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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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14 ドールマスターの子孫

 

「――あの()らが人形使い(ドールマスター)の子孫だぁ?」


「そ。血縁を調べたらそうだったんだよねー」


 歴史的快挙をさらっと述べるクルシアに呆れ果てるザーディアスは、世間的に言われていることを投げかける。


「確か人形使い(ドールマスター)って、精神系の魔法研究に余念がなかったせいか、子孫は残してなかったって話じゃなかったか?」


 クルシアは背後にいるザーディアスを見るため、だらんと背中から反り返る。


「あのさ、諸説あるんだろうけどさ、人形使い(ドールマスター)は常識すらも操ったと言われてるんでしょ? 男がそんな能力持ったらやることなんて一つでしょ?」


「まあな」


 ザーディアスはクスッと笑う。


 精神系魔法に余念がなかったというのも、言い訳に聞こえてくる。


「だからその上で訊くけど、リリアちゃんを好き放題できますって言われたらどうする?」


「抱くな」


「世界中の女の子を好き放題できるって言われたら?」


「好みの女を抱きまくるな」


「わあっ、ぜっつり〜ん!」


 男として当然の返答をする。


 そりゃあノーリスクで女の子を好き放題できるとなれば、男のロマンに花が咲くというもの。


 一切の迷いなく答えた。


人形使い(ドールマスター)も同じさ。子孫を残そうと考えずとも、性的欲求くらいはあっただろうし、そもそもどこまで言うこと聞くのか、やらしいことさせるのが男の本能だろ?」


