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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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07 信じるも信じないもご自由に

 

 ディーガルの演説が終わったその日の夜、不気味なほど静かな闇夜を迎えている。


 国民はディーガルの指示の下、奴隷である亜人種を地下へと追いやる指示を行なっていたようで、いつもなら姿を見かけない奴隷達も地下への入り口で昼間は渋滞が起きていた。


 その際の奴隷達の表情はその異常な光景に不安を募らせる顔をしていた。


 いつもなら雑務を(こな)したり、女性の場合は時間を問わず可愛がられることもしばしば。


 だがそれが一斉に地下に行けと言われるのだ、不安で堪らないだろう。


 全員が素直に言うことを聞いているかは別として……。


「ここから侵入可能ですわね」


 すっかり大人しくなった人気(ひとけ)の無い裏路地で、地下道への出入り口に案内される。


 そこを警備しているオールドから忠告を受ける。


「この地下の構造はお渡しした地図の通りです。ただアミダエルという人物の研究所なる場所内は把握できてません」


「それを把握してるのって誰なの?」


「ディーガル様とマルチエス、ノートとルミィナと調べがついてます」


 ディーガルとマルチエスは地下建設の件から。ノートは能力上の把握、ルミィナは召喚術師として野外でのデータ取り用だと考えられる。


「本当はルミィナを引っ張ってこれれば良かったんですが……」


「まあ仕方ありませんわ」


 ルミィナはレイチェルの元で尋問を受けており、未取得の情報を聞き出している。


 幸いなことにアルビオの名を出すと素直に喋るところがあるようだ。


 そしてオールドが警備上、教えられた情報が開示される――。


 この地下道は月が一番上に昇った時、翌朝まで結界により閉鎖され、ちょっとやそっとでは破壊できない仕様となる。


 その際に地下に設置された脱走探知用の魔法陣は解除されるが、同時に徘徊している魔物達に亜人種と敵対する者を殺すよう指示される。


 ジード達の侵入の件もあり、亜人種でなかろうと敵対心が見受けられる時点で襲ってくるとのこと。


 放たれている魔物も警備上、万が一外へ流出した場合を想定してと尋ねたが、ディーガルは教えてくれなかった。


 だが地図を作る際にどのような特徴がある魔物が潜伏しているかは、地図と一緒に手渡した物を参考にしてくれとのことだが、ここまで封鎖状況を作る以上、新種が放たれる可能性は十分ある。


