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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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18 黒炎の不死鳥

 

「――そんなドラマチックな展開になっているとはぁ……くう〜っ! 会いに来てみて良かったぁ!」


「あのね……」


 俺はキャンティアに全ての事情を話した。


 天空城のことやそれの後ろから糸を引いているのは、クルシアであること。


 ディーガルの復讐心を利用し、エルフ達が絶滅させられそうになっていることなど、ヘレンとの入れ替わりがなければ、こんなにペラペラと話すこともない。


 巻き込んでいる以上、下手に隠しておく方が危険である。


 とはいえ目を爛々(らんらん)に輝かせて、筆を走らせる姿はどうも不謹慎だと言わざるを得ない。


 呆れた重いため息も見逃して欲しい。


「心配して来てくれたのは有難いけど、できれば気持ちだけの方が良かったよ」


「何言ってんですか。ヘレンと入れ替わりが成立するから、こうして貴女の無茶が通せるのですよ」


 ぐうの音も出ない。


 ヘレンが来てくれなきゃ、俺は素直に帰っていたわけだからね。


「それに仮に抜け出せたとして、ここからヴァルハイツまでも距離がありますよ。徒歩で行くつもりでしたかぁ?」


 ザクッと再び、見通しの甘さを痛感させられる。


 だって仕方ないじゃないか。こっちに来てだいぶ経つけど、最近の移動手段が便利過ぎるのが問題なんだよ。


 馬車や船、極め付けはドラゴンに転移石である。


 どれも自分で用意したことがないし、現実世界(むこう)でも乗り物は当たり前のように使ってたしなぁ。


 実際、こっちの世界の子は大体、乗馬できることにも驚いたっけ。


 キャンティアがいなければ、入れ替わったとしても足止めを食らっただろうな。


 俺は手慣れた様子で馬車を走らせるキャンティアに、現実を突きつけられている。


「しかし、あのクルシアって子、そこまでやるとは……血染めの噴水は伊達じゃないってとこですかね。さすが禁句(タブー)の子ですね」


禁句(タブー)ねえ……」


 キャンティアは俺達と一緒にクルシアの過去を直接聞いているし、西大陸では遭遇もした。


「結局、あの人は何がしたいんです?」


「楽しいことがしたいんだってさ」


 その楽しいことも随分と歪んだ思想が土台にあるわけだが、その基盤となったのが幼少の頃にあるかと思うと、タイムマシーンでも欲しいくらいだ。


「その先の話ですよ」


「先?」


「確かに子供っぽくて幼稚な動機ではありますが、やり口は大体かつ狡猾なところが目立ちますよね? 相手の心理をつくところなんか、悪戯っ子みたいな態度が拍車をかけるように、自分の立場をしっかり把握してる……そこまで考えられる人が楽しいだけで片付けますかね?」


