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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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05 異世界人の通り魔?

 

「――って感じかな?」


 隆成はその後、リリアの様子を頻繁に確認しつつ、現代知識を身につけさせて、立派な引きこもり(ヒッキー)にさせたとのこと。


「……」


「まあ言いたいことはわかるけどさ、リリアちゃんが思いの外、卑屈でさ……」


「まあわかるけどさ。俺もリリアの遺書見て、性格はある程度理解してたし……」


 遺書と聞いて、三人は苦笑いを浮かべた。


「それで? お前の方はどうだったんだよ?」


 三人はまだ俺が戻ってきた経緯を知らない。


 土産話でも期待するかのように、ワクワクした視線を送られるが、俺の心境はそんな気分ではない。


「俺がここに来た理由は他でもない。向こうの世界に戻るためだ」


「「「!?」」」


「リリアの話を詳しく聞いていたお前達なら、父さん達より知ってることがあるんじゃないかって思ってな」


 すると大介と慎一郎は、下心があるんじゃないかと叫ぶ。


「やっぱり女の子の身体が良かったんじゃないかあ!!」


「人のことを散々むっつりスケベと言っておきながら、勝平君が一番むっつりスケベじゃないか!!」


「理由があるんだよ! 理由が!」


 隆成が二人をどうどうと抑え込むと、俺は理由を語る。


「俺がここへ戻ってきたのは、俺が望んでじゃない。敵の攻撃によるものなんだ」


「敵……?」


「お? なんだか面白くなってきたな」


「馬鹿言ってんじゃねえよ。こっちは本気(マジ)の話なんだ」


 そう真剣にツッコむと、俺はクルシアの策略にハマってしまったことを説明した――。


「……」


「と、とんでもない奴ですね。そのクルシアっていう方」


「ああ。クルシアの野郎のことだから、きっとこっちへ来る手段を講じてくるはずだ。そんな奴のところに事情も知らないリリア本人が飛ばされたんだぞ。どうにかしなきゃって思うのが普通だろ?」


