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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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13 エルヴィントの森防衛戦

 

 月が真っ直ぐに照らし、時が満ちたとハボルドは宣言する。


「これよりエルフ絶滅作戦を開始する! 目標はヴィルヘイムの里を滅ぼし、エルフは見つけ次第抹殺せよ! 二度と天空城落下(あのような)ことをさせるな!」


「「「「「は!!」」」」」


 各員と魔法使いの部隊が前に立ち、召喚魔が召喚されていく。


 そこから出てきたのは、ドーベルマンのような犬型の魔物が大量に現れ、森の中へと駆け出していく。


 そして、次は火の魔法が森の木々に放たれる。


「フフ。それでは妾達も作戦通りに……」


「ああ。頼むぞ」


 ジルバ達は一人のエルフをリードに繋ぎながら、火の手が回っていない箇所から森の中へと入っていく。


 燃え盛る炎を心苦しい想いで見つめていると、一人の騎士が声をかける。


「ハボルド様、どうされました?」


「このようなやり方でなくとも良かったのではないか……」


「ハボルド様がお優しいのはご理解できます! しかし、妖精王という化け物によってキリア様が亡くなり、ルミィナ様も行方知れず。多くの騎士兵も失いました」


「慈悲も無い、か」


 エルフ達の天空城の作戦がなければ、ディーガルがいる以上、対話という解決がなくとも、せめて正々堂々と戦うという選択肢もあっただろうと、深いため息を吐く。


「そうだったな。これは弔い合戦であり、あのような非情な存在を使うエルフ達に対する罰でもある。苦痛と恐怖を与えることで罪を意識させてやらねばな」


「その通りですよ、ハボルドおじさん」


 聞き覚えのある幼い声の方へ振り向く。


「ノートか! よく来られた」


「フェルシェンに転移の魔法陣があったの、忘れた?」


 失念していたと頭をかくと、ディーガルとノートの状況を尋ねる。


「貴殿らは重傷だったと聞いていたが、大丈夫なのか?」


「へーきへーき。この通りピンピンしてるよ。むしろ今までよりも身体が動く感じがするけど、目の方はねぇ……」


 ノートは都合が悪いと義眼を押さえる。


「それならば休んでいてもいいのだぞ?」


「そうも言ってられないよ。あんな気持ち悪い女神像野郎を送りつけてきたエルフ共を根絶やしにしてやらないとね。本調子じゃないけど、僕も出るよ」


「いや、どちらにしても行かせられん。今はご覧の通りだ」


 そう目の前に広がるのは、エルヴィントの森が炎に焼かれている光景だった。


 赤とオレンジの火が黒煙を上げながら、森を食い尽くしていく。


「なに? エルヴィントの森を焼き尽くして丸裸にした後、(なぶ)り殺しにするの?」


「幼気な少年が発するセリフではないな、まったく。そこまではせずとも森をある程度焼き尽くせば、迷いの森の効果は薄れる」


「なるほど。その後に僕らが潜入してヴィルヘイムを落とし、族長を炙り出すわけだ」


「その通りだ」


「なら、気軽に待ちましょ」


 ノートは近くにあった木の椅子に腰をかけると、不敵な笑みを浮かべる。


「ディーガルさんを傷付けた罰とディーガルさんの信頼になれることを炎の中で、懺悔と感謝の念を込めて祈りな、耳長共ぉ! ――あっはははははは!!」


 ***


 その炎を遠く見ていたアーキ達、エルフの戦士達は動揺を隠せないでいた。


「おのれぇ! 神聖な森に火を放つなど! 愚か者共めっ!」


 先祖代々守り抜いてきた森が焼かれている光景は、エルフ達からすれば誇りを踏み躙られたのと同じ。


 アーキ達は複数の隊に分けて進軍を開始する。


「アルビス、手筈通りに……」


「ああ! お互い、無事に再会しよう」


 アーキはこくりと頷くと、火の手が出ている方角へ向かう。


「よし! 皆、奮起するぞ! 人間共の策略などに屈するなっ!」


