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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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33 クルシアの答え

 

「ボクの答えは――」


 クルシアの返答次第で運命が決まる。


 正直、死ぬのは怖いことだが、それ以上にこんな戦場を二度と見たくない自分がいる。


 全てがクルシアの操り糸によって促されたもののように見えてならない。


 元々、原初の魔人を探していたのも亜人種達の動向を操ることがあったと考えられる。


 原初の魔人の存在だけでは飽き足らず、その派生として種族と成した亜人種までをも(もてあそ)んだ。


 それだけじゃない。


 テテュラやアリアの時だって、言葉巧みに操り続けてきた。


 人の弱味につけ込み、それを手のひらの上に乗せて嗤う。


 だがこの答え次第で引導を渡すかが決まる。


「保留だ」


「!?」


「は? 保留なわけにいくかよ。どうやって出るつもりだ?」


 ザーディアスはその返答に矛盾していると尋ねる。


 契約魔法、特に今のような条件で発動されている場合は、返答無しでは出られない。


 ましてや保留なんて答えでは出られない。


「ねえ、ザーちゃん? 彼女の取引条件はなんだったかな?」


「ん? そりゃ……お前さんから人工魔石と婆さんの技術の取り上げ、おじさん達の撤退とクー坊に大人しくしてろだったか?」


「そう。そこが彼女の罠さ」


「……!」


 俺は気付かれたかと、ポーカーフェイスを貫きながらも、僅かに息を呑む。


「罠?」


「この契約魔法はボクと彼女の血を記憶し、契約が交わされると強力な魔法となる。契約が遂行されなかった場合、罰として最悪、命にも関わる。だけど、相手の制限がかかるものはすぐに執行される。……例えばリリアちゃんがその喉元にナイフを突き刺したり、ボクが無抵抗になったり……」


「!?」


 くそっ! 気付かれた!?


 俺は思わずギッと睨みつけると、にんまりと笑顔を見せる。


「無抵抗だぁ?」


「そう。今回の場合、ボクに契約の有無が決められる取引。応じなければリリアちゃんは今のまま、ナイフを喉に突き刺し、ボクらはデメリットなくトンズラ。応じればボクらは持っていくはずのものと、この人工魔石を手放し撤退できるけど……」


 地面に転がる人工魔石を指差しながら、こちらの表情(かお)(うかが)うように、ニヤニヤ笑う。


「ボクは抵抗ができなくなる」


「なんでだ?」


「大人しくしてろって条件にあったろ? あれには制約期間も無ければ曖昧だ。そういうのって割と大きく行動を制限されるものなのさ。少なくとも、この場でナイフを持ったリリアちゃんに襲われてもボクは抵抗できない」


「――っ!?」


 ザーディアスはバッと俺を見て、狙いに気付く。


「おいおい、とんでもねえなぁ」


「だよね? リリアちゃん……」


 俺はギッと歯を食いしばると、俺の真の狙いを推理する。


「ここにいる誰しも異世界というネタにボクを踊らせ、契約を交わさせ、ボクの武力増強を削ぎ、今後の狙いをリリアちゃんに定めさせ、被害を出すことなく撤退させることが狙いだと考えただろうけど、それにしては煽り過ぎたねぇ。……異世界の情報はもう少し小出しにするべきだった。ボクの好奇心をくすぐり、冷静な判断をさせず、安易に契約の有無を決めさせるつもりだったんだろう? それに気付かれないように……」


 異世界という未知の情報は、コイツの判断能力の低下を生むと考えていたのに、それを逆手に取られた。


「で、ではリリアさんは最初から貴方を殺すつもりで?」


「そうじゃなかったら、異世界なんてパワーワードは使わないだろ? 決めるつもりだったんだ……君達との関係に亀裂が入る結果を覚悟してね!」


 俺はその一言にズンっと重い何かがのしかかる感覚に襲われる。


 気付かれてしまった重圧(プレッシャー)もあるが、みんなに今まで黙っていた罪悪感がどしっと乗っかってくる。


 息が苦しくなって、胸を締め付けられるようだ。


「異世界人なんて未知の存在。いくら友人で今まで信頼して積み上げたものがあったとしても、怖いよね? リリアちゃん。どんな非難をされるか、どんな目で見られるのか……不安だよね? だからせめて刺し違える覚悟を持って公表したんだよね? ねえ!? リリアちゃん!!」


