13 初アンバーガーデンの感想
「よし! ここから北大陸に向かうんだよね?」
「ええ……」
アイシア達は港の船を眺めながら話していると、お尻が痛いのだと撫でながらサニラは文句を言って近付いてくる。
「……あんた、よくドラゴンの背中になんて乗れるわね、ホント。鱗は硬いは、ゴツゴツしてるわで……」
足元の悪い岩場に座っていることと語るが、それだけでなく、羽ばたいた時の重心の動きや空気抵抗など乗りこなすには様々な技量が求められる。
それをガン無視し、ドラゴン達に全てを委ねているのだから、乗り心地が悪いのは当然のこと。
「――ひゃん!?」
「その割にはお尻はしっかり柔らかいわね」
「お、おやめなさいな……」
サニラはお尻が硬くなっていないのかと確認するも、アイシアの張りのあるお尻に嫉妬混じりのトーンで褒める。
そんなセクハラ親父的な行動をしていると、サニラを乗せていたホワイトが文句を言う。
「贅沢を言うな、人間。これでもアイシア様の友人ということで乗せてやっているのだぞ。それに存外、楽しかったのではないか? 私の背中でイチャつきやがって……」
「なっ!? だ、誰と誰がイチャついてたって言うのよ!?」
「あのオスガキだろ? あんな男の何が良いのやら……」
オウラ達、子供に混ざって大きな船が並ぶ光景を喜ぶバークを鼻で笑うと、
「――あんたに人間の男の良し悪しなんてわかんないでしょうが!」
まあ正論が飛び出した。
ドラゴン、魔物に他種族の異性の魅力について語れと言われてもできないだろう。
それはどの種族でも言えることだ。
だがその必死の訴えには、さすがのホワイトにも違和感を覚える。
さっき否定の言葉と態度ではなかったかと。
「あ、あの……アイシア様? こいつ、さっきは否定してましたよね? でも今の発言を聞くと、あの男には魅力があると語っているようなものですよね?」
「いい? 人間ってのは素直な生き物じゃないんだよ。ああいうのをツンデレって言うらしい」
「はあ……?」
「――余計なこと教えなくていいのよ!!」
そんないつもの様子にフェルサは尋ねる。
「いつ進展すんの? もう飽きた」
「そうだよな? ヴァルハイツでのことで少しは何かあるかと期待してたのに……」
「まあ鈍感とツンデレちゃんじゃあ、あれだけのことがあっても進展しないものよ」
「まあ当人の鈍さが筋金入りだし、それに幼馴染から好意を抱いてるとは……」
「――そこはそこで盛り上がってんじゃないわよ!」
グラビイス一同に素直になれないツンデレさんのツッコミが飛ぶ。
実際、ヴァルハイツでバークと危機を乗り越える機会には恵まれていたはずだが、どうにも進展らしいことがない。
それは当人もわかっているのだが、
「そ、そんなことはどうでもいいの! ほら、船の手配にいくわよ」
どうしても体裁を守ろうとしてしまう。
ズンズンと進むサニラの後ろ姿を見たグラビイス一同は――、
((((もうさっさとくっつけよ……))))
そう思う独身冒険者達であった。
そしてその相方であるバークは、オウラ達と船を眺めながら語らう。
「どうだ? 外の世界は。気持ちいいもんだろ……」
「ああ。兄ちゃん達について来てよかったよ。そうだろ? エミリ」
「う、うん」
そのエミリも表情が和らいできている。
出会った当初は、冒険者を怯えてみていた彼女だったが、南大陸を離れてからというもの、色んな刺激を受けた。
「私、勇気を持って飛び出してきて良かった。奴隷の頃なんて気にも止めなかった町の景色やたくさんの人達が笑顔で過ごしている世界。それに、知らないこといっぱい!」
奴隷として過ごしてきた二人の世界は、灰色の世界であっただろう。
だがそれに色を塗ってくれた二人には感謝しているようで、子供らしい笑顔を見せる二人。
「兄ちゃん達以外の冒険者もみんな優しいしな」
「うん。私、他の冒険者さんがあんなに優しいとは思ってなかった」
「こっちは人種差別がないからな。ていうかしようもんなら、どやされるよ」
各大陸ごとに集まる冒険者にも個性が出るもの。
二人は東大陸の冒険者ギルドでは歓迎された。
東大陸の冒険者は、理不尽な迫害や差別などを受けて冒険者になったものは多い。
だからこの二人の境遇にも同情心が芽生えるのも当然のこと。
紹介され、歓迎会を催された際、二人は気恥ずかしながらも、その中心にいた。
自分達の歓迎を受け入れてくれたことに、自分やサニラも連れて来た甲斐があったと嬉しくなっていた。
そしてこうして楽しそうにしているところを見ると、幸福感が込み上げる。
「へへ……ありがとな。バーク兄ちゃん」
「ありがとう、バーク兄さん」
バークは元々この二人のように苦しい環境で育ったわけでもない。
冒険者になった理由だって、勇者のような生き様に憧れただけ。
だけどこうして目の前で感謝されると、その憧れは間違っていなかったんだと思い知る。
「おう! これからもよろしくな!」
そんな三人の元へ、ご機嫌斜めのサニラが近付いてくる。
「ど、どうした?」
サニラはバークにその視線を向けるが、いつも通りのきょとんとした顔を見ると、
(なんでこの馬鹿は気付かないのよ!)
