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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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26 じゃあな

 

 ケースケ・タナカの情報を求め、外国行きの準備を整えていた矢先に、あの感覚に再び襲われていた。


「あっ……ああっ!!」


「かっちゃん!?」


「勝平っ!?」


 だがあの時と違うのは、意識は持っていかれないこと。


 するとリビングに次元の穴が開く。


「なっ……!? リ、リリア?」


「鬼塚さん……!」


 そこには、潤んだ目でこちらを見るリリアの姿があった。


 改めてこうして面と向かってみると、美少女だなぁ、リリア。


 そんな感心も束の間、デュークとシモンが横から割って入る。


「リ、リリア・オルヴェールか……?」


 すると割って入ってきたのは、デューク達だけではなかった。向こうからヴィとネイも思わず駆け出す。


「デューク! シモン!」


「お前達!?」


「――待って!!」


 その次元の穴に向かおうとするヴィ達をリリアは止めると、二人はビタっと止まる。


「さ、再会が嬉しいのはわかりますが、お二人がこの次元の扉をくぐることはできません。大怪我します、よ?」


 その一言に二人は青ざめて後退し、リリアの後ろにしがみつく。


「ご、ごめんね、デューク、シモン。さ、再会を果たしたいけど……」


「わかっている……!」


 そう残念そうにしているデューク達をクルシアがニタニタと見ている。


「貴様ぁ!」


「やあやあ。元気してたかい? どう? 向こうの世界は?」


「……ああ。おかげさまでスリリングかつ快適な生活をしていたよ」


「へえ……」


 その会話を聞いて見ている隆成達は、俺に紹介を求める。


「空気読まないようで悪いんだけどさ、改めて事情説明してくんない?」


「ああ。先ず、目の前にいる銀髪蒼眼の美少女がリリア。俺が異世界転移する原因になった奴な」


 すると大介と慎一郎はジッとリリアを見た。


「「かっちゃああああんっ!!!!」」


「おわっ!?」


 思わず睨み合いをしていたデュークとクルシアも呆気に取られ、目をパチクリとさせてこちらを見る。


「お前っ!! リリアちゃんはどこにでもいる平凡な女の子だって言ってたよなっ!? この銀髪蒼眼ロリ巨乳美少女のどこが平凡だあっ!!」


「そうです!! 人のことを散々むっつりスケベとか言っておきながら、この銀髪蒼眼ロリ巨乳美少女の身体で、あははのむふふをしていたと思うと……」


 二人の嫉妬が最高潮に達しておらっしゃる。


「――本当のこと言うと、お前達がそんな感じで発狂すると思ったから、嘘ついたんだろうがぁっ!!」


 そして銀髪蒼眼ロリ巨乳美少女と、褒められているのか、邪な目で見られているのか、非常に複雑なリリアは、もじもじと赤面している。


「あー……お前さんら。リリアちゃんもこっちの世界に居たんだから、こっちと顔見知りだし、ネット廃人にもなってた()なんだから、そのあたりの単語も理解してるんじゃないか?」


 隆成のツッコミに俺達は思わずリリアを見ると、


「あ、あのぉ……そのぉ……」


 あっ。これセクハラで訴えられても、リリアが大勝利を収められるヤツだ。


「よっ! 久しぶり! リリアちゃん本人……でいいのかな?」


「は、はい。隆成さん。お、お久しぶり、です」


 俺達を置き去りにさらっと再会の挨拶を済ませる隆成。


 それに続こうと大介と慎一郎も俺を押し除けての挨拶。


「ひ、久しぶりだね、リリアちゃん。お、俺達のこと、覚えてる?」


「も、勿論です。た、沢山お世話になりましたから……」


「は、はわ、はわわわわ……」


 女子免疫力ゼロの大介と慎一郎は、もじもじと上目遣いの銀髪美少女の仕草に、興奮冷めやまないのか、男同士で手を握り合い、感動を噛み締める。


「お、俺達……生きてて良かったぁ」


「はあ、はあ、銀髪美少女……最高っ!」


「ああ、はいはい」


 すると向こうから着替えを持ってきた俺の母、春美が驚く。


「あら? これは何かしら?」


「あっ! ダ、ダメです!」


 次元の穴にトコトコと近付こうとしたのを全力で止めたリリア。


「み、皆さんと再会できたのは嬉しいですが、この次元の穴を通れるのは、私とアルビオさん、デュークさん、シモンさんだけです」


 あれ?