 他の出入り口に関してはオールドの分身兵と騎士が二、三名ついている。


 この侵入する出入り口の担当はサボり癖の強い若い騎士をもう一人が呼びに行っているところ。


「――つまり一度侵入すると、少なくとも朝までは出て来れない」


「はい。私も悟られるわけにはいかないので、貴女達に対し、場合によっては敵対行動をとります」


 ファミアからは事が片付くまではディーガルサイドにいて欲しいと指示を受けている。


 ディーガルの信用を落とすわけにはいかない。


「ど、どちらにしても今だけですよね? 侵入できるの。あのノートって子も本調子じゃなさそうだし……」


「聞いた話ですが、治療による副作用だそうで。もしかしたら今までのような広範囲での眼は消えるかもしれません」


「それならラッキーですが……」


「楽観的に考えるのはいけないね」


 リュッカはそう言い気を引き締めると、作戦の概要を話す。


「私達の作戦はアミダエルの身柄の確保が最優先事項。だけど亜人種の人達もできる限り守る」


「ええ。幸い、待機部屋というフロアがあるようです。行き止まりではありますが、地下道という動きが制限されているところを行列を為して逃げるよりは利口です」


「つまりは朝までみんなを守って、アミダエルをぶっ飛ばす! だね?」


「う、上手くいくでしょうか……」


 やる気満々の女子達に不安を口にし、置いてけぼりのシドニエに、背中を叩かれた。


「大丈夫! 上手くいくよ! リリィも信じてくれてる!」


「まあ相変わらずの心配性でもありましたが……。その要因となっている私達が頑張らねば。そうでしょう、シドニエさん?」


「は、はい!」


 ナタルは西大陸での活躍がなかった故、心配かけさせてるだろうし、シドニエに関してはクルシアとの戦闘以外はこんな経験はない。


 勿論、未知の相手(アミダエル)との戦闘自体だから心配してるもあるだろうが、種になっていることは間違いないだろうと、ナタルも気を引き締める。


「では戻って来る前に侵入してしまいましょう。改めて……準備は大丈夫ですか?」


 一同は腰につけたマジックボックスや武器等を確認。


「では行ってきます」


「お気をつけて。御武運を……」


 リュッカを先頭に四人は地下へと降りていく。


 降りたことを確認し終えると、オールドは(ふた)を閉めた。


 地下道は夜ということもあってか、かなり冷んやりしている。


 アイシアはローブ越しでも寒そうに身を震わし、自分を抱きしめる。


「うう……寒いね」


「まあそんなことも言ってられなくなりますわ」


 その視線の先には、大きな棍棒を持った腰巻き一枚の半裸のオーガが呆然と歩いている。


 だがその不気味な姿に寒気が止まらない。


 そのオーガの上半身部分には複数の人面が這い出たいかのように暴れて浮き出ている姿であった。


「な、何ですか、あれ……?」


「まあ普通のオーガではありませんわね」


 オーガは小鬼とされるゴブリンの同種。


 ただゴブリンと違い、知性はほとんどなく力任せに攻撃してくることしかしない。


 進化系列もゴブリンのように知性や小回りが効くことはなく、基本筋力が上がり頑丈になる程度で、他の種のように分岐することもほとんどない。


 属性によって凶暴性が増したり、耐性がつくくらいである。


 その強固さと考え無しに襲ってくることが売りなわけだが、このオーガについてはまったくの前例を見ない姿であった。


 変異種にしても異常過ぎる姿であった。


 そんな不気味なオーガはのっしのっしと巡回しているだけのようで、その場を離れる。


「とりあえずまだ襲ってくるには時間があります。その内に亜人種の方々を探しましょう」


 暗い地下道の中、小さな灯り用の魔石で地図を照らしながら、一番近い待機部屋を目指す――。


「ここだけど……」


 その待機部屋付近にも魔物が不気味なくらい、大人しくこちらをジッと見ている。


 天井にぶら下がり暗闇から血のような瞳が光っている。


 ぼんやりとではあるが、シルエットからバット系の魔物と思われるが、瞳の大きさから普通のバットとは極端に大きさが違うようだ。


 オーガほどではないにしても、中型くらいの魔物のサイズはある。


 一応、襲ってこないか警戒しつつ、待機部屋へと入っていくと多くの亜人種が身を寄せ合っていたのが確認できる。


 すると人間だとわかったのか、畏怖の声を上げて怯え惑う。


「落ち着いて! 私達は敵じゃないから!」


 そんな言葉など聞き入れるわけもなく、女子供は互いに抱き合い震え、男連中も身構える素振りを見せる。


 こんな空気を作り出すほど怯えている亜人種達が落ち着くのは待っていられない。


 魔物達が暴れる時間まで迫っている。


 おそらく魔物達のリミッターが外れれば、さっきまで大人しくしていた魔物達がここへやってくるだろう。


 何の準備もなく襲われればひとたまりもない。


「私達はこの大陸の出身の者ではありません! ですが、貴方達からすれば同じ人間。怯えることにも理解ができるため、話を聞ける者だけで結構です。耳だけ澄まして聞いて下さい!」


 話し合いにならないのであれば、状況だけでも報告しようと考えた。


「このままでは皆さんはここに徘徊している魔物達に殺されます。月が真っ直ぐに昇る時を皮切りに、脱出防止用の魔法陣が解除され、同時に魔物達が貴方達を襲うよう指示されるとのこと!」


 それを聞いて絶望に染まっていく者が大多数の中、予想していた者もいたようで、


「はは……だろうな。演説、聞いたよ。エルフが宣戦布告したんだってなぁ」


「どういうつもりなんだよっ! 俺達のことは見捨てたのかぁ?」


 その知っていた人達の話を聞いての絶望感漂う空気だったらしい。


 そのやつれたエルフはアイシア達に問う。


「アンタ達、何しに来たんだ? 俺達の死に顔でも観に来たか?」


「違う! 私達は貴方達を助けに――」


「助けっ!? もうウンザリだっ!! そう言って言葉巧みにどれだけ(もてあそ)ばれたと思ってる! 奴隷から解放してやるから……家族は助けてやるとか言いながらぁ……どれだけ裏切られたと思ってるっ!!」