「ふん!」
「――あだっ!? お、お前、急になんだよ!?」
「別に! ほら、船に乗るわよ」
理不尽な足踏みをすると乗り込む船へと向かい、それを遠巻きに見ていた一同もやれやれと乗り込んでいく。
「サニラ姉ちゃん、たまに機嫌が悪くなると兄ちゃんの足、踏むよな?」
「ったく……俺をストレス発散の何かと勘違いしてんじゃねえだろなぁ」
「……」
的外れな推理を隣で聞いていたエミリは――ファイト、サニラお姉さん! っと心の中でエールを送った。
船で北大陸へ向かう一行の目的を再確認する。
というのも前回、テテュラを送り届けたメンバーが一人もいないからである。
本来通りならリリアとアルビオだったはずだが、リリアの諸事情により、アルビオ、ルイス、シドニエ、ユニファーニ、ミルア、ヘレンの面々。
誰か一人でも案内役にと考えたが、アルビオは狙われる可能性が高いため却下。ヘレンは旅の空であり、シドニエはリリアの近くにいたいとのこと。その幼馴染である二人もシドニエを心配してのこと。
ユニファーニに関しては心の傷があるとかないとか。
ルイスは言わずもがな。アルビオと離れたくないとのこと。
ハイドラスもシドニエはともかく、他のクルシアと関わりの少ない者達を巻き込むことは極力下げたいことから、王命も出さなかった。
とはいえ事前から連絡を取る機会があり、向かうことは連絡済みである。
「サルドリアって人の研究室に向かうのであってる?」
「それで目的は駐留しているハーメルトの魔術師と騎士の回収とテテュラさんからの情報の取得と、出来れば魔石化しているテテュラさんの回収だったか。……実際どうなのです? そのあたりは私達……」
ジード達はテテュラとはほぼ面識はない。
サニラとバークもリリアとシドニエのデートもどきを監視していたところを目撃し、接触歴がある程度。
魔石化の話は軽く聞いてはいるが、どれだけ難しい話なのかまでは聞いてない。
「私も聞いた話ではありますが、精霊石を用いた治療法を行なうとかなんとか……。さすがに現地で話を聞かない限りはなんとも……」
出発前にハイドラスからおおまかな事情を聞いていたナタルだが、それくらいしかわからなかった。
現地へ行ったメンバー達も難しすぎて覚えてないという始末。
だが精霊石くらいは聞いたことがある。
「精霊石を用いる治療ねぇ……。身体が魔石化してるからなの?」
「おそらく……。私も精霊石を目にする機会はありましたが、その特性等はなんとも……。ただテテュラさんのあの状態を考えれば、同じ魔石である精霊石からヒントを得ようと考えたのではないでしょうか?」
「いくら北大陸の技術者でも精霊石の入手や解明は進んでるのかしら?」
「ある程度はと聞いてるよ。だけど精霊石はそもそも精霊が魔石化した物。精霊が関係を絶っている時点で入手も解析も困難だからね」
「「「「「……」」」」」
「くあ……」
インテリ組と脳筋、天然組との理解度の差が酷い。
精霊石一つで分析できるできないではここまで差があるようだ。
エミリもエルフなので成長すれば、この会話に参加できるかもしれない。
「とにかくさ。行ってみないことには話にならないんでしょ? どうせテテュラと会っても難しい話するのに、こんなところでもしなくてもいいでしょ?」
聞いていたらあくびが止まらないとフェルサが愚痴ると、ジード達は納得するように微笑む。
「ま、そうね。それにそちらの脳筋と天然さん達はどちらにしても戦力にならないだろうしね」
「――おまっ!? それはグラビイスさんやアイシアちゃんに失礼だろ!?」
「あんたのことを言ったのよ、バーカ」
「んだとっ!?」
「ていうかあんた、二人のことそういう風に見てたんだ……」
「なっ!? 違っ!? お前が達とかつけたからだろ!?」
オウラ、エミリ達の前で子供みたいに喧嘩する二人。
その内容に関してはグラビイスもアイシアも納得する部分はあったりする。
