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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
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24 潜入 道化の王冠

 

 ――スタッとデューク達は降り立つと、その場で武器を素早く構え、辺りを見渡す。


 お互いの背中を守り合うように周囲を警戒するも、ドドドドと滝の音だけが響いていた。


「よし、大丈夫そうだな」


「ここがクルシアのアジト……」


 デューク達は広いエントランスホールのど真ん中にいる。


 遺跡のような装飾の広場から見える外の景色は、滝が流れており、水しぶきによる霧と石畳の道が見える。


 とても古代兵器のゴーレムの中とは思えない光景だが、水が流れていることから、上には川か何かがあるのかもしれない。


 地下遺跡のようだ。


 辺りから気配を感じないことを確認すると、さっそくフェルサが匂いを確認する。


「……確かにクルシアの匂いがする」


 居場所がハッキリとわかる匂いを探すフェルサを横目に、ヒヤッと寒気が漂う遺跡のような古代兵器を探索する上での考察に入る。


「ここが古代兵器の中身だとすると、対人型の(トラップ)くらい、ありそうですわね」


「当時の(トラップ)が残っているとは思えねえが……」


 この古代兵器が使われたのは、それこそ人精(じんせい)戦争の時だが、


「その当時の(トラップ)となりますと、対人というよりは精霊などの生命体用(トラップ)が多そうですが……」


「うーん……対空(トラップ)とか?」


 精霊等に罠を仕掛けるとなると、地面ではなく壁などに仕掛けるケースが考えられるだろう。


 南大陸でのヴァルハイツの管理魔法陣みたいなものだろうか。


「皆さん、とにかく油断は禁物。何せあのクルシアのアジト。奴自身が狡猾な(トラップ)を仕掛けている可能性が高い。特にデュークさん、貴方は特に気をつけて……」


「ああ?」


 メルトアの指摘に些か不満げな様子を見せると、ネイ達も警戒心を強める。


「忠告はちゃんと受けるべきよ。元々貴方は狙われてたんだから……」


「そうだよ! 今回はチャンスだから一緒に来てるけど、本来なら置いてくとこなんだからね」


「ふん! 逆にオレがここにいることが陽動になるだろ?」


「あのね……」


 周りが心配する中、フェルサが少し都合の悪いような表情で頭をかく。


「ダメだ。匂いが(まば)ら過ぎて、はっきりしない」


「ならば彼のお兄さんの匂いはどうだ?」


 シモンを攫ったのはザーディアスのため、転移石での移動地点であるこの場所に来た可能性は低いと考えられるが、可能性を突き詰めねばならない。


 だが、


「その匂い、知らない」


 まあ当然の返答である。


 シモンと接触歴があるのは、パーティーメンバーであるデューク達とお留守番のミナールが挨拶くらいの程度。


「ちょっと待ってろ」


 するとデュークがマジックボックスを漁り始める。


「……これならどうだ?」


 手渡されたのは調理用のナイフ。


 彼らは冒険者。野宿なども珍しくなく、使う機会もあっただろう。


 これを渡すあたり、シモンは料理ができる男なのだろう。


 フェルサは先ず、


「お、おいおい」


 デュークの匂いを確認後、持ち手の匂いを嗅ぎ取った。


「……他にこれを触った奴はいないね?」


「ああ。それはオレ達が調理に使うもんだ。誰にも貸した覚えはない」


 フェルサが持ち手から嗅ぎ取ったのは、二人の男性の匂いと女性の匂い。


 一人はデューク、女性の匂いはネイのもの。


 すると一つの不明な匂いがシモンだと確認を取ったのだ。


 その匂いが辺りにないかを確認すると、


「!」


 当たりを引いたのか、複数のルートのうちの一つに向かう。


「こっちからその匂いが濃いよ」


「確かなのか?」


 リンスの質問にこくりと頷くと、メルトアが改めて行動の確認をとる。


「では我々がこちらへと向かい、シモンさんの救出を行います。それに伴い陽動も行いますが、万が一こちらにクルシアがいた場合、即時撤退します」


 未だにシモンを攫った明確な目的はわからないが、一緒にいる可能性も否定できない。


 その場合は、陽動と称して感知魔法を使う予定の救出組がクルシアに見つかるのは必然であり、動けないクルシアの側に護衛がいないはずもない。


 人質をとられてるそんな状況で暗殺は無理だろう。


 そうあっさり説明するメルトアに違和感を持ちながらも、納得するナタルは、


「その場合はこの、通信用の人工魔石を使うのですね?」


 出発前に用意していた魔石を取り出し、確認する。


「そうね。ただ傍受される可能性を考慮して、連絡は極力控えること」


 人工魔石を使用すれば、小さく発光することは勿論、魔力を帯びているので、簡単に感知されることがある。


 それに通信用なので傍受される可能性もある。


 なので事前に、陽動側にクルシアがいた場合、暗殺側が見つかってしまった場合など状況にもよるが、作戦実行が難しいと判断された場合の連絡手段。


「では暗殺側の方もお気をつけて。無理だと判断すれば直ぐにでも連絡を」


「はい」


「それじゃ、迅速にいくぞ」


 デュークがそう言い話すと、フェルサの感知してくれた道を足音を極力鳴らさぬように走る。


 それを見送った暗殺側。


 フェルサがクルシアの濃い匂いを今一度探す中、


「……思ったより冷静ですわね。もう少し感情的になるやもと思ってましたが……」


 ヒューイはおそらくメルトアのことを言っているのだろうと判断すると、小さくため息。


「そうでもないよ」


 あの冷静さの中に、自分のような強い復讐心が宿っているのかと考えたが、


「結構、無理してきてるんだよ」


「無理?」


「メルはまだ、クルシアに対する恐怖心が抜けてない。リアンを殺した事実、復讐相手(クルシア)になす術がなかった絶望、そして自分の過去が無くなった腕が思い出させるみたいでね」