「つまり、何か目的があると?」


「無いとここまでのことをしますか?」


 クルシアの(まと)っている雰囲気は、愉快犯のそれである。


 劇場型犯罪を好み、相手を小馬鹿にしながら嘲笑(あざわら)う姿は、ただのサイコパス野郎にしか俺は考えられない。


 頭脳戦メインの刑事モノとかに出てきそうなタイプだ。


 ピエロの仮面を被って、ボイスチェンジャーとか使って、演出的に犯罪を犯すことを楽しんでやるタイプ。


「……正直、無いと思う」


「そうですか?」


「犯罪心理学ってのがあるんだけど、あいつはこういう状況を楽しむことを快楽にする愉快犯だよ。善行を行なうことも、それを破壊して楽しむ狂乱野郎だよ」


 ほうほうと興味深そうに聞き入るキャンティアは討論に入る。


「でもでも、彼は差別や偏見を訴えかけるために、こんな行動をしているとは考えられません?」


「西での奴隷オークションの件を考えればそうかもしれないけど、マンドラゴラにテテュラ、今回の件(エルフ絶滅)を考えたら、その可能性は低いと思う」


「でも西大陸じゃ、その事件をきっかけに五星教の考え方が変わって、今の大統領閣下の政策が通りやすくなったと聞きますよ」


 クルシアの『血染めの噴水』のことを考えれば、キャンティアの意見にも納得するところはある。


 自分が悪役となって、人の世を変える礎になるのだと。


 実際クルシアは、この世界を演劇の舞台のように振る舞い、俺達を演者、神を観客(オーディエンス)と呼ぶ。


 そして――自分は前座の道化(ピエロ)だと主張しているが、西大陸での問答を考えると、


「いや、あれは結果論に過ぎない。あいつにそんな思想はないよ」


 行動とセリフがやはり愉快犯のそれだと切り捨てた。


「行動原理があの人の環境にあったのなら、可能性は捨て切れませんがね……」


「あの男に救いがあると?」


「救いたいとは思いませんよ。だけどあの人も結局、被害者だったのになぁっと思っただけです」


 闇属性持ちに対する差別があったことが根底にあるのは、重々理解しているが、どうも同情したくはない。


「それにしてもキャンティアはどうしてそこまで味方目線なの?」


「いや、脚本の題材としてはとてもいいかなって……」


 たはっと笑いながら頭をかくキャンティアに思わずこけた。


「ちょっと!」


「いいじゃないですか。フィクションくらい綺麗に書いても……」


「なに? 差別に苦しみ、軟禁された少年は狂気の復讐を行いながらも、世界を変えていくダークヒーローだとでも?」


「おおっ! いい感じですねっ!」


 俺のクルシア架空設定に指を鳴らして、そのアイデアを賞賛するが、俺は呆れて渇いた笑いが込み上げてくる。


「はは……あいつはそんな器じゃないよ」


 ――クルシアの犯罪心理を追求しながら話しているうちに、俺はヴァルハイツへと戻ってきた。


 検問ではリリア・オルヴェールではないかと止められたが、そこは身分証も見せてヘレンだと言い通した。


 いくら夜とはいえ、ここは城下町。


 酒飲みとかが闊歩(かっぽ)しているかと思ったが、やはりエルフの絶滅作戦が実行されている最中だからか、地下道への入り口を封鎖する騎士達とオールドしか姿が見当たらない。


 というわけで味方と把握しているオールドと視線で合図を送ると、路地裏での密会に成功する。


「よく戻って来られましたね。ノートがいたはずでは?」


「そのノートを騙くらかしてきた!」


 ビシッとグッドポーズを取るが、実際ノートが不調だったことが幸いしている。


「っていうか、ノート不調だった?」


「みたいですね。その隙をつくにしても護衛の騎士もいたでしょうし、殿下の側にいたなら尚のこと……」


「影武者を立ててきたんだよ、ねえ?」


「ねえ?」


 キャンティアと仲良し同調をしていると、当然のツッコミが返ってくる。


「この方はどなたですか?」


「どうも! リリアちゃんの影武者のお友達兼同業者のキャンティア・モルモと申します! 以後、お見知り置きを!」


 そう言うと名刺を手渡す。


 そこにはキャナル劇団(仮)と書かれていた。


「(仮)って……」


「だって……役者はヘレンだけですし、まだ活動と呼べる方針もそこまでですからねえー」


「そうですか。私はオールドと申します。この国ではジャッジメントの通り名を持つ、騎士を務めさせてもらってます」


 オールドのミニマムさを確認するように、ほうほうと観察するようにチョロチョロ。


 まあ気持ちはわからんではない。


 こんな幼女が騎士ということもそうだが、国の防衛を一任されていることにも驚愕だ。


「なるほど。その役者さんのヘレンさんでしたか。その方が代わりにハーメルトへ帰られたと……」


「そういうこと。ちなみにノートは見送った後、お連れの騎士達と一緒に別のところへ向かったよ」


「ああ……おそらくエルフの里です。ディーガル様がそちらへ行くよう指示していたのを覚えています」


 俺の事情はそこまでに早速、地下道の話へ移る。


「それでアイシア達は? もう言っちゃったんだよね?」


「はい。数時間前に既に……」


「私も行きたい。どっか入れる場所は確保できる?」


「残念ながら。今、地下への入り口は我々ヴァルハイツの騎士達が固めている挙句、結界によって封鎖されてます。よっぽどのことがない限りは開きません」


 残念そうに首を振るオールドに俺もガッカリ。戻って来た甲斐がないというもの。


「……ホントに何とかならないの?」


「結界を張っている術者の居場所は把握しておりますが、下手に襲撃するわけにも。一応、貴女はお帰りになられたということになってますので、見つかるとハーメルトの責任問題にもなりかねません」