「まあ考えてみりゃあ……いや、考えなくてもわかることか」


「勿論、子孫だからって歴史に名を連ねるほどの能力は受け継がなかったようだけど、その片鱗は現れてるじゃない」


 ジルバは獣人や魔物を。ユンナも限定的な洗脳術を可能とする。


「派生した能力か。……しっかしあれだな。勇者といい、人形使い(ドールマスター)といい、しっかりとは継承しないもんだな」


「そりゃそうでしょ? 勇者も人形使い(ドールマスター)も自分とは別人の人間に種ぶちまけてんだからさ、別人が生まれてこなきゃ逆に不気味でしょ」


「それもそうだ」


「それでも勇者君みたいに面影くらいはあって欲しかったなぁ」


 アルビオは黒髪の全属性の精霊と友人関係にあると、当時の勇者の片鱗があったが、ジルバ達は操れる者が限定されている。


 特にバーバルに関しては闇属性でもなければ、精神系魔法など論外である。


「だから使い捨てなのか?」


「うーん……どうしても劣ってるし、勇者君みたいに感じるものはないしなー」


「まあ限定的な奴隷術じゃな……」


 獣人が洗脳できるとはいえ、魔物を使役できるなんて召喚士(サモナー)じゃ、当たり前のことだと呆れて首を振るクルシア。


「ま、物は使いようだよ」


 ***


「あらあら、可愛らしい獣人ちゃんもいますこと」


 ジルバは四つん這いで警戒するフェルサを見て、クスクス笑うが、隣にいるユンナはキョロキョロ。


「あー……雇い主(クライアント)からぁ〜、聞いてたぁ〜、可愛いらしい獣人の坊やはどーこー?」


「ばっか! 獣人のガキって言ったら根性があるんだから、てめぇのやり方じゃあ、良い男にならねぇだろが!」


「――格好がつかんやろ! このショタコン共!」


 何を見せられてるんだろうとちょっと呆れるが、ジード達と同行していたオウラのことが情報にあることに嫌な予感が頭を(よぎ)る。


「君達かな? クルシアから雇われた(さら)い屋というのは……」


 そのジードの質問に、小馬鹿にするようにフンと笑う。


「ええ、そうよ。貴方達のことも色々聞いてるわ。そこそこ優秀な冒険者パーティだとか……」


 クルシアのことが割れていることなど、お見通しであるかのように開き直る。


 だがこちらとしてもあっさり認めてくれるのは、とても都合が良い。


「なるほど。だからこちらの動向もある程度は把握していると……」


「そうでもないわ。私達が知ってるのは、貴方達の実力の情報と獣人とエルフの子供を連れてるってこと。そして今、獣人の村へ向かっていることかしら?」


 ジード達は血相を変えて、ギッと睨む。


「んふふふ。残念だったわね。今、妾の可愛い獣人(ペット)達が可愛がりに向かわせたところですの。コイツらを連れてね」


 そう言って繋がれた女エルフが涙ながらに姿を見せた。


「!? き、貴様ぁ!!」


 今にも襲いかかりそうなアーキをディーヴァ達が抑える。


「アーキ様! 落ち着いて!」


「ふざけるなっ、離せ! あの人間、ぶっ殺してやる!」


「あらあら、随分と品が無いこと。ただ犬に道案内をさせているだけでしょうに……」


 ジルバは悪い躾でもするかのように、繋がれている首輪を強く引っ張る。


「ああっ!?」


「貴様ぁ……」


「なるほど。奴隷のエルフに森の案内をさせて、地の利の優位性を削いだわけか」


「ええ。誰でも考えつくことでしょう?」


 エルヴィントの森の案内は魔力の性質上、エルフの案内以外で通り抜ける方法は、今ヴァルハイツがやっている森を焼き払うなり、木を伐採するなりとかなり難しい問題である。


 だから一番手っ取り早い方法は、エルフを人質にとり、案内させることだ。


「さてと、貴方達の慈善事業も命運も尽きたところで、狙いを尋ねましょうか?」


「!?」


 サニラは今の発言に違和感を感じた。


 自分達の動向がある程度割れているのなら、自分達の狙いも雇い主(クルシア)に訊いているはず。


 でもそれを知らされていない様子に疑問を抱かざるを得なかった。


「貴女達は何のためにここへ来たの?」


 引っかかる疑問を解消するための質問。


 クルシアの狙いではなく、彼女達の行動原理を読むためのもの。


「貴女達を殺せばボーナスが入りますの。それに避難させているエルフ達もね」


「要するに金目当てってことかよ。がめついな」


「世の中生きていくために大切なことでしょう? 貴方達冒険者だって、高い給金のために命を張っているのでしょう?」


 するとバークは、ハンと笑ってみせた。


「ざけんな! 確かに必要だが目的じゃない。俺が冒険者をやってる理由は――心だ!」


 バークは自信満々に胸を叩いて、純粋な少年の瞳をしてみせた。


 だがそんな男心がわかるはずもなく、ジルバは呆れたジト目で、


「は?」


 馬鹿にするような疑問の一声。


「自分が正しいと思った正義を貫く。人が当たり前に純粋な笑っていられる世界を作るために、てめぇらみたいな人の痛みを知らねぇ連中をぶっ飛ばすためだよ!」


 やっぱりねと呆れるジルバは、くだらないと吐き捨てる。


「あーはいはい。馬鹿な男の妄想劇ね。一文の得にもなりもしない思想ね。ご苦労なことだわ」


「なに!?」


「どうせ勇者にでも憧れたガキみたいな思考回路なんでしょ? この二人が好みそうな幼稚な思考だわ」


 ジルバがちらりと見た通り、ユンナとバーバルが恍惚な表情を浮かべている。


「いい? 現実は残酷なの。金が無ければ何もできない。環境に順応できる思考を持っていなければ生きていけない。夢と理想が叶えられるのも一握り……いえ、ひとつまみの人間なの。それですら甘く見積もってよ。そんなお馬鹿な思考で生きていけるほど世の中、甘くないわ」


 ぐいっとエルフを引き寄せる。


「だからこんなお馬鹿さんが出来上がるの。誰かが助けてくれるなんて、お姫様気取りのこの可愛い仔犬ちゃんみたいな()()()()()()()()がね!」


 そのセリフには耳が痛いとディーヴァ達は唇を噛む。


 ジルバはエルフの髪をわしっと掴むと、そのまま地面に叩きつけ、すぐに立ち上がり頭を踏みつけた。


「――あっ!?」


「世の中ってのは、いかに支配するかしないかなの。この小汚い仔犬ちゃんを見てわからない? 支配されるようなお馬鹿さんはこういう未来しか待ってくれてないの! お・わ・か・り?」


