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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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26 嘲笑

 

 ――アルビオ達は疾る。


 この穢れなき黄緑色の平原地帯を駆け抜ける。馬に一秒でも速くと強く手綱を握り、一刻の猶予もないと手に汗が握る。


「お願い! 急いで!」


 エフィはかなりの速度を上げるアルビオとディーヴァに追いつこうと必死に走らせる。


 アルビオは後悔の念に(さいな)まれながらも、少しでも速くと空気抵抗を受けないよう、馬に極力密着しながら走り抜ける。


(――くそぉっ! 完全にしてやられた! 手遅れになる前に……)


 そんなグリーンフィール平原を走る中で、いくつかの大きな岩がチョロチョロと見かける。


「ねえ! ディーヴァ! こんな岩あった?」


「知らないわよ! 今は馬を走らせなさい!」


 グリーンフィール平原は広い。今はエルフの里のあるエルヴィントの森までの最短ルートを走っている。


 違うルートだからこんなオブジェみたいな模様がついている岩なんて知らないと話す。


「……」


 アルビオも若干気にかかったが、後回しでも良いと走り抜ける。


 ***


 一同はエルヴィントの森を抜け、エルフの里ヴィルヘルムへと到着すると、早々に族長の元まで急ぐ。


「族長! 彼はどこです!?」


「な、なんだ!? 連絡も無しに急に帰ってきたかと思えば、血相を変えて……」


 そこには森の警備に当たっている緑の隊長ウィントとシェイゾ、ナディも一緒に驚いている。


「彼とは……?」


「リヴェルド様です! 彼はどこに?」


 何事かと思えばと呆れたため息を吐くと、何も知らないせいか、あっさりと答えた。


「リヴェルドは妖精王様の元へと行ったぞ。護衛の件も含め、リヴェルドにかけられた奴隷魔法がないかを確認して――」


「それは彼が言ったんですか?」


 アルビオが族長の肩をガシッと掴むと、触るなと強く否定し、振り解いた。


「まったく何だと言うのだ。安心せよ、レンも同行しておる。お前の言うその厄介な輩を逃さぬためにな」


「その厄介な奴がリヴェルドさんだったんです!」


「「「「!?」」」」


 族長達は皆、驚愕する。


「バ、バカ言うな。確かにアレはリヴェルド様だったぞ、勇者」


「ええ。僕もリヴェルドさんの死体を見るまでは本物だと思ってましたよ。フェルサさんの鼻も信用していましたし……」


「し、死体……だと?」


 バザガジールが差し出したエルフの死体はリヴェルドだった。


 半裸姿であったところを見ると、おそらくは生物兵器に改造されたものだと考えられる。


「シェイゾさん、貴方達は確か脱走をしたんでしたね?」


「あ、ああ、そうだ。リヴェルド様が立案された方法でな。ほとんどが捕まったが……」


「その時の脱走成功者をしっかり把握してましたか?」


「い、いや……。ナディと脱走するのがやっとでそんなところまで頭になかった」


 シェイゾは自責の念に駆られる。


 確かに大規模な脱走作戦を決行した。


 それは族長の側近であるリヴェルドが立案し、先導してくれたからである。


 シェイゾに関しては妹ナディとの脱走だったからか、リヴェルドにこう言われていた。


『良いか? 家族を守ることを第一に考えるのだ。彼らの力は強大であり、おそらくこの作戦での脱出ができる者達は少ないだろう。だから自分と家族だけを考え、走るのだ。良いな?』


