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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
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17 穏やかな時は束の間に

 

「ドラゴンってのは便利だな」


「そ、そうだね……」


 ギルヴァ達は慣れない空の旅を数十分ほど堪能し、リリアの故郷、ミリア村にたどり着いた。


「ま、この辺りは俺達もたまに来るんだが、ドラゴンってのは便利だな。あの娘(アイシア)には是非、ウチの魔術師団に入ってほしいもんだぜ!」


 ガイツは同じ火属性の魔術師ならばと勧誘意欲を見せる。


 一方でこの小さな村に騎士と魔術師団一個小隊が何故訪れたのか、村人は多少騒つくものの、チラっと覗く程度の視線を浴びる。


「この村の人間はあまり気にしないのだな」


 それには他国のギルヴァは疑問を抱く。


 普通ならばこんな辺鄙(へんぴ)でのどかな村に、これだけの武装をした騎士がくれば何事かと思うところだろう。


「この辺りにはたまに来るからな。アルミリア山脈には迷宮(ダンジョン)があって、そこで魔石の採掘や魔物を狩ったりしている」


「なるほどな……」


 見上げてみるとアルミリア山脈が(そび)え立っている。


 山の方に多くの迷宮(ダンジョン)があると言われれば、納得もできた。


 自分達も山育ちだからと少し懐かしさを感じる。


「王都は平地だったからな。この雰囲気は中々懐かしい」


「そうだね。……空気が気持ちいい」


 アリアは深く深呼吸し、自然の空気を堪能。


 その様子を見ると半魔物化など、嘘のように見受けられる。


 だがアリアの中には常に爆弾があることは事実であり、今回の護衛任務も起爆剤になりかねない。


 できることなら、この物静かな大自然の中で療養してもらいたいところだ。


「体調は大丈夫か?」


「うん。平気だよ。心配してくれて、ありがと」


「いや、当然の配慮だろ」


「おーい。置いてくぞ」


 アイシアに借りたドラゴン達と森の奥へと移動を開始していた。


 任務期間が不明だが、騎士達と魔術師団を含めた一個小隊がリリアの実家に厄介になるわけにはいかない。


 王都の騎士達がよくテントを張る箇所まで荷物を持って行きたい。


 ギルヴァ達はガイツの呼びかけに応じ、その駐留場へ向かい、ドラゴン達から荷物を下ろした。


「……よし。これでいいのか?」


「はい。アイシアさんからはこうすれば伝わると……」


 複数のドラゴンのうち、一頭の首にポシェットをつける。


 ドラゴン達を帰還させてしまうと、ガイツ達は戻る方法を失う。


 普段は馬車でくるが、今回はドラゴンに乗って飛んできたので。


 そのため一時、ミリア村近くにあるというアイシアの実家にドラゴン達の面倒を見てもらおうというわけだった。


 勿論、アイシアの独断判断であり、家族には伝えていない。


 なのでポシェットの中に手紙が入っていたりするのだが、マルキス家のほとんどがドラゴン達にテンションを上げる中で、一番しっかり者のデュノンが顔を引き攣らせながら、その手紙を握りしめ、大量のドラゴン達を前にすることとなる――。