 げしげしと足踏みされているエルフは、絶望を宿した瞳で受け入れていた。


「やめろぉ!」


「てめぇ……」


 明らかな(あお)りとわかる行動に、アーキとバークは眉間にしわを寄せて怒りを露わにするが、


「なら貴女も仔犬かしら? クルシアっていう化け物に怯える、ね?」


 盲点をついたサニラの一言に、二人はハッとなる。


「さっき言わなかった? 環境に順応できる賢い奴が生き残るの。あの雇い主(クライアント)は確かに何考えてるかわからないけど、これが賢い人間のやり方って奴よ」


 するとサニラはほくそ笑む。


「賢い? バーカ。貴女はただ臆病なだけよ。賢くも何ともないわ」


「何ですって……」


「いい? 確かに――」


 ビシッとはっきりとバークを指差し、本人はギョッとする。


「コイツはもの凄く馬鹿よ! 後先考えないし、猪突猛進だし、デリカシーは無いし、子供みたいなことしか言わないし……後、顔も馬鹿っぽい!」


「おい!!」


「……でもね、馬鹿でいいのよ」


 馬鹿みたいに真っ直ぐしか走れない。


 だから放っておけなくて、自分は冒険者になった。


 いつまでも同じことばかり。口を開けば勇者みたいだの、助けなきゃとか憧れと目の前しか見ていない。


 もっと余所見もして欲しいと思うのに、ちっとも見てくれない。


「馬鹿だからこそ、目の前の現実をしっかり受け止められるのよ。そして後悔も反省も馬鹿だからしっかりできるの」


 バザガジールにやられた時もしっかりと反省し、周りの心配を他所に強くなろうとしたその背中が、不安であり頼もしくもあった。


 オウラを助けようとした時も、真っ先に助けに駆け出した。


 どこかに行ってしまいそうで、でも手を伸ばせばがっしりと引っ張りあげてくれそうな澱みのない瞳と腕に心惹かれた。


「あんたみたいに逃げ腰でもまして、自分がさも強者であるかのように、弱者を踏みつける振る舞いをして見せるのは、心が狭く、弱い証明よ。この大馬鹿男の方がよっぽどあんたより利口よ!」


 ビシッと今度はジルバに指差して指摘すると、ジルバは歯を食いしばって表情を歪ませる。


「ま、惚れた女の贔屓(ひいき)目を差し引いても、あんたよりこの馬鹿の方がよっぽどマシ」


「ちょっ!? あ、あんたも馬鹿じゃないの!? フェルサぁ!!」


「そうだね。彼女のベタ褒めを差し引いてもバークの方が余程いい……」


「ちょっ……ジ、ジードさんまでっ!!」


 当の本人(バーク)は貶されていると思っているので、不思議そうに言葉の意図を考えるが、イマイチ閃かない様子。


「バークの真っ直ぐに人を想う気持ちを馬鹿だとか幼稚だとかで、切り捨てる君の方が余程器量が小さいよ。私だってたまに見ていて羨ましく思うくらいだからね」


「えっと……褒められてんですよね?」


 するとフェルサとジードはくりっとバークを見ると、


「褒めてるけど?」

「褒めてるよ」


 そう即答した。


「誰かを想う気持ちは何よりも変え難いものだ。それは勇者たる資質だと考えているよ。たとえそれが今は意味を成さない虚言であっても、彼の想いのこもった言葉は必ず人を突き動かす。サニラが彼についていくのも、私達が面倒を見たくなるのも……そういうところさ」