 リヴェルドは他のエルフ達にもそう言っていたのだろう。


 作戦前に一人ひとりに優しく語りかけていたところを覚えている。


 だからこそあの時、恩人が助かっているのを見た時、とても嬉しかった。


 無事でいてくれて良かったと。


 だが死体が出たと言われた時の今の心境は、絶望的だった。


「な、なあ勇者? ほ、本当に……リヴェルド様だったのか?」


「……ええ。僕らの目の前に現れたあの容姿通りなら間違いなく」


 アルビオが初めて出会ったリヴェルドが偽物であるなら、本物に会ったことがないことになる。


 だがあの死体と重なる部分がある以上、そうとしか答えられなかった。


 だがリヴェルドを知るディーヴァとエフィは、悔しそうに認める。


「間違いない。あれはリヴェルド様だ」


「だから族長! 今、妖精王様の元へ向かったのは、勇者さんの言ってたヤバイ奴ですよ!」


 それに危機感を強く感じた族長は、


「――ウィント! わしは直ちに妖精王様の元へ向かう。着いて来い! 勇者、貴様はここでディーヴァ達と待機せよ」


 それでもエルフだけで解決しようと指示する。


「ダメです! あの男は本当に危険なんです! お願いです。僕も連れて行って下さい」


「ならん! 妖精王様の居場所を人間に知ら――」


「もう遅いということがわからないんですか!?」


「!」


「あの男が貴方の隣にいた時点で、妖精王の居所を聞き出す隙を(うかが)っていて、今いないということは言いくるめられてしまったのでしょう?」


「き、貴様……わしの危機意識が欠落していたと、そう言いたいのか!?」


「実際そうでしょう! 僕はあれだけ注意しました。それを人間だからと……」


「もうよせ」


 言い合いになっているアルビオと族長をウィントが割って入る。


「責任問題は後の話だ。時間がないのだろう?」


「……す、すみません」


「族長。彼にもついて来てもらいましょう」


「ウィント! 貴様まで何を……」


「彼がここまで固執し、警戒しているということは、それほどまでに悪質なのでしょう。人間の狡猾さはご存知でしょう?」


 族長は険しく眉間にしわを寄せ、酷く悩んでいる。


 人間の身勝手さに苦しめられ続けた記憶が、サビのように頭の中にこびりついて離れない。


 長い年月を生きても、許せないほどの人間の悪行の数々。


 だからこそ神聖な地である妖精王の地を踏ませたくないと考えるが、アルビオの言うことにも納得がいくわけで。


「……わかった。今回は致し方あるまい。ただし! 絶対に口外せぬこと、そしてわしらの言うことを聞くことが条件だ!」


「わかりました。行きましょう」


 ――ある程度対応ができる準備を整え向かったのは、エルヴィントの森の中、族長を先頭に歩いていく。


 族長は自分の後についてくるのだぞと言っているあたり、どうやら移動手順がある様子だ。


「族長様! 早く!」


「煩いわ、エフィ! これでも急いでおる」


 年寄りを労らぬかと怒鳴る。


「このルートをリヴェルドさんと行ったのですか?」


「うむ。あれが偽物なら、迂闊であった」


「この道は族長しか知らないのですか?」


「ああ。我々も妖精王様のお住まいは知っているが、行き方は知らぬ。……この森を守れとはこういうことか……」


 場所は知っていても行き方を教えていないのは、妖精王の防衛のためであろうか。


 それとも神として崇めるために、そこだけは教えたのだろうか。


 定かではない。


 場所については、向かうに行ったら嫌でもわかると教えてくれなかった。


「着いたぞ」


 目の前にあるのは、大きな石碑。


 そこに書かれている文字はエルフの言語ではないようだ。


 アルビオはエルフの言語についても多少はかじっているが、この文字の形に覚えはない。


 古代のエルフが使っていた言語だろうか。


「良いか? 他言無用だぞ」


「わかっています」


「では行くぞ! ――ぬん!」


 族長は杖を地面に突き立てると、その石碑を中心に青白い魔法陣が展開すると、転移石と同じ作用が起き、姿が消えた――。


 ――転移魔法の発動だったと気付いた時には、冷たい風が頬を撫でていた。


 ブルッと寒気がすると辺りを見渡すと、水色の空が広がっている。


 そして何より目がついたのは、


「……城?」