 嬉しそうに煽りかけてくるクルシアに、俺はギッと強く睨み、必死の対抗をする。


「黙れよ、殺人ピエロ!!」


「――アッハハっ!! 異世界人だってわかった瞬間に答えを求められていれば、ボクは君の手に堕ちていたかもねぇ。あの時が一番興奮してたからさ! 残念だったねぇ。アッハハハハハハっ!!」


 この全てを見透かすようなこの男が心底憎いと感じた瞬間だった。


 俺がどんな想いでこんな行動に出たか、わかった上で煽ってきやがる!


「でもクー坊。それじゃあ返答はどうするんだ? 銀髪嬢ちゃんを殺す気はないんだろ?」


「それは簡単さ。彼女達の要求を行動した後に、ボクが――」


 スッと転移石と人工魔石を手に持つ。


「ク、クルシアぁ……」


「これを砕くと同時に人工魔石を手放せばいい。そうすればこの契約魔法は行動を実行し、敵対の意思がないことを認め、発動される。すると、ボクはこの転移先でもリリアちゃんとの契約が成されるわけだ」


 契約魔法陣は契約者以外の侵入は許さないが、契約者がその契約条件を満たすための行動なら許される。


 つまりクルシアは契約前に撤退することで、契約魔法はこれからはクルシアは俺達に敵対の意思がないと認識し、遠隔的に契約が可能なのだ。


 そしてその不備がされないように、敢えて契約前にこちらの要件を実行に移すとまで言っている周到性。


 嫌になってくる。


「というわけだから……ドクター!」


『わかっている。今、回収したものをこちらに返したところだ。異世界などという未知の前に、コイツらの身柄やあのゲテモノババアの闇鍋実験など必要ない』


 クルシアの推理を聞いていたドクターは、既に実行に移していると話し、このまま撤退するという連絡を最後に人工魔石は、倒れているオールドの前に置かれた。


「というわけだからザーちゃん。君も撤収だ、頼むよ」


「あいあい」


 ザーディアスは次元魔法を使い、その場を後にするトンネルを作ると、さっと入り、


「ごめんな。おじさんは今回ばかりは味方になれそうにない。じゃな!」


 手で軽く幸運を祈るとサインすると、空間は閉じられた。


「さてさて……」


 クルシアは辺りを見渡す。


 警戒しているヴァルハイツの騎士や俺達ではなく、条件を満たす準備が終わったかを確認しているよう。


「よし! 後はこれをここに落とすだけだ」


 ひらひらと魔物化ができる人工魔石をわざとらしく見せびらかす。


「残念だったね。この転移石も条件に含んでいれば、ボクを殺せたかもしれなかったのに……。それともやっぱり怖いのかな? 人を殺すの」


 俺はハッとなる。


 俺は確かに現実世界(むこう)の生活上、人を殺すことなんてない世界だ。そんな覚悟を持ち合わせてはいない。


 だけどこちらに来てから、この世界は命をも手にかけなくてはいけない厳しい世界だということも理解できている。


 つもりだった。


 なんだかんだと俺は、その覚悟が足りなかったように思う。


 その結果がこれである。


 自分の正体を明かしても尚、この男に先を読まれてしまった。


 俺の甘さと弱さまで見透かされた。


 俺はギリっと唇を噛んだ。


「まあまあいいんじゃない? ちゃんと君の最低限の思惑には乗ってあげるよ。……望み通り、次にちょっかいをかけるのは君にしよう。リリア・オルヴェール。……いや、本当の名前はなんで言うの?」