 このエルフのやつれ具合から、心身共に貴族にでも(もてあそ)ばれたのだろうか。


 怒りと悔しさが混じった感情をストレートにぶつけてくる。


 温和だと言われるエルフの面影も見当たらない。


 その瞳には確かに黒い憎しみの影もあった。


「今も妻と娘はあの男に玩具(おもちゃ)にされてるに違いない。腹が大きくなっても私の前で犯し続けて(わら)う奴だからな……」


「ま、待って。全員ここじゃあ……」


「そんなわけないだろ? 顔立ちのいい人間受けのする亜人種はまだ人間が囲ってるよ。そこの坊主ならわかるだろ……」


「へっ!? い、いや……」


 まあ男でなくても理解できると、ナタルは不快だと表情を変える。


 あのやつれたエルフの気持ちが痛いほどわかる。


 大切な家族を(もてあそ)ばれたのは自分も同じ。


 悪戯に放たれた魔人マンドラゴラによって妹を殺された挙句、その元凶(クルシア)とは知らずに屋敷に泊めていたことなど、どれだけの怒りを覚えたことか。


「わかりますよ、その気持ち……」


「!」


「私も、大切な家族を奪われ、嘲笑(あざわら)われました……」


 すると別のエルフが喧嘩越しに、


「信じられるかっ! そうやって同情心を買おうって魂胆は見え見えなんだよ!」


 そう叫ぶと便乗するように、言いたい放題の野次が飛んでくる。


 だがどれもこれも人間にされたことへの鬱憤(うっぷん)であり、反論などできるわけがなかった。


 それでもアイシアは切実に話を聞いて欲しいと説得を続ける。


「お願いだから! 信じて!」


「さっさと消えろ!」

「そんなに私達を惨めに扱いたいの!?」

「人間なんて信用できるか!」


 自分達に投げかけられる言葉があまりにも痛い。


 それでも何とかしなくてはと焦燥感(しようそうかん)が襲う。


 焦りとこの憎しみが渦巻く環境が思考することを狂わせていく。


「――お、落ちちゅいて下さぁーい!!」


「「「「「……」」」」」


 別の意味で変な空気が流れていく。


 その原因であるシドニエは思わず、耳まで真っ赤にして口を塞ぐ。


 この明らかに意見が通らない空気の中、深く深呼吸をし、リリアさんならと勇気を振り絞って叫んだ言葉を噛んでしまった。


「ちゅ?」


 図らずともシドニエの方へ視線が誘導された。


 先程の重苦しい空気も自分が大声で噛んで、大すべりしたおかげで、喋りやすい環境が整った。


 するとシドニエは高なる鼓動の中、大丈夫、大丈夫と言い聞かせながら提案する。


「み、皆さんのお気持ちはわかりました。では――信じないで下さい」


「……は?」


「ぼ、僕達はこれで。い、行きましょう」


 少し堅いシドニエはカクカクと待機部屋を後にした。


「ちょっ、ちょっと待ってよ! 信じてもらわないと……」


「い、いいから行きましょう!」


 シドニエはいいからと手招きする。


「……」


 リュッカ達も渋々、待機部屋を後にした。


「ねえ、どういうつもり?」


「そうだよ! 助けてあげなくちゃいけないのに!」


「ううっ……」


 待機部屋の方からは聞こえないところで、ナタルとアイシアが問い詰める。


 女の子にこんな責められるのは初めてなので、酷く動揺し、自分の意見が話せないでいた。


 特に高圧的なナタルには、怖くて目も合わせられない様子。


「まあまあ、二人とも落ち着いて。何か考えがあってあんなこと言ったんだよね?」


 リュッカが仲介役に入ってくれたことで、二人は訊こうじゃないかと構える。


「た、待機部屋はあそこだけじゃありません。色によって魔法陣の仕切りがされているのは知っているでしょう?」


 まだ脱走防止の魔法陣は展開している。


 待機部屋はその魔法陣のフロアごとに用意されている。


 つまりはあの一箇所の亜人種だけではないのだ。


「まあ……」


「だ、だからできる限り、魔物が襲ってくることを伝えることが重要なんです。信じてもらえなくてもいいから、その情報だけでも伝えることが大切なんです」


「えっと……つまり?」


 まだ考えがわからないと首を傾げるアイシアとナタルだが、リュッカは意図が読めてきた。


「思考を取り戻すことが目的だったんですね!?」


「はい! さ、さすがナチュタルさんです」


 まだわからない様子の二人に説明する。


「シドニエさんがやりたかったことは、あの生気のなくなった亜人の方々に考える余力を与えるために、あえて突き離したんです」


「考える余力……」


 ナタルはふと彼らの表情を思い出す。


 絶望に打ちひしがれ、心も身体もズタズタにされた状態であり、(すが)る希望すら見えないと傷心し切った雰囲気を(まと)っていた。


 だがそんな状況で突き放せば、より絶望するのではと考える。


「えっと……余計悪くなるのでは?」


「それは信頼している人ならです。まったく信用できない相手であれば話は変わります。僕達は彼らにとって憎い相手。その僕らが信じないで下さいって言えばどうなります?」


「えっとぉ……えっとお〜っ!!」


 アイシアはもうちんぷんかんぷんだが、


「私達の言葉の意図を探ろうと思考する」


 ナタルも意図が理解できてきたようだ。


「はい、その通りです。というか僕ならそうします。信じないで下さいって、じゃあ今まで話したのは何? 魔物が殺しにくるって話とはって考えになりませんか?」


「た、確かに……」


「相手の意図が言葉通りに受け止められず、反対したくてもわからないなら考えるしかない。しかも不透明な情報なのに命が脅かされる話が出ているんです。最初は心配してくれたのに、何故急にと考えるはずでしょう」