 先程まで浮かれ気分だった大介と慎一郎も、真剣な表情へと変わる。


「それで? そう言うからには元の……っていうか向こうに行く目処はついてるのか? こっちからは難しいってのはわかってるだろ?」


「ああ。だけど一人だけ、俺とリリア以外の方法で異世界に転移した人物が向こうにいたんだ」


「何?」


「『たなか けいすけ』って奴が向こうで勇者として活躍した歴史が残ってる」


「つまりかっちゃんは、その『たなかけいすけ』の足跡を辿りたいわけだ」


「その通り!」


 俺は指パッチンして正解と宣言する。


 というよりは手掛かりがそれしかない。


 すると大介と慎一郎も異様にやる気を発揮する。


「よっしゃ! じゃあ探しますか! 手掛かり!」


「そうですね。僕も腕がなります」


 どんな腕がなるんだよ。


「つーか、急にやる気出したけど、どうせ自分達も異世界に行ければいいなくらいに考えてんだろ?」


「――当たり前だろ!! そんな夢みたいな現実世界があるってわかったら、行きたくなるのが心情だろ!」


「そうですとも。そんな経験、中々できませんからね」


「本心は?」


「「異世界魔法使いの女の子とお近付きになりたい!!」」


「……」


 まあ男としてその下心はわからないでもない。


 実際、リリアを始めとする女の子達はみんな可愛かったしな。


 個人的には戻ったら、どんな非難の目を浴びせられるか、わかったもんじゃないが。


「まあ確かに、魔法使いのお姉さんとか興味あるかも」


「た、隆成。お前まで……」


「だって一人だけ、すげー冒険してきたなんてズルいよな?」


「「なあー」」


「それにそんな話聞いちゃあ、何とかしたくもなるだろ」


 あくまで適度な緊張感を持たせつつ、俺の話をしっかりと受け止めてくれた。


「ああ。あっちの俺の友人を救うためにも頑張らなくっちゃ!」


「「「……」」」


「な、なに?」


「……お前、やっぱりリリアってことはないよな?」


「――たまに出る女みたいな発音は見逃せ!」


 そんなこんなで情報をまとめることにした。


 幸い、三人共、異世界モノを読んでいたおかげもあって、話は割とスムーズに進んだ。


 先ず、こっちで隆成達にリリアが言っていた通り、こちらは魔力が無いのか、もしくは俺達の身体が魔力を感じないのか、どちらにしてもこちらからのアプローチは難しい。


 先程も言った通り、『たなかけいすけ』の足跡を辿る以外に、干渉できる可能性は少ない。


 次に、向こうからの干渉方法だが、基本的にリリアが作った誤爆魔法陣、もしくはクルシアが改良したリリア式魔法陣以外に、こちらへ干渉することはできない。


「つまりは向こうからの干渉が無いと実質、向こうには行けないか……」


「じゃあその『たなかけいすけ』の情報はどうなんだよ? かっちゃん」


「ああ。『たなかけいすけ』は向こうでは、ケースケ・タナカって呼ばれてた人物で――」


 向こうでの体内魔力、属性の話をした上で、俺が知るケースケ・タナカの情報を全て話す。


 ケースケ・タナカ。


 体内魔力はおそらくアルビオ同様、アンノウン。属性も同様に全属性。更には精霊の最上位にあたる大精霊達を従え、世界をまたにかけた人物。


 各大陸の戦乱を止めて回り、異世界の技術もいくつか残している。


 北大陸では汽車やトロッコ。西大陸では六つの属性の武器を残している。南大陸では今は亡き、エルフの族長とも面識があり、東大陸では全土での活躍を誉れとして語られている。


 東大陸では自分の生涯を(つづ)った日記を残しており、自分と同様に異世界転移、転生した人物へのメッセージとして残した節があり、子孫も残している。


 その末裔にシモン、デューク、アルビオがいる。


 その能力を色濃く遺伝した人物がアルビオであることも説明した。


 後、補足としてランジェリーショップなどのことにも提言していた節があり、それには心の傷(トラウマ)を抱えたが、それはさすがに内緒にした。


「――それでこれらの出来事は約二百年くらい前だそうだよ」


「二百年前……伝説として語られるわけだ」


「それで、この世界と向こうの世界の時間軸にそこまで大きなズレがないことから、二百年前に行方不明になったって記録されてる『たなかけいすけ』って人物がいないかを探したい」