「……」


 メルトアの過去を考えれば、そうそう心の整理がつく話ではないのは、理解に苦しくなかった。


「普段は心配かけまいとあんな風に振る舞ってるけど、用事があって執務室に向かった時――」


 一人、無くなった腕の部分を確認しながら、すすり泣く姿を目撃した。


 恐怖に身を震わせ、身体を守るように丸めて、やめて、やめてとぶつぶつ呟いていたそうだ。


 その時、クルシアの言っていたことが真実なのだと教えられた。


『――君はあの頃から変わらない……か弱くて可憐な少女のままさ。誰かに守ってもらわなきゃいけないくらい、弱い弱ーい女の子』


 フリル姿がよく似合う女の子とも言っていた。


 メルトアは今でこそ凛々しい姿が印象的だが、容姿はいいのだ、育ち方が違えば、本当に可憐な乙女としての成長を遂げていたことだろう。


 女神騎士なんて辞めさせて、普通の女の子に戻すべきではないのかまで思ってしまうほどに。


「そう……」


「だけど本人はああやって頑張ってる。本人の気持ちを無下にはしない」


 あの事件の後、メルトアの処遇について意見が交わされた。


 けれど三属性(ドライ・エレメント)と五星教のリーダーとして名の売れていたメルトアを簡単に脱却できるものではなかった。


 それにその話し合いを知らない当人は、頑張る意欲を見せていたことから、今の立場を継続させるかたちとなった。


「本人から直接弱音が吐かれない限りは、見守るつもり」


「そうですの……」


 ナタルは彼女と重なる部分を持ち合わせていただけに、そのような気苦労をしていたことに驚いた。


 失った家族の仇を取るため、一心不乱かと思っていたが、ヒューイが話していたことを聞けば納得もした。


 彼女はクルシアから直接絶望を与えられている。


 だが自分にはそんなことは未だに起きていない。


 おそらくクルシア的にはナタルは、メルトア以上に眼中にないのだろう。


 腹正しく思う反面、もし自分がと考えると、無理を押して戦うことができるだろうかと、不安を覗かせていた。


「こっちの道が一番、かな?」


 フェルサがクルシアの居場所と判断する道を指し示す。


「……それに心配いらない」


「え?」


 先程の話の続きかと、フェルサの下へ向かい歩く中で、冷たく細めた標的に狙いを定める視線をその道に送る。


「今日、クルシアは私が仕留める」


「……私もですわ」


「……期待してる」


 ***


 タタタと走り抜ける救出兼陽動側は、道なりに進んでいく。


 ゴーレムの中身ということもあり、構造はそこまで複雑ではないようだ。


「ネイ、ヴィ。(トラップ)の感知はどうだ?」


「所々にあるみたいだけど、魔力が通ってないみたい」


「あるのかよ!?」


「まだデカイ声で喋るな、チビ」


「んだとおっ!?」


 本当にリンスは陽動向きだと考えつつも、


「デュークさんの言う通り。もう少し彼女らと離れてから騒いで」


「まるでアタシが騒ぐことは想定済みみたいな言い方だな!?」


「違うのか?」


「ちっげーよ!!」


 少し緊張感もほぐれてきたところで、話を戻す。


「魔力が通ってないって?」


「そのまんまの意味。使われた形跡もない。おそらく奴ら自身もどんな効力が発揮されるか、わかったもんじゃないから使用してないのかも」


 そう説明されれば納得もできるが、侵入者対策がされていないことにも不安を覚える。


 特にメルトアとリンスに関しては違和感しかない。


 あの悪魔みたいな罠に嵌めてリアンを殺させた男が、なんの策も無しに侵入者を許すことが異常だと捉えられる。


 だがあのひねくれた性格を考えると、こちらを小馬鹿にしているようにも捉えられた。


 罠なんか張らずとも撃退できると。


「他にはないか?」


「んー……これ以上は……」


「私も。本格的に感知魔法を使わせてくれるなら、もう少しハッキリするかも」


「なら発動してみてくれない?」


「メルトアさん?」


「奴のアジトにしては罠が無さすぎる。嫌な予感がする」


 またリアンのような手遅れになる可能性を示唆する。


 正直、まだ早いとも思ったが、ここまで罠がないと不自然過ぎる。


 それを了承したヴィは地面に杖を突く。


「――感知」


 その突いた箇所を中心に辺りの気配を感知する。


「どう?」


「うん、この先に人の気配がある……シモンとザーディアスっだけ? あの気配……」


「「「「!!」」」」


 当たりを引いたと嬉しく思う反面、今ので警戒を強められた可能性が高い。


 そしてヴィは更に感知魔法で得た情報を口にする。


「三人が向かってる先に、人……かな? とにかく魔力の気配がする。大きさ的には人型くらいだから間違いないかも」