 そうならないようにしてきたのに、それをしちゃあマズイわな。


「今、地下にいるアイシアちゃん達を信じるしかないのでは?」


「……そうだね。アイシアには擬人できるドラゴン達がいるし、リュッカは魔物の知識にも長けてるから、変異した生物兵器にも対応できるだろうし、委員長は万能な風魔法に、まとめ役としてリュッカとしっかり対策とかできるだろうし、シドはちょっとプレッシャー与えちゃったかもとは思ったけど、やる時はやる奴だし……」


「わかってるじゃないですか」


 ちゃんと分析に信頼もできてるじゃないですかと、少し俯いて話す俺の顔をキャンティアは覗く。


「大丈夫だよね……?」


 ニコッと笑った顔はどこか不安の残る表情をしていたようで、


「それでも心配ですか?」


「当たり前だよ。友達が死地で戦ってるわけだし、相手が相手だけにさ……」


 相手は裏で暗躍していたアミダエル。


 生物兵器を作っていることやザーディアス(おっさん)の話からしても、その研究成果を自身の身体に施している可能性も大いにあり得る。


 某ホラーゲームの怪物みたいに出てきそうで内心、怖いモノ見たさもあるが、友人の安否と比べれば論外である。


「とりあえず明け方には一度、中を確認する予定になってますので、その時に安全に侵入し、脱出できるよう、手配します」


「お願い」


「だとするとやることがありませんね〜。どうします?」


 このままキャンティアと一緒に宿屋へ行っても、うまく休めない気がする俺は、


「アルビオの容体はどうなの?」


 護衛をしているのはオールドの分身体が二名なので、当人に確認する。


「まだ目が覚めておりません。様子を見に行かれますか?」


「できるなら、お願い」


「あっ! 私も私も!」


 俺達はオールドの案内の下、アルビオが休んでいる部屋へと向かった。


 ***


 案内された部屋には、静かに眠るアルビオが寝ていた。


 ディーガルの指示もあってか、傷は完治しており、後は体力と魔力の回復のみなのだろう。


 俺はそんな穏やかな表情で眠るアルビオの顔が見える横に座る。


「……アルビオはしっかりと奮闘してくれたのに、こんなことになって……」


「事情を聞く限り、全部クルシアのせいですが、責任を感じちゃいそうですよね……」


 アルビオはきっと自責の念に駆られるだろう。


 もっと上手くやれたはずだとか、クルシアを止められたかもとか。


 俺は不思議と手が伸びていた。


 穏やかに眠るアルビオの前髪をかきあげ、優しく撫で下ろした。


 それは頑張ったアルビオを褒めるかのように、優しく撫でていると、


「……ん、んんっ……」


 アルビオの意識が戻ったのか、(まぶた)がピクピクと動く。


「アルビオ!?」


「アルっ!!」

「アルビオさんっ!!」

「アルビオっ!!」


「「わあっ!?」」


 意識が覚醒した証拠に、目が半開きくらいになった時に、これでもかと急いで顕現(けんげん)する精霊達。


 三体が限界なようで、フィン、ルイン、ヴォルガードが満を辞して姿を見せた。


「良かったぞぉ! アルっ! 無事だったんだなぁ!」


「本当に……本当に良かった」


「あ、あの……精霊さん方?」


「何だよ。お前達もアルが目覚めて……」


「嬉しいよ。嬉しいけれども……」


 俺はチラッとフィン達の身体を気の毒そうに見ると、首を傾げられる。


 スッと確認する精霊達は、


「な、なんじゃこりゃ!?」


 またしても姿が透明化していく。


 おそらく三体同時に出てきたから、病み上がりのアルビオには荷が重かったようだ。


 ――精霊達による軽いひと騒ぎあったが、アルビオは再び目を覚ます。


「い、一瞬、目眩が……」


「まあね……」