「……教えるかよっ!」


「ハハッ! 楽しみは後にとっておけか。くくっ、待ち遠しいねぇ。では……」


 クルシアはパッと人工魔石の方を手放し、転移石にグッと力を入れる。


「――その契約に応じる」


 その言葉を聞いた瞬間――、


「――くそおぉーっ!!」


 契約を刻む紋章が手の甲に映る、せめてもの一瞬に全てをかけ、ナイフを持ち直して走り出す。


 だが、


「――っ!!」


 ポトっと人工魔石だけが転がり、クルシアの姿は消えた。


「あっ……あぁああああっ!!!!」


 虚しくもナイフが届くはずもなく、手の甲にはクルシアとの契約が成され、俺の悔しさを吐き出す叫びが、外の歓声と共に聞こえる。


 ヴァルハイツが未来に希望を見出す中、俺はもう一歩足りなかった不甲斐なさに絶望を叫んだ――。


 ***


「よっと……」


「帰ったか?」


 ドクターは相変わらず素っ気なく確認をとるが、どこかソワソワしている。


「おかえりなさぁい! ダーリンっ!」


 それとは相対して、リュエルがダイブして抱きついてくるが、


「おやおやドクター? なんだか嬉しそうじゃない」


「ぶにゅ!?」


 ヒョイっと(かわ)すと、ドクターを茶化す。


 あーんと悔しそうにリュエルが見つめる中、ふと四人の様子がおかしいことに気付くが、


「ダーリン、どうしたの? なんだか嬉しそう……」


 あくまでクルシアにしか興味がないと、再びハグ混じりに尋ねるが、またまた回避される。


「まあね。今、人生で最高に嬉しいんだよ」


 その瞳は期待に胸を高鳴らせる子供のよう。


 するとそのクルシアの手の甲に魔法陣が浮かぶ。


「それは……?」


「んー? リリアちゃんとのたーいせつな繋がりさ」


 リュエルの脳裏に電撃が走った。


 人生で一番嬉しい瞬間、女の名前、手の甲に浮き出る紋章。


 女としての闘争心が覚醒する。


「リリアって確か……あの銀髪の?」


 その殺気に満ちた重圧(プレッシャー)に慌てた様子を見せるのは、ザーディアスのみ。


「おいおいっ! 嬉しいのはわかるがこの嬢ちゃんの扱いを忘れるのは良くねえだろ!?」


 嫉妬のオーラ全開で、今にも飛び出して行きそうなところを必死に止めるザーディアスを横目に三人は盛り上がる。


「しかし異世界とは突拍子もないと思いましたが……」


「ああ。天界だ、冥界だという信憑性の無いものより、よほど信用ができる。リリア・オルヴェールだったか、彼女には感謝しかない。そのような未知の世界の証明までしてくれたのだから……」


「ハハっ! ドクター、キャラが変わってるよ。浮ついてるなぁ」


「黙れ。魔石に興味を持ったのも、元々は月に興味があったからなのだ」


「へえ……」


 いつもの冷静で嫌味な口ぶりも緩むほど、ドクターのテンションは高く、珍しく過去話までするほど。


「月は何故輝くのか。何故あれほどの石が宙に浮いているのか。子供ながらにワクワクしたものだ……」


「それであれも魔石の類だと思って、その道に進んだは良かったけど、道を踏み外しちゃったんだ」


「その通――おい。なんだと?」


 少しは我に帰ったが、それでもいつもとは違うノリだ。


 普段なら冷静に流すはずが、今回はノリツッコミをする始末。相当期待値が上がっているようだ。


 それはバザガジールも同じなようで、


「フ、フフフ。あの勇者ケースケ・タナカと同格の、いえ! 下手をすればそれ以上の実力者と殺し合いができるかもしれない……」


 こちらもかなり興奮した珍しい様子。


 アルビオの時に叫び狂うほどの実感はまだないが、それでも高まる期待は抑えられない。


「でもさバザガジール。向こうは魔法がないって話だよ? 仮に向こうの世界に行けたとしても望み通りになるかな?」


「おや? 貴方ならこう言うでしょ? 待つよりも育てればいいと。黒炎の魔術師の話によれば、こちらに来た時に身体が調整されているとのこと。きっと最強の力を手にしてくれるに違いない! ああ……」