 白の煉瓦で造られた城を中心に十本の石柱が円形に設置されている。


 その石柱を線でなぞるように、水のせせらぐ音が聴こえている。水路というよりは、完全に庭を彩るために用意されたもののようだ。


 正に天上の庭である。


 アルビオ達はその広場であろう屋根付きの建物の下でその城を見上げる。


「ここが妖精王様が住まう天空城!?」


「天空城……」


 まるで巨人でも住んでいるかのような巨城に驚いていると、族長がスタスタとその城の入り口へと向かった。


「事を急ぐのであろう。早くしろ」


 諦めたのか、それとも人間に長くいてほしくないのか、そう呼びかけられ、後をついていく。


「それにしても大きいですね」


「わ、私も初めて来ましたが、これほどとは……」


「私達に関しては知りもしなかったしね」


「当然だ。天空城のことを知る者は、わしと側近であるリヴェルド、後はウィントのような隊長を張る者だけだ」


 そしてこの天空城への行き方を知るのは、族長である彼だけのようだ。


「妖精王はここで何を?」


「何かしないといけないのか?」


「え?」


「妖精王様はこの大陸の上空に君臨なされているだけで良いのだ。魔力の循環を高めておられる……それだけで良いのだ」


 本当に神様のようなことをしているようだ。


 自分の役割をわかっているかのように、魔力の循環のみに徹し、この上空から多種族を見守るような存在。


 悪く言えば、ただただ傍観しているだけ。


 龍神王や獣神王を知るアルビオからすれば、一番原初の魔人と呼ばれる存在に聞こえるが、前者の二人のような親近感は一切湧かない。


 更に言えば、この族長を含めたエルフ達が信仰心を振る舞っていることも後押ししている気がする。


 そして――そうやって一つの存在に偏る考えの破綻は、崩壊を呼ぶことも容易に想像できる。


 そんなこの先の未来を暗示するアルビオを含めた一同の前に、うつ伏せで倒れている人の姿があった。


「!?」


 ウィントが先行し、駆け寄る。


「おい! しっかり……!」


 介抱するために起き上がらせると、口と目が半開きのレンを確認した。


「レン!!」


「レン!? しっかりしろ! レン! 何があった!?」


 呼びかけるが返事がない。


 ナディがわなわなと両手を口に添えて、


「し……死んでる?」


 恐る恐る尋ね、その確認をしたウィントも悔しそうに歯を食いしばる。


「す、すまない……レン!」


 レンを壁に寄り掛からせ、目を閉じさせると先を急ごうと、一同は駆け出す。


「勇者殿の予感が当たりましたな。急がねば……」


「はい!」


 アルビオ達は地面に引きずられた血を辿りながら、走る。


「レン……最後まで足掻いていたのだな」


「馬鹿野郎よ! 大馬鹿野郎ぉ!!」


 レンとの付き合いの長いディーヴァとエフィも後悔を孕んだ言葉を口にし、小さな涙を零す。


 そしてその血の先の終着点は、巨大な扉が人ひとり分が通れるくらいの隙間が開いているところから出ていた。


「よし! 行きま――」


「待て! ここからはわしらだけで行く! 人間が踏み入ることは――」


「まだそんな悠長なことを言ってるんですか!?」


 そんな意見は聞けないとアルビオは妖精王がいるであろう、扉の向こうへと入る。


 入った先の光景はあまりにも広い謁見の間。


 ハーメルトの謁見の間の数十倍大きくした外観が広がる。だがこの大きさにも納得がいく。


 何故なら――、


「――よ、妖精王様ぁ!?」


「あああっ!? あぐうぁあっ!!」


 アルビオ達の前でのたうち回る妖精王の姿があったからだ。


 ドスンドスンとその場に苦しみ地鳴りを鳴らす。


「妖精王は巨人だったのですか?」


「――魔力の循環をより均一にするために、純粋に身体を大きくしたみたいですよ。器が大きい方が回しやすいでしょ?」


「「「「「!!」」」」」


 その暴れて苦しむ妖精王の先から声が聞こえる。


「――があぁああっ!!」


 妖精王はせめてもの抵抗に壁にぶつかりに行った時、その声の主が視認できた。


 そこにいたのは、大き過ぎる玉座の真ん中にちょこんと座り、足をぷらぷらさせたリヴェルドの姿があった。


 そして肘掛けを支える柱部分には、派手な紫の髪色の妙にやせ細いノースリブの男性が楽しそうに笑みを浮かべている。


