの魔物退治版ってやつね。
そんな雑談をしていると、しゅるっとテントの中からバトソンが出てきた。その後ろに見慣れない青年が出てきた。
「うむ……なるほど――」
顎に手を当てるイケメンさん。こちらを見てはバトソンと会話を始めた。
このイケメンさん、おそらくは隊長だろう。すらっとした立ち姿、騎士の制服だろうか……しかし、汚れ一つない清潔感のある服装。そして甘いマスクから優しい表情を浮かべ喋り、バトソンの話を聞く辺り、性格も良さそうだ。
こういうのが女の子受けするんだろうか。元男だがちょっと嫉妬する。
「わかりました、滞在を認めます。ここにいる間は我々がお守り致しますので、ゆっくりとお休み下さい」
「いいのかよ、騎士隊長さん……であってるな?」
「はい。あってますよ。それで何がいいんでしょう?」
「ここに滞在してるって事は迷宮への準備があるんだろ? おじさんらに構っててもいいのかよ」
ザーディアスは王都の騎士達の都合を汲み取る。すると、胸に手を当て軽くお辞儀をする。
「お気遣い感謝致します。しかし、我々は王都ハーメルトの騎士、民を守ることは当然の務め。どうか気兼ねなくお休み下さい」
懇切丁寧にご返答頂いた。さっきの門兵とは毛色が違う部類の真面目さだ。王都の騎士とはこうなのだろうか。
何気に王都の名前を初めて聞いた。
「そう言うなら、しっかり休もうぜ」
それと……とイケメン隊長さんが提案をする。
「どこでお休みになられますか? 申し訳ないのですが、テント内は――」
「いやいや、それは分かってるから兄ちゃん。おじさん達はこの荷馬車で休むから場所だけ用意してくれればいい」
「女性の方々もですか?」
そう聞かれたので何の違和感もなく、はいと返答。すると優しい笑顔で提案を持ちかける。
「なら、向こうの小屋を使って下さい。元々、あの小屋は女性騎士用に用意されたものなので……」
「そうなんですか。今使っている人はいないんですか?」
「ええ」
でも、元々女性騎士が仕事の滞在の為に建てたものならと少し気が引ける。
「別に大丈夫ですから……」
断ろうとすると大きな声で反対する。
「――ええっ!? 使っていいって言ってくれたんだし使おうよ」
「あのね、アイシア。あそこは仕事用に建てられたものだよ。私はちょっと気が引けるよ」
その意見を聞いても反対して騒ぐアイシア。リュッカもそ〜と手を上げる。
「……私もあの小屋がいい」
「リュッカまで!?」
言い争いを見兼ねてか、俺を説得しにくるイケメン隊長。
「お友達のお二人もこう言ってますから、気遣いは無用ですよ」
爽やか笑顔……何故だろう、軽やかな風が吹き抜けているような気がする。
「それに長旅だったでしょう? 汗も流せますよ。シャワーも――」
「是非利用させて下さい」
それを早く言ってほしかった! 日本人としてベタベタした汗ばんだ身体はどうにも気持ち悪い。
あっさりと妥協した俺を見て、イケメン隊長はクスッと微笑んだ。