 向こうも当たりを引いたようで、作戦は順調だと考えるが、


「他に気配は? 全員居そうなのか?」


 このアジトにいることが予想されるのは、クルシア、バザガジール、ザーディアス、ドクターということになる。


「んー……範囲広げていいなら、もう少しいけるけど……」


「もうあのおっさんにはこちらを感知されてるだろ。陽動の意味も込めて、徹底的にやれ。敵の場所の把握は必須だ」


「はいはい!」


 ヴィはバレて上等というくらいの感知魔法を発動。


 すると、


「な、何よこれ?」


「ど、どうした?」


「このアジト、とんでもないほどおっきなゴーレムなんですけど……」


 感知魔法でわかるのは何も、人や物だけではなく、その範囲を広げることで、建物の大きさも把握したようだ。


「ていうか人型じゃない!?」


「今そんなことはどうでもいい。詳しくわかったのか?」


「あ、ああ、うん。えっとね、四人の気配はあった。魔力が異質だからね。後はポツリポツリと弱い魔力が所々に……」


「おそらくは奴隷です。クルシアは奴隷を買い付けては解放し、自分の部下とするかどうかを相手に問わせるようだし……」


 事情聴取をした際にそんな話を聞いたと説明。


 使用人程度の扱いの奴隷がいるくらいは予想がついた。


 でもその奴隷達は、現在メルトア達がいるフロアにはいないという。


「後は大量の魔石の気配が一部、固まってるみたいだけど……」


「それはドクターとかいう奴じゃねえか? 魔石の研究者なんだろ? そこに人の気配は?」


「ある。精神型の魔力だよ」


「……ってことはクルシアは一人なのか?」


「そ、そうだね。向こうが向かってる先の気配も精神型。多分そうじゃない?」


 ヴィはクルシアと接触歴がないため、曖昧な返事となるが、事前に聞いている情報からクルシアとドクターが精神型。ザーディアスとバザガジールが肉体型となる。


「上手くいき過ぎてる気がする……」


「確かにな。なら作戦を中止するか?」


 デュークのその提案には一同が悩むところ。


 先ずクルシアのアジトにしては罠が少な過ぎる、どころか無いまである。


 見たところ地下遺跡ということも踏まえて、バレない可能性が高いと考え、休める場として余計な罠は外してあるとも考えられるが、些か楽観的に過ぎる。


 次に感知魔法を使ったにも関わらず、向こうに行動の意思がないということ。


 ヴィは侵入がバレる覚悟で魔法を使用した。


 にも関わらず一番現場に近いはずのザーディアスに動きがないし、バザガジールなどは真っ先に飛んできてもいいはず。


 だがザーディアスはシモンの見張り、バザガジールは怪我のためと考えれば、襲ってこない理由にも説明がつく。


 だが今までのクルシアの傾向を考慮すると、不可思議さが目立つ。


 そこでデュークが閃く。


「……あのおっさんが転移石を渡したこと、クルシアが知っていたとすれば?」


「!?」


「私達が侵入すること自体、想定済みってこと!?」


「可能性としてはあるが、侵入させるメリットが……」


 そのメリットには覚えがある一同は視線を一つにする。


「……?」


「あんたが狙いじゃないの? デューク」


「!? オ、オレか!?」


「そう。ザーディアスさんって元々デュークとシモンが狙いで襲って来たんでしょ? その指示を出したのって……」


「クルシアか」


「でも何のために……?」


 異世界のことを知るデューク達でも疑問に湧いた。


 正直、デュークやシモンを攫っても、異世界に対する恩恵を受けられるわけでもなければ、アルビオを含めて異世界の情報など知るわけもない。


 唯一知っているリリアの行動を制限するだけだとしても、デュークやシモンでは説得力不足になるだろうし、そもそも救いを懇願することもしない。


 つまり狙いがハッキリわかっていないのだ。


「とにかく奴の狙いの可能性も出てきたなら、一度撤退も考えた方が……」


「いや、メル。これ自体が罠だったんじゃねえか?」


「っ!?」


「あのクソガキ、攫うように仕向けつつ、敢えて隙を作ったんじゃねえか?」


「ば、馬鹿な!? そんなことをするメリットが……」


「あのクソガキの頭がイカれてるのは、アタシ達がよく知ってる。なんでもやりそうだぜ」


「つまり――飛んで火に入る夏の虫大作戦ってとこ?」


 そのヴィの例えは、正直洒落になっていなかった。


 クルシアの狙いは最初から欲しい人材を集めるために、わざわざ出向いてもらおうと、ザーディアスが転移石をハイドラスに渡した時点で、作戦の一つとして思い付いていたとすれば、間抜けな話である。