『あの――馬鹿姉さぁーんっ!!!!』


 そんなこととはつゆ知らず、ギルヴァ一行は安心してリンナの元へと向かう。


「ごめんください」


 コンコンとノックをして丁寧に挨拶するアリアの声に、


「はぁーい」


 寝起きの表情のまま、薄着で扉を開ける。


「えっ!? あ、あのっ!!」


「ん? おー、お前さんら来たか。あの……殿下の護衛の……」


「あのせめて何か羽織られては?」


 アリアと一部魔術師団以外は男性ばかり。


 いくら一人暮らしでもあまりにもラフな格好に、男性も恥ずかしさより呆れ果てる始末。


「ん? 別に構わにゃあしないよ。減るもんじゃ、あるまいし……」


 大事なところは見えてねえんだから大丈夫だと、ズボラな対応。


「いや、これから護衛するんだからよぉ。もう少し身なりってやつをなあ……」


「はいはい。わかったよ。とりあえず入んな」


 ギルヴァ達を家に招き入れると、リンナは自室へと向かい、着替えてくる。


「ったく、人ん家なんだから好きな格好くらいさせろ」


 文句を垂れ流しながら再登場。


「いや、俺達が護衛に来ること、通達してたぞ?」


「何だぁ? 魔術師団様は人様のもんに手を出す趣味でもあんのか?」


「――ねえよ!」


 人妻に手を出す性癖はないと断言。


「だろ? だったらいいじゃねえか」


「常識を考えろ。常識を……ったく……」


 ガイツの言ってることは正論なのだが、何故か周りの部下達が苦笑いをしている。


 ギルヴァはある程度察したが、余計なことは言うまいと飲み込んだ。


「それで? まさか全員でこの家内にいるわけじゃねえよな?」


「当たり前だろ。基本、あんたの側には俺とギルヴァ、アリアで護衛する。他の連中は村一帯の警戒をやらせるつもりだ。村人達にも事情をこれから説明し、避難も容易にできるよう、進めるつもりだ」


「ほー……」


 リンナは物珍しそうな視線をガイツに向けた。


「んだよ?」


「頭悪そうな感じなのに、考えてんだな」


「喧嘩売ってんのか!?」


「お? 売ってくるなら買うぞ」


 性格が似ているせいか、小気味良い買い言葉に売り言葉が見事なキャッチボール。


 本気で言ってないにせよ、止める必要はあると、


「子供じゃないんだから、そこまでだ。ガイツさん、指示を……」


「はあ、そうだな。お前達、手筈通りに頼むぞ」


「「「……」」」


 どこぞのヤクザみたいな指示の出し方に、思わずギルヴァ達も苦笑い。


 騎士達と魔術師団は各々の行動を開始した。


「しかし、こんな嬢ちゃんも護衛なのかい?」


「いや、俺について来ただけで、護衛をさせるつもりはない」


「えっ? でも……」


「必ずしも戦闘になるわけじゃないし、殿下にも言われたと思うが、無理をする必要もない。お前は先ず、自分のことを考えてくれ」


 何やら事情がありそうだがと尋ねてみる。


「私んところに攻めてきそうな奴はヤバイ奴だって聞いてる。そんなところに女を連れてくるのはどうかな? 大事にするつもりがあるなら、置いてくるべきだったんじゃねえか?」


