11 報われると信じて
「よ! 久しぶりだな」
「リンスさん、お久しぶりです」
アイシア達一向は再び西大陸へ上陸。リンスとミナールが出迎えてくれた。
「お前達もしょっちゅう来るな」
「言うな。あくまで顔繋ぎで来たんだ。茶化すな」
ギルヴァとアリアも一緒に来た理由としては、どちらからの立場でも意見ができるためである。
闇属性持ちであるはずのギルヴァもすっかり打ち解けている様子。
まあ周りには内緒ですが。
「そちら様は……?」
尋ねられたレオンは無言でこくりと頷くだけで、自分から名乗りはしなかった。
「この人はレオン君。今回、私達と一緒に龍の里へ向かう一人なの」
「龍の里……」
「ある程度の事情は訊いてるぜ。龍の神子だってな」
ギルヴァがこちらへ様子を見に来た際、向こうへ渡ったドラゴン達について説明をしていた。
「立ち話もなんですから、向こうでお話を伺いましょう」
ミナールの案内の元、以前検問を受けた建物へと入っていき、互いの情報交換が行われる。
とはいえ、互いに事情はある程度把握しているので、スムーズに話し合いが進む。
「凶暴化する魔物達の対策は正直、武力強化に他なりません。メルやナジルスタの騎士団の元、人材強化にあたっているのが現状です」
「で、アタシ達がまあ魔物の処理に勤しんでるわけだ」
「ユネイル達もか?」
「まあな。孤児院にいるアイツらにはさすがに協力させづらいから、様子だけ見てきた」
ギルヴァ達が心配しているだろうからと、カミュラやネネ達のことを先んじて教えてくれた。
リアンの活動に支障が起きてないことに安堵する。
「とはいえ、被害が出ていないでもありません。万が一のことを考え、受け入れてくれるよう頼んでおきました」
「そんなに酷いの……?」
「目に見えるほどの被害はねえよ。だがな、実際手遅れだったり、龍が襲った小さな村とかはどうしてもな……」
龍種はそもそも人里から離れた場所に生息していたことから、被害を受けるのも人里から離れた農村とかが多い。
「ですから、ギルドの方も復活させるつもりです」
「今更か」
「まあな。こっちから突っぱねた手前、中々戻っては来ないだろうが……幸い、ナジルスタには金がある」
「まあお金があれば来ますよね、冒険者」
「だがまあ、問題はそこだけじゃねえ。龍神王が死んで、ここまで影響が出るとは思ってなかった」
「ええ。魔力の減少化による、魔物の凶暴化から始まり、私達自身の魔力の使い方も変わってきてます。今まで機能していた結界石も、今やオブジェと同等です」
色々しがらみはあるだろうし、問題点は山積みだが一つずつ計画、行動を取ろうと大忙しだと語る。
龍神王が循環させていた魔力はとても大きかったようで、今更だがその有り難みと原初の魔人の存在を語る結果となった。
「なんだか大変ですね」
「ええ。ですから、せめて龍種の暴走だけでも止められることは有り難いです」
「まっかせて! 私達が龍神王をしっかりと弔って、暴走を止めるよ」
「……どうなるかわからないんだ。適当な約束はするもんじゃない」
自信満々に語るアイシアに水を差すと、ずいっと顔を近付けて物申す。
「レオン君。わからないじゃないの。止めるために来たんだから……」
「わ、わかった! わかったから離れろ!」
わかればよしと、にんまり笑顔。
「……まあそういうことだ。この三人はこれから龍神王が眠る里に向かう。俺達は待っている間、お前達に協力でもしよう」
「それは助かりますが……」
嬉しい反面、ギルヴァは闇属性ということもあり、不安もあるミナール。
「わかっちゃいるが、俺は闇属性ってだけじゃないんだ。剣だって振れるぞ。それに……」
「……」
ギルヴァはアリアを見ると、それに応えるようにギュッと何かを覚悟している表情をする。
「アリア自身を安定させるには、自分自身の力を知らなければならない。こっちの魔物なら加減不要だろ?」
アリア自体の能力は、魔人マンドラゴラの魔石ということからわかってはいるが、コントロールともなると、やはり慣れさせることが一番早い。