「な、なので他の方が近付くと大怪我をしてしまいます……」


 ホントなのと隆成達が俺に視線を送ると、俺はこくりと頷いて返答。


「じゃあ貴女がリリアちゃんなのね? 久しぶり? かしら?」


「は、はい! そ、その節はお世話になりました」


 すると春美はサッとスマホを用意すると、パシャパシャと連写撮影を開始。


「そう! こんな可愛い()だったのねぇ! 勝平ちゃんもこんな可愛い()になってたのねぇ!」


「う、煩いよ!」


 すると大介と慎一郎、隆成も撮影を開始。


「そうだな。せめて撮影だけでも!」


「異世界美少女を撮影できる機会なんてないもんな」


「あっ! あの……み、皆さん……」


 するとリリアは自分の顔を手で遮り始める。


「は、恥ずかしいですぅ……」


 その仕草に心貫かれた一同の連写速度が早まった。


「――つかっ! お前ら空気読めぇっ!!」


 再会を和んで堪能してる場合じゃないんだよ!


 するとその場合じゃない原因が大笑い。


「――アッハハハハッ!! 面白いねぇ! この人達が異世界でお世話になった人達かにゃ?」


「そ、そうです」


「ふーん」


 クルシアは興味津々そうに隆成達を見る。


「ねえねえ? その板切れは何? 光ってるようだけど……」


「お、お前……誰だよ?」


「というか男が語尾に、にゃを付けるなんて女の子ならあざと可愛いですけど、男子では趣味悪いですよ」


 その大介の問いに、デュークが強い警戒心を持って睨む。


「俺達をこの世界に突き飛ばす指示をしたクルシアってクソガキだ」


「「「えっ?」」」


 隆成達三人は、サッと後退する。


 無理もない。俺はクルシアが何をしたのか、この三人には話してある。


「よう。この姿では初めましてだな」


「あーあ。君がリリアちゃんの中にいた人ぉ〜?」


「ああ。鬼塚勝平だ。よろしくな」


「オニヅカ、カペイ? よろしく!」


「勝平っ!」


 どうして異世界人にはカペイって呼び方になるんだ。小さい『っ』はどこに消えるんだ。


「デュークさん、シモンさん。お二人が鬼塚さんと接触できていて良かった。すぐにこちらへ戻ってきて下さい」


「戻れるのか!?」


「お二人は大丈夫です。ケースケ・タナカさんの血が継がれていますから……」


 その言葉にヴィとネイも表情が一気に明るくなった。


 わかったと返答すると、二人は足早に俺達が用意した部屋へと駆けていった。


「戻れるようになったのね? そうだわ! 君彦さんに連絡しなくちゃ!」


「しなくていいから」


 また仕事場から飛んできそうだ。


 クルシアが、ねえねえと興味津々に尋ねるのを無視しているうちに、デューク達の準備が出来たようだ。


「待たせた」


「いえ。さあ、こちらに……」


 すると、リビングの扉が開いた。


「何か予感を感じたから、会社を切り上げてきた!」


「――変な直感、働かすな!」


 父さんも無事合流?