 リンナの冒険者として培ってきた経験上、アリアは不思議な雰囲気を纏っていた。


 正直、身なりや見た目だけの雰囲気ならば明らかに一般人のそれである。


 だがその奥からふつふつと感じるものがある。


 得体の知れない不気味な雰囲気を。


「それはわかっている。だが俺が来る以上、アリアもついて来らざるを得なかったんだ」


「……つまりお前さんが来なきゃ、その女は安全だったと?」


「……」


 人様の事情にあまり口を突っ込むのは性分ではないが、こちらも中途半端な気持ちで護衛に当たられても困る。


 服装や態度からしてガイツの部下にも見えない。


 そのため無作法とわかりながらも、もう少し攻めてみる。


「お前さん、矛盾してることがわかってるか? その()を心配しながらも巻き込んでることが……。それがあんたのしたかったことか?」


 するとアリアが堪らず庇うように反論する。


「ち、違うんです! 私がついて来たいって言ったんです! もう待ってるだけなんて、嫌だからって……」


「アリア、いい。この人の言ってることが正しい」


「ギル……」


「確かに貴女の言う通りだ。俺はアリアを巻き込むかたちでここにいる。アリアにあんな選択を取らせてしまったのも俺が弱かったせいだ」


 クルシアに追い詰められ、それを見たアリアを追い詰めてしまったこと。未だに後悔している。


「だからこそ、俺は必ずアリアを元に戻してみせる。そして守ってみせる。あの幼かった日々の優しかった世界の続きを見せるために……」


 その言葉に迷いを感じなかったリンナ。


 事情はわからないが、優柔不断な考えや仕方ないで巻き込んだ考えではないのならと、


「女に命賭けられるなら、立派な男だよ。……てめーらの事情も知らねえで悪かったな」


「いや、貴女の指摘も事実だ。それに俺は貴女を利用するつもりなのだしね」


「利用?」


「貴女に送られる刺客はクルシアと繋がりがある人物であり、奴への道筋が見えてくるはず。俺達のケジメにせよ、アリアのことにせよ、奴らへの接触は必須なんだ」


「なるほど。私に襲ってくるであろう人物を捉えて、情報を引き出そうって魂胆なわけだ」


 ギルヴァとしては、魔物化する人工魔石を作ったとされるドクターが理想的。


 アリアを元に戻す最短を目指すなら、そのスジに精通した人物に解決への糸口をもらう方が早い。


「まあいいさ。私だって娘の件で狙われてるんだ。そこはお互い様といこう」


「事情は聞かないのだな」


「お前さんらが話さない限りは聞かねえよ。こっちも話さないが……殿下からはなんと?」


 ハイドラスから事情を知られているならと尋ねるが、ギルヴァ達はクルシアの仲間が接触してくるだろうという内容だけで、詳しい事情は知らないと首を振った。


 ガイツに至っては、単純に上からの命令というだけ。


「ならお互いにこれ以上は言いっこなしだ。それにお互い、他人の事情に構ってる暇もないだろ?」


 ギルヴァはケジメとアリアを元に戻すこと。リンナは本当の娘を取り戻すことと、その情報を守ること。


「そうですね……」


「話したところで、お前さんが私に全力で協力してくれるわけでもないだろ? 私だってお前さんの事情を無責任に飲み込む気もない。利用し合えるところだけ、利用し合おうぜ!」


 サバっとした考えに思わず安心の笑みが零れた。


 この人はこんなことを言ってはいるが、それはちゃんと自分(ギルヴァ)のことを考えての発言だとわかる。


 互いの利益のために協力しようという考えなのだと。


 その中で、敢えて秘密は互いにあり、目指すものごあるのだという共通点を真剣に明確にすることで、短い間にも強固な関係を築こうとしていたのだ。


 深く事情を知ることは勿論、しっかりとした関係を結ぶには必要なことではあるが、即席で関係を築くには、事情を話さずとも、その強い意志によって示すことも信頼を作るために最も適しているとも考えた。


「はっきりとそう口にできる貴女は凄いな」


「もやもやしたのは好きじゃないんだ。それに人様には知られたくないことのひとつやふたつはあるだろうが。な?」


 ギルヴァはアリアに振り向く。


 アリアはいつも通り微笑んでくれる。


「ああ。そうだな。なら俺達も余計なことは聞かない。正直、クルシアが彼女を倒すために貴女を人質にとるとは考えられなかったので、事情も気になってはいたが、野暮というものだろう」