 バザガジールは湧き上がる期待に身を振るわせる。


「さて、とはいえボクはその代償に行動が制限されちゃったわけで……」


 クルシアは上機嫌に手の甲の魔法陣を眺める。


 それを狂気に歪んだ目で見るリュエル。


「なんなんですか。なんなんですか。なんなんですか。なんなんですか。なんなんですか。なんなんですか……」


 壊れた人形のように『なんなんですか』と唱え続ける。


 そんな彼女の抑えながらも小声で叫ぶ。


「お、おいぃ! 頼むからこの嬢ちゃんの嫉妬を買うような真似はよせ! 銀髪嬢ちゃんに何かあっても困るんだろ?」


「ん? あーごめんごめん」


 するとクルシアはサッとリュエルに近付くと、グイッと腕を引っ張ると、


「――きゃっ!」


 引き寄せて口づけを交わす。


「んっ!?」


 その行動にザーディアスは呆れ果てる。


「おいおい……」


 キスを終わらせると、ポーっと邪気を抜かれたリュエルはトドメを刺される。


「リュエル、これからもボクのために働いておくれ。ボクの可愛い子兎さん♡」


「は、はぁいっ!! ダーリンのためなら何でも!!」


 キス一つで簡単に言うことを聞いてしまうリュエルに頭が痛くなる。


「とりあえずはボクの側にいておくれ。ボク、しばらくは動けないからさ。ボクのこと、守ってほしいんだ」


 クルシアの笑顔とその言葉にハートがズキュン。


 今までは軽く流されていただけに、頼ってくれるその一言に天にまで昇る想いである。


「任せてダーリン! ダーリンの全ては私が守ってあげるぅーっ!!」


 この道化の王冠(クラウン・クラウン)は、あくまで共存関係が前提の組織。


 大人しくしていろという条件には、おそらく襲われても抵抗できないということがあり、裏切り者が出ないでもない。


 実際、今大人しく抱きつかれているのも、その一つ。


 だから完全に都合の良い女になっているリュエルは使いやすい。


 常にクルシアの側にいたいと望むだろうし、惚れている人間に対し、守りたいと本能的に考えて行動するのだ。


 リュエルの性格上、クルシアのためなら敵と認識したものに一切の容赦などない。


「というわけだからさ、ドクター。この契約魔法、解いてくれない?」


「任せて! 私があの銀髪ビッチを――」


「やめろ、この発情兎。リリア・オルヴェールを殺すことは許さん」


「貴方に言われても――」


「ボクからもお願い♡ 彼女はまだ利用価値があるからさ」


「で、でもぉ……」


 クルシアから利用価値という言葉が出てきたとはいえ、面白くないのも事実。


 不貞腐れていると、


「大丈夫さ。ボクが君を裏切ったりなんかするもんか。それとも……ボクのこと、信じられない?」


 優しくそう尋ねられると、リュエルの脳内で都合良く解釈される。


「はぁ〜ん!! 信じられますぅ! わかりました。利用価値があるあの道具女は殺しません!」


「わかればいいんだよ! 愛してるよぉーっ!!」


「――きゃああああーっ!!」


 ギュウっとハグをすると、興奮状態のリュエルはオーバーヒートを起こし、気絶し沈黙する。


 するとクルシアはやれやれと呆れた表情を浮かべながら、軽くパッと手を離した。


「扱いが雑だねぇ」


「こういう女は一番扱いやすいからね。惚れた弱味ってやつさ」


 ザーディアスは報われねえなぁと、少し同情心を込めて吐き捨てた。


「それでドクター。この契約魔法、どのくらいで解けそうかな?」


「一、二ヶ月はもらうぞ。お前とリリア・オルヴェールと、血を交えた契約をしているのだ。早々に解けることはない」


「そっかそっか。りょーかい!」


 いつもより和気藹々(わきあいあい)としている三人を見たザーディアス。


 銀髪嬢ちゃん、正直早まったんじゃないか?