「チッ……ってことは、オレはまんまと夏の虫になったわけだ」


「幸いしたのが、勇者と黒炎の魔術師がここに潜入しなかったことでしょう」


 そう考えればクルシアの狙いから外れたと安心できるのだが、不安は残ったままだ。


 どこまで考えても、あの男の考えに及ばない気がしてならない。


「なら寧ろ、このまま救出に向かう方が正解かもね」


「だな。その罠ごとぶっ潰してやろうぜ! なら向こうにも連絡を……」


 リンスが人工魔石を手にするが、


「待って。仮にクルシアの罠だとしても、あちらには隠密を続けさせる必要がある。連絡はダメよ」


「むっ。そうか」


 すぐさましまうと、代わりに大剣を手に取る。


「だったら――せいぜい派手に暴れてやろうぜっ!」


 奴らの想定以上の被害を与えてやると、ザーディアスがいるであろう先の道を走る。


「えっ!? ちょっと待って!」


 リンスの後を慌てて追いかける。


「この先で合ってんだよな?」


「合ってるけど、待って……」


 この中で唯一、精神型のヴィだけが出遅れるが、


「へえ!?」


「いくぞ、ノロマ」


 デュークが抱きかかえ、走り出す。


「ちょっ、ちょっと! ノロマってどういうことよ!?」


「言った通りだろ、ノロマ」


「二回言った! 二回言いやがったなあっ!!」


「ああっ! 騒がしいなぁ」


 ヴィは恥ずかしがりながら暴れ、いつも通りの喧嘩をしている。


「作戦もへったくれも無くなってきましたね。騒がしくてすみませんね」


 ネイは喧嘩しながら走る二人をどうしようもないと呆れながら見て話すと、メルトアも同じような表情で答える。


「いや、こちらこそ直線的な考えの奴が先走ってすまない。けど……」


 先を走るリンスに向けた視線は呆れたものだけでなく、どこか羨ましそうに見る。


「組織にはああいう人間も必要なのよね」


「あー……わかります。考えるより行動に移せる人ですよね?」


「ええ」


 リンスは確かに細かいことは考えないが、しっかりと行動で自分の意思を示せる人間だ。


 自分には持っていない強固な強さを持つと、尊敬も信頼もできる。


 たまに手に余る時もあるが、それも良さと受け入れられる。


 そんな先陣を切ったリンスは、ザーディアスがいるであろう部屋に突っ込んだ。


「――おりゃああああああっ!!!!」


 ドカンっと扉を突き破り、入った瞬間に視界に入ってきたのは驚いた様子のシモンと、こちらに凄い勢いで突っ込んで来るのが予想できていたのか、大鎌(ぶき)を構えるザーディアスの姿があった。


