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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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21 俺はついていく

 

 ――作戦概要は至ってシンプルなものだった。


 謎の停滞と進撃を繰り返すデス・フェンリルにドラゴンが突っ込んで潜入。内部にいる首謀者であるクルシアとバザガジール、ドクターとケリをつけることである。


 あの通信の魔石から、ザーディアスは殺されてしまったと断定し、ザーディアスは除外。


 ちなみにザーディアスの死亡はアイシア達には伝えてはいない。


 ザーディアスに対し、思い入れのあるアイシアとリュッカには酷な話だとハイドラスが判断してのことだった。


 この作戦で重要となる龍操士(ドラゴン・ライダー)の確保は、ドゥムトゥスで龍操士教育学園の学園長を務めるダイア・ガイが進めており、ヤキンを含めた教師や腕の立つ龍操士(ドラゴン・ライダー)が呼びかけられる中、


「俺達にも行かせて下さい」


 レオンを含めた生徒達もその話に乗りたいと名乗りを上げた。


 ダイアは若人の勇敢な意志を尊重したいと思う反面、重要度は高く、失敗は許されない任務となる。


 失敗はドゥムトゥスの壊滅すら想定されること。


「ダメだ。これがどれだけ危険で、どれだけ重要なことかわかるだろう? 確かに君らは優秀だが、実戦経験があまりに少ない。正直、任せられない」


 龍神王のいる里に向かったレオンでさえも、許しは出せなかった。


「ですが学園長! その()も向かうんですよね?」


 立候補者の女生徒がアイシアを指差す。


「そうだ。彼女はこの事件の関係者だからな。それに龍操士(ドラゴン・ライダー)としても君達より、いや、教師陣よりも優秀だ。以前、ここでレースをしていたことがあっただろ? 彼女は圧倒的だった……」


 それを言われると口を紡いでしまった。


 あのレースのことに関しては、その界隈では噂になったほどで、アイシアのことはかなり注目度があった。


 優秀とされていたレオンですら、敗れたことに驚愕の声も多かった。


「彼女が……」


 志願者の視線が集まるアイシアは、ポソリとハイドラスに耳打ち。


「私、有名人なんですかね?」


「そうなんじゃないか? 私はそのレースを観ていないからどうにも……」


 するとハイドラスは、困っているダイアを助けるためか、説得に入る。


「君達のその国を守りたいという強い意志は確かに感じられた」


 各々思うことは様々だろうが、あのデス・フェンリルに対し、物怖じすることなく、志願を名乗りでるのは相当な覚悟が必要だと配慮した。


「しかし、確認されているあの古代兵器ゴーレムは、我々自身も直結したことのない問題であり、どのような事態を招くか、判断が極めて難しいことだ。実戦経験の豊富な者に任せたいと考えるのが我々の意見だ。そこも理解して欲しい……」


「「「「「……」」」」」


 守りたい。力になりたい。


 そういう強い意志は重要であり、人の本来持つ潜在能力を高めるという過程において、かなり重要視されることだろう。


 だがハイドラス達はそのような感情だけで動いていい問題ではないと説得。


 確かにクルシアに因縁があるのは事実だが、そこだけに固執していては、問題の解決にはならない。


「レオン……」


「はい、殿下」


「そして……君ならわかるだろう? 龍神王の里に向かった君なら。あのゴーレムを動かしているのは、君が見た龍神王の死体を作った元凶達だ」


 レオンはキュッと唇を噛んだ。


「龍神王の里に向かわせることを許可できたのは、奴らがいる可能性が低かったからだ。今回は奴らのアジトに乗り込むという話だ。奴らと対峙経験のあるアイシアや我々ならば良いが、君らはダメだ。とてもじゃないが――」


「ならば、尚更だ!! 俺はついていく!!」


 ハイドラスの説得を食い破るように、レオンは声を発する。


「レオン君! 殿下のお言葉を遮る奴があるか!?」


 ダイアに叱られたレオンは、一礼して謝罪をすると、ハイドラスの言葉を遮ってでもついていくと公言した理由を話す。


「確かに龍の里での惨状を見ました。龍の里の崩壊、首と魔石(しんぞう)の無い龍神王の死体、西大陸の減衰する環境、どれも俺なんかが介入できる問題ではないことは承知しています。ですがっ! わかっているからこそ、力になりたいのです!」


 それは説得したつもりだがとダイアは、表情を少し曇らせるが、


「俺達が生まれ育った故郷ドゥムトゥスを、あの龍の里のような惨状にしたくありません! またドラゴン達にあのような苦しみを背負わせることなどしたくありません! 何より……」


