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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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17 改めて自己紹介

 

「皆さ〜ん!! 心配しましたよ〜!!」


 あの激闘を終え、アイシア達はぴょんぴょんと飛び跳ねるテルサに迎えられ、寮へ朝帰り。


 意味深だねぇと冗談混じりに揶揄(からか)うユーカに出迎えられるも、なんだかんだ心配してくれたようで、扉付近にいる付き合わされたであろうタールニアナが眠そうにもたれている。


「テルサちゃん! ただいま!」


「ちゃん付けはやめなさいと言いたいところですが、昨夜のこともありますし、とやかく言いません。大変でしたね」


「ホントにね。もう向こうからエグい魔力は感じるわ、衝撃音は響くわで、寮のみんなも驚いてたんだから。空見たらポチやドラゴンは飛んでるわ、魔法は発動するわでもぉー」


 ユーカは昨夜の出来事を身体全体を使ったジェスチャーで表現。


 学園区で行われた戦闘ではなかったにも関わらず、やはりかなり広範囲で認知されていたことを改めて理解する。


「ああ、それと学園長から言伝がありますよ。今日はとりあえずお休み下さいとのことです。事情は明日改めてとのことです」


 学園長もある程度はハイドラスから話はされているだろうが、ハイドラスは多忙の身。事情はこちら任せになっているのだろう。


「それは助かりますわ。私達、もうクタクタで……」


「寝る……」


 アイシア達はあのクルシア達との戦闘の後、軽い事後処理の後に、今後の話し合いをして戻ってきている。


 完全に徹夜状態での帰還に、いつも元気なアイシアも目元がしょぼしょぼしている。


 ナタルとフェルサが先に寝ると、重い足取りで寮内へ入って行くと、


「じゃあ私達もひと眠りしようか」


「え、えっと……う、うん」


 リュッカはちょっと困ったように返事をした。


 何故困っているかというと、まだ眠るには少しかかりそうだと思ったからだ。


「あの……大変お疲れのところ悪いのですが……」


「ふわぁ……何? テルサちゃん」


「リリアさんはどうかされたのですか?」


 テルサが指差す方向には、丸くなって蹲り、リュッカに強くしがみつくリリアの姿があった。


「い、痛い。痛いから、リリアちゃん」


 しがみつくその手はリュッカの腕に爪を立てるように握っている。


 ガクガクブルブルとかなり怯えた様子に、尋常じゃないと、さすがのユーカも揶揄(からか)えずにいた。


「あのさ、大丈――」


「ひいっ!?」


 ユーカが少し近付いただけで、ビュンと草陰に逃げ込んだ。


「……さ、さすがに傷つくんだけど……」


「す、すみません……」


「どうしたんですか? いつものリリアさんとはまるで別人のようですね?」


 そう言いながらそっと近付くテルサ。


「リリアさん。昨夜、何かあったのですか? 私で良ければ――」


 シュバっと再びリュッカの元へ。


 すると、


「……わ、私、何かしましたか?」


 ぐすっと悲しそうな涙目でテルサはショックを受ける。


 その様子にアイシアとリュッカも困ったように笑う。


「大丈夫だよ、リリアちゃん。みんな優しいから……」


「そうだよ! リリアちゃんなら大丈夫!」


「学校怖い、学校怖い、学校怖い……」


 リリアは念仏でも唱えるように、『学校怖い』を連呼し続ける。


「ねえ? 本当に別人になったんじゃない? さすがにおかしいよ」


 タールニアナの指摘に二人も納得。


 いつものリリアに比べると、もはやその態度や性格に天地の差を感じた。


 記憶喪失とか、別人とか言われても納得できてしまうほどに。


 勿論、アイシア達も隠し通せるものだとは思っていないため、説明をするつもりだが、


「とりあえずひと眠りしてからでもいい? その後ちゃんと話すから」


「そ、そういうことでしたら……」


 不安は残るがと見送るが、リリアは一向にリュッカから離れようとしない。


「リ、リリアちゃん。リリアちゃんの部屋はシアと同室だから……」


 するとリリアはぶんぶんと首を横に振ると、


「三人で……寝よ?」


「おっ? いいね! そうしよう!」


「いや、狭くなるから……」


 テルサ達はその様子に違和感を感じながら、三人を見送ったのだった。


 そして――、