「いやぁ、意外と早かったですね。私の予想ではもう少し遅れてくるものとばかり……」


「――リヴェルド様の姿と声で喋るな!!」


 リヴェルドの死体を見たディーヴァ達は剣を抜く。


「おやおや? おかしなことを言う。私はどこからどう見てもリヴェルドだにゃあ。どこに疑う要素があるぴょん!」


 わざとらしくリヴェルドの口調の中に、違和感しかない動物語尾をつける。


「……その語尾で喋る奴に僕は聞き覚えがあるぞっ!! ――クルシアぁあっ!!」


 その名を叫ぶと、口元を大きく歪ませた笑みを零す。


「――あっははははははははっ!! だっいせいかぁーい!!」


 右手をフッとかざすと、クルシアの姿へと変わった。


 自分が送り込んだリヴェルドが別人だったことを目の当たりにした族長と、それを止めもしなかったシェイゾ達は絶望感を(まと)った表情をしている。


 その顔が見たかったんだよぉと、悪辣な笑みで(わら)いながら、更に挑発的に馬鹿にする。


「いやぁー、どうしてバレちゃったのかにゃあ? ボクぅ〜、バレないように頑張ったのににゃあ? ねえ、どうしてぇ? どうしてバレちゃったのぉ?」


 バザガジールにあの死体を突き出すよう指示した分際でと、ディーヴァは強く唇を噛み締めると、


「――貴様が指示を出していたのだろうがあっ!! あの細目の男にっ!! 白々しい!!」


 風を(まと)い、堪らずギュンとクルシアとの距離を詰めようとするも、横にいた男が赤黒い槍を作った。


「――飛べ、ブラッディ・ランス!」


 ディーヴァ目掛けて勢いよく飛んでいく。


 頭に血が上ったディーヴァが気付いた頃には、回避は不能だった。


「――っ!?」


「――おごおっ!」


「た、隊長ぉ!?」


 それを読んでいたのか、ウィントがディーヴァを突き飛ばし、代わりに受けたのだ。


「隊長!! し、しっかりなされて……」


 我に帰ったディーヴァはウィントを抱える。


「ぶ、無事ならば……いい。良かっ……た」


「……っ! 隊長……」


「――咲け、ブラッディ・ローズ!」


 慈悲も与えないとばかりに、その血の槍が薔薇に変わると、その身体を突き破り、枝木のような形状の血が襲い来る。


「――(かわ)して!!」


 アルビオは、隊長の死の余韻に浸っていたディーヴァを無理やり引き剥がし、術の射程外まで距離をとった。


「ケッハハハハ。さすがは勇者様だなぁ、おい!」


「可哀想だろ、ビット君。弱い者いじめはさ」


雇い主(クライアント)がそれ言うかよ。つか、ビット君はやめろ」


「ええーっ!! ビット君がいいーっ!! 可愛げがある呼び方がいいーっ!!」


 アルビットという呼び名がイマイチだと呼び方を変えたことに、不満そうな顔をする本人だが、


「あんたについてきてたエルフといい、そこで馬鹿みたいにのたうち回ってやがる妖精王といい、(もてあそ)んだてめぇさんが言うセリフじゃねえな」


「そう? ほら女の子には優しくじゃない? あのエルフと妖精王は男の子だしぃ、魔人だしぃ? 該当しないでしょ?」


 するとニコッとディーヴァに笑いかける。


「ね? お・ん・な・の・こ?」


「くっ……」


 ディーヴァはこれでも百年以上は生きるエルフ。


 明らかに年下の人間に挑発的に馬鹿にされるのには、腹が立つ。


 だが実力さがあることも、ウィントがやられて証明されてしまった。


「レンを殺したのも……貴方!?」


「殺してないぞぉ〜。寸止めならしたけど。なに? 途中であったんだー……そっかそっか」


 するとクルシアは血まみれになったレンに幻術魔法で変身すると、レンの声でその時の様子を表現する。


「は、早く……早くこのことを……伝えな、ければっ! 族長様ぁ……隊長……!」


「――っ!」


「てな感じだったぞぉ? ねえ、どう? ボクの迫真の演技! どう? あっははははははっ!!」


「貴様ぁ!!」


 再びクルシア本人に戻り、腹を抱えて嘲笑う。


 堪忍袋の尾がとっくに切れているエルフ達の神経という火に、どんどん油を配るクルシアの笑い声は止まらない。


「いやさ、君達エルフを出し抜くなんて朝飯前だよ。だってそうだろ? 君達ヴィルヘイムの里はさ、外界から閉ざされた土地だ。情報力も自己防衛の方法だって単調なもの。エルヴィントの森に(すが)るばかりでさぁ。例えるならそうだな……世間知らずの箱入りお姫様って感じ?」


