表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
374/487

08 ドラゴンレース

 

 ルールは至ってシンプルな競争である。


 ここ龍操士教育学園の広場から飛び立ち、ドゥムトゥスの外周を二周行う。


 飛ぶ高度や速度は自由だが、建物の損壊や明らかな妨害などはタイムを加算するとのこと。


 あくまで飛空技術とドラゴンとの連携プレイを評価するものとする。


 険しい渓谷道を進むのだ、華麗にドラゴン達を操る技量は必要というための措置。


 本来であれば、魔法攻撃や槍などによる妨害もありでやるらしいのだが、今回は無しだ。


 肝心のルートだが、先ずは広場から外周地点までは町の上を飛ぶことになる。


 この時にドラゴンの羽ばたいた風圧で目立った損壊が見受けられると加算される。


 その後はひたすら外周をぐるりと回り、このポイントで戻ってくる際、この広場にいくつかの障害を用意しておくとのこと。


 複数の石柱を並べ、その間を飛んで進めとのこと。


「――おおーーっ!! 楽しそう!!」


 アイシアはすっかり同行者の選抜戦だということを忘れている様子。


 まあアイシアは行くのが確定してるからいいけど。


「俺達が普段してるヤツの長距離か……」


「普段は?」


「この広場に今から用意する石柱を加えて飛び回る感じだ」


 なるほど。今回のは持久競技って感じなのか。


 マラソンもそうだが、ペースってのがある。


 特にパートナーに走らせるなら、その感覚も掴まなきゃならないだろう。


 そういう意味ではアイシアは不利なように思うが、エメラルドが自分から見定めると豪語するほどだ。体力面で劣ることはないだろう。


 問題は連携だろうがホワイト曰く、そこも軽々と熟しそうなあたり、アイシアは確かな貫禄がある。


 楽しむ余裕があり、自然体でいられることがアイシアの一番の強みだろう。


「まさか君とレースをすることになるとはね」


「そうですね。乗るのはポチじゃないですけど、頑張りますね」


「では参加する者は準備を始めてくれ」


 ダイアの呼びかけで準備を始める。


 エメラルドが擬人化を解き、風龍の姿へと変わり手綱をつける。


「これは……」


「本来はこれを付けた方がいいんだって……」


 付け慣れない様子だが、何とか装備する中、龍操士(ドラゴンライダー)やその若き騎龍達もエメラルドから来る風格に威圧される。


「凄いドラゴンだな……」


「あ、ああ……」


 そりゃあ龍神王と同じ条件での魔人のなりかけだ。そんじょそこらのドラゴンとはわけが違う。


「しっかりしろ、エヴォルド。そんなに固くなるな」


 レオンはエメラルドに萎縮している自分のパートナーを宥める。


 首筋を優しく撫でて、緊張をほぐしているようだ。


 だがそれを見たホワイトは鼻で笑う。


「自分達のドラゴンを安心させてやれないようなら、神子様の同行など夢のまた夢だな」


「お前はどうしてこう、挑発的かな?」


「私はここにいる若き龍の命を摘まぬよう思っているだけだ。神子様が悲しまれぬよう人間にもな」


 そんな中でも何とか準備を整えると、横一列にズラリと並ぶ。


 こうして並んでみせると、人間のようにしっかりと個人差があるものだと気付く。


 種類は勿論だが、顔立ちや肉付きも各々の長所短所があるようだ。


 ドラゴンの育て方もまた信頼と実力を証明するものだろう。


 まるで調教師の話みたいだ。


「――それでは全員、準備は整ったな?」


 ちなみにダイアは学園長であるためか、離れるわけにもいかないことから不参加である。


 これよりレースに参加する一同は強く手綱を握る。


 ある者らはプライドを踏み(にじ)られたため。ある者らは魔人に近しい龍種の力に挑むため。


「いくぞ、エヴォルド」


 ある者は、その少女の行く運命を見届けるため、いざ空へと羽ばたく。


「それでは合図をお願いできるかな?」


「わ、私? は、はい……」


 これはアイシアと同伴をする龍操士(ドラゴンライダー)を選抜するレース。その友人である俺が任された。


