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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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22 子供達の未来を諭す者

 

「結局、ジードさんは来なかったな」


 そう言いながら地下道を眺めてみるが、人の気配はない。


「んん……」


「あっ! エミリ、起きたか?」


「あ……うん」


 魔法を使い果たし、気を失っていたエミリが目を覚ますと、真っ二つにされたワーウルフにびっくり。


「こ、これは……?」


「へへっ、これはな、オレとバーク兄ちゃんが倒したんだぜ!」


「そ、そうなんだぁ。すごぉい」


「コラコラ。私の手柄も奪わない」


 バークに付与魔法をかけ、援護したことを忘れないでとツッコんでいると、ワーウルフの死体が異変を起こす。


「な、なんだ……?」


 ワーウルフの身体はみるみると縮み、人間くらいの人型になった。


 これは見せるのはマズイとサニラは近くにいたオウラを引っ張っては寄せて、目を塞ぐ。


「きゅ、急にどうしたんだよ? 姉ちゃん」


「貴方達が見るもんじゃないわ。エミリもそのままこっちを振り向かずにいなさい。……バーク」


「お、おう」


 バークは二人を連れて、その人型が見えない場所まで移動する。


「……これは……」


 その人型の正体は獣人だった。


 元々悪い噂の絶えないヴァルハイツ。生物兵器の存在を考えると、正に予想通りの答えが目の前に転がっていた。


 魔力を手に宿し、その身体を調べる。


 魔物であったのだ、魔石があるはずだと探してみるのだが、その反応がない。


 勿論、下半身にも。


「これはどういう――」


 その死体を調べていると、ガバァっと目の前にマントが覆うと、力強く引っ張られた。


「えっ!? ちょっ……」


「サニラ! 早くこちらへ」


「ジ、ジードさん!?」


 慌てた様子でバーク達が向かった方向へと走る。


「あ、あの、あれを調べないと……」


「そんな時間はない。騎士団とジャッジメントがこの地下道に潜入してきている」


「えっ!?」


「出口を封鎖されるのも時間の問題だ。急ぐよ」


「は、はい!」


 そうして走っていると、上から光が差し込む出口で待っていたバーク達と合流。


「おっ、ジードさんも戻ったんですね。もう倒しちゃいましたよ」


「わかってる。それよりすぐに出るんだ」


「ヴァルハイツの連中がこの地下道に潜入するみたい。急いで!」


 それを聞いたバーク達は急いで、この出口を上がり、陽の光を浴びた――。


 そしてジードの言った通り、騎士団とジャッジメントであるマルチエスが潜入していた。


 ガシャガシャという鎧が鳴る音が響き、待機部屋にいる亜人の奴隷達はぶるぶると震えている。


「おい。このドブ鼠が侵入したのは、この緑の区域で間違いないんだな?」


「はっ! ここを守護する魔物が反応したと確認が取れております」


「で? 戦闘音が聴こえないがどういうことだ? 終わったのなら、このドブ鼠共のゴミが転がっているはずだが?」


 そう話すマルチエスの手元には資料があり、パンパンと叩きながら高圧的な態度を取る。


「現在、確認中です。少々お時間を下さい」


「チッ! 早くしろよ」


 イライラした態度が治らないことに、部下達もハラハラする中、何とか怒りが治まる状況にならないかと思う次第だ。


 だが、その期待が裏切られる報告が上がってくる。


「マルチエス様、ご報告します。ここを守護する魔物は確認したのですが……その……」


「――報告くらいさっさとしろぉ!! こんな臭くて下劣な鼠がいる場所に赴いてやってるんだ、さっさとしろっ!!」


「は、はいぃ!! それが警備の魔物が倒されていることを確認しました!」


「……なにぃ!?」


 ギラッと圧力のかかった睨み方をする。


「ご、ご確認されますか?」


 尋ねられたマルチエスは、その騎士の元へと近付くと胸ぐらを掴み、激怒する。