 俺達はジッと呆れた視線をふよふよと浮かび、胡座をかいて腕を組んでいる小人精霊を見る。


「し、仕方ねえだろがっ!! そんな目で見るんじゃなぁい!!」


 やっと意識が回復したと思ったら、その影響によって顕現(けんげん)できると、心配していた精霊達によって魔力を持っていかれると、そりゃまた気絶もしますって。


 心配して抱きついたらそのまま倒れ込み、頭を誤って打たせたみたいな感覚だろう。


「まあこれだけ心配してくれれば、嬉しいよね?」


「そうだね」


「――う、うるさぁい!!」


 照れ隠しの怒鳴り声にほっこりしながらも、俺はアルビオから天空城での詳細を、そして俺とオールドは今の状況とこれまでの経緯を説明した――。


「そ、そんな……!」


 今にも自分を悲観しそうな追い詰められた表情で、この事態を受け止めた。


 予想通りの反応だっただけに、かける言葉に悩むことはなかった。


「アルビオ、自分を責めてる暇はないよ。みんな戦ってる。殿下もサニラ達も獣神王もアイシア達も、リュッカだって……」


 同情の言葉より、事態が進んでいる以上は焚き付ける方が、悲観する気持ちを抑えられると考えた。


 アルビオはクルシアを止められなかったことへの自責の念を抑え込むように、下に俯きながら両手で掛け布団を握りしめている。


「そうですね。反省や後悔は後回しですね。じゃあ僕は――」


 ガバッと起き上がろうとしたので、そのままベッドに押し込む。


「そう。だから今、アルビオが戦わなきゃいけないのは、身体に溜まってる疲労と消耗した魔力の回復と(たくぶ)っているその気持ちを冷静にさせること。わかった?」


 なすがままにベッドへと戻されたアルビオは、パチクリとしているが、


「い、いや。皆さんが戦って――」


「るけど、今の状態のアルビオは良くないでしょ?」


 アルビオは完治した身体をキョロキョロと見るが、俺は首を横に振って否定する。


「身体は確かに治癒されてるけど、元の怪我の度合いが酷かったせいもあって、治癒魔法による副作用もあるし、魔力も多少なりとも回復してるだろうけど、万全じゃないでしょ? もし、この後にも動くつもりがあるなら、休める時に休まないと……」


 俺の説教にフィンもオールドも納得のご様子で、こくこくと頷く。


「そ、そうですね。で、でも……」


「アルビオが必要な時ってのは、必ず来るから。その時のために頼むよ」


 アルビオと精霊の力、それにディーガルによって持ち上げられたアルビオの存在感は利用する価値のあるものだ。


 お世辞抜きで本当に目覚ましい活躍を期待している。


「わ、わかりました。じゃあリリアさんもここにいるのは、そういうことですか?」


「……私の場合は違うよ。ちょっと出遅れただけ。さっき話したでしょ?」


 落ち込む俺にアルビオはクスッと微笑む。


「先程のセリフはお返しします。必ず必要な時が来ますよ」


 俺はポカンと呆気に取られると、思わず笑ってしまった。


 お互いに今は何もできないからこそ、共有できて気持ちの整理がつくのだと実感した。


「それにしてもクルシアという方は随分なやり手なようで……」


「そうだね。これまで散々引っ張り回されたからね。ここいらで何とかしたいけど……」


「あの様子だと今回も高みの見物だと思う」


 俺もアルビオの話からそうだろうなと同意する。


 あいつは手を加えるところはしっかりと加えるが、基本的には人間観察が好きというだけあって、周りの人達の行動を優先する傾向も見られる。


 自身の欲望に忠実ではあるが、他人を尊重することもする。


 中々にあべこべな奴だが、最終的には結局、自分の欲望を満たすために戻ってくるのだ。


 これが俗に言うブーメラン方式なのだろうか?


