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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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08 異形の巣窟

 

「――どうだった?」


 待機部屋を何とか周り切った四人は、エメラルドがいるこの場所へと合流していた。


「ダメね。ほとんど信じてくれなかったわ」


「ほとんどってことは……」


「ええ。一箇所だけ信じてくれたわ。そこはとりあえず強固な結界を張り続けることと、獣人達が耳や鼻で危険を察知するよう言ってきたわ。これなら大概対処できるでしょ」


 実際はナタルの語る所は、ひ弱で卑屈な考えの人達が多く、半ば強引に提案してやらせたんだよなと思うシドニエだった。


 一方で酷く落ち込むアイシア。


「こっちはもう全然。すごく凹んだ……」


「し、仕方ないですよ! ド、ドンマイです! マルキスさん!」


 アイシア達の所は最初のような考えの所ばかりで、本当に上手くいくのかも定かではないと語った。


「でも警告しないよりはマシよ。良かったとしましょ」


 いくら自分達の言葉に疑問を抱いても、思った通りになるとは限らない。


 正直、賭けな部分が多い。


 だけどこれが多分、多くの亜人達を救う手段。


「やれることはやった。後は……」


 天井から相変わらずぶら下がっているコウモリのような影をした赤い瞳がこちらをジッと見る。


「少しでも被害を減らすためと、アミダエルを刺激するために魔物を狩り尽くしますわ!」


「おおっ!」


「そのためには頼むわよ」


「任せて――召喚(サモン)!」


 擬人化できる残り二人も召喚。アイシアに跪き、ご挨拶。


「神子様。このホワイトめにご命令……」


 アイシアはブッスーとした顔をする。


「神子様やだ! アイシアって言ったよね?」


「あっ、ああっ!? す、すみません、神子……じゃなくてアイシア様!」


「それでアイシア様。ご命令を……」


 あたわたと慌てているホワイトを横目に、ノワールは冷静に判断を(あお)ぐ。


「君達三人に任せたいのは、魔物の撃破と亜人の人達の保護だよ。多分ここの魔物を倒すと亜人の人が出てくるかもしれないから、その人達も回収してきて」


「「「は!」」」


 するとナタルは羨ましそうに呆れたため息を吐く。


「なんだか差を見せつけられているようで、情けなくなってくるわね」


 アイシアが召喚したのは、龍神王の側近として仕えていたドラゴンが三体。


 しかも擬人化可能という高性能っぷり。


 精神型魔法使いからすれば、これほど優秀な召喚魔を使役できるのはメリットしかない。


 しかもアイシアの場合、龍の涙の影響もあって使役する魔力も軽減化されている。


「そんなことないよ! ナッちゃんの鳥の方が可愛いよ!」


「「「!?」」」


 アイシアの発言にショックを受ける三人。


 鳥とドラゴン、どちらが可愛いかと言われれば言わずもがなだろう。


「あのね、そういう問題じゃ……」


「ア、アイシア様ぁ〜っ!」


 そんな揉め合いが発生するが、


「こほん」


 リュッカが慣れない咳き込みをしてみせると、一同からジッと視線が集まる。


 気恥ずかしくなったのかあたわたと慌てふためきながら、音頭を取る。


「正直、責任重大な役回りで緊張もあるけど、気張らずに全力で取り組もう!」


「「「おおーっ!!」」」


 ここでどれだけ早くアミダエルを捕縛できるかによっては、戦争の鎮静化に繋がってくる。


 かなり重要な役割だが(こな)さなければならない。


 すると辺りの魔法陣がフッと効力が無くなったのか、消えていく。


 するとさっきまで大人しく見ていた赤い瞳が奇声を上げて、こちらに向かって威嚇する。


「キシャアアァァーーッ!!」


 暗闇の中でも大きく翼を広げているのがわかり、その威嚇の声を出す口も大きく、顔面は猫のような形をしている。