「そうして疑心暗鬼になっていく考えの中、情報の少ない彼らは私達の情報を頼るしかなくなる。そうじゃなくてもそんな考えをコロっと変える私達のことを警戒して、抵抗する策を彼らが練るってことかしら?」


「えっと……そうなればいいなって感じ、ですかね?」


 シドニエは照れ臭そうに頭をかくと、人差し指同士を突いて自分の意見を述べる。


「ぼ、僕らが守れる人数は限られているだろうし、そもそも目的はアミダエルって人の捕獲だし、そもそも僕達が、いや! ぼ、僕が魔物を上手く退治できるかもわからないですし……」


 中々悲観的な物言いが続くが、


「だ、だから彼らに魔物に対しても僕らに対しても防衛できる手段や対応をしてもらいます。その意思さえしっかりしていれば生きようと活力も湧くはずです」


「なるほど、私達を信用させないことで自己防衛能力を上げようってわけね」


「は、はい!」


 シドニエは信用されないことを利用しようと考えついたのだ。


 バラけている待機部屋を全て守りながら、アミダエルの捕縛などほぼ不可能だ。


 なら自己防衛に励んでもらうしかない。


 そのための火薬として意味不明なことを口走る人間をスイッチに変えたのだ。


「よくわかんないけど、要するには信じてはもらえないんでしょ? そんなのって……」


「人って直ぐには信用しないよね?」


 ナタルとリュッカはその言葉に納得いくが、アイシアは首を傾げた。


「はは……」


 アイシアは人懐っこい性格なせいか、基本周りに良い人しかいない。


 その言葉の意味を理解するには時間がかかるようだと、あえてスルーする。


「えっと……何か出来事があってやっと、自分にとって信用できるかできないかに分かれない?」


「そうですわね。何かしらきっかけがなければ完全な信用はできません」


 人との繋がりは出来事という、大きいものや小さいもののきっかけから成り立つものであるだろう。


「魔物達がこれから亜人の方々を襲います。そうなれば僕らの言葉が偽りじゃなかったことを証明できます。これは信用に繋がりませんか?」


「そ、そっか! 私達は心配して守ろうとしたのに信じなかったと後悔する!」


「そして、そう考える時間を信じさせない疑心暗鬼で防衛を張らせる」


「はい!」


 つまりは信じさせないことで亜人種達の警戒心を高めると同時に、エルフが魔法を使えるため、結界などを待機部屋に張る可能性が高くなる。


 そして魔物が襲って来た時、アイシア達の言っていたことが本当だったと知ると、アイシア達の言葉に説得力が生まれる。


 さらにアイシア達はアミダエルを探すことから、魔物との衝突は避けられない。迎撃して戦うだけで信用を得られるようになるという考え。


「す、すごぉいよ! シド君!!」


「――ちょっ!? ぁび、ひゃあぴ……」


 ギュッと抱きしめるアイシアに思わず、頭から汽笛がなる。


 近付けられた可愛い女の子の顔、ふわりと華やぐ特有の香り、押し付けられた胸はあまりにもボリューミーで、シドニエは大混乱。


 見かねたナタルが首根っこを掴み、コラコラ。


「……やめなさい。混乱してるでしょ」


 色んな意味で亜人達の前で叫ぶより、心臓に悪いと四つん這いになり、息を整えるシドニエ。


「でも確かに凄いですよ。これなら時間ロスにもなりません」


 この地下道には複数の待機部屋がある。時間までに呼びかけるとなると、いちいち説得していては時間が足りない。


 それどころか先程の様子を考えれば、あそこだけで時間切れになる可能性が高い。


 シドニエはそのあたりを割り切ったのだ。


「は、はい。ただこの場合、やはりそこの亜人の方々頼りにはなってしまいます。おそらく必ず無事でいられるという確証は……」


「そんなのは私達を信用してくれても一緒よ。必ずみんな無事でいられる保証はないわ。そのための努力はするし、策も講じるけど、私達は……いえ、私は弱いわ」


 アイシアは勿論、リュッカだって西大陸での動きとかを考えると自分よりも成長を感じる。


 シドニエだって実力がついていることがわかる。この考えにたどり着いたのだってその証拠。


 自分だけが置いていかれているように感じる。


「大丈夫だよ、ナッちゃん! ナッちゃんは私よりしっかりしてる」