精神的にも肉体的にもアリア自身に慣れさせることは重要である。
それにギルヴァ自身も把握できるし、正に理に叶う状況である。
そう説明を受けても些か不安が残るようだが、理解はできると了承した。
「では龍神王の件、お任せしても?」
「はい!」
「にしてもあのクソ野郎……今頃は楽しんでる頃合いだろうぜ」
殺気が込められた表情でパンっと拳を叩く。
「それはないと思います」
「ああ!?」
「クルシアの性格を考えれば、今は貴女達より原初の魔人の動向の方が気になっているはず。あの人は本当に子供みたいですから……」
リュッカは今までのクルシアを考え、そう分析するが、それはそれで気に入らないと、怒りを露わにする。
「チッ! メルをあんだけ苦しませておいて、挙句リアンまで殺したくせによぉ!」
「だから少しでも思い通りにならないように来た」
「……」
アイシアは安心させるように、任せてと明るくも頼もしい表情を浮かべる。
こうしてアイシア、リュッカ、レオンは龍神王が眠る里へと飛び立った。
***
ガルバーディア山脈の、人どころか魔物も通れぬ切り崩された崖地帯を三頭の龍が飛び抜ける。
龍神王の眠る里は元々、この山脈地帯が地殻変動により、切り崩されてできたものという説が濃厚なのだが、真実は神のみぞ知るところ。
故に基本的には歩いていける道などがあるわけも、作られていることもない。
そして長い年月をかけて生まれた地形から、飛び抜けるにせよ、岩場が所々から突き出ている。
更にはその道自体にも強い風が吹き抜ける。
空を飛べるものでも、たどり着くには至難の場所なのである。
そこを龍の神子アリシアとバザガジールを除いた人間が踏み入ることは初めてである。
「大丈夫〜? ついて来れてる〜?」
激しい風の音がアイシアの案ずる言葉を妨げる中、リュッカ達は必死について行く。
「大丈夫だよぉー!」
「問題ない!」
とはいえリュッカはこの険しい渓谷をエメラルドの背に乗り思うことは、リリアの補助術である――トレース・アンサーをかけておいて良かったとつくづく思う。
そして普段の体力作りをしていたことにも良かったと考える。
エメラルドほどの龍に乗るのは、体力と筋力がいる。
自分はここの地形に詳しくない挙句、エメラルドに身を委ねる形が多い。
騎乗している者は、一体化することが必要だという。
エメラルドに身を任せるというのは、自分もエメラルドがどんな飛び方をしたいのか想定して、重心バランスを取らなければならない。
ここに来る前に何度かトレースの成果を確認するため、何回か乗ったが、これほど乗っている龍を信頼しなければならないのだと痛感する。
確かにこれは強い信頼関係が必要なのだと考える。
それを考えれば、ポチとアイシアの関係には納得がいくが、ホワイト達はアイシアに対する信仰心から、アイシアは純粋に疑うことなく、信頼を寄せているからこそ、飛び回れるのだと考える。
騎乗スキル自体は龍の神子によるものがあるだろうが、一緒に飛び、自在に駆けるということはアイシア自身の才能だと、後ろ姿を見て思った。
「それにしてもさぁー。ここをよく通れたよねぇー、バザガジールぅー」
「あ、あのシアー! こ、こっちは話してる余裕ないからぁー!」
アイシアは相変わらずの大物感を出すと、アイシアを乗せるホワイトは鼻息を漏らすと、
『不甲斐ないなぁ。神子様のご友人ならしっかりついて来いって……』
そんな不満を漏らすと、アイシアがぷくっと頬を膨らませて、ポカポカと殴る。
「ホワイトちゃんのそういうところ嫌い。帰りはノワール君にしよう」
『ええっ!!? み、神子様ぁ、申し訳ありません!?』
アイシア達が何か揉めてるなぁと、後ろをついていく二人は苦笑い。
「余裕あるな、あいつ」
「そ、そうだね」
ホワイトからはガウガウとしか聞こえないリュッカ達には、知るよしもない話である。
「なあ。そのバザガジールって奴は本当にこんなところを抜けたのか? 一歩踏み外せばひとたまりもないぞ」