 まあそうだろうなとリンナは笑った。


 事前に聞いていたクルシアの性格を考えるなら、仮にリリアを殺そうと考えても、親である自分が狙われる可能性は低い。


 何だったら友人を狙う方がよいだろう。


 特にリリアの事情を考えれば尚更だ。


 とはいえリリアの性格を考えれば、それも考えられるが、今のギルヴァにわかることはない。


「よし! なら変な探り合いもここまでだ。空気悪くして悪かったな」


 完全に傍観者だったガイツに気を遣うが、全く気にしてない様子。


「俺もあんまり細かいことは気にしない性分なんだ。それにアンタらにどんな事情があるにせよ、魔術師団の隊長として、守る義務を果たすだけ。どおってことないさ」


 こっちはこっちで真っ直ぐと伸びた意志があるのだとわかるが、


「ま、馬鹿そうだが、せいぜい頑張ってくれ」


「――馬鹿そうって何だあ? コラッ!」


 そんなこんなとリンナの護衛の任務が開始された――。


 それから数日は平和な日々が続く。


 騎士達や魔術師団が眉間にシワを寄せて強い警戒にあたり、リンナの側にいる三人は警戒しつつも、ここでの生活に順応していく。


「お洗濯物、干し終わりました」


「ご苦労さん」


 綺麗に並んだ洗濯物を見たリンナは、


「いやー、改めてこんなに洗濯もんが並んだのは久しぶりだな、おい」


 リリアが王都に行ってからは一人分しか干さなかったこともあり、四人分となると中々壮観だと改めて語る。


「何かすまないな」


「いいって別に。元はと言えばうちの娘のせいなんだ。むしろ巻き込んで悪かったと思ってる」


「そんなことはない。俺達は彼女に本当に感謝している。俺は彼女と一緒に戦ったこともあるが、とても優秀な娘さんですよ」


 家に戻る中、ギルヴァの純粋な褒め言葉に複雑な心境が顔に出る。


「? どうかしたか?」


「えっ? ああ、ありがとよ」


 確かにリリアは優秀な娘だった。


 才能に溢れ、勉強もでき、実際、オリジナルの魔法陣で異世界にまで飛んで行けるほどだ。


 ただ性格が酷く悲観的で、自分を卑下し、自信を殺している娘。


 ギルヴァが言っているのが、鬼塚だってことは理解しているものの、娘を褒められるのは嬉しい。


 本当なら、本当の娘を褒められることが一番だが、中身が鬼塚のリリアもまた、自分の娘である。


「あの……そういえば旦那様は?」


 姿を一切見かけなかったので、そろっと尋ねた。


 リリアの家族が狙われるなら、父親も例外ではないだろうとのことから。


「あー、あいつは単身赴任で、基本どっかで穴掘りしてるよ」


「穴掘り?」


「魔石採掘師なんだ。黒炎の魔術師の父親は」


「へー……」


「何でお前が知ってんだ?」


「殿下から聞いてたんだよ。うちの国を支える優秀な魔石採掘師の一人だからな」


 ガイツは王宮魔術師として魔石採掘師や加工師などの情報もある程度精通している。


 それにハイドラスが学校に通う以上、生徒の家族構成は調べている。


「ご立派なこった」


 そんなことを微塵も思ったことはないと、他人事のように評価。


「旦那に関心ねえーのな」


「なかったら結婚なんてするかよ。あいつが私にできねぇことができることくらい知ってる。それに付き合いも長いんだ、今更だろ」


 当初ならまだしも、今更旦那を褒めるのは阿呆らしいと語る。


「惚れた好いたなんて、若い頃だけさ。長年、夫婦なんてやってたら、自然と褒め言葉も減るさ」


 それどころか文句の方が多くなるのは、どこのご家庭も同じことだろう。


「ま、それでもうちはたまにしか帰って来ない分、他の家よりマシだろ」


「お、俺達にはまだ想像しづらい世界だな」


「そ、そうだね」


 若い人達が結婚を想像できないのは当然だろうと鼻で笑う。


「そりゃそうさ。若い頃なんていっぱいやりたいこともあるだろ。私だって若い頃は冒険者やって、世界中を目にしたもんさ」


「へー……」


「ていうか、お前さんらの両親見りゃあ、結婚生活も想像できるだろ?」


「!」


 その一言にギルヴァは少し俯く。


「私は確かに両親とも仲が良くて優しいから、想像もしやすいけど……」


 そのギルヴァの落ち込んだ表情を見たリンナは、


「あー……悪い。もしかしてくたばってたか?」


「……あんたなぁ。くたばってたって言い方はどうなんだ?」


 柄の悪い言い方だなとガイツがツッコむが、そのあたりは気にしていないようで、


「俺のせいで父さんが死んで、母さんとも縁を切った。……でも理想とする家族像を想像することくらいはできるさ」


 まだ自分が闇属性だと公表されていない時の両親。


 あれは正に理想だったのだろうと語る。


「ま、まあとにかく、人生何事にも経験さ。自分を磨けば他人もどう磨かれているかも理解できるってもんだ。そん中から自分が惹かれた奴をものにすればいい。自分が惹かれたもんに間違いはないだろ?」


 人生の先輩からの助言に感心していると、横槍が入る。


「本音はどうなんだ?」


「まあ先ず、あいつの被害妄想が激しいのを何とかしてほしい。うじうじしてるのも最近特にイラッとする。あと中々帰って来ないくせに、タイミング悪く帰ってくるのもやめてほしいな。あとは――」


 つらつらつらつらと文句が垂れ流れてくると、感心も薄れていく。


「え、えっと……」


「だがこれが信頼なのだろう?」


「えっ?」


 まだまだあるようで、文句を並べるリンナを見ながら、ギルヴァは思ったことを口にする。


「人間、そりゃずっと一緒にいれば良いも悪いも浮き彫りになってくるものだろ? 俺達だって、喧嘩がなかったわけじゃないし、最初から打ち解けあっていたわけでもないだろ?」