 この道化の王冠(クラウン・クラウン)は、強い個性のぶつかり合いの環境であり、利害が一致している共存関係の組織だった。


 目的は疎らで、熱量だって全く違う。


 だがこうして完全な利害の一致は非常に珍しく、大きなことが起きること。


 そして異世界という共通の目的のせいか、三人の話し合いが弾んでいる。


 その様子にザーディアスは危機感を募らせる。


 クルシア側は異世界という目的のおかげで、団結力が目に見えてくる中、向こうはその未知の正体に少なからずとも困惑している状況だろう。


 今のこの状態で、コイツらを止められるのだろうかと不安が過ぎる。


 するとクルシアがこちらに笑顔で振り向く。


「ザーちゃんも……」


「ん?」


「期待してるからね?」


「……へいへい」


 今まで中立の立場にいたが、どうやら勝手はするなと釘を刺されてしまった。


 ザーディアスは次元魔法の使い手であり、気付かれても居場所の特定は容易い。


 ザーディアスはリリア達を心配しつつも、流されるようにクルシア側についたのだった。


 ***


「リリィ……」


 俺は崩れ落ちた体勢から立ち上がると、無言でリュッカのところまで行くと、スッとナイフを渡す。


「ごめん。ありがと……」


「あ……うん」


 俯いていたからはっきりとはわからなかったが、困惑した声で受け取ったところから、酷く動揺させてしまっているのだろう。


 シンっとするこの場とは違い、ここで起きていることなどわからない外の民衆達はまだ歓声に湧いている。


 こんな晴れやかな日にこんな空気を作ってしまったこと、クルシアを仕留めきれなかったこと、こんなに悔やんでも悔やみ切れないことはない。


 すると――パァンっという手を叩く音が響いた。


 その音に沈黙していた一同もビクッと反応すると、その音の主であるレイチェルは騎士達を指示する。


「皆の怪我は軽いですね? 直ちにアミダエルの研究室の被害者の救助に当たりなさい」


「「「「「は、はっ!」」」」」


 クルシアに吹き飛ばされた騎士達はほぼ軽症だったのか、この重苦しい空気から逃げるように現場へ向かった。


「ヴォルスン様方も引き続き、救護をお願いします」


『りょ、了解した』


 向こうで聞いていたヴォルスン達も戸惑いながらも、目の前に倒れているオールド達の救護を始めた。


「ハイネ。使用人達も呼び出して、客人方を部屋までご案内なさい」


「……は!」


「えっ!? あ、いや……」


 この後はハーメルトに帰るだけだと思っていたのだがと、動揺していると、


「お帰りになるのは、もう少し落ち着かれてからで良いでしょう。こんなことがあった後です。ゆっくりとお休み下さい」


「で、でもいっぱいお世話になったよ?」


 アイシアの言う通り、戦争が終わってから傷の手当てに国を救ってくれた礼にと尽くされた後である。


 するとレイチェルはふるふると首を横に振ると、優しく微笑んだ。


「貴女達からは返しきれないほどの恩があります。もう少しくらい滞在されても問題ありません。それに……落ち着いて考えるお時間くらい欲しいでしょう?」


「!」


「……わたくしは正直、貴女(リリア)との関係は深くありませんから、先程の話を深掘りするつもりはありません。異世界と言われてもピンと来ませんし。ですが皆様は違うでしょう?」


 俺達一同は無言になってしまう。


「詳しい話は明日以降、貴女がお話したいと思う心構えが必要でしょう。今はしっかりと休まれて下さい」


「あ、ありがとう。レイチェル王女陛下」


 下手に気を遣われてしまった。


 だが俺達はその好意に甘えることにした。


 ハイネ達はすぐに戻ってきて、俺達は使用人の案内の下、用意された部屋で一晩休むこととなった。


 その柔らかく沈むベッドに身を任せ、枕を抱き締める。


 俺は自分が取った行動に後悔はしていない。


 あの時、クルシアに何かしらの興味を移す必要性はあったことはわかっていたし、いずれはとも思っていた。


 けど、やはりいざとなると弱い自分もちゃんといた。


 隠し事を今までしていた自分からすれば自業自得ではあるが、やはり周りを想像することは怖い。


 ふと思い出すのは、まだ転移した頃のこと。


 異世界と浮かれていた半分、自分の常識が当てはまるかの不安。自分が受け入れてもらえるかの不安。この世界で生きていけるかの不安。


 そして――一人投げ出されてしまったことへの不安。


 俺は身体を丸めて、更にギュッと枕を抱えて抱き締める。


「はは……情けないなぁ」


 色んな不安を抱えながら眠る夜がこんなに恐ろしいと考えたのは初めてだった。


 ――貴方ならこの状況、どう考えますか?

皆さま、ここまでのご愛読ありがとうございます。


第8章はここまでとなります。


いよいよ正体をみんなに明かしたリリア。転移当時の心境が蘇り、不安を駆り立てられる中という展開。


第9章はクルシア達とも全面的に衝突するかも? 是非楽しみにして下されば幸いです。


これからもご愛読下されば幸いです。それでは。

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