「でも今はクルシアよりこの戦争です。どう締結させればいいか……」


「そのあたりは殿下達が考えてたよ。人工魔石による通話だったから、簡易的な話し合いだったけど、まとまったって」


「そ、そうですか。具体的には?」


 ここは一応、ヴァルハイツの城の中。


 オールドも作戦の概要は知っているが、どこで誰が聞いているかもわからないので、こそっと耳打ちする。


「レイチェル様のクーデターって形で反乱を起こすらしい。そのために獣人の里、ゴンドゥバを拠点にするって。獣神王も協力してるから、先ず占拠は問題ないと思う」


「獣神王!? 彼女も無事でしたか……」


「うん。そしたらロリババアだったんだもん。驚いちゃった」


「ロ、ロリババア?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げられた。


 現実世界(むこう)よりロリババア率が圧倒的にあるだろうに、浸透していないとはと苦笑いを浮かべて誤魔化すと話を戻す。


「とにかく今は外堀を埋めてるところ。サニラ達がエルフの里へ向かって避難擁護(ようご)。アイシア達がディーガルの弱みを掴むために当初の目的通り、アミダエルを引っ張り出そうとしてるところ。私も参加するつもりで戻ってきたのに……」


「でも随分と事が早く動いてますね」


「それもあの天空城の影響だと思うよ。あれだけのインパクトのある演出、戦争の狼煙(のろし)としては、あれ以上とない花火だったでしょ?」


「……そう、ですね」


 やべっとなったが、思った以上に対策されている話を聞いた後だからか、落ち着いた様子を見せる。


 とはいえ目まぐるしく状況が動いているのも事実。


 情報は生き物だなんて言ってた人達がいるが、正にそれを痛感している。


 ひとつひとつの細かい情報が、こういう戦争状態の時には必要なのだと考えさせられる。


 自分達の行動が他の作戦を実行している人達の妨げになっていないかなどの配慮を考えると、下手な行動は打てない。


「皆さん、ご無事だといいですけど……」


 この城下町はこんなに静かだというのに、この地下ではアイシア達が懸命に戦っているのだろう。


 サニラ達だって侵攻してきているヴァルハイツとの交戦もあったかもしれない。


「ああ〜っ! やっぱり何か歯痒い!」


「フフ、そうですね」


 俺がジタバタと歯痒さを全身でアピールすると、クスッと笑われた。


 すると――、


 ゴゴゴゴ……。


「な、なに?」


 腹に響いてくるような地鳴りが響く。


 すると更に続けて、ボオオオオオンっと激しい爆発音が響いた。


「一体なにが……!」


 俺とキャンティアはその爆発音が聞こえたであろう方向を見ると、空に一匹の赤龍(レッド・ドラゴン)が宙を舞う。


 その周りには点々と人影が見える。


 俺はサァーっと血の気が引いたが、キャンティアはめちゃくちゃ面白そうと顔に書いてある。


「あれって、もしかして……」


「おおおおっ!! アイシアちゃん達じゃないですかっ!? 凄いですね! 飛んでますよ!」


「えっ!?」


 それを聞いたアルビオは、何故そんなに楽しそうなのとキャンティアにツッコミたそうな表情で振り向く。


「馬鹿っ! あの状況は明らかにヤバイでしょ!?」


 楽しんでんじゃないと胸ぐらを掴んだキャンティアから手を離し、


「ちょっと行ってくる! キャンティアはここでアルビオと留守番!」


「案内できます。分身体が目撃してますので……」


「お願い!」


 オールドの案内を受けて現場へと走り出すが、その背中を見送ったキャンティアが大人しくしているはずもなく、ニンマリと笑う。


「アルビオさぁん♡」


「ダメですよ」


「まだ何も言ってませんが!?」


「……顔に書いてあります」


 取材の大チャンスと表情が浮ついていれば、誰にでもわかると呆れ果てる。


「行くなら僕も一緒に……」


「お、おい、アル? さすがに大人しくしてた方がよ……」


「そうしたいのは山々ですが、感じるでしょう?」


 するとフィンは酷い寒気が(よぎ)ったのか、自分の身を抱きしめる。