 エルフの浅はかさを更なる例に例えて、楽しそうに嘲笑いながらジェスチャーを混じえて悠長に喋る。


「エルヴィントという森の鳥籠(とりかご)の中でさ、ぴよぴよ鳴きながら人間(あれ)は嫌いですぅー、友好関係(これ)は嫌いですぅーって勝手に孤立しちゃってさ。ハーメルトからも説得しようとする声だったり、勇者からも手を差し伸べられたりもあったんでしょ? それをさ、人間だからって理由だけで突っぱねた君達への報いだよ。友好的に振る舞うふりでもして、利用してやれば良かったのに……」


「貴様らのような悪辣な種族と一緒にするなぁ!! 人間!!」


 するとクルシアは聞き飽きたと言わんばかりに、馬鹿にした態度で両手で指差し指摘する。


「ほぉら、そればっかり。語彙力ないのぉ? 頭がいいんじゃありませんでしたっけぇ?」


 族長の憤りにもクスクスと笑いながら、一切動じることなくその理由を話す。


「まあ仕方ないよ。そう悲観的にならないで。君達がお馬鹿さんなのはぁ、みーんなわかってることだからさ」


「我々は馬鹿ではない!!」


「じゃあ何で出し抜かれたの? レンって鈍間はどうして死んだ? そこに薔薇を咲かせて死んだ馬鹿はなんで死んだ? ここに阿保みたいにのたうち回り、苦しんでいる妖精王がいるのは何故? 全部、ボクがやったからかい?」


「そうだろうがっ!!」


 そのディーヴァの肯定に、吹き出して笑う。


「――ぶっあっはははははは……あのさ。自分達の無能で死んじゃったのぉ〜、ボクのせいにしないでくれるぅ?」


「な、に……」


「だってそうでしょ!? 君達がもっと人間に歩み寄り、人間を知っていればここまで出し抜かれてさぁ、こんなことやあんなこと……そして、これから起きることだってなかったはずなのにねぇ」


 それに関してはアルビオも同意見だった。


 人間を危うい存在だと拒絶するにしても、多少なりとも縁を持つべきだった。


 実際、他国ではそう立ち振る舞うエルフ達もちゃんといる。北大陸に関しては、種族間のしがらみなく意見を交わす光景すらあった。


 だが南大陸(ここ)のエルフ達に限らず、亜人種は人間に対する警戒心が強いように感じた。


 その拒絶し続けた結果、出し抜かれたと言わざるを得なかった。


 更にクルシアはエルフの特性も原因だと説明する。


「下手に寿命があるもんだからさ、考えが凝り固まってんでしょ? 族長さん……あんた何代目? 二代目か三代目くらいなんでしょ? 戦うことも極力嫌う種族だ、世代交代なんてロクにしないんだろ?」


 エルフは確かに寿命が長い分、その長に立つ者の交代は早々ない。


 だからこそ勇者のようなカリスマ性のある統率者でなければ、クルシアのような外敵から守ることは厳しい。


「世代交代無しでさ、固定概念だけ押しつけて引き継がせれば、こうもなるよ。人間見習ったら? お前達からみれば猿みたいに交尾しちゃってさって思うだろうけど、言ってみればそれは種族を生き残らせ続けるための本能さ。理解できるぅ?」


 クルシアの言うこと言うこと、話し方は腹が立つが、理解できるアルビオ。


 クルシアの突いてくる指摘はどれも的確だった。


 エルフの族長を継ぐのに、人間を信用するなということは、伝えられ続けているはず。


 これまでの人間の歴史を考えれば、人間を信用することは難しいし、実際目の当たりにもしていたことだろう。


 横暴で粗暴で悪辣で狡猾で……上げればキリがないほどに汚い部分の多い種族。


 否定はしないが、それだけではない。


 いや、それを学びに変えられる種族だから、人間は強くいられるのだとアルビオは考える。


「人間は次の世代へと託すのが早い。これは学ばせる速度が早いってことになる。そうだろ? 自分が失敗した示談を次の世代には上手くやれよって教訓を学ばせ続けるんだから。しかも、その継ぐ人間の性格は疎ら。考えは枝分かれしていき、進化を続ける。この幻術魔法だって、先人が作ったものをボク流にアレンジしたものさ。気付かなかったのはそういうことだろ?」


「!?」


 確かに太古の昔、エルフから魔法の技術を盗み取ったのは、人間とされている。


 そこから他種族の者達に伝達していった。


 その進化の最先端にいる人間がエルフの魔法を超えることなど、簡単なことだった。


「柔軟性がないんだよ、君達は。あの森の中でのんびり茶を啜ってさ……そこの騎士ちゃん達?」


 ディーヴァの方へ視線を向ける。


「ぶんぶんと仲間内だけのチャンバラごっこ。やってることは老人とガキの戯言ときた。何故こんなことにって驚いた顔をした君達に驚くよ! ボクっ! あっははははははっ!!!!」