 ダークエルフ達はその音頭に勇ましく返事をし、たたっと駆け出す。


 アーキはエルヴィントの森に対し、何らかのアプローチをかけられることは予測できた。


 それでも燃やしてくるとは考えたくなかったようで、歯を食いしばる。


「我らは陽動。派手にいくぞ!」


 すると早速、ドーベルマンのような犬型の魔物達が一直線に襲ってくる。


「舐めるな! 犬風情がっ!」


 アーキは刀身がつららのような両刃の短剣を二刀持ち、先ずは横に薙ぎ払って目を裂き、視界を奪う。


「キャイン!?」


 その怯んで無防備に狼狽(うろた)えている首を切り落とす。


 他のダークエルフ達も素早い動きをするドーベルマン型の魔物にしっかりと対応した。


「皆、怪我はないか?」


「は、はい。大丈夫です」


 アーキを含め、八人のダークエルフの陽動兼遊撃部隊。


 ちょっとやそっとではやられることはない。


 ダークエルフは通常のエルフとは違い、精神型であっても巧みに体内魔力をコントロールできることから、魔法剣士として戦うことを可能とする。


 とはいえ、人間のように剣士というよりは素早さを主体とした暗殺剣術がメインとなる。


 接近戦では腰の入った一撃は放てないものの、それを補うほどの魔法をこのダークエルフ達は使えるのだ。


 だがダークエルフの部隊のインテリ男性のが首の取れたドーベルマン型の魔物を見る。


「奴らの作戦はエルヴィントの森の効力を火責めにて弱めつつ、我らの動きを封殺。更に追跡力にも長けたこの魔物達での挟撃(きょうげき)という作戦か……」


「な、なるほど。それは厄介ね。しかもこの魔物達に森の効力が与えられたとしても、使い捨てだから適当に暴れさせる方が合理的だものね」


「くっ。正々堂々とはしないとわかっていても、腹正しい」


 そんな少々和やかな雰囲気で会話する中、一人の女性エルフがふと疑問に思った。


 生物兵器と呼ばれている魔物には、その被害者である人型の死体が出現するはず。


 だが待てど暮らせど首を切り落としたはずの遺体は、その現象が起きない。


 するとアーキの背後からゆるりと浮かんでいるものが睨みつける。


「――アーキ様ぁ!!」


「――バァウ!!」


 その女性エルフはアーキを突き飛ばし、首だけの犬型の魔物がその庇った女性エルフの肩を噛み砕く。


「――ぁああぁあっ!!」


「くっ! すまない! 今助け……」


 助けようと構えたアーキ達の目の前には、恐ろしい光景が広がっていた。


「な、なんだ……これはっ!?」


 首の取れたドーベルマンの身体が立ち上がり、首だけのドーベルマンはその首部分から触手のようなものを生やし、バァウバァウと鳴いて恐怖心を(あお)る。


「アーキ様、これは一体……」


「わからん! ただ普通の犬の魔物ではないということだ! アンデットか!? くそっ!」


 そう言うとアンデット・ドック達は一斉にアーキ達を襲い、乱戦状態に発展。


 必死に振り解くも、身体と頭の連携は凄まじく、一筋縄ではいかない。


 特に頭に関しては、その触手も器用に操って追い詰めていく。


「すまない、しっかりしろ!」


「ううっ、アーキ様……」


 噛みつかれた彼女の肩は噛み跡がはっきりとわかるように、肉まで食い千切られていた。


 その痛々しい様子を見ながら、側の木にもたれかからせると、陽動のつもりがこれでは全滅すると悟ったアーキは、


「キリがない――皆、一気に叩く! 離れていろ!」


 そう叫んで指示を出すと詠唱を始める。


「――風の精霊よ、我が声を聞きたまえ。疾る紫電の獣を飼い慣らしし童よ。悪戯のままに獣を解き放ち、我が敵を撃て! 雷鳴よ、疾れ! ――ボルテック・ビースト!」


 詠唱を終え、短剣を振ると紫電が魔物達に向かって疾り出し、辿るように魔物達を焦がしていく。


 キャンっと一瞬の声を上げて、バタバタと倒れていくアンデット・ドック。


 触手の動きも止まり、生肉を焼け焦げさせた臭いが辺りに充満する。


「皆、無事か?」


「ありがとうございます、アーキ様」


「礼は後だ。先ずは彼女の――」