「「「別人だった!?」」」


 約八時間の睡眠の後、リリアについて説明を行った。


 だが異世界の説明をするとややこしいし、あまり知られてもダメなので、そこを省いてこう説明した。


 今の本物のリリアがとある魔法を使ったのだが、その魔法が失敗し、他大陸の別人と入れ替わったのだと説明した。


「なるほど、ではこちらが本来のリリアちゃんというわけですか……」


 モクモクと食事を口に運ぶリリアを見ながら、口を半開きにし、驚くテルサ。


「まあここまで性格が違うとまあ納得できるけど、じゃあ今までいたリリアちゃんはどこのどちら様?」


「それに今までのリリアちゃんは元の身体に戻ろうとする様子はなかったように見えましたが、どうなのでしょう?」


 鬼塚のことを聞かれてギクリとする一同。


 ユーカとテルサの言うことは尤もである。


 この世界の人間であれば、巻き込まれた側は元に戻りたいと考えるだろう。


 入れ替わった者が両方とも自分の人生に嫌気が差していると考える方が不自然だった。


 異世界人だったこともあり、簡単に戻ることが出来なかったと説明するわけにもいかない。


「そ、それはですね……」


「とりあえず入れ替わってみると楽しかったんだよ!」


 ドンっとアイシアが自信満々に言い放つ。


「シ、シア?」


 そんな言い訳が通用するわけないだろうと思っていたのだが、


「なるほど! 確かに私もすらっとしたお姉さんに入れ替われたら、楽しんじゃいそうですねぇ〜」


「確かに。私もナタルちゃんに入れ替われたら、はっちゃけて遊びそう」


「――私の身体で何をするつもりですの!」


 意外と納得してくれたようで、ホッとひと息。


「というわけですので、彼女は色々とわからないことだらけですので、そのあたりよろしくお願いしますわ」


「そうですね。それなら、私達にもあれだけ怯える理由にも納得が――」


「ひっ!?」


 テルサが立ち上がると同時に、リリアもビクリと反応し、横にいるリュッカにしがみつく。


「リリアちゃん、まるで猫だね」


「つ、掴まれる私は驚くし、痛いしね」


「あ、あの……私が傷つきますので、そんなに怯えないで下さい」


 ビビり過ぎだろと、事情を知るナタル達ですら呆れる始末。


「そんなに怖がらなくても大丈夫ですわよ。何がそんなに怖いんです?」


「が、学校……」


「学校?」


 するとリュッカがナタルに耳打ち。


「話によれば、リリアさんが自殺未遂を繰り返していた原因の一つに学校での嫌がらせも含まれていたようですから、心の傷(トラウマ)があるのではないですか?」


「なるほど……」


 学校での人間関係を上手く形成できず、リリアの容姿から男子からは好奇の眼差し、女子からの嫉妬を受けることも少なくなかっただろう。


 そこからの被害妄想の激しく、下手に頭の回転が早いリリアにとって、学校は恐怖の場所となっているのだろう。


 それに関連する施設の人や先輩なんかもその対象に入ると考えれば、これだけ怯えることにも説明がつく。


 とはいえ、このままでもいけないわけでもある。


「ねえ、リリアちゃん。学校怖いの?」


 アイシアが子供でもあやすように尋ねると、こくりと頷いた。


「そっか。私が初めて会ったリュッカもそんな顔してたよ」


「!」


 リュッカも解体屋の娘ということもあり、気味悪がられていた。


「でも今のリュッカを見てみて。みんなと仲良しでしょ? それってリュッカが変わろうと思ったから変われたんだよ」


 そう言ってくれるアイシアに、思わずリュッカは照れ臭そうに笑った。


 アイシアは自分で変わろうとしたと話しているけれど、本当はアイシアのおかげで変われたんだと感謝するように微笑む。


「リリアちゃんも、変わろうって思ってるでしょ?」


「う、うん……」


「だったら大丈夫! リリアちゃんも変われるよ! みんなとも仲良くなれる! ね?」


 普段のリリアならそんな精神論に意味を問うところだが、不思議とアイシアのその根拠のない言葉には力があると感じた。


 それをわかってか、ナタルがそのない部分を補うように説得する。


「そうですわね。それにテルサさんやこの先輩方は貴女と仲良くなりたいと思って、話しかけてきているのです。それを頭ごなしに怖がるのは失礼に値するのでは?」


「うっ!?」


「それに貴女がそんなに弱々しい態度をとっているから舐められるのでは? もっと堂々としていれば周りは自ずと貴女を認めるようになり、悲観するようなこともなくなるはずでは?」