 俺はみんなが見える位置まで移動すると、腕を真っ直ぐに上げた。


「それではカウントゼロでスタートしてね。いくよぉ〜! ――五! 四! 三! ニ! 一……ゼロォ!!」


 ゼロと叫ぶと同時に上げた腕を振り下ろし、スタートの合図を切った。


 皆、一斉に大きく翼を広げる中、


「いくよ! エメラルドちゃん!」


『は! 神子様に勝利を!』


 遠吠えを上げながら、エメラルドは地面を踏みしめ蹴り上げる。


 高くジャンプしたと同時に大きく羽ばたくが一瞬だけだった。自分が飛ぶ高度まで一気に飛び上がるためか、羽がすぐに最低限の大きさまで閉じると、そこからは風に乗るようにギュンと外周ポイントまで向かう。


「いっけぇー!!」


 おいおい。完璧なスタートダッシュじゃねえか。


 他の者達も遅らせながら、後を追う。


「くそっ! 速い……」


「まだまだこれからだ……!」


 アイシア達は町の屋根の上付近をギリギリを飛行するが、建物の揺れは少ない。


「おおっ! 壮観だね! エメラルドちゃん!」


『はい。神子様と楽しく飛べて、わたくしも嬉しいです』


 他のドラゴン達は建物の破損などを恐れ、十分な高度を取っているせいか、グングンと距離が遠くなっていく。


 そしてこちらからはあっという間に姿が消えてしまった。


「あんな低空飛行、怖くないのか?」


「怖くはないだろう。それだけあのエメラルドというのかい? あのドラゴン……」


「あ、はい」


「信頼を寄せているのだろう。勿論、エメラルド殿もな」


 俺の疑問を読み取ってか、不貞腐れているホワイトが不機嫌そうに勝手に答えてくれた。


「ついでに話しておくと、建物の損壊がなく飛べるのも、神子様とエメラルドの技量と信頼があってこそだ」


「どういうこと?」


「風龍に限らず、風属性には風読みができるのは知ってるな?」


「まあ……うん」


「エメラルドは上空の風を読み取り、その空気抵抗により発生する風向きも読んで飛んでいるのだ」


 要するには風読みの視野を広げて、飛空しているということか。


「しかも神子様はそのエメラルドの風読みを上手くできるよう、重心のバランスもしっかり取っておられた。人を乗せ慣れないエメラルドに考慮した素晴らしい騎乗術だ」


「確かに彼女は身体の使い方が上手い。一瞬ではあったが、あのスタートダッシュの時もそうだ。彼女は体勢を低くし、エメラルド殿をいつも通りに近い身体使いができるよう、重心をかけていた。……彼女は特殊な訓練でも受けていたのかい?」


「い、いえ。そんなことは……」


「だとしたらとんでもない才能だ。龍の神子ということも説明がつく」


 ダイアも教師歴は長いが、こんな瞬発的な才能を見せる人は初めてだと絶賛する。


 するとホワイトが自分のことのように誇らしげにする。


「当然です! 神子様は我らを導かれるお方。エメラルドに騎乗することで、手に取るようにお分かりになるのでしょう」


 ヤキンも言っていたが、ポチとの飛行訓練の時もとんでもない成長速度だったと絶賛していた。


 本来なら早くてもひと月はかかるらしいが、アイシアは一週間程度でポチと自在に飛んでいた。


 そんな絶賛されているアイシアは、ドゥムトゥスの外周を飛ぶ。


 ドラゴンの種類によって飛び方は異なる。


 火龍(ファイア・ドラゴン)であるポチは、身体付きもがっしりしている影響か、重みのある加速力のある飛び方をする。


 風龍であるエメラルドは、普段乗る火龍と比べるとひとまわりほど身体が小さい。


 だがその分、空気抵抗が他の龍よりも少なく、飛行能力に特化するためか、羽の膜も薄い。


 だからアイシアにとってポチとの体重バランスの取り方は極めて難しい。


 しかし、アイシアは感覚的なのだろうか、しっかりとエメラルドを支えるように騎乗する。


 流れていく町の景色、駆け抜けていく風にショートヘアの髪も(なび)く。


「気持ちいいね! エメラルドちゃん!」


『はい! 神子様!』


 そう頭に語りかけるエメラルドは、後から追ってくる者達を風読みと魔力感知で察する。


(やはりまだ若い龍達がついてくることは難しいか……)