飛んでいる崖下を見ながらそう言うが、あのバザガジールの強さを考えれば、こんな険しい道だろうと簡単に飛んでいけるのではないかと思ってしまう。
「ホワイトちゃんがさぁー。あの細目男は空中でも蹴って飛んでたことから、それでじゃないかってぇー」
「お、おいおい……」
レオンは思わず呆れるが、リュッカの深刻そうな顔を見ると、冗談ではないことがわかる。
「あの人はアルビオさんでも敵いません。そう言われると説明もつきます……」
ちょっと重たい空気になったと、気まずさから話題を逸らした。
「最初の龍の神子はどうなんだろうな?」
それもホワイトに尋ねたアイシア。
その時とそもそも地形が違うから、まだ人が踏み入ることが可能だったと話す。
だが龍神王自体が人間を拒んでいたため、訪れる人間はほぼいなかったとのこと。
「――リュッカぁー。そろそろ着くってぇー」
ガルバーディア山脈に入ってから数時間後――目的地へとたどり着く。
開けた場所から見えるのは、洞窟のような穴が複数あり、人型でもいる機会があった龍神王のためか、整備された細い道がいくつも作られていた。
アイシア達はそこから覗くドラゴン達に見送られながらも、凄惨な爪痕を目にする。
所々にまだ目新しい戦闘痕が残されていた。
爪で裂いたような跡、何か大きな物がぶつかった跡、破壊された瓦礫など、戦闘の激しさを物語る。
目的地へ着いたのか、ホワイト達はゆっくりと着陸する。
「ここがそうなの?」
「……はい、神子様」
擬人化してホワイトとエメラルドは跪いて答えた。
その洞窟を真剣な眼差しで見ると、
「行こう! リュッカ、レオン君」
二人も真剣味を帯びてアイシアの後をついて行く。
火も灯されていない暗がりの洞窟を、アイシアの火の魔法で照らして進む。
ポチの爪や牙等から出来た杖を片手に進む姿は、正しく龍の神子のよう。
思わず別人ではないかとレオンは不意に視線を逸らす。
死体が安置されている密閉空間の割に、嫌な臭いの一つもしないことに違和感を感じつつもたどり着いた。
「この子が……龍神王?」
そこに居たのは、首がなく、心臓あたりに貫かれた跡のある巨龍の姿であった。
その白銀の鱗で覆われた龍はとても神秘的で、不謹慎にも美しいと思ってしまったレオンだが、驚くリュッカとは違い、アイシアの頬には涙が流れた。
「……!」
ホワイトとエメラルドも無言で傅き、アイシアは貫かれた跡にそっと手を添える。
「痛かったね。辛かったね。もう……いいんだよ」
最初に龍の神子と訊いた時はなんの冗談かと思った。
最初の印象は、天真爛漫で明るく元気などこにでもいるような馬鹿そうな女。
だがポチとの飛行訓練に付き合っていると、どこか惹きつけられるような明るさに囚われている自分がいることに気付いた。
昔からドラゴンとの付き合いは長いが、人とのコミュニケーションが苦手なレオン。
そんな自分にも分け隔てなく会話してくれたこと。
そしてその分け隔てないには、人であることが関係なく、ドラゴンであるポチやエヴォルドに対しても同じだった。
コイツに心の境界線はないんだと気付いた頃には、気付けば視線を向けていた。
建国祭前に訪れた際も、実は会えないかとソワソワしていたほどだ。
気になってしょうがなかった。
だから今回の同行の件は、彼女の力になりたいと思った一心だったし、想像以上に深いものに関わっていたこと、自分がそれに対し、力不足であることも悔やんだ。
周りの龍操士を目指す奴らが、くだらない理由であることが多いことに、心の中で見下したり、がっかりしている中で、彼女は一人の女性として、一人の人として尊敬できる存在であった。
だが今の彼女はどうだろう――まるで別人のようだ。
涙を流しながらも優しく微笑み悼む姿は、聖母のようだ。
杖を立て、膝を折って屈み、優しく傷跡を撫でる。
生前の龍神王を労うように寄り添いながら、語り宥める。
その美しい姿に茫然と立ち尽くしていると、いつの間にか背後に龍神王を偲ぶように、ドラゴン達が陳列していた。