 リンスはそのまま高く飛び上がり、斬りかかる。


「食いやがれ! おっさん!」


 リンスの大剣の斬撃を大鎌で受け止めるザーディアスは、やれやれといった表情。


「どうしてこう、若い連中らはおじさんをおっさん呼ばわりするかねぇ」


「どっちでも――変わんねえだろうがっ!」


 懐に入り込んだリンスとザーディアスは、激しい斬り合いを見せる。


「いやいや、おじさんって呼ばれる方が嬉しいもんよ」


「はっ! 知るかよ!」


 そんな既に戦闘を始めている現場に遅れて一同がたどり着く。


「兄さん!」


「デュークか!? 何故来た!?」


「何故って助けに来たんじゃ――ぐえっ!?」


 デュークは乱雑にヴィを下ろすと、二つの剣を抜く。


「ま、待て! デューク。お前は来るな!」


 ビタっと思わず制止されたデューク以外も警戒して止まった。


 そんな傍らで、リンスを捌くザーディアスが動く。


「やれやれお転婆なお嬢さん、だっ!」


「へ?」


 まるで闘牛を迎えるマントのように、黒コートに次元の穴を隠しており、斬り込んできたリンスを迎え入れる。


「おおっ!?」


 勢いを殺すことができず、軽くあしらわれたリンスは、ヒュンと次元の穴へと入っていった。


「――リンス!?」


「安心しな。エントランスに送り返しただけだ」


 リンスを除いた陽動組がザーディアスと対峙する。


「まあ、まさか来るとはな」


「よく言う。これもクルシアの狙いなのだろう」


「ん? おー、誰かと思えば五星教のリーダーちゃんじゃねえか。てっきりクルシアの方へ向かったかと思ったぞ」


 メルトアにとっては触れて欲しくないところ。


 キッと睨んでの返答。


「おいおい、可愛いお嬢さんがする顔じゃないぜ」


「貴様もあの男と同じことを言うか」


 メルトアは完全な臨戦体勢を取り、陽動の役割を果たすためか、魔力を放出する。


「待て待て待て! おじさんは戦う気はないの! 落ち着きなさいって……」


「ふざけたこと言ってんじゃねえよ、おっさん。兄さん、攫っておいてよく言うぜ」


 だがデュークは剣は構えるものの、忠告通りこれ以上は動かない。


「なら目的くらい吐いてもらえますよね?」


「うーん、まあぶっちゃけ、お前の兄さんは返してもいいんだが、お前さんらとしては時間を稼ぎたいところなんだろ?」


 やはり思った通り、自分達が潜入してくることは予想通りだったようだが、


「クルシアを守りにいかなくてもいいのか?」


 ヴィの感知魔法によれば、クルシアは一人でいると感知されている。


 これが予想通りのものなら、ザーディアスが即座に向かいそうなものなのだが、余裕の表情を見せる。


「いや、そのあたりは問題ない。あいつが一筋縄じゃねえのは、わかってるだろ?」


「だがそれも今日までだ。ヒューイやナタルさんが必ず仕留めてくれる」


 金色に輝く剣を構え、ネイ達にこれ以上踏み込むなと手で合図を送る。


 シモンの忠告を魔に受けるなら、デュークをこの部屋の中心部に向かわせるのは危険だ。