「なるほどな。最後の目撃場所がわかれば、その付近で神隠し的な何かが起こって、異世界転移が発生したと考えられるわけだ……」


 そうとわかればと、慎一郎はスマホを素早く(いじ)り始めた。


「僕はネットのオタ友達から情報を集めてみるよ」


「じゃあ俺は父さんの知人に警察官がいたはずだ。ちょっと頼んでみるよ」


「……お前の父ちゃん、すげーな」


 今やネット社会のこの現代。


 情報の取得にはそう時間はかからないが、行方不明となると、警察官の情報の方が信憑性がありそうだ。


 実際、慎一郎達からは要らない情報も多かったが、数人だが『たなかけいすけ』の情報はあった。


「むー……鉄道会社に勤めてた人物に、『田中』って人物の名前があるって書かれてる」


「マジ?」


 俺は慎一郎のスマホを覗き見ると、そこには古い写真の画像が映し出されていた。


 社員の写真だろうか、小さく『田中』と書かれた名札を付けている人物が並んでいるのが見えるが、古い写真のせいか、顔がはっきりわからない。


 アルビオの顔立ちを知る俺としては、その顔写真が写っているのは、かなり貴重な情報。


 もしアルビオそっくりなら、その鉄道会社に話を聞きに行きたい。


「おい、かっちゃん」


「どした? 大介」


「一応、行方不明者が出る心霊スポットを検索かけてみた」


「うえ……」


 大介は隆成からパソコンを借りて、『たなかけいすけ』が行方不明になった可能性のある場所を探していた。


 パソコンの画面には、明らかに行くなという雰囲気がプンプンと(まと)った写真が並んでいる。


「怪しいのはこの辺か?」


「いや、異世界の扉なんてことを考えれば、ここのトンネルとか怪しくないか?」


「……」


 大介と隆成が平然と話を進めている中、俺は躊躇(ちゅうちょ)するように後ずさる。


「おい、かっちゃんも知恵貸せ。向こうに行きたいんだろ?」


「そ、そりゃそうだが……その……」


「何だよ。向こうじゃあ、幽霊なんかよりよっぽどヤバい人間と戦ってたんだろ? クルシアってガキ」


「実体があるから大丈夫だし、アイツには借りがあるから戦えてるだけで、ガチの心霊スポットはちょっと……」


 軽いヤツならまあ大丈夫だが、ここに写ってるのはマジのヤツ。


 たとえ平気な人間でも震え出しそうな場所の数々。


 逸話も酷そうだ。


「かっちゃんってさ、ファンタジー脳だから、こっち系のホラーは割と免疫ないよな?」


「う、煩い! ま、魔物の幽霊なら大丈夫なんだよ」


 トーチゴーストとかドラゴン・ゾンビとかあのあたり。


「じゃあ魔物として考えれば?」


「――できるか!!」


「ところで『たなかけいすけ』ってどう書くの?」


「それがわからないんだよなぁ……」


 日記も全部ひらがなだっただけに、そのあたりのヒントは無しだ。


 俺達はしばらくの間、隆成の家にて情報収集に努めていた――。


 その夕方、事件は起こる。


「うーん……」


「行き詰まったな」


 やはり『たなかけいすけ』、約二百年前だけでは情報を集めるには難しく、その当時の情報も簡単には出てこない。


 隆成の父親の知り合い警察官からも連絡はなく、完全に手詰まりとなった。


 とりあえず無音では息詰まるということで、つけたテレビも夕方のニュースが流れるが、速報を伝えていた。


『速報です。某所都内にて、本物の剣を所持した二人の人物が現れたと通報がありました。繰り返します――』


「うへー。物騒だなぁ。通り魔か?」


「近所じゃなきゃいいけど……」


 本物の剣というところに引っかかる。


 通り魔なら普通、包丁やナイフではなかろうか。


 まあどこぞのコンビニ強盗で、日本刀の模造刀を振り回していた事件があったわけだから、不思議ではないと言えば不思議ではない。


 すると監視カメラ映像と共に、ニュースキャスターは注意喚起する。


『――只今、某所付近に居られる方は速やかに近場の建物、交番に避難して下さい。真剣を握った二人組は、とても興奮した状態なのが、こちらのカメラの映像からもわかると思います』


「!!」


 ――ガタンっ!!