 今にも襲おうと体勢を構えた時、


「――キャアアッ!?」


 ザシュッとその猫の頭が切り離され、ぐちゃっと地面に転がった。


「ひっ!?」


「な、何が……」


「エメラルドちゃん!」


 風が吹いた方を見ると、エメラルドが鋭い眼光でそのコウモリ猫を見ていた。


 横払いの体勢から、かまいたちを放ったようだ。


「アイシア様、これでよろしいでしょうか?」


「バッチリだよ! その調子でこの地下道の魔物をお願い! 私達も頑張るから……」


 そのエメラルドが褒められている状況を悔やむホワイトの顔は不機嫌そうにしていると、


「……ォォ……」


 何やら遠くから低い叫び声が聞こえてくると同時に、ドスンドスンと裸足でかけてくる重い足音が聞こえてくる。


「――ォオオオオッ!!」


 先程見かけた人面オーガが叫びながら、迷わず棍棒片手に突っ込んでくる。


「むっ! 私に任せ――」


 ホワイトが意気揚々と戦闘体勢をとっている内に、ギュンと横から飛び去っていく。


 ドォンと激しい衝突音がすると、ノワールがその人面オーガを殴り飛ばしていた。


「なあっ!? わ、私の獲物……」


「力み過ぎだぞ、ホワイト」


 そう言うとまだ動いている人面オーガへ一瞬で飛んでいくと、


「――はああっ!!」


 連続で拳を打ち込み、人面オーガはボッコボコにされて生き絶えた。


「エメラルド! ホワイト! アイシア様のお手を煩わせるな! いくぞっ!」


「わかっている!」


 そう言うとエメラルドとノワールは曲がり角を行き、姿を消した。


 ポカンと置いてけぼりを食らったホワイトは、ハッとなる。


「ず、ずるいぞ、二人共! 私だって神子様にいいとこ見せたかったのにっ!」


 すると後ろから、ゴゴゴとオーラが漂ってきた。


「み〜こ〜さ〜ま〜?」


 あれだけ嫌だって言ったのにと、ホワイト以上に不機嫌オーラを出すアイシア。


「ああっ!? も、申し訳ありません! アイシア様! か、必ずお役に立ちますので! それでは!」


 逃げるようにその場を後にしたホワイトも、かなりの速さでいなくなり、地下道の奥から戦闘音が響いてくる。


「……あ、あの彼らだけで事足りそうな気がしてきました……」


 意気込んだだけに、拍子抜けさせられた。


 思えば龍神王の側近を使役しているアイシアがいれば、苦労なく魔物達を倒せるというもの。


 いくら生物兵器として改造されているとはいえ、最強種であるドラゴンは伊達ではない。


「何言ってますの! ここを徘徊させている魔物はおそらくアミダエルが作った試作品、もしくは不良品ですわ。それでも数がかなりいたでしょう?」


「え、えっと……はい」


 背中に乗っていた時は、密着していた緊張感からそれどころではなかったが、渡された地図を確認した時、魔物の数は確認していた。


 この広大な地下道には四、五十体は徘徊している。


 しかもどれも未確認の変異種――つまりはアミダエルの作った生物兵器である。


「あれだけの強力な魔物達が束になってかかって来られては、私達も亜人の方々も無事では済みません。ですから、あの三人にあらかた数を減らして頂き、対処できるようにしておくのですわ」


 あのドラゴン達の方が自分達より圧倒的に実力が上なのだ。


 魔物の対処の時間差があまりにある。


 それに研究所内で何が待ち受けているのか、アミダエル戦のための消耗を抑えるなど、理由を挙げればキリがない。


「私達ができるのは、亜人の人達の安否を確認しつつ、魔物が出てきたら対処。それでいきます!」


 そう言うと最初に説得に行った待機部屋へと、先程倒したコウモリ猫と人面オーガから縮んだ亜人達を運ぶ。


「あ、あんた達……!」


「お願い。この人達の冥福を祈ってあげて……」


 それだけ言うとアイシア達はすぐさま、待機部屋を後にした。


 この死体の事情を訊こうと手を伸ばしたが、空虚に終わると、やつれたエルフはその首の取れた獣人を、人間は簡単に騙すと悪態を吐いていたエルフは、口から大量に吐血しているエルフを抱える。