 まあ色んな意味で間に合った。


「皆さん、大変お世話になりました」


「おう。最初お尋ね者にされた時は、ひやっとしたけどな」


「い、言うな……」


 ヴィとネイは、本当にお尋ね者になってたんだと、リリアの予想が当たったことに、呆れながらも驚いた。


「多分、もう会えないよな?」


 デュークがリリアに振り返り、確認を取ると、こくりと頷く。


 すると隆成が握手を求めてきた。


「じゃあな。また会おうぜ」


「おい。今確認したところだろ?」


「バーカ。あの世は繋がってるかもよ」


 そんなことはないだろうと思いつつも、どんなかたちでも再会を望むことは悪くないだろうと、デュークはその手を強く握った。


「そうかもな。また会おう」


 ――デュークとシモンは俺達全員と握手と感謝を告げると、次元の穴の前に立つ。


 一度通り抜けたとはいえ、やはり緊張するらしい。


 手を前に出して、ゆっくりと進む。


「……っ!」


 ずぶずぶと次元の穴を渡っていく。そして――、


「――っ!! デュークっ!!」


「シモンっ!!」


 ヴィとネイがあちらへ行ったデュークとシモンに抱きつく。


「お、おい! やめろ! 急に何だ!?」


「馬鹿ぁっ!! 心配……心配したんだからぁ……」


 デュークはいつも通り照れ隠しに怒鳴りながら、ヴィを引き剥がそうとするも、さすがに罪悪感があるようで、すぐにヴィを受け入れた。


「デュークも、シモンも……おかえりなさい」


「し、心配かけたね、ヴィ、ネイ」


「すまなかった」


 ネイも嬉しそうに涙を流し、再会の余韻に浸っていると、パチパチと手を叩く音が響く。


「いやぁ……素敵な再会だね」


「クルシアぁ……」


「それで? これがボクを諦めさせる要因なのかにゃあ? これくらいじゃあボクは諦めないぞ」


 リリアの目論見通りにはならないと、口にしていると、今度は向こうからヒュンと何かが飛んで出てきた。


「リア! 無事!?」


「オルヴェール!」


「ア、アイシアさん、ハーメルト殿下……」


 俺には事態はわからないが、アイシアとハイドラスも駆けつけたようだ。


 すると二人も次元の穴が開いていることに驚く。


「オルヴェール、これは……?」


「リリア・オルヴェールが異世界の扉を開けてくれたおかげで、俺達が戻ってこれたということだ。殿下」


 ハイドラスの視界にデューク達の姿があった。


「お前達!」


「無事だったんだねえ!!」


 ヴィとネイ以上にオーバーリアクションで、ポチから飛び降り、抱きついた。


「や、やめろ! この馬鹿!」


「私達だって、心配したんだから……ねえ?」


 アイシアの豊満なボディに潰されている二人を大介達は、嫉妬に燃える視線を送り、興奮気味に感想と文句を述べる。


「――おいいっ!! 何じゃ、あの天然系巨乳美少女はぁ!! しかもドラゴンに乗る美少女とか絵になり過ぎだろうおおおおっ!!!!」


「デューク君! シモン君! 直ぐにそこを代わりなさい! ぼ、僕がそこにいいいいっ!!!!」


「――オメェら二人、マジで空気読めぇ!!」


 するとアイシアの豊満ボディに潰されているデュークが押しのける。


「お、俺と貴様はそこまで仲良くもないだろ! というか、女なんだから気を付けろ! ヴィみたいに無いわけじゃあるまい――」


「無くて悪かったなっ!!」


 戻って調子が戻ったのか、ヴィに対する悪態が復活し、ヴィのツッコミにも気合が入った様子。


 というよりアイシアと比べるのはちょっと……。


「ハハハハ。賑やかだねぇ。異世界人ってのは、みんなそうなのかい?」


 穴の向こうにいる俺達に問いかけられるが、事情を知る三人は警戒心を強めるが、


「大丈夫さ! 心配しなくてもいい。リリアちゃん曰く、ボクはそちらには行けないみたいだからさ。また腕が飛んでも困るし……」


「う、腕が……?」


「あ、あるじゃねえか?」


 そう指差す大介達に、右手を見てからニコリと笑う。


「ああ、これ? 腕の再生くらい普通さ。特にボクはちょっと特殊体質でね。多少なら問題ない。君ならわかるだろ? オニヅカ君」


「ああ、この化け物め」


「腕の再生が普通とか……常識外れもいいとこだぜ」


 その言葉に反応してか、クルシアは次元の穴ギリギリまで詰め寄る。


「そうなのかい!? 君達の世界はボクらの世界より文明が進んでると聞いたんだけど、腕の再生くらいできるだろ?」


「で、できるわけねえだろ! それこそ魔法の世界だろ!?」


 クルシアは不思議そうに首を傾げるところに、リリアが俺の魔導銃を向ける。


「は、離れて下さい……」


「おやおや、物騒だねぇ」


 その光景に驚愕を覚える現代人勢、特に俺の両親はリリアを止める。


「リ、リリアちゃん!? は、早まっちゃダメよ!?」


「そ、そうだぞ! お、落ち着いて……」


「父さん、母さん、違うよ。向こうじゃ、これも常識の範疇だよ」


「か、勝平……」


「向こうには魔物は勿論、そこのクルシアみたいな極悪人もいる。そういう奴に対抗するには、あんな武器の携帯なんて普通なんだよ。そのおかげでデューク達も警察に追われてたろ?」