「ちょっ!? ど、どうしたの、かっちゃん?」


 その映像に映っていた人物に、俺は驚愕する。


「う、嘘……だろ?」


 映っていた人物はデュークともう一人は似た顔立ちからシモンではないかと考えた。


 デュークはリリアの時にあっているが、シモンのことは名前しか聞いていない。


 二人は沢山の野次馬達の悲鳴に困惑しているのか、剣を抜き、辺りを警戒するように(うかが)っている。


 俺は居ても立ってもいられず、その場を素早く立ち去る。


「お、おい! どこ行くんだ!?」


「その二人組のうちの一人、俺、顔見知りだ。向こうの世界の人間だ!!」


「「「なっ!?」」」


 それを聞いた三人も俺の後に続いた。


 ***


「「――ああああああああーっ!!」」


 次元の穴に放り出されたシモンとデュークは、都内の裏路地に投げ出された。


「があっ!?」

「あべっ!?」


 コンクリートの壁に勢いよくぶつかった二人だったが、ザーディアスに多少の怪我は負わされたものの、軽症で済んだ。


 そして次元の扉が閉まった。


 デュークは頭をさすりながら、目の前を見ると、まったく見たことの無い景色に絶句する。


「こ、ここは……どこだ?」


 表通りには建国祭かと思うくらいの人が行き交い、見たこともない建物が立ち並ぶ。


 看板も木製ではなく、鉄で出来ているようだと驚き、瞳が縮む。


 遅れてシモンも起き上がる。


「デューク、大丈夫か? ……デューク?」


「兄さん……ここはどこだ?」


「えっ?」


 シモンもデューク同様に絶句した。


 すると先に驚愕していたデュークが、状況の整理を始めた。


「俺達は確か、ザーディアスと戦闘をしていた。その後、ザーディアスに作られた次元の穴に吸い込まれたかと思ったら、今度は別の穴に放り込まれた……。だよな? 兄さん」


「う、うん。確かそのはず――けほっ」


 シモンは急に咳をし始める。


「兄さん!?」


「だ、大丈夫。なんだか空気が汚れてないか?」


 そう言われてデュークも少し大きく息を吸うと、


「ゲホッ!? ガホッ!」


「だ、大丈夫か? デューク」


「何だ!? この空気は! 毒でも撒き散らしてるのか?」


 すると表通りに通る車から煙が出ていることを確認する。


「あれが原因か? こんな毒煙を吐く物があるなんて……」


「で、でも通る人達は平気みたいだけど……」


 デューク達には慣れない排気ガス。


 向こうの異世界ではそのような不純物が蔓延しているところは、ほとんど無い。


 だからか、二人は息苦しさに襲われる。


「クソっ! 吐き気がする。とにかく場所を移動しよう」


「そ、そうだね」


 どこだか場所はハッキリしないが、これだけ人がいるのだからと安全な場所を尋ねることにした。


 そして二人は念の為、警戒するために剣を構えて、外に出た。


 すると、


「――きゃああああーーっ!!!!」


「な、なんだ!?」


 思わず悲鳴の方へと向いたデュークとシモン。


 そこには怯えて、腰を抜かしている女性の姿があった。


「お、おい。大丈夫――」


 デュークは心配になり、その女性に近付くと、


「と、通り魔よっ!! こ、来ないでえっ!!」


「な、なに!?」


 デューク達はその女性に指を差され、通り魔だと誤認された。


 当然のことだが、現代世界において一般人が殺人剣を握ることなど認められているはずもなく、現代人からすれば、デュークとシモンはただの通り魔に映った。


 するとその悲鳴に反応した周りの人達も、恐怖と混乱した様子でその場を逃げ出す。


「ま、待て。誤解だ。オレ達は通り魔なんかじゃ……」


「い、いやあ……いやあっ!!」


 説得しようとするも、デューク達が剣を握っている限り、そんなことが出来るはずもなく、


「う、うおおおおっ!!」


 一人の勇気ある男性が恐怖する女性を救うために、デュークへ突っ込んだ。


 デュークはその素人丸出しの動きに、あっさりと対応すると、


「この……」


「待て!! デューク!!」


「!?」


 デュークは思わずその男性の喉元に刃を突きつけそうになった時、シモンが止める。


「周りを見てわからないか? 俺達に何か原因があるようだ」


「何だと?」


 異世界人である二人には、何故通り魔扱いされなければならないのか、検討がつかない。


 魔物がいたり、犯罪者に対抗するためには剣の携帯は必須が常識のデュークとシモンに、こちらの常識などわかるはずがなかった。