「お前にはないだろう? 人を不快にさせるだけの自己満足のわがまま娘」


 そのエルフに対する振る舞いを見ればわかると悪態を吐き捨てる。


「煩い! 煩い! 煩ぁい!! そういう綺麗事がほざけるのがそんなに偉いんか? ウチはなぁ! そんな理屈の通らない無責任な発言が、大っ嫌いなんやぁ!!」


 その負けを認めたような発言を聞いた味方である二人も、あははと渇いた笑いを浮かべた。


 するとフェルサは鼻で笑った。


「さっきまでの口調と違うね。虚勢を張ってるのはどっだか……」


「この獣人(ペット)の分際で……!!」


 まだ色々とジード達の褒め言葉の理解が追いついてないバークだが、そんなことよりもと剣を構える。


「とにかくてめぇらは許せねえ存在ってことだけは確かだ。そのエルフを離しやがれ!」


 すると乱暴にエルフを蹴ってどかすと、手元にある鞭で地面を叩き、威嚇する。


「どいつもこいつもムカつく奴ばっか! いいわ、どれだけでも吠えてりゃいいのよ! この金づる!」


 その鞭の威嚇にも怯まず、フェルサとバークが突貫する。


「しゃあ! そうこなくっちゃなぁ!」


「はあ……あの子は私の物にするから、あまり痛めつけないでね」


 ユンナとバーバルが迎え撃つ。


 じゃあとバーバルはフェルサに向かって拳を打ち込む。


「おらぁ!」


 だが精神型の速度の近接格闘など、いくら攫い屋(プロ)としてやってきた経験足の一撃も、獣人であり、元冒険者である実績のフェルサの速さには当たらない。


「遅い」


 カウンターを決めようとすると、バチンっと横槍ならぬ、横鞭が入る。


「コラ、ケダモノ。貴女は妾のペットになるんですから、大人しくなさい! 鞭に触れた瞬間、隷従させてからあんたの仲間を殺させて、妾を侮辱した分だけ、辱めてやりますわ!」