「う、うん」


「その個人を好きになるのに、好きだけを見るのはおかしいってことさ。その人の好きも悪いも受け入れて、側に居たいと願うことが結婚なんだろ?」


 そう解釈されるとアリアもこくりと頷いた。


「そうだね。私だって一人じゃ何もできないし、こうして迷惑だってかけてるし、鈍臭いし……」


「……おいおい」


 自分で言って凹んでいくアリアに呆れるギルヴァ。


「でも俺達の中で一番落ち着きがあって、助けようと手を差し伸べられる優しさがあり、俺達を一番信頼してくれてたのはお前だろ?」


「そ、そんな。私はただ……」


「俺は今まで一度だってお前の優しさを忘れたことはない。絶望から救ってくれたお前を……」


 子供の頃、絶望に打ちひしがれていた自分に、一番最初に手を差し伸べてくれたのは、アリアだった。


 あの頃の感謝を永遠に忘れることはないだろうし、アリアの本心に触れたような気がした。


 そしてアリアを半魔物化させてしまったのも、その頃と変わらない自分の弱さからくるもの。


「俺はお前の良さをちゃんと知ってる。たとえ鈍臭かろうが、迷惑をかけられようが、それに勝ることはない。……というより、そんなことはないと思うがな」


「ギル……」


「それより俺の方がもっとしっかりしないとな。俺こそお前に甘えてばかりで……」


「そんなことない。私の方が……」


 そんな言い合いをしていると、視線を感じた。


「お熱いですなぁ〜。私もそこまで見せつけることはなかったなぁ」


「なあっ! お前ら付き合ってないって言ってたけど、嘘だろ? ホントだとしたら、さっさとくっつけ! 女の出来ねえ俺への腹いせに見えてくる」


 リンナは茶化し、ガイツは笑顔が怒りに引き攣りながらツッコむ。


「――な、何を言ってるんだ!? い、今はそんなことを言ってる場合じゃ……」


「言ってる場合だよ。襲ってくる奴に因縁があるようだが、女を待たせるのも大概にな。アリアちゃん、気立がいいし、可愛いからほっとくとどこぞの馬の骨に掻っ攫(かっさら)われるぞ」


 するとギルヴァは先程より赤面し、


「…………ちゃんと整理がついたらな」


「えっ?」


 ボソッと呟いた一言を少し期待混じりに、尋ね返すアリアに、ギルヴァはそっぽを向いた。


「あー……やだやだ」


「青いなぁ。頼むから人ん家でおっ始めるなよ」


「――す、するかあっ!!」


 ガイツはもういいやと呆れて席を立ち、リンナは若いっていいなと楽しそうに笑う。


 そんな甘酸っぱい空気を――コンコンと軽いドアノックが横槍を入れる。


「は、はい!」


 この空気を変えるようにとアリアが率先してドアへ向かおうとするが、


「いや、私が出る」


 先程の揶揄(からか)いモードとは一転、キリッとした表情に変わった。


 そう言ったリンナは何故か玄関には向かわず、何故か冒険者時代の片手剣(あいぼう)を手にした。


 ズカズカと剣を抜きながら玄関へと強い足取りで向かうリンナに、一同騒然。


「お、おいおい! 待っ――」


 制止する声も束の間に玄関の扉を剣で貫いた。


 三人が唖然とする中、リンナは仕留め損ねたと舌打ちする。


「おいい!? 誰かもわからないんだぞ!? それとも旦那か? 旦那への理解できない愛情表現なのか!?」


「馬鹿抜かせ。構えてな」


 リンナは自宅にも関わらず、扉ごと剣で薙ぎ払う。


 するとそこには一歩退いた男の姿があった。


「これは驚きました。黒炎の魔術師のご実家の訪問の仕方がこんなにも過激とは……」


「はっ! んなわけねえだろ。それだけ血と死の気配がプンプンしてる奴のもてなし方にしては、まだ手ぬるい歓迎だったろ?」

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