 しかも二人は知らないところに飛ばされて、いきなり通り魔扱いだ、混乱して考えもまとまらない。


「とにかくこの場を離れるぞ。話はそれからだ」


「わ、わかった。兄さん」


 デュークは捕まえた男性を突き飛ばして解放すると、シモンと共にこの場を後にした。


「くそっ! ここはどうなってる!?」


「というより、なんか違和感がないか?」


 二人はいつも通り走っているつもりだが、何故か速度が上がらない。


「に、兄さん!? 魔力を感じないぞ!?」


「ホ、ホントだ。どうなって――」


 二人は道路に飛び出した。


 すると――パッパァーっとクラクションが鳴らされる。


「「なっ!?」」


 二人は瞬時に踏み込み、何とか速度を上げて大型トラックを回避した。


「い、今のは……」


「大型の毒煙を吐くゴーレム……?」


 するとその大型の毒煙を吐くゴーレムから人が顔を出し、文句を吐き捨てる。


「おい! てめえら! どこに……」


 だがその大型トラックの運転手は二人が片手に持っているものを見ると、


「ひっ!? ひいいっ!!」


 大型トラックを急発進させて、その場を立ち去った。


「「……?」」


 二人は相変わらず何故、怯えられるのかが理解できずにいると――フォーンっという音が近付いてくる。


 その音の聴こえる方を見ると、


「何だ? 新手の毒煙ゴーレムか!?」


 赤いパトランプを鳴らしながら現れるパトカーが現れ、


『そこの二人!! 大人しく投降しなさい!!』


「オレ達のことか?」


「た、多分……」


 二人は得体の知れないゴーレムを相手取るわけにはいかないと、走り出す。


「とりあえず逃げよう。明らかに敵意を持っている」


「だな」


『なっ!? ま、待ちなさい!! そこの二人、止まりなさい!!』


 二人はパトカーの大きさから考え、入ってくることが難しい裏路地へと逃げ込み、様子を見ると、


「あ、あのゴーレムから人が……」


 パトカーは次々とデューク達が目撃されたとされる場所に止まると、警察官や機動隊が辺りの捜索を開始する。


「総員、速やかに二人組の身柄を確保せよ。武器を携帯している。慎重かつ迅速に対応せよ!」


 見覚えの無い戦闘部隊にデュークは、


「兄さん、ここは強行突破して……」


「ダメだ! かなり訓練されているようだ。魔力を使えるならともかく、今の状態じゃ、捕まるのがオチだ」


 デュークの案は撤廃され、シモン達は裏路地の奥へと逃げていく。


「くそっ! 一体何なんだ? ここはどこだ!?」


「……」


 シモンはザーディアスの話を思い出す。


 クルシアやドクターがそれぞれの場所の味方(ハイドラス達)側に話していた内容を、シモン達はザーディアスから聞いていた。


 罠の話、異世界の話。


「……!?」


 シモンはその場でピタリと止まり、走ることをやめた。


「おい、兄さんどうした? 逃げないとアイツらに追いつかれる」


「……わかったんだよ、デューク。ここがどこなのか」


「ホントか、兄さん?」


 連絡が取れるかもと期待を寄せたいデュークだったが、シモンの絶望に染まった表情を見るに、その希望は簡単に投げ捨てられた。


「兄さん……?」


「……デューク、異世界の話は知っているな?」


「あ、ああ。確かクルシアってガキが扉を開ける……――!?」


 デュークも気が付いた。


 ザーディアスの次元の穴に通った後に、もう一つの次元の穴に放り込まれた。


 デュークもシモン同様、絶望に顔を歪ませる。


「に、兄さん……まさかっ!!」


「ああ、そのまさかだ。……ここは俺達の先祖、ケースケ・タナカの故郷、異世界だっ!」


「……!!」


 まさかと信じられないと考える一方で、現実はそれを思い知らせている。


 全く魔力を感じず、見覚えの無い建物が続き、得体の知れないゴーレム、訓練されているだろう騎士とは違う、服装が統一された組織。


 どれもまったく覚えの無いものばかりが周りにはあった。


 だがそんな絶望させる時間など与えるはずもなく、


「そこの二人!! 武器を捨て、そっと頭まで手を上げろ!!」


 複数人の警察官と機動隊が武器を構えて警告する。


「!?」


 そしてその武器を見て、デュークは異世界説が確信へと変わった。


「あ、あの武器は……」


 警察官達が所持している武器は拳銃。


 デュークは似た武器を所持している人物を知っている。


「デューク、あの武器に覚えが?」