 ズドンと何か衝突した音がすると、目の前にいた仲間の姿が(さら)われた。


 横殴りに消えた仲間を見ると、お腹に複数の触手が突き刺さり、即死している姿があった。


「あ、ああ……」


 その触手が戻っていく方向を向くと、庇ってくれた女性エルフが立っていた。


 だがその彼女の表情は悲痛に泣く顔をしており、肩からは不気味な触手が生え出ていた。


「逃げて! 逃げてくださ……いびっ!?」


 その女性はぐりんと白目を剥くと、激しく頭を掻きむしり始める。


「――あぁあぁああっ!! はびってぐりゅ(はいってくる)!? 出ていげ! ででいけ! デでて出でで――」


 そのあまりにも狂気的な光景に言葉を失ったアーキ達。


 女性エルフも苦しみ終え、触手が身体の中へ入っていくと妖艶な笑みを浮かべた。


「アーキ様ぁ……みんなぁ……」


 ニタニタと笑いながら近寄ってくる女性エルフに、アーキ達はゆっくりと後ずさる。


「こ、これ以上、近寄るな!」


 明らかに彼女本人でないことがわかる。


 さっきのアンデット・ドックに何かされたに違いないと全員武器を構え、敵意を見せると嬉しそうに不気味に微笑む。


「――逝こ」


 ごばぁっと溢れ出るように食い千切られた肩から血色の触手が大量に噴き出し、生臭い汚臭を撒き散らす。


 彼女はその触手の化け物のアクセサリーのようにぶらんぶらんとくっついている。


「ば、化け物めっ!」


 そのグロテスクな化け物はダークエルフ達に襲いかかると、冷静だったダークエルフ達もその異形な光景にパニックに陥る。


 伸びた触手は変幻自在に動き回り、


「あっ!? ああああっ!!」

「た、助け――」


 次々とアーキの仲間達が殺されていく。


 薙ぎ払って頭を飛ばされた者、腹を貫通し内臓が飛び散った者、締め付けられて圧死した者、その触手から生え出た口に噛み殺された者。


「やめろぉおっ!! あぁああああああっ!!」


 アーキは絶望しながらも、果敢に抵抗し、一人でも多くの仲間を救おうと奮闘する。


「アーキさまぁ! アーキ様! アハッ。死にましょう? 一緒に天国を見ましょう! 綺麗ですよォオ!?」


「お前も目を覚ませ! 何とか頑張って――っ!?」


 横殴りに払った触手がアーキの腹を殴る。


「――がぁはあっ!?」


 咄嗟に後ろへ跳んだのが幸いしたか、まともにはもらわなかったものの、吹き飛ばされて木へと激突する。


 だらりと力尽きた様子でもたれるアーキに、ズンズンと触手が人型を成した化け物と髪飾りのようにぶら下がっている女性エルフが近付いてくる。


「さあっ! シニマショウ? 逝きマショウ? さアっ! さあっ!!」


 アーキは呪った。


 こんなものを作り上げる人間を。その部下を助けられず、何もできなかった自分を。


「――ロック・クライシス!!」


「――ギャバア!?」


 この化け物より大きな石板が、挟み込むように押し潰す。


「おい! 大丈夫か?」


 アーキの前に現れたのは、ジード達だった。


「今のは何だ?」


「さあね。でも……」


 その挟まれたはずの化け物は隙間からうねうねと触手を伸ばす。


「うげっ! 気持ち悪っ!?」


「寄生型の魔物か、厄介だな。サニラ! その術で完全に押し潰せ!」


「わかりました!」


 サニラは更に魔力を込めて圧力をかけ、ぐしゃっという音と共に大量の血が流れ出てきた。


 その光景を見たアーキは、怯えるような荒い息遣いをしたかと思うと、キッと睨んでサニラの袖を掴んだ。


「何故だ! 何故殺した!」


「は、はあ!? あんた何言ってんの!?」


「アイツは仲間だった……助けられたかもしれないのに……」


「ふざけんじゃないわよ!」


 サニラはバシッと取り払うと、理不尽な対応に激怒する。


「助けてやったのに、何で文句を言われる必要があるわけ!? 意味わかんない!」


「誰が人間に助けて欲しいなど言った!? 死んでもごめんだね!」


「――ざけんなっ!!」


 二人の口喧嘩に割って入ったのはバークだった。口喧嘩の相手がもう一人増えたと睨みを効かす。