 俺が考案したことは黙っておこう。


 俺の説得に現代人勢は、ごくりと息を呑んだ。本当に違う世界なのだと理解した瞬間だった。


 銃を向けられたクルシアは、リリアの制限魔法の発動条件がわからない以上、とりあえず言うことを聞き、その場を離れた。


 そしてリリアは異世界の扉、次元の穴の前に立つと、深く深呼吸を始め、


「クルシアさん。この異世界の扉を開ける絶対条件は何だと思いますか?」


「それは異世界へ飛んだ経験のある君やオニヅカ君、そして異世界人の血を継ぐ者かな?」


「違います」


「!」


「絶対に必要なのは前者だけです。異世界人の血を継ぐことが条件にあるなら、とっくに私以外の人間、特にハーメルトが何かしらを発見していてもおかしくはありません」


 ハーメルトの王族は、確かにケースケ・タナカとその子孫を保護していた傾向がある。


 その際に身体を調べてもいたはず。異世界人だとわからずとも、何かしらの魔法の影響などから、異世界の繋がりが起きても不思議ではない。


 実際、『たなかけいすけ』が向こうに行けた理由については不明なのだから。


「ま、待て。俺達は確かに……」


「デュークさん達はあくまで異世界に行ける条件を満たしているだけで、異世界の扉を開けることはできません」


「つまり、魔法で君とオニヅカ君の間で、繋がりが出来た君達が魔法の媒体にならないと、異世界へは繋がらないってことだ」


「はい」


 その真剣身を帯びた瞳を見たクルシアは、何かを察した。


「ま、待て。まさか……っ!!」


「はい。私は諦めされるといいました」


 リリアとクルシア以外は話が読めないと首を傾げるが、クルシアはそれを阻止しようと動く。


「この……っ!?」


 するとキィンっという音と同時に展開していた魔法が発動したのか、クルシアの動きがピタリと止まった。


 クルシアは必死に動こうとするが、身体が動かないようだ。


「こ、これは……?」


「くそぉっ!! リリアちゃん!! 発動条件ってのはっ!」


「はい。――私が異世界へ行こうとするのを阻止しようとするが条件です」


「「「「「!?」」」」」


 リリアは銃を下ろすと、こちらに背を向けて思惑を話す。


「繋がりを持つどちらかが、片方の世界に向かえば、異世界に繋がる魔法は二度と使えません。だから、わ、私が向こうの世界へ行って、それを断ち切ります!」


「リア!?」


「だから反対されることか……! リンナ殿はいいのか?」


「……ママには事前に言ってあります」


「!」


 リリアはクルシアのことを事情を聞いた会議の後、リンナにこの案を打ち明けたのだと話す。


「これは私の責任だからって言ったら、仕方ないなって言ってくれました……」


 それって本当は嫌ってことなんじゃないか?


 だが俺もあの人の性格は知ってる。リリアと同じで結構、抱え込むタイプの人だ。


 何だかんだ親子なんだなぁ。


「えっ!? じゃあリリアちゃん? こっちに来てくれんの?」


「馬鹿っ! 喜んでんじゃねえよ、大介。詳しくは知らんが、こっちから向こうには行けないのはわかってんだろ! リリアちゃんは家族と永遠にお別れになる。それを喜んでんじゃねえ!」