「ああ。異世界人だって言ってた……リリア・オルヴェールの愛用の武器だ」


「――っ!? そ、そんな……」


 冒険者であったデュークが、拳銃を持っていたのを知っているのは、向こうではリリア・オルヴェールしかいなかった。


 そして、リリア・オルヴェールが異世界人であるという事情を知っている。


 二人はこの絶望的な状況に呑まれていく。


 排気ガスで悪くなった空気に、自分達の常識の通じない世界に、目の前には敵意を剥き出しにする異世界人。


 否応にでもとてつもない緊迫感が襲い、息が荒くなっていく。


 デュークとシモンは、リリアもとい鬼塚に同情する。


 あの女はこんな状況の中でも生き抜いたのかと。


「デュ、デューク……」


 そう恐る恐るデュークの方を見ると、絶望はしているものの、何か腹正しさを感じている表情に変わっていく。


「――ああああああああああーーっ!!!!」


 物凄い大声を上げ、気迫のこもった叫びを上げると、


「――兄さん!!」


 ついて来いとばかりに強く睨むと、萎縮していたシモンもハッとなる。


「捕まるわけにはいかないんだ!! 突破する!!」


「ど、どうやって……」


 パァンっと一発の銃弾が二人の間を通った。


「「!?」」


 バッと振り向くと、メットを被り、顔の見えない機動隊の一人が威嚇射撃をした。


「――武器を捨てろ!!」


「チッ!!」


「デューク!! 戦うのはダメだ!! この世界の人間を傷付けたら、それこそ……」


「――わかってる!!」


 するとデュークは警察官達に向かって走り出す。


「くそっ!」


 警察官達はやむを得ないと狙いを定めた時――、


「兄さん!!」


 デュークは軌道を変えて、コンクリートの壁目掛けて走り出した。


 それを見たシモンはデュークの狙いに気付く。


 ここは裏路地の両方がコンクリートの壁の場所。そして表通りへの道は複数人の警察官が塞いでいる。


 ならば道はコンクリート。つまりは壁走りをして抜けることだと考えた。


「わかった!!」


 するとシモンも走り出す。


「くっ! 貴様ら!!」


 デュークは今までの経験を思い出す。


 色んな局面を乗り越えるため、身体と技を磨いてきた。


 たとえ魔力はなくとも、壁走りくらいできなければどうなると。


 ――そしてデュークはコンクリートの壁を踏むと、勢いを殺すことなく、


「――おおおおおおっ!!」


 ダダダダっと走り抜けた。


「な、何っ!?」


 それに目を奪われてしまったのか、同じように走り出したシモンも見逃す警察官達。


「――ああああああっ!!」


 シモンも伊達に冒険者はやってないと意地を見せた。


 だがシモンよりは上手くやれず、その場に転がった。


「あだっ!? 痛う……」


「兄さん! 走るぞ!」


「あ、ああ……」


 二人は警察官達を振り切るように全力でその場を走る。


「ま、待てえっ!!」


 ――デューク達はひたすら走るのはいいものの、行く当てがない。


 辺りはすっかり暗くなり始めていた。


「兄さん……はあ、大丈夫か?」


「な、何とか……。だけど……」


 いくら鍛えていたとはいえ、基本、魔力ありきな二人に極限状態で走り続け、更には何も口にしていない。もはや限界と、遂に止まってしまう。


「に、兄さん……これから……はあ、どうする?」


「わ、わかんないよ」


 二人は薄暗い裏路地に戻っており、コンクリート壁にもたれる。


 その中で、どうすればいいかを考える。


「オニヅカ……」


「オニ……なんだって?」


「確かリリア・オルヴェールの中身の名前で、本物のリリア・オルヴェールが、そのオニヅカという奴の中にいる可能性があると言っていたか? そいつに匿ってもらうのはどうだ?」


「仮にそのオニヅカさんのところにリリア・オルヴェールさんがいるとして――」


 シモンは表通りに続く道を見る。


「これだけの人の中からどうやって探すつもりだ?」


「……っ」


 そんな途方に暮れている二人の目の前に、


「いたっ!」


「「!!」」


 数人の男達が現れた。


 デュークとシモンは、もう抵抗できるほどの体力は無いが、捕まるわけにはいかないと、せめて強く睨むが、


「デューク! 俺だよ、えっと……リリア・オルヴェールの中にいた鬼塚だよ」


「「!?」」


 二人にとっての最高の救いが目の前に現れた。

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