 視線をアイシアへと向けた。


「そのドラゴンの未来を担う龍の神子を俺は守りたい」


 レオンは龍の里で色んなことを思い知った。


 特に自分が無力な存在であることを。


 強くなりたい、そう願ってやれることは、やはり自分が大好きなドラゴン達に寄り添い、龍操士(ドラゴン・ライダー)としての技量を上げることにしか努められなかった。


 だからこそドラゴンに対する熱量は、龍の里に行ってからも更に増していた。


 ドラゴンと一体となり、空を飛ぶ瞬間が一番心通わせている時だと思っていたレオンだが、あれ以降、ドラゴン達に寄り添うことで更に見えてくることがあった。


 ドラゴンもまた人と同じように、感情が強くあるのだと。


 その考えが浮かんだ時、このドゥムトゥスを拠点としているドラゴン達はどうなるのか、西大陸のドラゴン達のように路頭に迷うのではないかと。


 だからその考えを持たせてくれたアイシアも共に守りたいと強く意思表示をしたのだ。


「殿下! 俺は未来を守りたい。これからもエヴォルドと、ドラゴン達と空を駆け、共に生きる道の未来のために。だから――」


「だ――」

「いいよ」


「!?」


 ハイドラスは、どんなに強い意志があり、覚悟があってもクルシアとの関係性を深める危険は避けさせたい。


 断ろうとしたのに、アイシアが返答した。


「マ、マルキス!?」


「殿下。こんなに一生懸命なんだし、大丈夫だよ」


 認めてもらえるよう説得していたはずのレオンですら驚いている。


「い、いいのか?」


「勿論!」


「待て、マルキス! 確かに彼らは優秀なのかもしれない。だがな……」


「優秀とか関係ないですよ。私はやる気の方が重要視されると思ってます」


「なっ!?」


 あくまで精神論だと言い張るアイシアに、思わずハイドラスは肩透かしを食らっている。


「あ、あのさ、アイシアちゃん。私達もちゃんと仕事ができる人の方が……」


「そうですよ。やはり大人の方が……」


 さすがにそれはと同行するヴィとネイも、アイシアを説得するが、


「言いたいことはわかってるもん! そりゃ確かに、実戦経験のある人達の方が信頼できるのはわかってるもん!」


「だ、だったら……」


「でも古代兵器の相手なんて、誰も経験なんかしたことないでしょ?」


 とんでもない盲点をついてきたと一同固まる。


 確かに前代未聞の事態ではあるし、歴史的にも稀有な状況であるのが実情ではある。


「あ、あのな、マルキス。そんな屁理屈を……」


「じゃあ大人なら古代兵器に恐れずに立ち向かえるんですか? 私達みたいにアレを操ってる連中に因縁があるわけではないですよね?」


「そ、それは……」


 ハイドラス達が恐れをあまり持たずに戦っていけるのは、省いていた精神論だと指摘されると、ぐうの音も出なかった。


「ダイアさんの元に集まってくれた皆さんだって、大人だからって強がってる人だって、少なからずいるでしょ? 責任がどうとかって……」


 それを言われてしまうと、集まった教師や龍操士(ドラゴン・ライダー)達も萎縮してしまう。


「俺達には覚悟が無いって?」


 勿論、反論する者も出たが、アイシアは首を横に振った。


「ううん。皆さんにも色んな想いがあって、集まってくれたって思ってます。それは覚悟や勇気を持って踏み出してくれたことだと、私は思ってます。けど……レオン君のように、しっかりと声に出して言えますか? あの古代兵器から国を守りたいって……」


「それは……」


「国を守りたいと真剣に思っていても、それを真剣に伝えようと口にするのには、相応の覚悟と強さが必要だと私は思ってます。私はレオン君のその心の強さこそ、必要だと思ってます」


 自分のことを尊重してくれるアイシアに、思わず涙が出そうになるレオン。


 それはとても嬉しいことだった。


 アイシアのことを龍の神子だと知って、あんな華奢な背中で、それに見合わない重いものを背負っているアイシアに尊敬の念を抱いていた。


 そんなアイシアからそんなことを口にされたのだ。


「止めたいという強い意志は、何より尊重されるべきだよ! 違いますか? 殿下」


「う、うむ……」


 アイシアの説得に、ハイドラスは思わず怯んでしまった。


「し、しかしアイシア殿。アレは……」


「わかってます」


 アイシアはダイア達のことも尊重するように、志願者達にも説得する。


「あの古代兵器は魔力を吸い上げてるらしい……よね?」


 ちらりとリリアを見ると、こくこくと頷いている。


「だから魔力量が少ないドラゴンや人達は、どちらにしても行けません。それは大人の皆さんも志願者の皆さんも同じです。ドラゴンとの信頼や飛行能力だけでは図れないものがあります」