「何だと……!」


「死んでもごめんだと!? それを死んだアイツらも同じことを思ってたって言いたいのか!?」


 バークは無残にも散っていったダークエルフ達を指差して怒鳴る。


 その顔には涙も流れていた。


 アーキはその動かなくなった同士達を見て、ハッと我に帰る。


「誰だって生きたいって望むもんだろ! お前達だって死ぬためにヴァルハイツとやり合うわけじゃないだろ! 常識考えろ! この大馬鹿野郎がぁ!!」


 そのバークの発言に、悔しそうに視線を逸らすと、空気が重いとエフィが割って入る。


「と、とりあえずさ、撤収しよ。他のところもヤバそうなんだよね?」


「そ、そうだ! 喧嘩などしている場合じゃないぞ! 早く次の現場へ!」


 シェイゾを先頭にエルヴィントの森を駆け、次のエルフ達の元へと急ぐ――。


「――それにしてもさっきのはなんだったのかしら?」


「おそらくは寄生型……それも虫系統のやつだ。体内に入られたら、ほぼおしまいだ」


「あんな風に変貌した化け物になるってことですか?」


「種類にもよるが、意識を支配することや身体の変質には本来、時間がかかるものなんだよ。遅効性の毒みたいなものだと考えてくれればいい」


 寄生型の魔物、特には虫のような虚弱な魔物は、外気に触れるだけでもきつかったりする。


 武装魔蟲のような下層にいる魔物ならば、多少の克服もできているだろうが、極論として寄生型の魔物は名の通り、寄生先がないと基本弱い。


 かと言って寄生すれば強いかと言われると、そこも能力に分かれるところだが、武装魔蟲のように自分自身の変質寄生型は珍しく、ほとんどが体内支配型。


 だがその体内支配もその寄生したものの魔力が高ければ、自殺行為にもなる。


 その魔力差に負かされ、死んでしまうからである。


「つまりあれはアミダエルの実験の成果……」


「だろうね。仮説は色々立てられるけど、寄生対象の魔力に影響を受けないようにはなってると考えられる。あの成長速度を考えれば間違いなく……」


「お前達……ああなるまで観ていたのか?」


 ジード達の会話を聞いて変な誤解をする。


「は? あんたを助ける前に他のエルフ達も似たような殺され方をされてただけよ」


 ジード達はシェイゾの水晶での監視魔法で周りの状況を目視し、フェルサ嗅覚と視覚で辺りの散策。


 状況と距離を考えて、救出に向かえる場所から片っ端から向かっている。


「あのパラサイド・ドックの能力は非常に厄介だ。私達も道中――」


「ガアウッ!!」


 話していると、草陰から飛び出し襲ってくるが、


「こうやって襲ってくるからよぉ!」


 バーク達、前衛陣がその奇襲に合わせ、片足を斬り落とす。


 そして前に倒れ込み、バランスを崩したところを更に斬り落とした前足の後ろ足を斬り落とす。


「こうやって対処してるのさ」


「パラサイド・ドック?」


「寄生して繁殖することからそう付けた。正式名称など知らないけどね」


 何せ初めて見る魔物だ、見た目はドーベルマン型の魔物、ヘル・ドックである。


「この寄生体は頭が本体らしいから、足さえ潰してしまえばご覧の通りさ」


 バーク達が対処したパラサイド・ドック達は前後ろ足の左右のどちらかに片寄る形で斬り落とされており、唸りながらも動けずにいる。


 寄生型の魔物でも再生能力が低いことが幸いした。高ければ今頃、襲われて一網打尽だろうと安堵したという。


「しかし、ジードさん達がいてくださって良かった」


「そうだね。私達じゃ、こんな解決方法は――」


「ふざけるなっ! 人間に助けてもらってへらへらするなっ!」


 ディーヴァ達の心許した様子に激怒するアーキだが、腕を組んでサニラが迫る。


「あんた、ホントにいい加減にしなさいよね。人間がどうとか、エルフがどうとか子供みたいに……。反省もできないの?」


「黙れ! そもそも貴様らが略奪など行わなければこんなことには……」


「それは私達じゃなくてヴァルハイツでしょ? 一緒に括らないで!」


 またさっきの喧嘩になりそうだと、ディーヴァとエフィが止める。