 エメラルドは里に異常が起きてないか、毎日のように巡回しているせいか、飛行能力が非常に高い。


 空間認識能力も高く、障害物の回避などもお手の物だ。


 今回のように手綱をつけ、人を乗せるという特殊な状態ではあるが、特に苦にはならない。


 むしろこちらの動きやすいようにバランスを取ってくれる影響か、いつもより調子良く飛べてる印象すらあった。


 そんな後続達もエメラルドのことは勿論だが、アイシアの技量についても高く評価する。


「ヤキンさん。あの()と知り合いのようでしたが……」


「一度、出張で離れていたでしょう? その時の教え子です」


「ありましたね。確か一週間ほど……まさか!?」


「はい。彼女は一週間足らずで騎乗スキルを身につけました」


「ば、馬鹿な……」


 どれだけ才能がある人間でも早くて、ひと月はかかるのだが、アイシアは一週間弱でやり遂げてしまっている。


「そりゃあ追いつけないわけだぜ。レオン、行けるのか?」


「行けるのかじゃない、行くんだ!」


「お、おい」


 接戦を繰り広げる後続から無理強いして出てくるのは、レオンとエヴォルド。


 ペース配分を考えれば、抑えなければいけないところだが、アイシアとの距離は広がるばかり。


 だからこそ、無理をしてでもレオン達は前に出た。


 そしてポイントの場所をアイシア達が曲がり、広場へと戻っていく。


「おっ! 戻ってきた」


 俺は遠くを見る手仕草を取り、アイシアを視認した。


 そして立ちはだかるは、無数の石柱障害物。


 広場を一周回るように広場前には、指示を出す龍操士(ドラゴンライダー)