「なっ……!」
驚いて振り向くが、そのドラゴン達からも涙が零れ落ちる。
魔物が涙を流すことは滅多にない。龍の涙を作る龍種であろうと例外はない。
だがどのドラゴンも惜しむように涙を流し続ける。
すると、
「な、なに!?」
アイシアが首から下げていた龍の涙が突然、光り出した。
眩ゆい光に包まれたアイシアは目を隠し守ると、何やらふわりと宙に浮かんだ感覚が襲う。
ふと目の前を見ると、そこには先程倒れていたはずの龍、龍神王の姿があった。
「ほえ?」
何が起きたのか理解の追いついていないアイシアは間抜けな声を上げるが、その龍は擬人化する。
その姿は見覚えがあった。
「えっと……龍神王でいいんだよね?」
「いかにも……」
周りが龍神王だと言っていただけで、本当のところはどうなのかわからなかったので尋ねたが、本物だったようだ。
姿は初めて出会った時のように、民族衣装のような格好で現れる。
「あれ? ここって天国? 私、死んじゃったの?」
龍神王の死体を前にし、その死んだと思っているはずの龍神王が目の前にいるのだ。その意見はごもっとも。
だが龍神王は首を横に振った。
「私はあの身体に残った残留思念だと言っておこう」
「残留思念?」
「そうだな……心残りとでも言っておこうか」
その瞳はどこか寂しげで、心残りと言われれば説得力のある表情であった。
「何か心配事があって眠れないんだ」
「……そうだな。私が守ってきた子供達は、大丈夫だろうか……」
「……」
アイシアはこの龍神王がどれだけ真面目なのかを理解することは難しいことではなかった。
あの三体の慕われ方や陳列する龍達を見れば、どれだけの想いを込めて見守り続けたのか、手に取るようにわかる。
アイシアは優しく微笑んだ。
「どうして自分のことを考えないの?」
「なに?」
「……みんななら大丈夫だよ。貴方がこんな残留思念を残すほど……本当は心配してないんじゃない?」
「そんなことは……」
「信用してないの?」
「……そういうわけではない」
アイシアは龍神王が本当に伝えたかった気持ちを、受け止めて欲しかった気持ちを訊き出そうとする。
こんな真面目な人が、見守り続けてきたドラゴン達を信用してないわけがないから。
だが龍神王は言い淀んでいる。
アイシアは考えた。
ここにいる理由は、きっと自分にできることがあるから呼ばれたのだと。
その結論が、
「おいで」
「……何のつもりだ?」
ハグしてあげると大きく手を広げた。
龍神王は少し戸惑ったが、アイシアはニコニコと手を広げたまま、待ってくれている。
その光景を昔も見たことがあったように、記憶が霞む。
「……」
気恥ずかしいと感じながらも、このままだとずっとこの調子だろうという確信があった龍神王は、ゆっくりとアイシアに応えるよう、身を委ねる。
するとぎゅっと嬉しそうにこちらも応えた。
「よしよし。よく頑張ったね。偉い偉い」
「お、おい。子供扱いをするでない。私は――」
「ずっと頑張ってきたんだからもういいよ。甘えても……」
「!」
「私はさ。貴方がどれだけの時を頑張ってきて、どんな想いでアリシアさんの想いに応え続けてきたか知らないけど、あの子達を見ればわかるよ。貴方の想いはちゃんと伝わってるよ。それは貴方もわかってるんじゃないかな?」
龍神王自身は本当に残してきた者が心配で残った思念だったと思っていた。
だがこうして受け止めてもらい、そう言われた時、この残留思念はこの瞬間のためだったと確信すら感じられた。
「ね? もう頑張らなくていいよ。ゆっくり休むことも、甘えることも大切だよ。……今の反応を見てわかった。知らないんでしょ? 甘え方」
「あ、ああ……」
戸惑いながらも、懐かしい感覚が戻っていくようだった。
アリシアの優しさに、そっと触れているような暖かさを感じる。
「私はちゃんと知ってるよ。リリィにもリュッカにもいっぱい甘えるし、我儘だって言うよ。だからさ、ね?」
「それは人だからだろう?」
「ううん。心さえあれば、そんなこと関係ないよ。魔物だからとか、アリシアさんは言った?」