 それを聞いた一同は、ざわざわと自分達の魔力量を確認する。


 レオンは強くなりたいと思って鍛錬していた影響もあって、かなり多かった。


「そして何より必要なのは、古代兵器に立ち向かう勇気や国のためとかじゃありません! 必要なのはその先の未来を見ているかどうかだと思います!」


「「「「「!」」」」」


「レオン君は言いました。龍の里のような二の舞は嫌だって。ドラゴン達と未来を歩みたいって。未来を進むことを考えられない人に、生き残れる術は無いと思っています。皆さんにはレオン君のように、未来を見据える覚悟と誇りはありますか?」


 アイシアの言葉の重み、そして精神論ではあるが、それがどれだけの説得力を持っているのか、ハイドラスにはわかった。


 アイシアは何度もクルシア達と衝突し、正直、いつ未来を奪われてもおかしくなかった戦場に身を置いていた。


 だからこそ、レオンの未来のためという言葉の強さを尊重したのだと気付く。


「……そうだな。マルキスの言う通りだ。今から我々が向かうのは死ぬかもしれぬ戦場。そこを生き抜くためには、強い未来へのヴィジョンは必要だろう。その強い意志を、私も尊重しよう」


「殿下……!」


 ハイドラスは、アイシアの肩を叩き、こくりと優しく頷いた。


「我々と共に未来を駆ける覚悟のある者は、共に来て欲しい!」


 その二人の言葉と熱意に、集まった龍操士(ドラゴン・ライダー)達も、気が引き締まる思い。


「魔力のこともある、同行できない者達もドゥムトゥスに住む者達の避難や古代兵器の遠巻きからの監視など、役割は様々だ。どうか恐れることなく、我々と共に立ち向かってほしい! どうだろうか?」