「何であの人間達はあんな顔で、この者達を運んで来たのだ……」


 その時のアイシアの表情は悲しそうな雰囲気、悔しさを滲ませた優しい笑顔。


 その思いやりが見えた表情に困惑する亜人達。


 外で響く戦闘音、亜人達は事態を冷静に判断しようと、この死体を見て感じた――。


 ――あらかたの魔物が倒し尽くされ、その後には変身が解けた亜人種達が倒れている。


 息はしておらず、全員を運ぶことはできないため、地下道の壁にもたれかける。


「……どうか生まれ変わったら、幸せな人生を歩めますように……」


 アイシアはそう言って手を合わせた。


「待機部屋の人達も何とか無事なようです」


 そう言ってナタルは感知魔法を展開。


 魔物の反応はあの三人のドラゴンのみとなり、待機部屋の亜人達にも反応があった。


「今のところ不思議なくらい上手くいってますね」


「ええ……少し不気味ですわ」


「何言ってるの! これも亜人さん達が私達のことを信じなかったおかげだよ……」


 とは言ったものの、


「ううっ……切ない」


 出来れば信じた上で成功して欲しかったと嘆く。


 実際、三人のドラゴン達だけでは、待機部屋へ向かう暴れ狂った魔物達の阻止はできなかっただろう。


 だがアイシア達の言葉に疑問を感じ、対応策を彼らで打ち出したからこそ成り立ったのだ。


「博打のかかるやり方ですみません……」


「貴方のやり方でなければ、必ず犠牲が出てましたわ。あれだけ絶望していた亜人の方々が咄嗟の判断を求める方が賭けでしたわよ」


「そうそう! 自信持って! シド君」


「あ、あの……」


「ん?」


「い、いつからシド君に?」


 前までシドニエ君だったような気がすると疑問を投げかけると、あっけからんと、


「リリィがシドって呼んでるし、私達もこんな重要な作戦を担ってるんだから、強固な関係を結ぶべきだと思ったの! だから呼び名から……」


「ええ……」


 わからなくはないけどと、ちょっと呆れ気味な反応をとったシドニエ。


「あのですわね。男性に対し、急な距離の詰め方は誤解を生みますわよ。貴女はやっとでさえ、人懐っこい性格なのですから気を付けないと……」


 そう説教を垂れるが、当の本人は目をマルッとして首を傾げる。


「?」


「……なんでもありませんわ。好きになさい」


「あ、諦めないで欲しいな!」


 リュッカもそれとなく言い続けてきたことだが、説得力のある人に負けて欲しくなかったとツッコミ。


 何かとナタルもアイシアには肩なしである。


「と、とりあえずここを確認したら、研究所に向かいましょう」


 そう言ってシドニエが案内する待機部屋は、信じてもらえた亜人達がいる部屋。


 彼らには今回の騒動で、更に自分達の言葉に説得力ができたはず。


 他の亜人種達の統率をとってもらうため、合流するのだ。


「み、皆さんご無事で……」


 曲がり角から声をかけてその部屋を見た瞬間――戦慄が走った。


「え?」


 そこにはズタズタに引き裂かれ、部屋中が血に染まった光景が映っていた。


 老若男女問わず、切り裂かれ、突き刺され、首や胴体の離れた死体も転がっていた。


「な、何で……どうしてっ!?」


 思わず悲痛を叫ぶアイシアに、その揺らいだ心を感じ取ったのか、ドラゴン達は(あるじ)の元へ帰還する。


「アイシア様! どうし――っ!?」


 その光景に驚いたのはドラゴン達もであった。


「ば、馬鹿な……」


 ドラゴン達は最強種としての誇りがあった。


 魔物に遅れをとらないのは勿論のこと、気配があれば直ぐにでも対処できる自信があった。


 何より優しいアイシアに対し、このような惨状は絶対見せまいと神経を尖らせていた。


 にも関わらず、この待機部屋の亜人達は皆殺しにされていたのだ。


 その絶望したアイシアを見て、ドラゴン達はすぐに跪き、謝罪する。


「も、申し訳ありません! アイシア様! もっと気をつけていればこのようなことには……」


「う、ううん。貴女達のせいじゃないよ」


 くるっと振り向いたアイシアの表情は、


「よくやってくれてるって、わかってるから……」


 無理やり作った笑顔だった。


「「「――っ」」」


 三人は自分の主人に何という顔をさせてしまったのだと、心から後悔する。


 これ以上、言い訳がましく謝罪を述べても、きっとこの人は許しの言葉しかくれない。


 きっと自分の責任だと背負う方だとわかっているから。


「……生存者はいませんわね」


「は、はい……」


 すぐに安否確認に入ったナタルとリュッカは、俯いてそう語った。


「ねえ、ナッちゃん。この人達はナッちゃん達が合流した時は、生きてたんだよね?」


「――当たり前ですわ! 私達はエルフの方々に結界を張るよう指示し、魔物の気配は感知魔法と獣人方の五感神経を使って警戒にあたるよう、言い聞かせましたわ!」


 そこまで用心を欠かさなければ、たとえ幾人かやられたとしても、逃げ出すことはできたはず。


 結界を強固に張りすぎて逃げ出すのが困難になるなんて、さすがに間抜けなこともないだろうと考える。


 何せ解けばいいだけの話。


「とにかくもう一度、感知魔法を!」


 リュッカ以外は感知魔法が使えるため、広範囲に感知すると、研究所に繋がっているという場所から、大量の魔物の気配を感じた。


「仕掛けてきましたわね!」


 その魔物達は迷うことなく、こちらへと向かってくる。


「みんな! 他の待機部屋から亜人の人達を避難させて一箇所に! もう一人も殺させないで!!」


「「「は!」」」


 本来なら得体の知れない魔物が潜んでいるところ、主人を最優先して守るべきだろうが、心を痛めているアイシアの望むままにと、アイシアの強さを信じ、その指示に全力を尽くそうと身体が動いた。


