32 夜這い
今日は青白い月が雲と雲に見え隠れする。月が雲との隙間を狙って光を落とす静寂の夜に怪しい二人の影が伸びて映る。
「だ、大丈夫だよね? ラッセさん」
「心配なら来なくていいんだぜ、ヘタレ」
彼らの向かう先は彼女達が眠る荷馬車。これだけ静かな夜だ、音や周りを警戒しながら、抜き足差し足忍び足。
「でも、流石ラッセさん。匂い袋を使っていれば魔物は寄り付かないし、使っていることは他の人にはバレないし、護衛いらず……流石です!」
「オメェとはここが違うんだよ」
自分の頭を人差し指でトントンと指す。匂い袋は魔物には異臭を放つらしいが、人間には無臭だ。
「物は正しく使うもんなんだよ。この荷馬車もな」
「えっ? 荷馬車も?」
察しが悪りぃなぁと顔を顰める。
「ホント頭悪りぃな。なんで俺がわざわざこんなもん買ったと思ってる」
クリルは少し考えるがわからないと首を振る。小さくため息をつくと面倒臭そうな声で答える。
「そんなもん、女を連れ込んでヤルために決まってんだろ」
「……っ!」
「こんな都合のいい依頼は中々ないだろうが、あの真面目ちゃんは言いくるめりゃどうとでもなるからな。荷馬車なら中を隠しながらお楽しみが出来るってね」
「な、なるほど!」
中々ゲスな考えを披露する。そうこう話している内に彼女達の寝ている荷馬車の前に立つ。
「でもよ、いいのか? 先に選ばせろとは言ったが、どっちかは譲るつもりだったんだが……」
少し申し訳無さそうな表情を浮かべるが、クリルはどうやら気にしてない様子だ。息を荒くしている。
「ぼ、僕は素朴なリュッカちゃんがいいんだ。あのか弱い感じ……ふへへ……」
「お、おう……そうか。ならいいんだ……」
趣味は人それぞれだからなと思いつつも少し距離を取る。
「よし、なら入るぞ。まだゆっくりだからな」
「う、うん……」
ごくっと生唾を呑みながら荷馬車にかかる仕切りの布を掻き分け侵入する。
そこには、まだ暗さにまだ目が慣れてないのか三つの寝転がっている塊しか見えない。だが、人が寝ているとは分かった。すぅーすぅーと心地良さそうな可愛い寝息が聞こえてくる。
「……へへ。よく寝てやがるぜ、今から襲われるとも知らずによぉ」
「ぼ、僕そろそろ――」
「バッカ!? ここまで来たんだ、もう少し慎重に事を運べよ」
起こさないように小声で話す。暗さに目が慣れてきたのか、顔が見えるようになってきた。少し遠巻きに目を凝らして確認する。
「よしよし寝てるな。いくぞ! 側に行くまでは音を立てるなよ」
寝顔を確認し、念を押し終えるといよいよと動き、彼女達ににじり寄る。足を数歩踏むとキンっと小さく音がした。
「なっ!? なん――」
素早く彼らの下に魔法陣が展開。すると紫色の光と共に黒い帯状の影が伸び、彼ら二人を素早く締め付ける。
「むっ! むうむ……」
「むぐぐぅ……」
その場で立って縛られる。口も塞がれた。そんな彼らから見て一番向こうの人影がのそっと動き立ち上がる。アイシアを跨ぎ、縛られた二人の元へ立つと、
「つっかま〜えた♡」
ニコッと悪〜い笑顔をするリリアの姿があった。