「悪趣味」


 ヒュッと飛んでくる鞭にひと触れもできないフェルサは、バーバルの拳が飛んでくる中、更に鞭も回避する。


 一方でユンナは楽しそうにバークと刃を交える。


「貴方、とっても甘やかしがいのある男の子だねぇ。本当はもう少し幼い方がいいけどぉ、我慢してあげるぅ」


「ぐっ! 何の話だ、よっ!」


 バークはのらりくらりと戦うユンナに苦戦を強いる。


 しかもユンナは姿も時折り、周りの景色に溶け込んでいく。


「何、苦戦してんのよ! ――アーク・プレッシャー!」


 バークの周りに土色の魔法陣が展開すると、その中だけ強く振動する。


 その魔法がどんなものかわかっているバークは、後退して回避すると、


「あぁん!」


 魔法陣の中から艶っぽい声が聞こえてきた。


 中に不自然に揺れている景色を確認すると、バークは斬りかかる。


「そこか!」


 斬りかかった場所にはユンナがやはり隠れており、斬り付けることに成功。


「いやぁん!」


 またしても色っぽい声を上げて、後ずさる。


「いちいち変な声だしてんじゃないわよ!」


 バークに対し、ヤラシイ声を出されるのが気に食わないサニラは文句を吐く。


「だぁってー、痛かったんだもぉん」


 とか言いつつ、腕が軽く斬りつけられた程度だった。


「バーク、さっさと決めるわよ」


「お、おう……」


 どこかぽやんとした生返事に女の勘が働いたのか、サニラは苛立った声で尋ねる。


「アンタ! こんなあざとい女の色香に当てられたんじゃないでしょうね?」


「っなわけねぇだろ。大丈夫だ」


「いや! 駄目だ。彼女にバークを戦わせるのはマズイ」


「え?」


 ジードの忠告通りにはさせないと、ユンナは果敢に攻めに入り、近接戦を続ける。


「ええー。そんなこと気にしないでぇ、私と踊ろ? ね? 可愛いバーク君」


「お、おう! 相手になってやるぜ!」


 ユンナはくねくねと身体を揺さぶりながら、短剣で身体をできる限り、近付かせながら戦う。


 バークもしっかりと刃を防ぎきる。


「どういうことですか、ジードさん?」


「いいから! バークを彼女に取られたくなかったら、魔法で距離を離して! ディーヴァさんとエフィさんなら彼女に対応できるはずです!」


「わ、わかりました」


 バークの相手を変わろうとディーヴァ達が近付こうとすると、パァンと鞭が邪魔をする。


「あら? 邪魔させると思って?」


「くっ……」


 ジルバは長い鞭を巧みに操り、バーバルとユンナをサポートする。


「あの女……ただの臆病者でとないようね」


「伊達に西大陸で(さら)い屋をやっていたわけでとないだろう。とにかくお二人は早急にバークと変わって下さい。我々が援護を――」


「させないって言ったんでしょ!」


 鞭で地面を二回鳴らすと、草の茂みから潜んでいた者が飛びかかってくる。


「なっ!? 獣人か!?」


 明らかに自我の無い白眼をした獣人達が唸りながら、ジード達を襲う。


「さあ! 獣人(ペット)達、遊んで差し上げなさい!」


 ディーヴァ達は後衛であるサニラ達を守りながら戦うが、操られていることが明白な彼らを不用意に傷つけさせられない。


「くそっ! このままではゴリ押される」


「ディーヴァ! でもさ、どうするの!?」


 サニラ達も杖を使って殴って弾き飛ばし抵抗しながら、バークが何故ユンナと戦わせることが駄目なのか尋ねる。


「どうしてあの馬鹿と戦わせるのが駄目なんです?」


「彼女はおそらく魅力(チャーム)に長けた能力だ。情けない話、これだけ距離を取っている自分にも多少の影響を受けている」


「えっ!?」


 そのジードの顔は少し紅潮していた。


 闇属性持ちには特性として魅力(チャーム)の向上という、女性特有のものがある。


 リリアもそうだが、闇属性持ちの女性は割とその特性でモテたりもする。


「彼女も鞭使いの彼女同様に精神系の魔法が使えるなら、おそらく男性限定の奴隷術だ。あの格好もそのためだろう」


 ユンナは自分の身体のラインがはっきりわかる色っぽい服装で、誘惑するような戦いぶりを見せる。


 戦い方自体はテテュラの暗殺術にも似ており、極めて急所をついてくる攻撃もあるため、バークはユンナの動きに集中して捌いている。


「あんな近くで彼女の動きを目視させられ続けていると、いくら鈍感なバークでも彼女の言いなりになる」


 そしてそれをわかった上で、ジルバは邪魔しているわけだった。


「フフ、今更気付いても遅いわよ!」


「くっ! この馬鹿バーク! そんな女に当てられてんじゃないわよぉ! ――ストーン・ポール!」


 バークとユンナの間に石柱が飛び出し、遮断する。


「いやぁん!」


「なっ!? 危ねえだろ!」


「あんたが早く離れないからでしょ!? さっきの話、聞こえてたでしょうが!」


「わかってるけど、俺は()()()()()()()()()()()()()()()


「えっ!?」


 するとバークは再びユンナと刃を交え始める。


「フフ、楽しみましょう」


「おう!」


「マズイ。完全ではないが、彼女の術中にはまっている!?」


「なっ!? でもあの女、魔法の発動なんて……」


「おそらくだけど、付与魔法なんじゃないかな? フェロモンの増強に加えて、精神汚染の術式がされてるんだと思う……」


 意識はまだはっきりとこちらを見ているようだが、無意識に従わされているところを見ると、バークが正常な状態でないことがわかる。


 そうでなければ、自分にも多少とはいえ影響を受けることはないと説明する。


「つまり、あの人間の女の周りにいる男は虜になっていくということか?」


(虜……)


「それじゃあ俺も近付かないじゃない、か!」


 獣人達を跳ね除けながら、シェイゾ達も対策はないかと意見を交わす。


 バークがユンナの術中の沼にハマっていく中で。


「私達が何とかして向かわないと手遅れになる」


(手遅れ……)


「このままじゃあ、バーク君があのおっぱいのデカいあの()に洗脳されちゃう!」


(胸……デカイ……!)