話がついていけないこととか。
そんな二人のやり取りを呆然と見るオウラとエミリに、アネリスが側に寄る。
「どう? この二人の喧嘩にも慣れてきた?」
「あ、ああ。出逢った時もそうだったけど、仲悪くはないよな?」
「う、うん。そうなんだけど……」
エミリはわかりやすい乙女心に苦笑いを浮かべながらアネリスを覗くと、本人のペースがあるみたいよと言いたげな表情で微笑んだ。
「ほ、ほら喧嘩するほど仲が良いって言うから……」
「でも喧嘩しなくても俺とバークの兄ちゃん、仲良いぞ」
「え、えっとぉ……」
オウラの思わぬ反撃にアネリスが代わりに答える。
「喧嘩にも良い喧嘩と悪い喧嘩があるの。これはどっちに見える?」
「えっと……」
バークとサニラが言いたいことをギャイギャイと言い放つ。
しかもどんどん内容が変わっていっている。
「良い喧嘩かな? 二人とも言いたいことを正直にぶつけてるように思うな」
「そう! 喧嘩するほど仲が良いっていうのは、良い喧嘩のことを言ってるの。お互いが対等で、お互いを信頼しているからこその他愛無い喧嘩。それは必要な刺激よ」
「へー……」
オウラは再び二人を見るが、お互いに確かに自分の意見を譲ろうとはしない。
けれども相手を傷つけようという考えもないように見えた。
「だからといって喧嘩が正しいわけでもないのよ」
するとアネリスは仲裁に入る。
「はいはい、そこまで。子供達の前で、みっともない喧嘩はしない」
「「うっ!? はーい……」」
二人の見本にならないと最近は気をつけているはずの二人だが、どうも言い合いになってしまう。
「そもそもお前が悪いんだからな」
「はあっ!? 私は……」
「――はいはいはい」
南大陸から出てきて二人は外で色んなことを学び、知らないこともいっぱい目にしてきたが、
「なあ、エミリ」
「なに?」
「人間関係って大変そうだな」
「そ、そうだね」
元奴隷としては学ばなければならない人との関わり方。
勉強していこうと思う二人なのだった。
***
「えっと……ここかな?」
一同は魔石学の研究室へと到着。
グローキー状態のグラビイス達の代わりにアイシアとバークが確認しながらたどり着いた。
「なーにが脳筋と天然は役に立たないだ。お前の方がよっぽどヘタレじゃないか」
「あのね! あんな川下りさせられた後に滝に投げ出されるなんて、誰が思うのよっ! 死ぬかと思ったわ! もう二度と乗らないから!」
北大陸アンバーガーデン名物、激流下りの餌食となったグラビイスパーティーの大人達、サニラとナタル。
この人達は完全にグローキー状態。
フェルサは慣れた様子で、アイシア、バーク、オウラはめっちゃ楽しんだ。
エミリはオウラにしがみつきながら放心していた。
「ここから出る時、どうすんだよ?」
「出口があそこだけなわけないでしょ!? 別口から出るわよ!」
「……それはやめた方がいい」
「へ?」
「別の出口は確かにあるけど、あの船のルート以外は数日かけないと出られないし、出られたとしても極寒の地に投げ出されることになる」
するとグラビイス達は遠くを見つめて懐かしむ。
「懐かしいなぁ……。北大陸での魔物討伐」
「ええ。本気で死にかけたわ……」
「フェルサと会った時のことを思い出すよ」
「そういえばそうだったね」
当時のグラビイス達は特訓がてら大金を稼ごうとし、魔物の生息域でもある極寒ルートを進んでいた。
実際、北大陸の雪原地帯は古い遺跡があると同時に、強力な魔物も多数住み着いている。
冒険者が修行に訪れることも珍しくはない。
グラビイス達もその口だったのだが、あまりにも厳しい環境に押し潰されそうになっていたところをフェルサが発見。
救出することとなった。
「久しぶりに上の魔物とやり合う?」
懐かしさついでにどうと軽く提案するフェルサに、グラビイス達は必死に首を横に振った。