「なんだぁ? お前は私にゴミを見れと言うのか?」


「い、いえ! そのようなことは……」


「ご確認されますかって言ったよなぁ!? そんなゴミを調べるのはてめぇらの仕事だろうがぁ!!」


「た、大変失礼致しました!!」


 そう怒鳴りつけ、舌打ちしながらその騎士を突き放す。


「ええい! 不快だ、不快だぁ!!」


 ***


 あるお屋敷のお庭。


 草花が綺麗に咲き誇り、雑草一つない手入れされたお庭。庭師の腕前が良くわかる光景。


 そんなお庭の片隅で、一人の少年がウロウロしている。


「うーん、うーん……」


「落ち着きがないね。どうしたんだい?」


「兄様! いや、その……」


 このお兄さんは自分がエミリとオウラと会っていることは知っている。


 だけど、今日の計画については話していない。


 だが明らかに動揺した様子の弟を見ると、フッと微笑む。


「大丈夫だよ、ゲーデル。兄様はお前の味方だ。話してごらん」


「……じ、実は――」


 話そうと口を開いた時、ガサガサと茂みが揺れ動いた。


 兄様は、バッと弟を庇うように前に出ると、


「おや? ミシェルちゃん?」


「こ、こんなところから失礼します」


 確かに壁際に生えた草木から出てくるのは、さすがに驚く。


 すると次々と人が入ってくる。


「――っ! エミリ! オウラ!」


「ゲーデル!」


 子供達の感動の再会。そこに、ジード達も入っていく。


「こ、ここは?」


「ゲーデルのお家」


「ここ人ん家かよ!? ほえー……」


「ていうか不法侵入――うっ!?」


 サニラは子供達の中に一人、同じ歳くらいの少年と目があった。


「えっ、えっと……」


「ああ、気にしないで下さい。彼らが信用してる人なら大丈夫です」


 そうニコリと微笑む、金髪貴族様にここのセキュリティについて、語りたいということは呑み込んだ。


「そ、それよりこっちだ」


 ゲーデルの案内の元、庭の端にある建物へと入っていく。


 そこには庭の手入れをする道具が保管されている中、ゲーデルはエミリとオウラに翠玉の石を手渡す。


「珍しい物を持ってるわねぇ」


「これは?」


「魔封石だ。これを首から下げると、奴隷の刻印の効果を軽減できるんだ」


 貴族のお坊っちゃんであるゲーデルが自慢げに語るが、おそらくはニコニコと微笑ましく見守る彼の入れ知恵だろう。


「まあ応急措置としてはいい案だね。ただ、これだと彼らは魔法が使えなくなるわけだが……」


「大丈夫! オレが守るよ!」


 ぶんぶんと何の確証もない自信を見せるゲーデル。正直、魔力を読んでもそれができないとわかるほど非力である。


 そんなお兄さんがぺこりと頭を下げて、ご挨拶。


「えっと、初めまして。僕の名前はヨーデル・バラダン。貴方達と話をしていたのが、僕の弟、ゲーデル……」


「わ、私はミシェルと言います」


「この度は弟がご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ない」


「い、いえ。こちらこそ勝手に入ってしまい申し訳ない。私はジード。こちらがバークで、こちらがサニラと言います」


「そうですか。ご丁寧にどうも」


 するとオウラは嬉しそうにゲーデルに報告。


「バークの兄ちゃんとサニラの姉ちゃん、凄いんだぜ! さっきの狼と泥みたいなヤツをぶっ倒したんだ!」


「おおっ!! ねえ? お兄さんってもしかして勇者様?」


「えっ?」


「だってほら、フードをずっと被ってるからもしかしてって……」


 ゲーデルは勇者が黒髪だからだと、ワクワクした視線を向ける。


 そういえばずっと被りっぱなしだったと、バークは取ろうとすると、サニラが腕を掴み止める。


「な、何だよ?」


「馬鹿ね、やめなさい」


 視線をエミリに向けて、気付かれないよう、首をくいっと動かす。


 エミリもオウラも人間の奴隷なんだ。いくら助けたという事実があるとはいえ、正体を明かすことは怖がらせることになる。


 オウラに至っては両親も殺されている。おそらくはエミリも。


 だがポツリと、