「「「「「おおおおーーーーっ!!!!」」」」」


 集まった一同は奮い立った行き場のない感情を吐き出す。


 今、この場に集まった者達が強い意志を持って、困難に立ち向かう強い心を獲得したように感じた。


 そしてハイドラスは、それを奮い立たせたアイシアの恐ろしさを知った。


 龍の神子という血を継いだ彼女の力は、ドラゴンのみではなく、人としての潜在能力もあったのだと知らされる。


 そして――、


「感謝する、アイシア」


 レオンも思い知った。


 正確には改めてが付くが、アイシアはやはり凄い女なのだと実感した。


 礼を言った時に振り向いた彼女は、先程のような勇ましさはなく、クリっとした可愛らしい女の子の仕草だったことに驚くくらいに。


「ん? ああ、気にしなくていいよ。私、本当のこと言っただけだし!」


 アイシアはふんぞり。


 ハイドラス達は苦笑いを浮かべるばかりだったが、


「さ、さすがはアイシアさんですね」


「えへへ〜。ありがとう、リア」


 リリアの様子の違いに首を傾げるレオン。


「おい。黒炎の魔術師の様子、変じゃないか?」


「それは――」


「今はそんなことはよいだろう? それより準備に取り掛かってくれ。一緒に来てくれるのだろう?」


 レオンは、他の志願者達と共にデス・フェンリルへと向かう許可が下りた。


 古代兵器デス・フェンリルへと向かうのは、魔力の多い一部の教師陣や龍操士(ドラゴン・ライダー)とレオン達の志願者達となった。


 残った者達はドゥムトゥスの避難誘導やサポートなとに徹することとなった。


「は! 直ぐに!」


 レオンは駆け足でその場を後にし、リリア達もいよいよ乗り込む準備を整えていく。


 ***


「――キャッスル・ウォール!!」


 ドゥムトゥスから数十キロ離れたところには、もう既にデス・フェンリルが近付きつつあった。


 ヴァート達の地族性魔術師団やドゥムトゥスの魔術師、冒険者などが必死で岩壁を作っていく。


「皆さーん! もう一枚張り終えたら、ドゥムトゥスの方へ戻ります。今度は町のバリケードを作りますよ」


 大まかな進路を予測して建てられたキャッスル・ウォール。


 一同の魔力消費も激しいが、デス・フェンリルの姿を視認した一同のやる気は凄まじいもので、わかったと力強く返答した。


 するとそのヴァートにアイナが降りてきた。


「ヴァートさん。殿下達が突撃準備に入ったとのこもと、こちらの方にアルビオさんが向かわれてるとのことです」


「えっ? アルビオさんは突撃しないんですか?」


「私もそう思ったのですが……。まあ殿下にもお考えがあるのでしょう」


 するとそのアルビオが、リュッカと共に飛んで来た。


「皆さん、お疲れ様です」


 フィンの風に乗って現れた二人は周りを見渡すと、無作為に巨大な岩壁を目撃する。


「こ、これだけの巨大な壁を作るのは大変だったのでは?」


「まあ、そうですけど、アレの動きを見る限りは……」


 デス・フェンリルは未だに停滞し、よろめいては走り出すの繰り返し。


 何だったら、たまに逆走しているところもある。


 そんな不規則な動きだからこそ、何十枚も疎らに岩壁を張る手間となっていたのだった。


「それにしてもあの古代兵器は、なんであんな動きを。アイナさん、原因はわかりますか?」


 観察を続けていたアイナにそれを尋ねるが、首を横に振るだけだった。


 外からでは、原因は見つけられなかったとのこと。


「あの、ヴァートさんはどうですか? 古代兵器のゴーレムってやはり扱いは難しいのですか?」


 地族性の天才魔術師であり、ゴーレムに精通しているヴァートならば、詳しい分析もできるのではないかとリュッカが尋ねる。


「そうですね。当時のゴーレムは、今のような魔石を核にするというところは変わりませんが、どちらかと言えば、人工的なモノの方が多かったと思われます」


「自然的に出来るゴーレムは少なかったと?」


「はい。なので、あのゴーレムも人間が制御する必要があるのですが、その難易度はさすがの僕もわからないですが……」


 あの質量と魔法術式が書き込まれているルーン・ゴーレムを操るのは至難の技だろうとの視線。


「それよりアルビオさんはどうしてこちらに? 殿下と突撃するのでは……?」


「すみません。僕もそのつもりでしたが、精霊達にとってアレは因縁深いものでして、大精霊様から止められてるとか……」


 アイナもヴァートも人精(じんせい)戦争について言っているのだと気付くと、納得した。


「ですので、アレに近付かない程度に皆さんのサポートに専念することになりました」


「私も力不足かも知れませんが、頑張ります」


「わかりました。ではこれを……」


 そう言ってアイナが手渡したのは通信用の魔石。


「これで私達と連絡が取れます。連携し、あの古代兵器を監視しましょう」


「「はい!」」


「そ、それで、殿下の方は?」


「ああ、はい。もうまもなく準備が整うはずです。アイシアさんを先頭にあの古代兵器に突撃をかけるそうです」


「突撃か……」


 ちらりと古代兵器を見るが、アレに突撃というのは中々勇気がいると身震いするヴァート。


 するとそのデス・フェンリルに異変を感じた。


「あ、あれ?」


「どうしました?」


「あ、あの……こっちに真っ直ぐ向かってきてませんか?」


 わなわなと震えた手つきで指を差すヴァートのその意見は当たっていた。


 こちらを威圧するような遠吠えを上げながら、向かってくる。


「――全員! 全力で撤退!!」


 キャッスル・ウォールを張っていた一同も中断して、デス・フェンリルの侵攻方向から逃げようとするが、人間の足と巨大な獣型のゴーレムでは速度が違い過ぎて、回避は難しい。