 だがナタルの物言いはリリアの苦手なタイプだったこともあり、


「ふうぅ……」


 涙がじわっと出てきたリリアは、ぴゅーっとリュッカの後ろへ隠れる。


「いちいちメソメソしませんのっ!!」


「まあまあ……」


「リュッカさんもあまり甘やかしてはいけません! 貴女の後ろを逃げ場だと思ってるじゃないですの!」


 その後ろではアイシアもよしよしと頭を撫でて甘やかしていると、


「貴女もですわよ! アイシアさん!」


「えっ!? はーい」


「まったく……そんなので魔法陣の完成などできるのですか?」


 するとリリア、恐る恐るリュッカの影から返答。


「は、はい。術式公式はもう出来てますので、あとは実践的に魔法を行使する際の魔力調整くらい、です」


「ま、魔法陣の構築は出来ていると……?」


 リリアはこくこくと頷いた。


 いくら失敗した魔法陣の改良を行うくらいとはいえ、異世界へ行く魔法の構築となると、複雑な魔法陣を用意しなければならない。


 それを出来ていると公言されると、これ以上の言葉は出なかった。


「なら後は発動のタイミングだけ?」


「は、はい。デュークさん達のことを考えると、いつ発動しても変わらない気はしますが、一度しか発動しない予定なので……」


 こちらから鬼塚とデューク達の接触があったかを知る手段はない。


 だからタイミングは完全にこちら任せなのだが、


「そのタイミングは殿下がお決めになるので?」


「い、いえ。違います」


 その点に関してはハイドラス達と詳しく話していたところをアイシア達は出ていきながら見ていた。


「そのタイミングは……あのクルシアさん次第です」


「はあっ!? 何で奴の名前が出てきますの?」


 リリアは今は語れないのか、リュッカの後ろに隠れ、そっとナタルの顔色を窺う。


 何やら作戦があるのだろうと、納得のため息を吐く。


「わかりましたわ。そのあたり、必要となれば話して下さるということですわね?」


「は、はい……」


「なれば……!」


 ズカズカとナタルはリリアを引っ張り出す。


「ひい!?」


「その根性、少しはマシにでもしないと、クルシアの前ですくむことになりますわ。学校くらいで怯えている場合ではありません!」


「や、やあっ!」


「嫌ではありませんわ!」


 するとリュッカ、提案。


「ならこれから学園長達に報告に行きませんか? 今日は休んでいなさいとのことでしたが、リリアちゃんの件を相談しなければいけないし、今後のこともね?」


 これからリリアはこの勇者校に通うわけだからと提案された。


「そうですわね。もう十分寝ましたし、まだ学園長方もおられるでしょう」


「ほら、リリアちゃん。大丈夫だから、一緒に行こ?」


 スッと差し伸べるアイシアの手を頷きながら取った。


 ナタルはしっかり人を選んでるなと、眉間にシワを寄せる中、ユーカが疑問を投げかける。


「そーいえばさ、リリィって呼ばないんだね?」


「あー……あれは鬼塚リリア(リリィ)の呼び方だからね」


「は、はあ……」


 でも指摘された通り、こっちのリリアにあだ名を付けないのは失礼だと考えたアイシアは、


「よし! こっちのリリアちゃんにもあだ名を付けよう!」


 出たっとナタルは呆れ笑い。


 自分もナッちゃんと付けられている。断ったのに、結局呼ばれてるしと、半ば強制的に呼ばれることになると苦笑いしたのだ。


「あ、あだ名だなんて、わ、私……」


「私達、友達なんだからいいの」


「と、友達……」


 友達と呼ばれることになれないリリアは、恥ずかしそうに俯いた。


「リアちゃんでどう?」


「捻りもありませんわね」


 リリアから頭のリを抜いただけなのだから、当然の言われよう。


「あだ名なんてそんなもんだよ。私だってシアとかアイちゃんとかだよ?」


「えっと……」


 聞き覚えのないあだ名について、リュッカに視線を送る。


「シアは色んな呼ばれ方されてたけど、基本はアイシアのアイかシアのどちらかが多かったかな?」


 ちなみにリュッカはシアを選択。