 サニラはその意見を横聞きしながら、少しずつ血管が浮き出てくる。


 たゆんたゆんと揺れるユンナの胸を見ながら。


「とりあえず私はそこまで影響を受けていない。あいつに私が――っ!?」


 シェイゾが治癒魔法でバークの影響を抵抗(レジスト)しようと意見しようとした時、隣から物凄いオーラを出す女がいた。


 ふつふつと怒りを煮えたぎらせていたサニラに限界が達したのは、恋愛に疎いエルフでもはっきりわかった。


「……地の精霊よ、我が声に応えよ。――このクソバークっ!! そんなデカ乳女のどこが良いのよおっ!! どうせ私はぺったんこで可愛げなんてないわよぉっ!!」


 物凄い魔力がサニラに集まっていくのがわかると、これはマズイとフェルサはバークに向かって跳んだ。


「そんな胸! 潰れろぉっ!! ――ジャイアント・プレスっ!!」


 いくら想像で発動でき、適当な詠唱でも魔法が発動可能なこの世界でも中々珍しい詠唱。


 しかしサニラの乙女心がしっかりと伝わったのか、魔法はしっかり発動。


 森の一帯を捲り上げるほどの土壁が二人を引き離すどころか、まとめて押し潰そうとする勢いの巨大な土壁が倒れてくる。


「ぐえっ!?」


 フェルサはバークを無理やり抱き抱えて、翔歩で何とか土壁に潰されないように走る。


「ちょっと我慢して。……まったく加減してよ」


 その土壁には(さら)い屋三人もギョッとする。


「ちょっ! おいおい!」


「あら〜」


「――じゃないわよ! ほら撤退!」


 ジルバは鞭で二人を掴むと、土壁に潰されない範囲まで投げ飛ばすと、自身は翔歩が使える獣人に抱き抱えられ、避難する。


 だが残った獣人は置き去りだった。


「マズイ!」


 するとジードは持っていた転移石に急いで魔力を注ぎ込むと、獣人に向かって投げつける。


 唸りながらその投げつけられた転移石を破壊した獣人は、その周りにいる獣人達もろとも転移した。


 魔力を大量に注いで、転移できる範囲と人の数を増やしたのだ。


 そして――、


「うおおおおっ!?」


 ドッスーンっとまるで巨人でも倒れ込んだように地鳴りと地響きが広がり、その周りでは土煙が巻き上がる。


 そしてその術者であるサニラは、荒く息を吐いていた。


「ハー、ハー……」


 まだ怒りが収まらないと言いたげな表情と息の仕方に、エルフ達は萎縮する。


「に、人間の女、怖い」


「そ、そうですね。アーキ様……」


 そんなところにフェルサとバークが合流。


「サニラ。やり過ぎ」


「煩いわね! これぐらいしなきゃ、この馬鹿が離れないでしょ!」


「ここまでしなくても大丈夫っていうか、やり過ぎだろ? それより……」


 バークはある方向を向いて剣を構える。


「あの女と踊り――」


「大丈夫じゃあ、ないじゃない!」


「――ぎゃああっ!!」


 渾身の足踏みが炸裂。


 バークは強烈な痛みに足を抱えて、その場に倒れ込み、ビクビクと痙攣(けいれん)する。


「え、えーっと、お願いしてもいいですか?」


「ま、任せてくれ」


 そう言うとシェイゾは精神汚染の完治を、ジードは怪我の治療、特に最後に食らった足への攻撃を重点的に治療した。


「あ、あれ?」


「えっと、彼女と踊ろうとは考えてないよな?」


「あ、ああ。さっきまであいつのことばっかり考えて、剣で交えて戦わなきゃって、思ってたのに……」


 その発言に再び、巨人の一撃が飛んでいきそうな勢いで不機嫌オーラ全開にするサニラ。


 逆鱗に触れぬよう、人間嫌いのはずのアーキも含めて全員でフォローする。


「バークは、ほら、それだけ一生懸命サニラのために戦ってくれただけさ」


「そ、そうだぞ、人間の娘。け、決してあの乳がデカイことしか取り柄のない女に当てられているわけではない」


「そ、そうそう。それにエルフ基準になるが、慎ましやかな胸囲の方が好かれる傾向にある。この男もお前の方が魅力的に思っているに違いない」


「ほら、シェイゾ達もこう言ってるし、自信を持って!」