「思い知ったから結構よ!」
「ああ、まったくだ。レアな魔物がいるからって行くところじゃない」
「君達くらい若くても勘弁だよ……」
グラビイス達の様子を見て、げんなりするサニラだが、バークは逆にやる気に満ちている。
「レアな魔物って……強い魔物か!?」
「まあね」
「おおっ!! 行こうぜ! 特訓にもってこいだ!」
「おおっ! 特訓か!? オレもオレも!」
「お前もアレは嫌なんだろ? 特訓のついでに……」
「――行きたいなんて言うわけないでしょ!!」
グラビイス達の反応を見て行く気になるはずもなく、
「まあ、でもよく考えたら、帰りは下りじゃないものね。上りだもの……」
「……聞いた話だと噴射口から水が発射されて、無理やり外まで放り出されるということらしいですが……」
ナタルがルイス達が愚痴っていたのを思い出したと、顔を引き攣らせて語ると、
「……何なの? この大陸の人間は馬鹿しかいないの? それともスリルジャンキーなの? 馬鹿じゃないの!!」
サニラはナタル以上に引き攣っている。
「私は楽しかったけど?」
「あんたはドラゴンに乗り慣れてるから、あんな激流下りも楽しめるんでしょうが! ……こうなったら転移魔法で……」
「それも無理」
「は?」
「ここは地底都市。周りには多くの魔石が埋まってる。正確かつ膨大な魔力の転移魔法ならともかく、簡易的なものなら、その魔石の魔力の影響を受けて暴発することになる」
ここ地底都市アンバーガーデンの周りには膨大な魔力を宿した魔石が沢山ある。
そんなところで転移魔法のような空間系の魔法を使用することは自殺行為に等しい。
魔力の循環派の影響を受け、下手したら土の中である。
「岩壁に埋まりたいなら止めないけど?」
「勘弁してぇ〜」
「随分と面倒なところに住んでいるのですね」
北大陸がどうやって財を成したのかを知らないわけではないナタルだが、思わず呆れて本音を零す。
するとジードがそのあたりを説明。
「アンバーガーデンが元々、上の遺跡地帯を調べることが名目で作られたのは知ってる?」
「諸説あると聞きましたが……はい」
その諸説はジードが言ったことや、上の先住民が住みづらくなって作られたとか、魔石の採掘のために作られた都市だとか様々である。
「その遺跡の資料や魔石の情報などを簡単に持ち出されないように、この地底の特性を活かしたんだ」
「なるほど。それらの情報は売れるところには高く売りつけることは可能ですものね」
既に当時から北大陸は宝の山とされていた。
そのため防衛セキュリティの強化として転移魔法封じとなる魔力を多く宿した魔石となるのだ。
「だから移動も転移魔法ではなく、汽車が走っているわけだし、外からもあの船で入る方が疲れず、手っ取り早い」
「疲れなかったんですか……?」
そのジードの説明に納得がいかないと、サニラは不機嫌そうに尋ねると、
「……つ、疲れるね」
「でしょ?」
グラビイス達はフェルサと出逢った際には、あの船ルートは使っていない。
初めての体験についていけないと疲れている。
「ねえ、帰りの話は後にしよ。今はテテュラちゃんのことを心配したい」
疲れた様子はないが、そろそろノックしたいとアイシアはシビレを切らす。
目的から離れた会話も程々に、アイシアが研究室の扉をノックし、留守ではないかの確認。
「ごめんくださーい。ハーメルトから来た者でーす。開けてくださーい」
色々と省いているとナタルがため息を吐き終えてから、改めて挨拶。
「こちらにハイドラス殿下より連絡があったと思います。私達は使いの者です」
そう語るも部屋からは、うんともすんとも返事がない。
留守かなと思ったその時、ガチャっと扉が開く。
「あっ! ごめんくださ……!!」
その扉を開けたのは、白く光輝くテテュラだった。
「ええ。連絡ならあったわよ。いらっしゃい」
「――テテュラちゃん!!」