「――メルリア! アルヴィ! 城壁魔法展開!」


「し、しかし……」


「あの……」


「このまま突っ込まれたら大精霊が恐れる、君達の消失になるんだろう? だったら食い止めなくちゃダメだろ!? 急いで!!」


「わ、わかりました!」

「お、おう!」


 二人の精霊を奮い立たせ、キャッスル・ウォールを破壊しながら走ってくるデス・フェンリルに、


「――キャッスル・ウォール!!」

「――フリージング・ウォール!!」


 ヴァート達が作ったキャッスル・ウォールよりも強固な岩壁と氷の壁と、デス・フェンリル一帯がバキバキと凍り付いていく。


「皆さん! 今のうちに逃げて!」


 そう叫ぶが魔法使い達の様子がおかしい。


「は、はあ、はあ……」


「アルビオさん! あの人達、あの古代兵器に近付き過ぎて、魔力を吸われてるんじゃ……」


 急激な魔力低下は身体能力にも過度な負担を与えるものとなる。


 逃げ遅れた魔法使い達は、その餌食となってしまったのだ。


 その場でヴァートの部下や協力してくれているドゥムトゥスの魔術師、冒険者達も倒れていく。


「くっ……!」


 駆け出そうとするアルビオだが、


「待って下さい、アルビオさん! 下手に向かうと私達まで被害に遭います。ここは抑えて……」


「リュッカさん……! しかし……」


 するとこちらに何か駆け出してくる存在があることに気付く。


「何だ? 魔物……?」


 突撃を駆けるドラゴンの部隊かと思い、空を見上げるが、その影はない。


 すると――アルビオ達の横を瞬時に横切る風が吹いた。


「な、何だ!?」


 するとその影は、次々と倒れている魔法使い達を回収する。


 そして――、


「これで良かったかのぉ?」


「あ、貴女は――獣神王!?」


 そこには銀髪の狐耳の幼女がいた。


「うむ! 久しいのぉ」


「ど、どうしてここに……?」


 ポカンとするアルビオ達を見て、ケラケラと楽しそうに笑う。


「なぁに。主の王子の側近共からヴァルハイツに連絡が来てのぉ。ワシなら力になれるだろうと単身向かったというわけじゃ。しかし……」


 獣神王はちらりとデス・フェンリルを見る。


「あの愚か者のゴーレムについで、獣のゴーレムとは……ワシはつくづくゴーレムに縁があるようじゃのぉ」


 やれやれと呆れ果てた。


 ヴァート達は初対面。紹介をしてほしいと視線を促されると、


「この人は原初の魔人のひとり、獣神王様です」


「うむ!」


「獣神王様ほどの魔力の持ち主ならば、あの古代兵器に近付くことも多少なら問題ないってことです」


 ついでに素早く動くことができる獣神王ならば、魔力の吸収の影響もかなり少なくて済む。


 救出するだけならば問題なかったようだ。


 原初の魔人と聞いて、アイナもヴァートも言葉を失う。


「むっ。主ら呆けておる場合ではない! とっととこの連中らを避難させい! あのゴーレム、魔力を相当吸い上げておるぞ」


 メルリアの氷結で動きが止まっているデス・フェンリルだが、魔力の吸収は続いているようで、一帯の魔力と地脈の魔力を吸い続けているようだと話す。


 すると、


『リュッカ? そっちはどう?』


「! シア?」


 アイシアから通信用の魔石に連絡があった。


『古代兵器さんが止まってるみたいだけど……?』


「そうなの。古代兵器に動きがあって、そっちに向かうみたいなの。アルビオさんの起点とヴァートさん達の岩壁で侵攻は止めてますが、そっちの準備は?」


『バッチリ! 今から向かうところ!』


 そう言うと通信先から雄叫びのような声が聞こえてきたと同時に、


『ひゃう!?』


「リリアちゃん?」


『ご、ごごご、ごめんなさい……』


 アイシアの側にはリリアもいたようで、雄叫びに驚いてしがみついたと話す。


「リリアちゃん、大丈夫?」


『は、はい。み、皆さん、こんなに頑張ろうとしてるんです。じ、自分が一番頑張らないと……』


「……あんまり気負い過ぎないでね」


 すると今度はハイドラスが連絡。


『こちらは今から突撃をかけ、古代兵器に侵入する。状況を説明してくれ』


「は、はい! 只今、精霊達の魔法とヴァートさん達の岩壁により、古代兵器は停止中。しかし、魔力の吸収は続いている模様。それと獣神王様が合流なさいました」


『そうか! 来てくれたか!?』


「うむ! 来ておるぞ。何じゃ? またゴーレムの破壊を手助けすれば良いか?」


 リュッカを押し除け、ずいっと提案するも、


『いや、獣神王殿。貴女ほどの魔力の持ち主の魔力を吸収させるわけにはいきません。貴女の移動速度ならば救援などの援護も可能なはず。そちらに専念していただきたい』


「むっ。つまらんのぉ」


『そう仰らないで頂きたい。緊急時には戦ってももらいます。我々にとって、その古代兵器は未知ですから、念を取りたいのです』