「わかってるよ。人間なんでしょ? 兄ちゃん達」


「「「!?」」」


「……地下道の時はわかんなかったけど、今ならわかる。オレ達と同じ匂いも、エルフ特有の森の匂いもしない。……人間の匂いだってな」


 鼻が効きづらかった地下道では、臭いが混じり、わからなかったのだろう。


 だがオウラは人間だからと、恐怖心も嫌悪感もなく、穏やかにそう語った。


 だがエミリは身を丸めて震える。


「に、人間……!?」


「ちょっ、大丈夫?」


 サニラが近付くとビクッと怯えた反応する。


「無理もないよ。オレやミシェル以外の人間には、こんな感じなんだ」


 お兄さんのヨーデルは話には聞いていたので、ある程度、覚悟を決めていたエミリ。


 それでも初対面ということで、警戒心を持っていたのはわかりやすかった。


「私達は冒険者よ。差別主義なことなんて――」


「ぼ、冒険者!?」


 エミリは余計に怯え、オウラにしがみつく。


「そっか。バークの兄ちゃん達は冒険者だったのか」


「まあな」


「エミリの主人は冒険者でな。……わかるだろ?」


 オウラの発言から察することは難しくなかった。


 この国の冒険者は亜人種を奴隷にし、囮役から性奴隷として扱われることも珍しい話ではない。


 エミリの恐怖に(さいな)まれた姿を見れば、どんな扱いをされたのか、考えたくはなかった。


 だからこそ、彼女の一歩になってあげようと、サニラはフードを取り、オウラの後ろに隠れる彼女にそっと手を差し出す。


「おい、サニ――」


 声をかけたバークをジードは無言で首を横に振り、見守るよう促した。


 ガクガクと震えるエミリをただ優しく微笑んで、手を出すサニラ。


 エミリにはその手が、サニラの表情が、頑張ってと呼びかけているように思えた。


 そっと手を伸ばす。


 小さく震えた手が、そっと、そっと伸びる。


 そしてエミリの手が触れると、そっとサニラは手を握り、


「ほら、怖くないでしょ?」


 よく頑張ったねと褒めてくれたようだった。


 エミリから伝わってきたのは、奴隷の時に浴びせられた痛くて冷たい感覚ではなく、柔らかくて暖かい心地よい感覚だった。


 絶望に染められた冷たい涙は、大粒の温かな涙へと変わる。


「ごめん……なさい! たす、助けてくれたのにぃ……怖がって、ごめんなさい!」


「いいのよ。誰にだって怖いものはある。貴女はそれがちょっと大きかっただけ。ね?」


 泣いて謝るエミリをそっと受け止め、よしよしと頭を撫でる。


 ――ひとしきりエミリが泣き止むと、バーク達もフードを取ると、ヨーデルがお礼を口にする。


「皆さま、この度は我が弟とその友人を守り、救って下さり、ありがとうございます」


「いえ。当然のことをしたまでですから」


「ところで冒険者……と言ってもこの辺ではお見かけしないお顔ですが、どちらの方でしょう?」


「私達は東から来たわ。ハーメルトって言えばわかる?」


 ヨーデルが驚くのはわかっていたが、それ以上に子供達の方が驚く。


「ハ、ハーメルトから来たのか? お兄さん達!」


「すげえ! 勇者の出身地じゃねえか?」


「おう! その子孫様とお知り合いだぜ」


「「「「!?」」」」


 子供達は一斉に驚いたかと思うと、今度はこれはチャンスだと言わんばかりの視線を交わし合い、興奮気味に詰め寄りながら尋ねてくる。


「あ、あのさ! そ、その……」

「勇者、勇者様の……」

「わ、私達ね! あのね!」


「おおっ? おいおい、そんな一斉に来られても困るぞ?」


 その明らかな反応に覚えのあるサニラ。


 小さい頃のバークもこんな感じだったと、幼少期を思い出す。


 そんな子供達を仲裁に入るヨーデル。


「申し訳ありません。彼らは勇者様に憧れておりまして。僕が学校で噂されている話をしましたら、こんなことに……」


「まあ勇者はこの南大陸でも活躍してたらしいからな」


 その発言には眉を(ひそ)め寂しいそうな笑顔をするヨーデル。


「南でのご活躍は主に亜人種側だったと聞き及んでおります。だから、こちらではあまりいい印象はないのですよ」


「そっか。そうなのか……」