 その指示に速度を抑えることなく曲がるアイシアとエメラルド。


「ちょっ!? アイシア!?」


 石柱の群れに突っ込む勢いの飛行に思わずたじろぐが、


「いくよぉ!」


『はい!』


 石柱を紙一重のタイミングで次々と避けていく。しかも速度はほとんど落ちてない。


「ば、馬鹿な!? これほどとは……」


 表情の固いダイアも思わず表情筋が歪むほど、驚愕する。


 円形の広場の石柱エリアを軽々と抜けていくアイシアとエメラルド。


 その表情は非常に楽しそうであった。


「ああっ!! ズルイ! ズルイ! 私も神子様をお乗せして飛びたい!!」


「そう言うな、ホワイト。俺だってお乗せしたいぞ」


「はは……」


 二人の龍は羨ましそうに残念がる。


 それにしてもアイシアの技術は凄いな。


 龍の神子としての才覚とは言うが、本当にそれだけなのかと疑うほどの技量だ。


 いくらドラゴンとの連携が上手くとも、ここまで無数にある障害物をこの速度で抜けられるだろうか。


 エメラルドの力もあるだろうが、龍の神子の能力とは違う、アイシア自身の感性的な能力なように思える。


 活発的で思いやりに溢れるアイシアならではだと思うし、それにクルシアの時も悔しい思いもしたはずだ。


「私も頑張んないとね……」


 龍操士(ドラゴンライダー)と解体屋を兼ね備える奴なんて、おそらくこの国でもいないだろう。


 となれば別の方法が必要になるだろう。


 すると遅らせながらレオンを先頭に次々と広場へと戻ってきた。


 それとすれ違うようにアイシアはニ周目に入った。


「くっ! 待っていろ、アイシア!」


 先輩として意地を見せるレオンも、速度をほとんど緩めることなく、石柱の中を駆け抜ける。


 それに続けとヤキン達も駆け抜けるが、一人。


「いやぁ……この石柱の上を飛べばいいでしょ?」


「コラ! バーツ! しっかりと石柱エリアを通りなさい!」


「うええっ! マジっすか!?」


 一部の生徒参加者はここで断念。


 さすがにドゥムトゥスをぐるりと外周した後、この石柱の中を飛ばすのは、技量と体力がひどく必要になる。


 その基礎体力も飛躍した技術能力もない学生はここまでだが、学生でも何とか追いつこうと必死に足掻く人物の姿があった。


「おおおおっ! エヴォルド!」


「ガアアッ!!」


 あまり感情的にならない印象のレオンが、必死に追いつこうと感情も一緒に走る。


「す、すっげぇ……」


 感心する学生達をレオンは置いていく。


 するとその甲斐あってか、一番で石柱を抜けるとパシンと手綱を叩く。


「ここからは直線と外周だけだ。全力で飛ぼう! エヴォルド!」


「ガアアゥッ!!」


 背中から強い想いを感じるのか、軽く息が上がるエヴォルドだが、主人に応えるよう外周ポイントに向かって飛ぶ。


「……成長したな。レオン」


 ヤキンはその後ろを追いかけると共に、自分の生徒が殻を破る瞬間を見た。


 なんとも言えぬ寂しさが込み上げてきたが、レースに集中するのと、


「私もまだ負けてられんな!」


 レオンに触発されたのは、ヤキンだけではなかった。


 その後ろから来る龍操士(ドラゴンライダー)にも影響を与えた。


「あの若い二人が頑張ってるんだ。負けちゃいられない。そうだろ?」


「まったく……」


 次々と石柱を突破し、アイシア達の後を追う。


「どうしたのだ? 急に人間達の覇気が変わったな」


「そうだな……」


 さっかの解説に礼という意味を込めて、俺が解説する。


「人間には意地ってのがあるのさ。とってもくだらない意地がね」


「……?」


「ヤキンさん達、後続の龍操士(ドラゴンライダー)は、自分よりも若い人には負けられないって意地が出たんだよ。貴方達にだってあるでしょ?」


 その質問にホワイトとノワールは、顔を軽く見合わせた。


「ないな」


「ああ。年長者は常に上に立つ者。あの人間達の気持ちはわからん」


 見た目は人間に近いが魔物だってことをすっかり忘れてしまっていた。


 魔物の場合は不老のためか、そもそも歳の概念がほとんど存在しない。


 コイツらの場合は多少はあるが、年月を重ねるにつれて強くなる魔物達には、後ろから追ってくる心配というのはほとんどない。


 俺は苦笑いをするが、気を取り直して語る。


「今、お前達が言ったろ? 年長者は上に立つ者だって。それは年取った人間も考えるよ。そりゃあ若い子より人生経験があるんだから。だけど、人間はお前達と違って身体の劣化が早い。頭はわかっていても身体がついていかないもんなのさ……」


「そうだね。それに考え方も大人になれば凝り固まってしまう。情けない話だ……」


 俺の話に合わせるダイア。


 自分も若く、立場がなければ参加できたのにと悔やむ。


「だからこそ刺激を受けたのさ。若い子達はあんなに頑張ってるのにってさ。自分にもあの頃があったって。自分にもあんな熱があった時があったって……」


「君はよく人を見ているんだね」


「……まあここより汚れた世界から来てるので……」


「は?」


「いえ。なんでも……」


 向こうでの俺の人生はそう酷いことはなかったが、ニュースを開けば、誰かが殺人を犯しただの、盗みを働いただの、芸能人や政治家の汚職だの不倫だの、それを側面だけで報道するテレビだの、汚いことが大好きな世界だ。