「わ、悪い」


 隆成の言う通りだ。


 いくらリンナさんが認めたとはいえ、そんなことは望んでないはず。


 今のリリアだって、本当のところは苦渋の選択だったろう。


 だがクルシアの脅威を目の当たりにし、俺が築き上げた仲間達のことを想い、その背景が背中を押すかたちとなったんだろう。


 すると今生の別れということを示すためか、深々とお辞儀をした。


「み、皆さん、大変お世話になりました。それとご迷惑もお掛けしました。わ、私が至らないばかりにこんなことになってしまって……」


「リアっ!!」


 堪らずアイシアが駆け出して抱きつく。


「ダメだよ! リアがリンナさんと離ればなれになるなんてこと……家族やみんなとお別れなんて……せっかく仲良くなれたのに……」


「あ、ありがとうございます、アイシアさん。こんな私を受け入れて……くれて……」


「今のリアも、リリアちゃんだもん! 離れたくない!!」


 リリアの胸で泣くアイシアを撫でながら、何とか動こうと力づくで抵抗するクルシアを見る。


 制限効果が発揮されており、一度きりしか発動しないことから、時間も無いと、


「ごめんなさい。でも、こうしないと止められないから……」


「いやぁ!! リアぁ!!」


 ぐっとアイシアを突き放すと、後ろからハイドラスがアイシアを引っ張って受け取る。


「殿下!?」


「……彼女も覚悟の上だ。見送ってやれるだけ、マシだろう」


「そんな……」


「ありがとうございます、殿下」


 確かに彼女も覚悟の上だ。


 それを邪魔するのは無粋というものだろう。


「皆さん、本当にありがとうございました!」


「――そして、これからもよろしく、だろ?」


 そう。無粋だ。


 彼女の覚悟を踏み躙るなら、対等な覚悟を持って、望むべきだ。


「へ?」


「よ!」


 俺はポカンとこちらを見るリリアの肩を叩く。


「お前……!」


「そんな驚かなくてもいいだろ? 殿下。リリアの理屈では合ってる」


「な、なななな……何をやってるんですかぁ!? わ、わわわわ、私がせっかく……」


 せっかくねぇ。やっぱりな。


 ポカポカと叩いたり、ぐぐっと元の世界に俺を戻そうと必死になるリリアを見て、確信を持った。


「お前、嘘ついてたろ?」


「う、ううう、嘘なんて……」


「あのな。お前と俺は繋がってる。つまりは俺も異世界に渡る条件が整ってるのに、俺の名前が上がらなかったからな。元より俺をこっちに来させる気がなかったんだろ?」


 嘘つくのが下手すぎ。


 もっと俺が納得できる言い訳があれば、俺もリリアを向こうで受け入れたかもしれない。


「そ、そうですよ! あ、貴方には散々……い、一番迷惑をかけましたから……これ以上はと――」


「馬鹿言ってんじゃねえよ! これだけ迷惑かけられたからこそ、ここで切ってんじゃねえ! ……あのイカれ野郎との決着は俺がつけなくちゃいけない。クルシア(アイツ)はお前だけの問題じゃない」