 ヒュンとドラゴン達はいなくなり、アイシア達も迫り来る魔物の軍勢に警戒する中――ゆらり。


「――っ!? シアぁ!! 後ろ!!」


「え……?」


「――ぐううっ!!」


 シドニエが咄嗟に反応し、アイシアを押し倒すかたちで、回避した。


 アイシアの首があったあたりに引き裂く刃の攻撃が(くう)を裂いた。


「ぶはあ!? い、今のなに!?」


 今の斬り裂く攻撃の主を探すも、辺りから気配は感じない。


 すると、こちらへ向かってきていた魔物の軍勢が姿を現す。


「来ましたわ!」


 カサカサという虫独特の足音が群がって響き、悪寒を走らせる。


 現れたのは天井いっぱいに広がる巨大なオオムカデ。その甲冑のように黒光りする背中には無数のコガネムシが張り付いている。


「こ、これが無数の魔物の正体……」


「うええ……」


 その気味の悪いオオムカデにうぞうぞと背中で微かに(うごめ)くコガネムシに寒気しか走らない一同。


「シャアアアーーッ!」


 オオムカデは頭の大顎を開き、噛み付いてくる。


「避けて!」


 避けた先のコンクリートは噛み砕かれ、そのままガサガサと縦横無尽に地下通路を移動する。


 そして、そのオオムカデから嫌なものを目撃する。


「あ、あれ……」


 リュッカが指差したところはオオムカデの上半身の腕。


「!?」


「な……!?」


 何と人の腕だった。下半身部分はオオムカデの足だが、上半身の右左、片方四本ずつ計八本の足は足ではなく、人間の腕だった。


 そのあまりにも(いびつ)で常識はずれの魔物に、絶句する。


 あまりにも異常にして異形とも呼べる光景であった。


「まさか……あのムカデ――」


「みなまで言わなくても結構ですわ! 先程までの魔物を見れば納得でしょう! 呑み込みなさい!」


 胸糞悪いとナタルは歯を食いしばると、攻撃を開始する。


「――ウィンド・アロー!!」


 ヒュンと風の矢が無数に飛んでいくが、カサカサと動き回るオオムカデに当てるのは至難の業。


 リュッカとシドニエも前戦に出ようと思うが、ムカデの大きさと長い身体のリーチ、素早い動きで天井、横壁、地面へと無尽に動く標的は構えようがない。


 更にその上、


「――シド君!?」


 その声を聞いて瞬時に身を屈めると、先程頭のあった場所に再び(くう)を裂く。


「くっ……」


 正体不明の斬り裂く魔物に、地下通路を我が物顔で動き回るオオムカデ。更には感知魔法で見たところ、まだ研究所の通路辺りでゆっくりとこちらに近付いてくる魔物の気配まである。