「うんうん! 私は貴女の方がお似合いだと思うよ!」


 フェルサだけはアホくさいとばかりに、呆れたため息を吐く。


 そして怒りを押さえ込まれるように押し切られたサニラも落ち着きを見せた。


「べ、別にコイツのことなんて、どうでもいいし……」


 ふいっとツンを発動するサニラを見て、アーキはディーヴァに耳打ちする。


「あの人間の娘はあの男を好いているんじゃないのか?」


「お、乙女は複雑なんです……」


 初対面で、恋愛感情に疎い長命種のエルフでもわかるぞとアーキも呆れる。


「と、とりあえずサニラのお陰で彼女らと距離を取ることができた。それにバークのおかげで……」


 ちらっとサニラの様子を見る。


「彼女らのいる方角もわかったし……」


「何です?」


 ギロっと睨むサニラに、年上のはずのジードも萎縮する。


「い、いえ……ん、んんっ。彼女らの対策を練ろう。先ずは第一にあの垂れ目の彼女だがディーヴァさんとエフィさんに任せます! いいですね?」


「「はい!」」


 さっきのを教訓にシャキッとした返事をする。


「おそらく彼女は私達、男性を狙ってくるだろうが、上手く誘導してくれ! 頼むよ!」


「「はい!」」


「何かむかつく……」


 そのサニラの発言にビクッとする。


「こ、これはこの戦いに必要な処置なんです」


「そうですよ! 決してさっきみたいな逆鱗に――」


「ば、馬鹿ぁ!」


 ディーヴァとエフィがわちゃわちゃとしていると、怒っている自分が馬鹿らしいとため息を吐いた。


「わかってますよ。次はこんなことしません」


 サニラはちらっと巨大な土壁を見てそう言うと、その元凶が注意する。


「当たり前だろ? ちょっとは人のことを考えてだな……」


「――バークはちょっと黙ってて!」

「「――お前は少し黙っていろ!」」


 サニラの様子が落ち着いているとはいえ、地雷を設置するわけにはいかないとバークを黙らせる。


「は、はい……」


 しゅんと小さくなるバークは置き去りに話し合いは続く。


「その垂れ目の彼女だけど、テテュラと同じステルス使いみたい」


「そうなの?」


 テテュラと対峙したことのあるフェルサはこくりと頷く。


 男性限定の洗脳術にステルス能力。厄介だと唸るジードは、


「ならフェルサに任せた方がいいか?」


 提案するが、フェルサは首を横に振る。


「いや、私はあの鞭使いを相手にした方がいい。幸い、テテュラと違って殺傷能力の高い戦い方じゃなかったから、二人に対応させた方がいい」


 テテュラはクルシアやバザガジールに徹底的に暗殺術を叩き込まれている。


 それとは違うと横目で見ながらでも確認できたという。


「でもあの鞭使い、おそろくはジルバという娘。獣人を簡単に洗脳できるのでしょう? 危険では?」


「だからだよ。あのプライドに溢れた鼻っ柱をへし折ってやればいい」


 あの鞭の攻撃を見切っているとばかりに自信を見せると、サニラがわかったと話に乗る。


「なら、私とフェルサでそのジルバって奴の対応をするわ。元々してあった対策もあるしね」


「なら、シェイゾさんは周りの監視を。バークはあの褐色の彼女を任せてもいいかな?」


「はい……」


「えっと……」


 ちらっとジードはアーキを見ると、不本意だと言いたげな表情をするが、


「……俺はシェイゾとお前を守ってやる。魔法使いの護衛は必要だろ?」


「あ、ありがとうございます!」


「……」


 アーキは認めたわけではないと態度で示すが、少しは心を向いてくれたようで、一同は安堵する。


「サニラの魔法でヴァルハイツも動くかもしれない。彼女らからはクルシアの情報と獣人達の解放もかかっている。急ぎつつも慎重に進める。みんな、頼むよ」


 獣人達をランダムで転移させた今こそが好機だと、ジード達は再びジルバ達に戦いを挑む。

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