「それにリアちゃんとシア。なんか姉妹っぽくない?」


「アしか会ってないのに、なんですのそれ?」


「そういうのがいいんだって!」


 そんな何気ない会話をジーッと見ているリリア。


 自分はその光景を遠くから眺めているだけで、誰とも関わろうとはしなかった。


 でも鬼塚の身体になって、色んな人達の側にいる安心感や楽しさを少しだが学ぶことが出来たリリアは、


「ん? リリアちゃん?」


 ガシッとアイシアの袖を引っ張って立ち上がる。


「リ、リアでいいよ。わ、私、頑張る!」


「……! うん!!」


 自分もその輪の中に入っていけるんだと意気込む。


 こうして学園長達にリリアのことを説明に行ったのだが――。




「む、無理です……」


「無理とは何です? オルヴェール」


 そこには威圧感の激しいマーディが立ち塞がっていた。


 学園長の元を訪れたアイシア達は、学年主任のカルバスと副主任であるマーディと話し合いの場を持たれた。


 そこでアイシアがマーディを担任の先生と紹介したのだが、リリアは腰を抜かしたようにカクカクとアイシアに全身しがみつく。


「こ、怖い……」


「わたくしからすれば、あんな影魔法を使える貴女の方がよほど恐ろしいです」


 その意見には学園長もカルバスも、ごもっともといった表情。


 生徒を預かる身としては、昨日の事件を遠くからでも様子見していた先生方。


 戦っているのも生徒だとわかっていたから、アイシア達には休めと指示も出していた。


 そんな中でも大人顔負けの活躍をしてみせるアイシア達、特に昨日のリリアには先生方も怒ることも呆れることも通り越し、もはや感心の領域まで到達した。


「それで? リリアは大分様子が変わっているようだが……」


 するとハイドラスからある程度の事情を聞いている学園長から話す。


「どうやら彼女は、本物のリリア・オルヴェールらしい」


「「は?」」


 本物と言われてもピンと来ない二人。


「ほれ。入試試験の時にやたら優秀な娘がおったろ? 銀髪の美人さんに引っ張られておった……」


「ああ、あの時のフードの娘ですか。確か受験者はリリア……」


 二人はビクッと怯えて反応するその動きに覚えを感じた。


「えっ? まさか本当に……?」


「そのようですわね」


「殿下からお伺いした話では、彼女の魔法暴発による事故が原因とのことじゃ。今まで別大陸の人間として生活していたようじゃ。そうじゃろ?」


 リリアはこくこくと頷く。


 学園長にすら異世界の話はやはりされていない。


「それで私達はこれからのリリアちゃんについて相談できればと……」


 三人は腕を組んで少し考える。


「まあ元々、本物のリリアちゃんは合格ラインにはいたんじゃ。学校にいる分には問題ない」


「ですが急に別人だなどと生徒達が混乱しませんか? 特に本人……」


「まあ、本人以外は案外問題なさそうですがね」


 ギロっとした鋭い目付きのマーディに、リリアは怯えるばかり。


「彼女自身、学校に対してあまり良いイメージがないようで……。ですが、このままでもよくありませんから、相談に……」


「なるほどのぉ。確かにわしらの領分じゃのぉ」


 学校がただの学び舎でないことを教え正すことが先生の役割であると、学園長らはリリアを見る。


 入試の時からも嫌がっていた姿を見かけてはいた。おそらく故郷での教育現場でなにかしらがあったと考えるべき。


 リンナに尋ねたこともあったが、カラッとした彼女の性格からか、返答は大丈夫ですからとのことだけだった。


 先生とはいえ、あまり踏み入り過ぎることは良しとはされない。


 あくまで先生は家族ではないからだ。


 けれど困っている子供達を、頑張っている子供達を応援し、教育し、見守ってやることは先生の務め。


 何せアイシア達はクルシアなどという危険人物と関わっている。


 それに関して、何もできずにいる自分達が歯がゆいとも考えるが、その結果で戻ってきた彼女を何とかして欲しいと頼ってくれるなら、力になりたいと考える。