 悔しさをまったく隠し切れないエルフ達。


 だがクルシアの言うことは的にハマり過ぎていて、反論の余地もない。


「でぇ? わかったぁ? 自分達がぁ、お馬鹿な理由ぅ?」


「き、貴様……」


「確かに君達は頭のいい種族なのかも知れない。知性的で落ち着きがあって、魔法にも長けてる……でも、そんなの人間にもごまんといるよ? でもぉ、ボク達人間はぁ、超頭がいいからさ、君達以上はもっといるよ」


 クルシアはそんな君達の取り柄はと悩むと、


「寿命がボクらよりも長いのと、耳が長いくらい? あっ! 後は……その間抜けな感じを真剣にやっているところから、最高のコメディアンってところじゃないかな?」


 するとこれでもかと言うほど嘲笑いながら、罵倒する。


「――あっははははははっ!! 君達の間抜けっぷりたらないよねぇ。あんなに一緒にさ、隣にいたのに誰一人気付かないの! リヴェルド様、リヴェルド様ぁってさ!! アッハハっ! アハ! く、苦しいぃ……いひっ、いひひ……」


「おいおい、そんなに馬鹿にしてやるなよ。雇い主(クライアント)


「それは無理って話だよ! ビット君〜! ひひひ、だってここまで思い通りにいく!? 普通? 見てよ! ここまでの醜態!」


 ウィントの死と今なお苦しんでいる妖精王がいる。


「ここまで来るとギャグだよ! 人間を劣等種なんて思ってる奴らがさ! いいようにされてさ! 馬鹿みたいに悔しそうに睨むだけ……。アハハハハっ!! 笑うなって方が無理ぃ、無理無理無理っ!! 自分の無能さを棚に上げて人間のせいにしなきゃいけないほど、自分達の間抜けさが隠せないのさ! でもね……ひひ、ボクが馬鹿にしているのは優しいさだよ」


「優しさぁ?」


 首を傾げて尋ねるアルビットに、笑い過ぎた影響で出た涙を拭いながら、更に馬鹿にする。


「だって馬鹿にする要素しかない脳みそお花畑さん達だよ。馬鹿にしてほしいから、お馬鹿なままなんでしょ? 学習しようとも思わなかったんでしょ? そこの族長様なんて、二千年くらいは生きてんでしょ?」


「!」


「それなのに……それなのに……ぶふっ!! アハハハハ、アハ、アハハハハっ!! 同族を疑うことくらいできるだろうに! 人間の子供でもできるぞぉ? マーマー、ボクと約束したよね? おもちゃ買ってくれるって約束したよね……てな感じでさ! それもできないんでしょ?」


「そ、それぐらい……」


「それぐらいできるって? おーよちよち、よくできまちたぁ〜、よちよちよち」


 完全に自尊心を踏み躙る発言を続けるクルシアは、上機嫌なせいもあって止まらない。


「いいかい? 君達みたいな間抜けな連中のことをどう言うか、教えてあげよう。鴨が葱を背負って来たって言うんだよ? ボクをこんなに爆笑させてくれるなんてさ、ボクの都合良く動いてくれてありがとう。君達エルフの価値は、ボク達みたいなちょー頭のいい人間に利用されることで意味があるんだぞ。……おめでとう」


 ニタリと笑いお礼を言うと、また爆笑する。


「――あっははははははっ!! コメディアンも千年以上の年季があれば、人間なんか敵じゃないよ! ごめんね! 人間のコメディアンさん! エルフのコメディアンの方が千倍以上、面白いよ!!」


 その意見にアルビットもニヤッと笑うと、


「それもそうだなぁ。そんな年季入れられて、間抜け晒してりゃあ、笑ってやらないと可哀想か?」


「そうだよ! ほら、笑ってあげな」


「――アハハハハハハハハハハハハっ!!!!」

「――ケッハハハハハハハハハハハっ!!!!」


 エルフ達が酷く悔しがる中、二人の極悪人の嘲笑う声は、この謁見の間の大広間に木霊(こだま)した。

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