「お、おおっ!? な、何かやべえのがいるな」


「うん。複数の魔物が混ざったような感覚……。バザガジールやクルシアと違う、異色の気配だ」


 そのアルビオの分析を高揚しながらメモを取るキャンティアの鼻息は荒い。


「あ、あの……」


「あっ! お気になさらずに続けて続けて」


「と、とにかく向かうなら僕も行きます。今の状態でお役に立てるかどうかはわからないけど、ここにいても危険な気がします」


「そうだな。リュッカって女も心配なんだろ?」


 フィンが揶揄(からか)うように尋ねると、少し照れ臭そうにする。


「ま、まあ。友達が心配なのは当然です」


「はいはい」


 アルビオ達は遅れて、後を追いかけた。


 ***


 俺は走って向かう途中で、リュッカ達の無事をオールドから聞くと安堵する。


 オールド、マジ便利だわ。


 その上でオールド伝いから聞いた。シドニエに何か考えがあると聞き、俺はこの町の中心部の建物屋根まで移動する。


 飛んで逃げている方向から、目立って戦える場所を選択しているに違いないとオールドと結論を出した。


 避難する国民を横切りながら、俺はひた走る。


「避難誘導は?」


「進めていますよ。残っている騎士はあの国王の防衛に当てられてますが……」


「はっ! 民を守る行動が取れないなんてクソだと思うけど、今は都合がいい」


「都合がいいとは?」


 俺はシドニエが何であんな派手な逃げ方をしているのか、推測を立てて説明する。


「ディーガルの悪政を世に広めるため、エルフ達の誤解をなすりつけるために、アミダエルを引きずり出して証言させることが目的だったけど、あの姿で暴れ回れば、もはや証言なんていらない。周りの国民達が嫌でも証言者になってくれる。後はあれがディーガルと繋がりがあると言わせるだけだ」


「な、なるほど……」


 そして俺達はこちらへ向かってくるアイシアとシドニエを乗せたポチを建物屋根から確認すると、その後ろの化け物には苦笑いを浮かべた。


「はは……。本当に某ホラーゲームの怪物じゃねえか」


 下半身が蜘蛛の身体に背中からはサソリの尻尾が無数に生え出ている姿は正に異質。


 追いかけている状況も、正にアイシア達を食い殺そうと必死に追いかけてくるボスキャラクターのそれだ。


 そんな化け物に火加減は必要ないよなと、舌舐めずりをする。


「オールド、案内してもらって難なんだけど、私を守っててくれる?」


「詠唱ですか?」


「うん。黒炎の魔術師の真髄って言うの? 見せてあげる!」


 その自信に溢れた表情に、オールドは信頼の表情で応えた。


「さて――派手に中二病を拗らせますか!」


 俺は二丁の魔導銃を手に持ち、意識を集中する。


「――焔の王よ、黒き王よ。我が呼びかけに応えよ! 聖なる炎を(まと)いし、不死鳥は眠れ。黒き灰より邪悪なる呪詛を孕みて蘇生せよ! 不死鳥より蘇りし黒き業火は生を与えず、死を与え続け、永劫に消えぬ、焔を抱いて罪改めよ! ――死の象徴が飛ぶ! ――ブラック・フェニックス!!」


 キュオオンっと甲高い鳥の鳴き声が空へと鳴くと、遥か上空から黒い怪鳥がアミダエルに向かって突っ込んでいく。


 そして――、


「――ぎゃああああああっ!?」


 その黒炎の不死鳥はアミダエルの全身を焼き尽くす。


「黒炎の……不死鳥」


「まあね。イメージしやすくて威力があって、カースド・フレイムみたいにねちっこい攻撃って言ったら、これしか思い付かなくて……」


 オールドが呆然と感心する中、何が起きているのかわかっていない二人にも上から声をかける。


「遅れてごめんね、二人とも」


 二人はその声のする方を見上げたので、俺はニコッと笑顔で返した。


「リリィ!!」

「リリアさん!!」


 それを見ていたのは、黒い炎の中にいる化け物(アミダエル)もそうだった。


「お、おのれぇ!! 小娘があっ!!」


「お待たせ。さあ、そこのお化けババアをぶっ飛ばそうか!」

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