「だから私は貴方を仕留めるとしよう! ザーディアスっ!」


「まったく……血の気の多い嬢ちゃんだ」


 大鎌の先の部分で、地面をこずくと次元の穴がいくつも出現し、こちらに走って向かうメルトアの障害となる。


「舐めているのか!!」


 だが無造作に作られた無数の次元の穴を(かわ)すことは容易だった。


 なのでたどり着くのだが、


「――なっ!?」


 入り口付近にいたデュークの地面に、穴が出現。


 そのまま落下していく。


「デューク!?」


「あだっ!?」


 するとこの部屋の中心部に落とされた。


「しまった!?」


 思わず止まり、ザーディアスの狙いを阻止しようと、デュークを中心部から外そうとするが、


「手遅れだぜ」


 デュークを囲むように赤い魔法陣が展開する。


「こ、これは……!?」


「安心しな。死にゃしねえよ」


「何――がああっ!?」


「デューク!!」


 すると赤い電撃が走り、デュークを攻撃する。


 その魔法陣の効力が強いのか、陣内にいたメルトアも弾き出される。


「ぐっ!? くっ……」


 大したダメージはないが、中心部のデュークは苦しそうに悶える。


「あ、ああっ! ああああああっ!!」


「デューク!! ちょっとあんた! デュークに何してんのよ!」


 すると事情を知っているシモンが答える。


「この魔法陣は俺達の身体の情報を取ってるみたいなんだ」


「身体の情報? 何で?」


「その目的までは知らないけど、この魔法陣は俺達の血の情報すら回収するみたいで、複数のサンプルが欲しいみたいだよ」


 勇者の子孫を狙った理由は、その身体、血液情報などが欲しかったのだと説明すると、デュークは悔しそうに睨む。


「……異世界への……鍵か?」


「異世界?」


 初耳のメルトアとシモンは首を傾げるが、ザーディアスはふんっと鼻息を鳴らす。


「さあな。だが、無いよりはな」


「くそがあっ。五星教の奴!」


「な、なに?」


「この地面ごと魔法陣をぶっ壊せ! 思い通りにさせるな!」


 するとメルトアはその場で大きく剣を振り上げ、その剣がどんどん光輝いていく。


 だが何故かザーディアスが邪魔をする気配がない。


 しかしデュークが捕まってしまった以上、救出が最優先なわけで、


「――シャイニング・セイヴァー!!」


 思いっきり振り下ろし、地面ごと魔法陣を粉砕すると同時に、ザーディアスへも剣撃が向けられた。


 その光の柱は地面を大きく崩壊させ、その勢いで真ん中で囚われていたデュークと、捕まっていたシモンも吹き飛ばされる。


 そしてザーディアスは、


「よっと!」


 そんな大振りの攻撃が当たるはずもなく、さらりと躱す。


「やれやれ……」


 魔法陣は狙い通り破壊できたが、それを発動させたはずのザーディアスは、特に焦る様子もなく、年下を愛でるような優しい表情で迎え入れた。

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