 今までの魔物より明らかな強敵が襲ってくる。


「あの丸い虫は何?」


 オオムカデに張り付いている大量のコガネムシも気になるところ。


 だが誰も見覚えがないとオオムカデの猛追を(かわ)す。


「これだけ動けることから、攻撃の緩衝材とは考えにくいですが……」


 シドニエは、あのコガネムシの大群は攻撃を吸収するための役割があるのではと推測を少し浮かべたが、自信がない。


 あれだけ張り付いているのだ、相利共生という可能性も否定できないが、人工的に作られたであろうオオムカデに共生を強いるというのは考えにくい。


 するとリュッカが何か思い出したようで、


「あれ! 武装魔蟲(ぶそうまちゅう)ですよ! 初めて見ました」


 その聞き慣れない魔物に何なのか尋ねると、リュッカは父が見せてくれた魔物図鑑に載っていたと説明。


 それには一同も苦笑い。娘にそんなもの見せるなよと思ったのだ。


「武装魔蟲は名の通り武器になる魔物で、針のような口で刺した相手に寄生し、その生物の武器に変質するという特性を持ちます」


「ほえー……」


 アイシアがぽかんと見る武装魔蟲の大きさは人の腕ほどの大きさ。


 あれが変質して武器になると考えると、中々恐ろしいが、


「それだけ?」


「馬鹿なこと言わないでくれまし。そんなのが私達に取り憑いたら、武器を取ることができなくなりますわ」


「その武器になってくれるんだよね?」


「そうですが、あんな虫を手にくっつけたいですの!?」


「それは嫌だけど……」


 するとナタルなりの見解を話す。


「つまりはあの魔物、隙を見て私達に投げつけてくるのではありませんか? 私達の身体に寄生させて身動きが取れなくなったところを……」


「それは多分違います」


 リュッカがあっさり否定。


 狭い地下通路での回避行動をとっているが、その素振りはない。


 それに武装魔蟲の性質上、それは違うと語る。


「武装魔蟲はそんなに賢くないし、そもそも取り憑いて変質した武器は結構強いの。どんな武器や防具になるかまでは不明だけど、実際、迷宮(ダンジョン)奥から連れ帰った武装魔蟲を武器に剣闘士が戦った記録があるの」


 西大陸での裏闘技場で行われた記録があると、父が知り合いの冒険者から雑談で聞いた話だという。


「だけど一度取り憑いたら、中々離れず、ずっと身につけていると脳神経をやられて廃人になるらしいの」


「「「!?」」」


 寄生型の魔物あるあるである。


「そこから強い武装魔蟲はその身体で暴れ回ったり、その生物を卵を産み付ける苗床にする武装魔蟲までいるって……」


 だから群れを為して生物に張り付く特性があるようだ。


「その寄生能力からドーピングとして使用した冒険者もいたようだけど、引き剥がすにはその取り憑いた箇所を切断しないとダメなの」


「随分と物騒な魔物ですわね」


 余計に寒気がしてきたと、嫌そうな顔をして素直な意見を述べる。


「ただ取り憑く前の状態はすごく弱いし、発見例が迷宮(ダンジョン)内でも下層なことから、討伐レベルは低いんだけど、危険度は高めになってる魔物だよ」


「なるほど。それで人型の腕ですの」


 再びオオムカデの腕を見ながら、不快だと歯を食いしばる。


「つまりはあのオオムカデの武器があの蟲で、今は出方を見ているといったところでしょうか!? 虫のくせに知性があるとか、嫌になりますわ!」


「なら私の炎の魔法で焼き尽くそうか?」


「やれないからアミダエルはコイツらを放ったんですのよ。あれだけ素早く動き回るオオムカデの背中を狙い撃ちできますの? 広範囲の魔法なんて論外。我々まで炭になりますわ」


 ピンポイントの火属性の魔法の場合は当たらず、広範囲となるとこの狭い空間で放たれると相打ち覚悟になってしまう。


 相手がアミダエルならともかく、その配下っぽいムカデ相手にそれはできない。


 それにそんな隙を与えてくれない。


 三度(みたび)(くう)を裂く。


「ナチュタルさん! さっきから音もなく斬り裂いてくる魔物に覚えはないんですか!?」


 今までの虫型の魔物の傾向と、斬り裂く攻撃、姿を簡単に消せることから、ある一種類の魔物を思い浮かべる。


「シャドー・マンティスくらいかな?」


「何ですの、その魔物?」


 するとアイシアは思い出す。


「あっ! リュッカが落とされた迷宮(ダンジョン)にいた真っ黒なカマキリ!」


 シャドー・マンティスの能力ならそれは可能。


「そうなんだけど、シャドー・マンティスはかなり臆病な性格で、こんな攻撃的かつ狡猾な戦い方はしてこないはず……」


 先程から音のない斬り裂き攻撃はやたらめったら打ってくるわけではなく、ここぞという隙を突いてくる。


 幸い、全員が警戒しながら戦っている影響もあって難を凌いでいるが、いつまで持つかわからない。


 するとその根ちっこくて気持ち悪い魔物達を見てこう叫ぶ。


「こんなイカれた研究とやらをやっているアミダエルとかいう人のお顔を拝見したいものですわね! ぶん殴って差し上げますのに……」


「――あたしゃあ、見えてるよ。クソ生意気なガキ共の素顔がねえ!!」


「「「「!!」」」」


 怒った老婆の声が響く。


 どこにいるのか薄暗い地下通路をキョロキョロすると、オオムカデの動きが止まり、その近くに一匹の子蜘蛛が垂れ下がってくる。


「ここさね!」


 その蜘蛛が表を向くと、そこにはギョロっとした目玉がこちらを見ている。


「ひっ!?」


「貴女がアミダエル……?」


 アイシアは真剣な表情で尋ねると、


「ああ、そうさね。アタシがあんた達がお探しのアミダエル・ガルシェイルだよぉ! ヒェヒェヒェ!」


 暗がりに響く笑い声は、奇々怪界な魔物達を束ねるに相応しい持ち主だと思った。

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