「殿下から聞いたが、彼女はこれからあのクルシアとやらを止める役割を担うとか……」


「はい。私達も来るべき時が来れば……」


「わたくし達からすれば、それも止めたいところですが、あの事態を目の当たりにされてしまうとね」


 マーディは何時ぞや、魔人マンドラゴラに荒らされたナタルの故郷に行くことを止めていた。


 だが彼女達の急激な成長と変わりゆく環境の変化に、先生達がついていけなくなっていた。


「貴女達は少しでもオルヴェールを馴染めるようにしたいというわけですね?」


「はい」


「なれば特に対策などしなくてもよろしいのではないかしら?」


「えっ? それは何故?」


「貴女達と彼女の間に信頼関係が築けているのではないのですか?」


 マーディはリュッカやアイシアの側を離れないリリアを見て、そう語った。


「貴女達はあのクルシアという犯罪者の問題に着手したことで得た、強固な信頼関係があるのでは? それは以前のオルヴェールでなくとも、彼女自身も同じ問題に着手するものとして信頼しているのでは? そのような関係になっているのなら、貴女方と学校に通っているうちに恐怖心など消えますよ」


「鬼教官……」


 フェルサのその一言に、ガシッと頭を鷲掴み。


「おや? 教師として当然の指摘をしたはずなのですが、褒められている気がしませんねぇ……」


「お、おお……」


 フェルサとマーディが戯れついている中、今度はカルバスが語る。


「マーディ先生の言う通りだ。君が学校を怖がってしまった理由は人間関係ではないかな?」


「は、はい」


「だがそれを解決してくれるのも、また人間だ。人は誰かと関わって生きていく。それは絶対であり、逆らえないことだ」


 リリア自身も自殺しようと考えなくなったのも、隆成達が側にいてくれたことにも起因していた。


 そして異世界のあれだけの環境が整っていても、必ず人と関わることを知っている。


「アイシア達は君を虐めたりなんかしないだろ? 君のためにどうにかならないかと相談に来るほどだ、きっと君のことを大切にしてくれる」


 それは言われずとも感じとれたことだった。


 みんな優しく微笑んでくれる。


 厳しく接する一部の人を除いて。


「もう一度だけでいい、頑張ってみないか? 辛かったり、嫌な気持ちになったら、アイシア達や先生達に助けを求めたっていい」


「で、でもそれは、鬼塚さんが……」


 リリアからすれば、鬼塚が作ってきた関係を奪っているのではないかと後ろめたい気持ちがあった。


「オニヅカというのが、君の中にいたリリアなんだな? 確かに彼女が作った関係ではあったかもしれない。けれどその作った関係をわざわざ壊す必要はないだろう。むしろ自分の可能性を教えてくれたと受け止めればいい。友達を作るのが苦手そうなお前を、助けてくれたのだと考えればいい」


「そうじゃとも。巡り巡るのが人の世じゃ。どんな因果も意味を持つもの。君とオニヅカという者が入れ替わったことにも、なにかしらの意味があったのかもしれん……」


 もし、その意味があるのだとすればリリアの場合は、改めて人との関わりの大切さを学ぶことだと考えた。


 リリアは自分を怖がらせる周りを常に怯えて見ていた。


 憶測や偏見、父親からの抽象的な妄言などを真に受け、自分が弱いのだと誇張し続けてきた。


 だから自分は変わりたい、頑張りたいと思ってここにいる。


「わ、私……頑張って、通って……みます」


 ゆっくりと答えたその一言に、一同は笑った。


「うむ。無理せずに頑張るのじゃぞ」


 だが鬼塚が入れ替わったことによって、鬼塚が変わったことは何かあったのだろうかと過ったリリア。


 これだけの友人を作ることができ、クルシアのような危険人物と渡り合える器量を持っていた人に、こちらへ来た因果は何かあったのだろうか。


 あるならば勇者ケースケ・タナカのような、この世界に何かしらの影響を与えるために来たのだろうかと考える。


「鬼塚さん……」

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