 だがゲーデル達の表情を見るに、そうは見えなかった。


 子供だからという理由が考えられる。


「お話の続きですが、皆さんは東からどうしてここへ? しかも彼らがいるということは、地下道に居られたのですよね?」


 ハイドラス殿下からの任務なので、できる限り極秘裏にしたかったところだが、成り行きで助けてしまった以上、下手に情報を開示しない方が後で面倒になりそうと考えた。


「実はね、この国に私達が追ってる悪い奴が潜伏しててね。それの調査のため、地下道にいたの」


「東大陸から逃げてきた奴……とかでしょうか?」


「まあ、そんなところよ」


 クルシアの仲間の一人が潜伏しているとは、さすがに言えず、許容範囲内の説明はできたと考える。


 するとサニラは子供達の目線に合わせ、屈んで尋ねる。


「だからちょっと聞きたいんだけど……」


「なに?」


「貴方達、地下道には詳しくない? 実はマッピングしててね。調査の一環としてやってるんだけど、どう?」


 するとゲーデルとミシェルはふるふると首を横に振り、知らないと答えた。


 この二人はあくまでオウラとエミリまでの通路を知っているだけで、そんなマップの把握などしているわけがなかった。


 そしてオウラに関しては、マッピングという意味すら知らず、感覚でならと答えた。


 それはさすがにと苦笑いを浮かべていると、エミリはサニラが広げたマップに指を差す。


「わ、私達が寝床にしてた赤の魔法陣区域ならわかるかも……」


「ホント?」


「う、うん」


「そっか。ありがと、エミリ。じゃあ――」


 サニラは優しく撫でた後、エミリにゆっくりと覚えている範囲で良いからと、羽根ペンを手渡した。


 その間にジードは、地下道の情報を更に集めるべく、ヨーデルに尋ねる。


「あの地下道や奴隷達のルールについて、詳しく伺っても?」


「勿論、構いませんよ」


 ――ヴァルハイツ地下道は、約十年ほど前にディーガルとマルチエスが監修の元、作られた。


 国民達への説明の際には、緊急時の避難経路や水路の拡大などが言われていたが、その説明の中で違和感があったのは、町の景観。


 薄汚いボロ布を着た亜人種の奴隷が徘徊している様は、他所の国から見てもよろしくはない。


 だからと言って、ファニピオンのような奴隷は主人の物だからと身なりを整えさせることは、どうしても許せなかったことから、亜人種を地下へ追いやったという。


 そして奴隷達の行動は色の魔法陣によって、区別されており、オウラ達を例にあげると、オウラの主人は赤の魔法陣の地上での区域で生活しており、魔法により呼びかけられると、設置してある転移魔法陣か、直接裏路地にマンホールのようなものが設置されているため、そこから表通りには出ずに主人の元へ駆けつけるという仕組みだ。


 その正しい色のところで地上に出ると、主人に居場所がわかるシステムになっており、他の色の魔法陣へ行くと主人には伝わらないが、地下道を徘徊する魔物達の餌食となる。


 これならば奴隷がどのような扱いをされても、目につかず、居なくなっても違和感がない。


 だが地下に住む奴隷達にはそれが抑止力となり、逆らおうが逆らうまいがこのような末路を辿ると宣言される。


 下手に長命である亜人種からすれば、死はもっと先の話であり、同族を守る意識も強い。


 そのため、突きつけられる恐怖は凄まじく、だからと言って同族を見捨てることもできない亜人種は無気力となり、奴隷として苦しみ続ける現実が待ち受ける。


 その上で唯一対抗心が湧くのが、若い長命種達だろう。


 だから以前に一度、一斉に逃げ出す事件が発生した。


 そのほとんどがまだ五十年も生きていないエルフがほとんどだったという。


 結局、ほとんどが捕まってしまったが、脱走に成功している者達もいる。


 それがシェイゾやナディなのだが、それを踏まえて彼ら(オウラたち)は行動を起こしたのだろう。


 ヨーデルはこの魔物達がこんなに言うことを聞いて行動できるかは、凄腕の召喚士(サモナー)がいるのではと予想を立てるも、アミダエルの存在を知るジード達にとっては、あの地下道は実験施設の一つにも捉えられた。