龍神王は首を横に振って否定した。
「だったらそれでいいんだよ。ちゃんと吐き出したい気持ちがあるなら、言わなくちゃ。ずっと溜め込んでたんでしょ?」
そんな受け身の態勢を取られると、龍神王は思いの丈が溢れてくる。
我慢していたものが一気に吐き出る。
「私は……私は! お前を愛している!! アリシア!!」
想いと共に溢れ出る涙も一緒に受け止めるアイシア。
「最初は人間など憎かった。魔人になる前からそうだ。どれだけの同胞が身勝手な振る舞いをする人間共に殺されたことか。どれだけ苦しめられたことか……。そんな時に君と出逢った」
今までここまで感情に揺さぶられることなどなかったとばかりに語る。
「魔人になり、より危険な死地へと赴き、遂に力尽きたと思われた時、アリシア……お前は自分のことのように私に寄り添ってくれた。戸惑う私などに構わず、ずっと側で笑顔で寄り添ってくれたお前を、今でも忘れない。だから……本当は一緒に行きたかったのだ!」
弱音を吐き出してくる龍神王を、ずっと優しく受け止めるアイシアは、そっと離さないように抱きしめ直す。
「君が同胞のために、人間達に認めてもらうために旅だったあの旅路に私も連れて行って欲しかった。だが私はお前の重荷になりたくはなかった。私が背負っているものを背負わせたくなかった。……その小さな背中には……」
アリシアならばきっとそんなことを言えば、笑顔で一緒に背負ってくれるだろう確信があった。
だからこそ言えなかった。
自分が初めて愛した人を苦しめる結末を、自分が作りたくなかった。
だがそれは臆病だった自分の弱さだと、もう長きに渡り考える時間のあった龍神王には、この答えを出すのがあまりにも遅すぎた。
「すまない、アリシア。私が……私が弱かったばかりに……」
「いいよ、許す」
「!」
龍神王はバッと身を少し離し、その顔を見た。
「貴方って本当にバカなんだから……」
「ア、アリシア……?」
抱きしめていたはずのアイシアではなく、アリシアが目の前に現れた。
混乱する頭の中で色んな理屈が巡る。
そもそもアイシアとアリシアは似ていたから、想いをぶつけているうちにそう映ったとか、ここは自分の残留思念が龍の涙によって起きた世界だ。記憶が混濁して具現化したのではなどなど。
だがそんな理屈など吹き飛ばすほどの優しい抱擁が包み込む。
「本当にバカなんだから。もっと素直になっていいんだぞ!」
「……こんなに苦しい想いをするなら、どれだけ理性のない魔物として生まれればよかったと思ったことか……。だが! だが今は! 理性ありし魔物として生まれたことに……心を持って生まれたことに! これほど感謝したことはない」
「私もだよ。私と出逢ってくれて、ありがとう」
溢れ出す涙も拭かず、首を横に振ると、笑顔でこう述べた。
「私こそ……出逢ってくれてありがとう。愛している」
想いが伝わったのか、アイシアから天に昇る一筋の光が旅立つ。
「アリシア……」
「伝えられた?」
何が起きたのか、把握している様子のアイシアに、
「ああ……ありがとう、アイシア」
優しく微笑んで答えると、龍神王もまた光の粒子へと変わる。
「ねえ。貴方の名前は何?」
「名前……」
「アリシアさんにつけられた名前があるんじゃない?」
龍神王もまた一体の龍。最初から魔人だったわけではない。
アリシアに出逢い、アリシアがあった方がいいと付けられた名がある。
「――ティアムト」
「!」
「私の名だ。ティアムトという」
「わかった、ティアムトだね」
するとアイシアは、ぴょんと後ろへと跳ぶ。
「ティアムト! アリシアさんと仲良くね! こっちは大丈夫だから……」
「……ああ。ああ……ありがとう。……ありがとうっ」
ティアムトもまた一筋の光となって昇って行った。
だがアイシアは手を合わせることはなく、ただただ昇っていく光を見つめていた。
「これが終わりじゃないよね、ティアムト。アリシアさん」
二人の来世への道を見届けた。