「……というか、いつの間にかその呼び方になってますわよね!?」


「うん! やっぱりこの方がいい!」


「――良くない!」


 少し場の雰囲気が和むと、気恥ずかしくなったナタルは咳き込む。


「と、とにかく私達にやれる限界を彼らに補ってもらえるよう、焚き付ける作戦は見事だし、信用してもらえるよう説得するより効率的だわ」


「そうですね。信用なら後ででも!」


「うん!」


 自分の意見がしっかり通ったようで、ほっと一安心のシドニエ。


 ならばと作戦の概要の変更を行なう。


「正直、潜入時間から二、三箇所行ければいいって考えでしたが、これなら全部を回れるかもしれません。二手に分かれて説得に回りましょう」


 すると地図を複製し、それに魔法をかけてナタルはリュッカに手渡す。


「これにはマッピング機能をつけておきました。私達が接触した待機部屋にポイントがつきます。これで二度行くことを防ぎつつ、私達がどこにいるのかも示してくれます」


「「おおっ!」」


 そして合流地点を互いの地図に印をつけた。


「全ての待機部屋にポイントがついたら、ここで合流ということで。その後、ある程度地下の魔物を蹴散らし、アミダエルが出てこないようなら、この入り口から研究所へ直接乗り込みますわよ!」


「「はい!」」

「うん!」


「ペア分けは私とシドニエさん、アイシアさんとリュッカさんでお願いします。時間が惜しいですわ。直ぐ参りましょう」


 するとナタルはマジックボックスから空を飛ぶ用の(ほうき)を取り出し(また)がると、


「さあ! 後ろへ!」


「へ?」


 シドニエは恐る恐る後ろへと(また)がるが、ナタルの身体に下手な触れ方をしないよう、そっと肩に手を乗せる。


「それでは落ちてしまうでしょ! ちゃんと腰に手を回して、しがみつきなさい!」


「は、はい!?」


 シドニエは意を決して、ガシッと抱きつくと、


「ひゃあん!」


「えっ……」


 柔らかい感触が手から伝わってくることから、誤って胸のあたりを触ってしまったようだ。


 するとナタルの表情を見ずとも、その後ろ姿から真っ赤なオーラを感じる。


「確かにしっかり抱き付けとは言いましたが……」


「あ、あのぉっ!?」


「――腰の方だと言ったでしょうがあっ!!」


 バチィンっといいビンタ音と叫び声が地下道中にエコーされる。


 ちなみに地上への(ふた)は防音性なので聞こえることはない。


「まったくっ!!」


「す、すみません……」


 手形のついたシドニエを背中に乗せて、ナタルは不機嫌そうに低空飛行で地下道を走り去る。


 その様子を苦笑いで見ていたリュッカは、


「えっとエメラルドさん出せる?」


 アイシアは風龍(ウィンド・ドラゴン)であるエメラルドを召喚。


 勿論、擬人化状態で。


「お呼びでしょうか、アイシア様」


「えっと……」


 アイシアは呼び出したものの、リュッカに言われたからなんだよなと視線を横に向ける。


「あのエメラルドさん。私達に風の付与魔法をかけれたりします?」


「可能ですよ」


 そう言うと心良く付与してくれた。


 するとナタルの(ほうき)移動を見て閃いた。


「そっか! これで素早く向かうんだね?」


「そう。ついでにエメラルドさんはここにいてもらっても大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。何でしたら、あの不気味なバットをやっつけましょうか?」


 エメラルドは近場にいるバットを睨むが、リュッカはこれを否定。


「気持ちは嬉しいし多分倒すことになるけど、今倒すと何が起きるかわからないから待っててくれます? 万が一、動きがあったらで……」


「わかりました」


 ここはアミダエルの本拠地みたいなところだ。下手に大人しい魔物を倒すことは危険な気がする。


だからエメラルドには目印になってもらうことにした。


「あっ! それとそこにいる亜人さん達は敵じゃないから! もし何かあれば守ってあげて」


「かしこまりました、アイシア様」


「じゃあお願いね、エメラルドちゃん!」


 直ぐ戻ってくるからとアイシア達も待機部屋を目指し、移動を開始した。

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