「――しかしまあ詳しいな、あんた」


「まあ僕もこの国の貴族ですから、それくらいは知っておかないと、ディーガル様方に失礼ですから……」


 このお屋敷も、彼らの身なりを見ても貴族であることは一目瞭然。


 今隠れているこの道具倉庫もとても綺麗に掃除されているし、道具も立派な物が並んでいる。


 社交会などで会った時に相手に対し、失礼のないように活躍を把握しておくことは当然のことだと話す。


「それで今更なんだが、お前は亜人種がどうとか言わないんだな」


「貴方達も調査をなされていたならわかるでしょう? 皆が陛下やディーガル様のお考えが正しいとは思っていないのです」


 ジード達が調査する中で、やはり今の国の在り方に異を唱える者は少なからず多い。


「じゃあお前は反対派なのか?」


「どちらかと言えば……ですかね」


 ちらっと楽しそうにマップを覗き見るゲーデルを見てそう答えた。


 この問題に関し、興味がないわけではないが、飛び火されても困ると言った表情。


 だが、あのように楽しそうに亜人の子達と戯れる弟を見ると、どうしても亜人種を否定できない。


「勇者様が目指そうとされた未来はきっと、あのような光景なのでしょうね」


「ちなみにご両親は……?」


「賛成派です。幾人か奴隷を従えてますよ。だから、ここに隠れているわけです」


「じゃあどうしてその子供である二人がこうも仲が良いだ?」


 貴族家じゃなくとも、少なからず親の影響を受けるものだろう。


 賛成派で奴隷がいる生活を送れば、それが正しいことだと認識しそうなところだが。


「まあ僕は周りの方々のように、振る舞うことができないというだけです。弟に関しては最初こそ、父上や母上のように奴隷を見ていたようですが、ある時、ボロボロになって帰ってきたことがありまして――」


 ゲーデルが今のようにオウラと仲良くなったのが、オウラとの喧嘩が原因だったと話す。


 ゲーデルが探検気分で地下道へと友人達と赴いた時、オウラ達に石を投げつけて遊んでいた。


 するとオウラは怒り狂った表情でゲーデルを含めた子供達を襲ったのだ。


 だが勿論、人を傷つけようとすれば奴隷の刻印が発動し、抑止されるのだが、それを必死に抵抗してでも抗う姿を周りが嘲笑う中で、ゲーデルはその光景、表情が目に焼き付いた。