「やめて下さい、アーキ様。今、そんな言い争いをしている場合では……」


「黙れ! お前達もお前達だ。エルフの誇りを捨てて、忌々しい人間と手を組むなど……」


 アーキの反省の無さに呆れながら、サニラはボソッと尋ねる。


「ジードさん、どうしてエルフってあんなに頑固なんですか?」


「良くも悪くも誇りを重んじ、真面目で融通が利かないからだろう」


 ジードが言うには、人間でも年老いたご老人が自身の経験足からこれが正しいという固定概念が形成されるように、エルフ達も長年の経験と先祖代々から伝わるものを尊重し、信じ抜くことから頑固なのだと話す。


 エルフにもグループ関係が存在するように、アーキのような意固地な方とディーヴァ達のような柔軟な方と分かれるようだ。


「――決してそれが悪いわけではないけど、柔軟に攻撃してくる相手に対抗するには情報が少な過ぎた」


 するとサニラは怒鳴り散らしているアーキに聞こえるように、小馬鹿にする。


「つまりは森の加護だかを馬鹿みたいに(すが)りついて、上手くいかず仲間が殺されたら誰かれ構わず、他人のせいにしたと……馬鹿みたい」


 聞こえるように言ったので、勿論矛先が向いてくる。


「何だと!? 俺が考え無しだったと言いたいのか?」


「そう言ったのが聞こえなかったの? 貴方、本当に人の話を聞かないのね」


「この女……」


「やめろ」


 バークがサニラの胸ぐらを掴む手を、男らしく振り解いた。


 その勇ましさに、元々惚れているサニラは、


「バ、バーク……」


 きゅんと乙女心をくすぐられる。


「サニラのガサツさに苛立つのはわかるが、お前も――」


「フンっ!」


「ぎゃあっ!? お、お前なぁ!」


「ガサツで悪かったわね!」


 このやり取り何回見ただろうと、ディーヴァ達は呆れるが、フェルサはポンと肩を叩くと、こんなもんじゃないよと無言で首を振る。


「と、とにかくお前もいい加減、反省しろ! 人間がどうとか言ってる場合じゃないって、シェイゾさんも言ってたろ? それにあんたのやり方が間違ってるって証明もされてるだろ?」


「そんなことはない! 他のところは上手くやって……」


 するとバークはチラッとパラサイド・ドックを見て、アーキの視線をそこに誘導した。


 パラサイド・ドックの口元には、血で汚れた後が残っていた。


「フェルサ」


「……ん。こっち」


 バークの意図を理解したフェルサは、臭うと案内するとそこには、


「……!!」


「これが証拠だよ。まだ欲しいのか?」


 喉元を噛み砕かれたアルビスと仲間のエルフ達の姿があった。


「ア、アルビス……」


「お前達がどんな作戦で対抗しようとしたか知らねえが、甘かったって証明だろうが、これ」


 茂みの中から興奮状態で出てきたことに違和感があった。


 そして興奮してた理由が人を噛み殺した後だとすれば、近くにエルフ達が襲われていた箇所があるはずだと、予想が的中した。


「大方、この森を頼りにして奇襲を仕掛けつつ、長期戦に持ち込むつもりだったんでしょ?」


「わ、我々だって奴らの作戦を読んでのことだったのだぞ!?」


「だったら撤退をするべきだったな。相手がどれだけの戦力を投入してくるかもわからず、対応するなんて馬鹿のすることだろ?」


「あんたに言われたら終わりね」


「――お前はどっちの味方だ!?」


 所々にバークとサニラの夫婦喧嘩が入るが、見通しが甘かった事実は目の前に広がっている。


 鮮血の絨毯、生気を失った同胞の亡き骸は喋ってもいないのに、喋るよりはっきりと状況が突きつけてくる。


「認めない、認めるもんか! 人間に屈したなど……」


「誰も屈しろとは言ってないだろ。手を取り合って生きていこうぜって言ってるだけだ」


 サニラとの喧嘩を中断し、バークは死体の前で膝をつくアーキに語る。


「俺達はお前達が憎む、ヴァルハイツの人間じゃない。お前らだって全員がアーキってことないだろ? お前の言い方だと、エルフは全員お前ってことになる。ディーヴァもエフィも女だ。どう考えたってお前じゃない」