「わかった。好きにこき使うがよい。娘からもそちらの指示に従うよう、言われておる」


『恩に切ります。――ではナチュタル、我々はこれから古代兵器に向かう。アルビオやアイナ達に援護求むと伝えよ』


「りょう……っ!?」


 ドカーンっとアルヴィが作った岩壁が豪快に破壊される。


『どうしたの? リュッカ?』


「わ、わかりま――!?」


 その破壊された土煙から、ゆらりと人影が現れた。


「…………バザガジール」


『!? 何だと!?』


 そのバザガジールがアルビオ達の元へ歩いていく。


「いやぁ、随分と派手なアトラクションを用意して頂けたようで……非常に目障りです」


 バザガジールは高層ビルほどの岩壁を次々と破壊しながら、こちらへ向かってくる。


 デス・フェンリルの道を作るために、降りてきたのだと判断したアルビオ。


「――殿下! 直ぐにでもあのゴーレムへ! バザガジールは僕が食い止めます!」


『わかった! 任せるぞ!』


 そう言うと通信が切れた。


「さて、みんな。あのゴーレムが相手できないなら、こっちで頼むよ」


「へっ! そうだな。何だかんだカッコ悪いところ見せちまったが、アイツとの決着なら格好もつくだろうぜ!」


 フィンは顕現して、やる気アピール。


 他の精霊達も真っ直ぐにバザガジールに視線を向ける。


 だがもう一人やる気に満ちている者がいた。


「あの狐目が相手か。まったく……退屈せんのぉ」


 パキポキと指を鳴らすが、アルビオがバッと視界を遮る。


「ぬっ!? 主っ、何のつもりじゃ!?」


「獣神王様。ここは僕に任せて下さい」


「なっ!? 何を言うておる!? 彼奴がどれほどの強さなのか、主も知っておろう?」


「はい」


「ならばワシの力は必要じゃろうが!」


「いえ、それには及びません」


「な、何っ!?」


 ハッキリと言い放たれ、獣神王は驚愕。


「き、貴様! 自惚れはよくないぞ! 確かに主は強く……」


 アルビオに文句を言うつもりだった獣神王は、魔力感知で魔力量を測った。


 するとその量、質、循環率が出逢った当初より飛躍的に向上していたことに言葉を失った。


「ぬ、主……」


 するとその驚愕する獣神王の肩を、リュッカは叩いた。


「大丈夫です、獣神王様。アルビオさんは大丈夫です」


「いや、お主まで何を言う……」


 獣神王が振り向いてみたリュッカの表情は、信頼と心配が入り混じったような複雑な表情をしていた。


 アルビオのことを信頼はしているが、心配もさせて欲しいと言いたげな表情。


 するとアルビオはその心配を拭うためか、言葉を残す。


「リュッカさんは出逢った頃に、僕にアドバイスしてくださいましたよね? 先ずは自分のことに専念して、やりたい事を見つけて欲しいと……」


「はい」


「僕はその言葉で、自分がしたいことを模索しました。そんな中でやはり思い付いたのは、勇者ケースケ・タナカがしていた人助けでした。最初こそ力不足も目立ちましたが、少しずつ、なりたい自分に近付けている実感があります」


 するとリュッカは微笑んで尋ねた。


「なりたいものは見つかりましたか?」


「はい! 僕は――勇者になりたい。ケースケ・タナカのようなではなく、僕自身が望むかたちの勇者に……」


「望むかたち……?」


 そこを聞かれると少し困った顔をしたアルビオ。


「いや、その辺りは具体的には決まってないんですけど、僕はケースケ・タナカではありません。だからケースケ・タナカのような勇者にはなれない。だから、きっと……僕が正しいと思う行動で誰かを助けているうちに、答えが出てくるんじゃないかと思いまして……」


 その望むかたちというのは、アルビオにとっての充足感、達成感からくるものではないかと思ったリュッカ。


 なりたいものの理想は人それぞれ。


 アルビオの理想とする勇者像は、きっとケースケ・タナカではあるだろうが、理想に近付くことはできても、理想にはなれないと知るアルビオに、リュッカは嬉しそうに微笑んだ。


「そうですね。アルビオさんだけの勇者のかたち、きっと見つかりますよ」


「ありがとうございます。……そこで一つ、お願いなんですけど……」


「何ですか?」


「その一歩を見届けてくれませんか?」


 もう目の前まで来ているバザガジールに視線を向けながら、リュッカ達に背を向けた。


 その背中には覚悟が背負われていることを物語っていた。


 だから、見守ることを願われたリュッカの答えは一つしかなかった。


「はい! 頑張って下さい!」


 不安はいつの間にか消えていたリュッカは、笑顔でアルビオを見送った。


 そしてそのアルビオは、バザガジールとの決着に足を進めるのであった。

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