 おそらく元のリリアであれば、そもそもあのアイシア達と出会う旅は無かったかもしれないし、そうであればクルシアと出会うこともなかった。


 そうすればクルシアは別の奴らと戦っていたか、或いはだが、たらればの話をしてもしょうがない。


「それにだ! 責任を果たすつもりなら、クルシアをあのままにして、こっちに来る方が問題だ! なあ、殿下?」


「あ、ああ……」


「鬼塚さん……」


「それに――女の子に家族と今生の別れなんてさせられるかよ。しかもその見送りにリンナさんも来れないじゃ、あんまりだろ」


 俺は次元の穴の向こうにいる両親を指差す。


「それに俺なら、別れの挨拶ができるからな。いいよね? 父さん、母さん」


 今思えば父さんの予感というのは、このことだったのかもしれない。


「ああ、それでこそ男だ!」


「そうね。寂しくはなるけど、女の子を泣かせるよりはずっといいわ」


「あ、あの……!」


「いいのよ、リリアちゃん。事情はよくわからないけど、無理してこっちに来なくてもいいわ。その様子だとお母さんと分かり合えたのでしょう?」


「は、はい! み、皆さんの……お、お陰で……」


 ボロボロと涙を零すリリアにそっと寄り添ってやると、向こうからすげー嫉妬の視線を感じる。


 マジで空気読め……。


「まあリリアちゃん、息子のことは気にするな。元々戻る気だったみたいだし、可愛い子には旅をさせよとも言うしな」


「うう……」


 するとハイドラスがお辞儀する。


「あなた方がオニヅカ殿のご両親か?」


「ええ。貴方は?」


「初めまして。私はハイドラス・ハーメルト。この国の王子だ」


 さすがに王子様と聞いては、二人は勿論、隆成達も驚く。


「そんな王子様がお辞儀なんて、何か?」


「あなた方の息子さんには大変お世話になった。こんな機会でもないと二度とお礼も言えないと思いまして……。そして、息子さんにこんな決断をさせてしまったこと、心よりお詫びする」


「殿下……」


 俺や父さん達はまったく気にしてはいないが、国を任される身、そしてこちらの問題に関わらせてしまってのケジメの謝罪。


「いやいや、こちらこそ。息子が迷惑をかけてたんじゃないかと心配で……。しかも見た目が彼女だったし、割と好き放題していたのではないですか?」


「と、父さん!?」


 するとハイドラスは、少し眉を顰める。


「た、多少ですかね?」


「殿下!?」


「なら、またご迷惑をお掛けしますが、うちの息子のこと、よろしくお願いします」


「はい! 確かに……」


「勝平」


 今度は俺に何か言うようだ。


「何?」


「ひとつだけ約束してくれ」


「何を?」


「必ず幸せに生きるんだぞ」


「!」


 切実な願いなのは、直ぐにわかった。


 俺だって父さんと母さん、隆成達と別れるのは辛い。


 実際、無理矢理リリアになった時も、ホームシックになったくらいだ、戻るつもりはあっても、やはり別れは辛い。


 だからこそ、親としてその言葉は口にして、俺に残しておきたかったのだろう。


 ――親として子の幸せを願うことは当然なのだと。


「わかったよ! 父さんと母さんが自慢できるように、こっちで子孫もちゃんと残すよ」


 ケースケ・タナカが残したみたいにな。


「あら! 私達まで異世界に行った気分ね」


「はは! そうだね!」


 どういう理屈? 天然な母らしいお言葉だ。


「まあそうだね――」


 父さんは何か気になったようで、その視線の先を見ると、不穏な空気を放つクルシアが目に入った。


「もう、時間もないかな?」


「悪い、父さん」


「君達も何かないかい?」


 父さんが気を利かせて、隆成達に聞くと、


「羨ましいが事態を見るに仕方ない。お前を見送るとしよう」


「だが!」


 大介と慎一郎は、再びスマホのシャッターを押し続ける。


「リリアちゃんとそこの巨乳美少女のツーショットを収めさせてくれぇ!!」


「是非に!!」


「――ブレないなっ! テメェら!」


 実際、泣き止んだアイシアとリリアはくっついており、ハイドラスも何故か気を利かせた。


「殿下。別にこの阿保どもの言うこと聞かなくていいから」


「はは。いいじゃないか。しんみりする別れより、よほどいい」


「そうだな……しんみりするよりはいいな」


 そう言って隆成だけは握手を求めてきた。


 俺はこっちに手を出せるだろとでも言いたげな手だ。


 俺はそれに応えるように、手だけ向こうの世界に突き出すと、握手をした。


「またな、かっちゃん!」


「デューク達に言ったみたいにあの世で会えるって?」


「ああ! それにお前は異世界を渡れる条件を満たしてんだろ? デューク達より可能性あるって」


「「ははっ!」」


 思わず笑った。


 また会える保証は無い。


 だけど無いと断言されるよりは、ずっといい。


「じゃあな! 親友!」


「おう! じゃあな! また会おうぜ! ――リリア」


 リリアは一瞬、惜しむような困った表情をしたが、隆成達に深いお辞儀をすると、異世界の扉、次元の穴を閉じた。


 保証の無い『また会おう』だが、それは俺と隆成達を繋ぐ大事な絆。


 送り出してくれた両親と親友達のためにも、俺は残した問題を解決しよう。


「改めて自己紹介しようか、クルシア……」


「くっ……」


「俺の名前は鬼塚勝平。なんてことはない……至って普通の男子高校の異世界転移者だ!」

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