「お前は何を言っている。当たり前だろ?」


「でもお前は人間なんかって一括りにしてるだろうが!? それは今言ったことに当てはまるだろ?」


「アーキ様。私達が違うように、人間も違います。種族で括るのはもうやめましょう。そのせいで族長も殺されてしまったのですから……」


 ディーヴァ達はそう口にして死んでいった族長を目の前にしていた。


 最後まで自分の信じたものを貫き通し、死んでいく姿を。


 側から聞けば聞こえはいいが、(すが)りついて死んでいくのはただの滑稽なピエロである。


 だから笑われたのだ、クルシアに。


 自分達は頼りにしていただけで、信じ抜いていたわけではなかった。


 ただ当てにしていただけなのだと。


「これ以上の犠牲を出さないためにも、どうか今一度、命を守る選択を。そのためには彼らと協力すべきだと飲み込んで欲しい」


「……」


 アーキは頭の中で葛藤する。


 人間を信じず、自分達の誇りを守るために命を賭してくれた同胞のために、自分だけがそれを破り、おめおめと生き延びることが正しいことなのかと。


 だが生きていなければ、何の解決にも繋がらないどころか、言葉を発することすら許されなくなると、目の前の仲間達の死に目が語る。


 生きていなければ、事を成すことも死んだ者達を弔うこともできないと。


「……わかった。もう好きにしろ。俺はどうすればいい?」


 半ば自暴自棄な言い方にも聞こえたが、先程のような取り付く島もないような状況じゃないだけマシだ。


「俺達の陽動作戦はある程度、達成してる……ですよね?」


「ああ……」


 ジード達はシェイゾが以前、霧の魔法によりリリア達を惑わしたように、この森にそれを散布した。


 これによりエルヴィントの森対策をしてくる魔物や騎士達の方向感覚を狂わすことが可能となり、自分達に襲い掛かられる数を減らしつつ、相手はその術者を探し回るという寸法だ。


 ジード達は向こうがヴィルヘイムの里の正確な戦力は理解できてなくとも、元々エルフは長寿の人種としての特徴の一つ、少数民族であることは把握していること。


 本里ではあっても凶暴性もある魔物を数多く放って、先兵にすることは目に見えていた。


 正直、それを実行するにパラサイド・ドックは適しすぎていたことには焦ったが、それなりに数を減らしつつ対応ができている。


「つまり俺達は囮りだったと。フン! やはり人間ではないか」


「馬鹿言わないで! 私達も助けられるならそうしたわよ」


 そのサニラの発言に一同は――どの口が言う、と考えた。


「でもまだ助けられる命があるわ。貴方達に賛同しなかったエルフ達は既に避難してるわ。貴方もそこへ向かいなさい」


「……それが俺にやらせたいことか? 俺は戦えるぞ」


「貴女達エルフはこれからもっと大変になるわ。貴方のように頭張ってた人が一人でも多く生き残る方がいい。勝たなくていい……生き残ることを考えなさい!」


「だがお前達は何故、こんな危険な場に留まり続ける? 俺を避難させるには説得力不足ではないか?」


 矛盾しているところを指摘された。


 確かに陽動して気を逸らし、エルフ達を逃すだけなら、魔法だけ発動して放置すればいい。


「私達だってできれば、尻尾巻いて逃げたいわよ。でも……」


 じゃりっと小石を擦る音がした。


「来たよ」


 フェルサが一目散に構える。


「あらあら、発見致しましたわ。エ〜ル〜フ」


 そこには映像に映っていた三人の(さら)い屋の姿があった。

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