 それを相談された時、


「――彼は自分も生きているんだぞと、お前と同じ命を持っているんだぞと言いたかったんだと思うよって言ってあげたんです」


 その当時のオウラの本心はわからないが、醜い両親、貴族仲間などを見ていると、ゲーデルをその道に行かせたくないと考え、その言葉を送った。


 幼いゲーデルにはその言葉の真意を理解はしていないだろうと、勇者について話したという。


「その後に勇者ケースケ・タナカ様は、獣人もエルフも皆、同じ人として守ろうとしたんだよと言って、勇者様の武勇伝を語るとまあ、あんな感じで……」


 ゲーデルはあの時の獣人のことが忘れられず、勇者のようにカッコイイ男になるならと、手を差し伸べたそうだ。


 ヨーデル曰くその後も色々あったようだが、弟の成長に繋がったのなら良かったと語る。


 実際バーク達から見ても、下卑た貴族のような貫禄はなく、年相応な健全な子供に映る。


 するとマッピングが終わったのか、サニラが終了の報告がてら今後について話す。


「エミリちゃんのおかげでこの区画のマップは完成したわ。……これからどうする?」


「そうだね。はっきり言うと地下道の探索はやめた方がいいだろう。彼らは魔物を倒した人間を探しているはずだ。犯人は現場に戻るを実行する必要はないね」


「ですね」


 それからとジードは亜人種の二人を見て、


「あとはこの二人だ。ここに置いておくことは危険……というより……」


「この町にいること事態が危険よね」


「ああ」


 奴隷の刻印があり、ここに居続ければ見つかるのも時間の問題。


 魔封石である程度は緩和しているとはいえ、限度がある。


「だったら連れてくか?」


「それしかないな。助けた手前、見捨てるわけにもいかないだろう」


 オウラは嬉しそうにピンと耳を立てるが、エミリは不安そうに長い耳が下がる。


「大丈夫よ、エミリちゃん」


「サニラお姉さん……」


「オ、オレも行きたい!」


「わ、私も!」


 オウラ達が行くとなると、ゲーデル達も行きたいと懇願するも、さすがにそれはできないと説得に入る。


「貴方達はダメよ。オウラくん達は奴隷の刻印があるから、連れていくの。いい?」


「オレ、決めたんだ! 勇者みたいに色んな人を助ける人になりたいって!」


「あのね……」


 聞く耳を持たないように、興奮して話すゲーデルに、バークとヨーデルが説得する。


「お前の気持ちは痛いほどわかるぞ。俺もそうやって冒険者になったからな」


「ホント!? だったら……」


「だがな、冒険者はあんな犬っころに震えたりしないな〜」


「うっ!?」


 あの地下道でのことを棚に上げられると、顔が引きつる。


「オ、オレだってなぁ……」


「ゲーデル」


「兄様……」


「いいかい、ゲーデル。確かに勇者様の力は偉大だ。バークさんの言う通り、ワーウルフ程度に立ち向かえないようなら、ただの足手まといになるだろう」


 いつもなら味方してくれる優しい兄様からの否定的な言葉に気を落とす。


「だがな、ゲーデル。剣を振ることだけが戦いじゃない。……お前ならわかるんじゃないか? ゲーデル……」


 貴族として英才教育を受けているゲーデルは、なんとなくだがヨーデルの言うことを理解できるが、


「どういうことですか?」


 ミシェルは首を傾げる。


「フフ。つまりはね、悪者をやっつけたら終わりってことじゃないんだよ。むしろ、その後が大切ってことさ。この国だって他のところに戦って勝ったけど、結局、その後は色々話し合っているのさ」


「えっと……大臣とか?」


「そうだね。王様や大臣様がみんなが暮らせるように管理しているから、こうなってるんだ」


「ま、その管理してる人間がマズイから、こうして俺達が行動してるわけだけどな」


 バークのその意見に、フフっと微笑む。


「だからねゲーデル、ミシェルちゃん。その管理をする人間がいい人なら、オウラくんやエミリちゃんのように傷付くような世界にならないだろ? 君達はそういう人になれる。……ゲーデル、ミシェルちゃん。彼らを見て、心を痛めた君達ならできるはずだ」


「「……」」


 二人はヨーデルの言葉を理解した様子で、グッと唇を噛み締める。


「わかった! オレ、勉強頑張る! 兄様がオレに勉強を教えてくれるのは、そういうことだろ?」


「わ、私も……!」


「わかってくれたかゲーデル、ミシェルちゃん」


「「うん!」」


 オウラはサッパリわからんといった表情で、聞いていたが、エミリはそういう考えをする人間もいるんだと、少し寂しそうに見ていた。


 もし良心のある主人であれば、人間をここまで怖がることもなかったと。


「そこまで言えるなら、あんたがすれば良いのによ」


「……情けない話、僕は人の顔色を(うかが)って生きてきたからね。今更、変われないよ。ただ弟にそれを教えることはできる」


 そう言って苦笑いを向けるが、それを口にし、支えてあげることも、また大変なことだろうと考えられる。


「一応訊くけど……」


「「行く!!」」


 オウラとエミリも状況は理解しているようで、即答した。


「ゲーデル!」


 オウラはビッと握り拳を作り、突き出した。


「な、なんだよこれ?」


「バークの兄ちゃんが言ってた。男の友情の証」


 ゲーデルも拳を作り、同じように突き出すと、ゴツンと少し強めにぶつけた。


「オレはバークの兄ちゃんと一緒に行って、悪い奴を倒すから、お前はその後、任せるぞ!」


「……!! お、おう!!」


 するとバークはその小さな拳達を上から軽くコツン。


「俺も混ぜろよ。頑張ろうぜ!」


「「うん!」」


 サニラは何混ざってんのよと呆れ果てるが、微笑ましい光景だと、不本意だが笑った。


「なら殿下達と合流しよう。準備がすみ次第、出発だ」


「あ……」


 サニラが何か思い出したようで、


「これ、どうする?」


 ひらひらとマップをひらつかせた。


 するとジードは、フッと微笑む。


「まあ、後は任せようよ」

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