 ネットでも注目を浴びるのはやはり(けが)れた世界。それを評論家みたいに語りながら、誹謗中傷を浴びせる現代社会。


 だがそんな向こうの世界にだって、思いやる心や慈善事業の芽はあるが、どうしたって押し潰されてしまう。


 だからこそこうやって刺激し合え、心のままに素直で居られるこの世界は羨ましい。


 勿論、こちらの世界にも人の悪意は存在するが、それでも向こうよりはマシだ。


 まあこちらの歴史を詳しく知らないからこう思うのかも知れない。


 だがこちらの悪意の場合は、剣と魔法の世界だからか人命に関わることが直結しているケースが多い。


 その一端であるクルシアがそれを物語る。


「まあ人間は小難しいってことだよ。単純じゃないのさ」


「……そうだな。龍神王様も言っておられた。人間とは自分達と違い、心に余裕がない。それは自分達と命の価値に違いがあり過ぎるからだと……」


「だからこそ他人を踏み躙ってでも前へ進むのか?」


「そういう人もいるけど、ちゃんとリスペクトしてる人達もいるよ。みんながみんなそうじゃない。だから龍の神子なんてのも生まれたんだろ?」


「「!」」


 龍の神子と呼ばれるほどの能力を与えられたのは、神のみぞ知るところだが、龍神王の信頼を得られたのは、尊敬の念を持ってその力を正しく使ったことが背景にあるのではなかっただろうか。


 シェイゾのように劣等種と呼び捨てられることがあるほど、酷い人種だとも思うが、人間である自分としては、人間の心ってものを信じていたい。


 だからクルシアのような、偏った考えを肯定するわけにはいかない。


 そのためには示さなければならない。龍神王の死を弔い、慈しむことによって、クルシアを否定しなければならない。


「……貴方達にはさ、これからアイシアと共にいる以上、人間の色んなところを見せられるかもしれない。そこでどう思うかは知らないけどさ。これだけははっきりしてる……アイシアも私達も貴方達を失望させることはない」


「……」


「……貴女は知らないけど、神子様に関してはそんな心配はしていない」


 ダイアも今の話に思うことがあるのか、少し心配そうな表情で俺の肩を叩いた。


「随分と(さと)い子だ。さすがは黒炎の魔術師と言ってしまえばそれまでだが、君はまだ十五だろ? どうしたそんな考えに至る……?」


 一応、以前帰郷した時にリリアの誕生日を訊いたが、既に十六である……というツッコミは控えておこう。


「まあ私も色々関わっていくうちに考えるようになっただけですよ。そんな驚くことじゃないです。それにやってることは単純です。ただ大切な人達を守るために、そして自分のために頑張ろうって思うだけです。……これって珍しいことですか?」


 ダイアは少しポカンとした表情をすると、軽く微笑み、首をゆっくりと横に振った。


「いいや。その通りだな。他人のため、自分のために頑張る。そうだな、至って普通のことだな」


「はい。それが普通より特殊な経験を積んだだけに過ぎません。それだけです。お前達だってそうさ」


「私達?」


「うん。魔物として生まれたにも関わらず、アイシアと出逢い、人間であるアイシアを神聖視し、こうして人間の輪の中にいる。これも特殊な経験さ。だからさ、もう少しアイシア以外にも目を向けてほしい。人間の力ってヤツを……」


 本来なら敵対関係にあるはずの関係がこんな状況になってるんだからと親しみを込めて、ニカッと笑った。


「……」


 ホワイト達が人間というものを学んだのは、龍神王からの話だけだ。


 人間は業が深く、狡猾で残忍な者達ばかりだと訊いている。


 龍神王はそんな人間から逃げるという形であの里に引きこもったが、それを臆病とは捉えなかった。


 だがそんな龍神王も心を許し、自分達と共に歩み寄ってくれた人物こそ、龍の神子アリシアである。


 ホワイト達はまだ自我が芽生えぬ頃にしか接触の機会がなかったため、彼女自身がどんな人物だったかは龍神王の話でしか知らない。


 だが耳にタコができるほど訊きたいわけでもなかったが。


 何せ人どころか同族すら中々訪れない土地だ、暇を持て余していたのは事実で、龍神王の武勇伝や教え、後は交代制の見回りくらいだった。


 そのアリシアの話を訊いていると、正直うんざりもしたが、それだけ愛していたのだとも受け止められた。


 そしていざ龍の神子の子孫であるアイシアを前にした時、三体には懐かしき雰囲気を感じていた。


 幼き日の頃に全身を優しく包んでくれてい暖かな感覚を彼女から感じた。


 この人だと思った。


 龍神王が愛し、我らを受け止めてくれるお方だと本能が告げた。


 魔物の本能など比ではないほどに。


 そして――その龍の神子の友人が信じてほしいと頼んでいる。


「……」


 ホワイトは大きく翼を広げると、空高く飛んで行った。


「お、おい!」


 遅れてノワールも飛び去っていった。


「な、何なのだ?」


「さあ?」


 ホワイトは上空からレースの様子を見ている。


 今現在もアイシアとエメラルドが独走。後ろには、遅れてレオン達が追いかける展開。


「急にどうした? ホワイト」


「……ノワール。私達は何なんだろうな」


「は?」


「私達は魔物だ。だが理性無き魔物ではない。考えることができる魔物だ。だからこそもっと向き合うべきなのだろうか……」


 魔物として自分が認める存在、強き存在に従うのは魔物の本能。


 だからアイシアに対しては(ひざ)を折る。


 だがリリアは考えてくれと言った。


 本能ではなく自分の考えの元、認めて欲しいと促してきたのだ。


 多分、すぐに答えを求めてはいない。あの友好的な笑みには腰を据えてと訴えているように映った。


 結論を急ぐ気はないが、それでも同族(ノワール)にも意見を訊きたかった。


「あの娘もそうだが、神子様もきっと同じことを仰るだろう」


「!」


「神子様はご家族は勿論、ご友人にも我々にも同じように接しておられる。あの娘……それをわかった上であのようなことを言ったのだ」


「……そうか」


「若き龍達にあの渓谷を抜けさせることは難しいだろう。だが共に進む仲間が居れば或いは……」


 そう言って視線は、レースへと向く。


「エメラルドちゃん、どう? 他の人達は……」


『そうですね……筋はいいと思います。若き龍達をあれだけ力を発揮させていますし、龍達も頑張っています。ただ、やはり厳しいかと……』


「そっか……」


 アイシアはギュッと手綱を握る。


「でも勝負は勝負。みんなの全力には全力で応えよう。私達のためにも!」


 [は! 神子様!』


 ギュンと更に速度を上げる。


「くそっ! まだ速くなるのか!?」


 レオンは悔しそうに歯を食いしばるが、その眼は死んでいない。


「エヴォルド! お前はまだやれるよな?」


「ガウ!」


「よし、勝負をかけるぞ!」


 アイシアが外周の終了ポイントに到達し、曲がっていく。


 エヴォルドの体力的には正直キツイが、距離を詰める方法はある。


 レオン達も終了ポイントまで到達。


「高度を下げるぞ! 町の中を飛ぶぞ、エヴォルド!」


「ガウ!!」


 レオンは終了ポイントの町の上空ではなく、建物が立ち並ぶ中を駆け抜ける。


「なに!?」


 後続にいたヤキン達も思わず驚愕すると同時に失速した。


「町の中を飛べば、建物の損壊が……それに被害だってでかねん」


 そんなことは百も承知のレオンだが、グングンと速度を上げて町中を飛んでいく。


 ドゥムトゥスは花の町でも有名ではあるが、勿論、龍操士(ドラゴンライダー)の教育にも力を入れている国だと理解されているためか、高い建物が多い。


 昔はドラゴンが飛ぶため、建物が破壊されないよう、小さな建物が多かったが、その方が被害が出たのだ。


 だから不用意に飛んできた龍達が建物を押し潰さないための構造上、こうなったのだ。


 仮に上空から落ちてきても、下の人を守るようにクッションになるように。


 その建築のお陰か、向こうでいうビル風みたいな現象が発生する。


 こちらは魔法も使えるのだ、風を操るなどお手の物。


 レオンは下にいる人達の被害が出ない程度の高度で飛びつつ、狭い建物同士の圧力からくるビル風を利用、制御し、速度を上げているのだ。


 だが速度が上がれば、衝突の確率も上がる。


 幼き頃から住んでいた町で土地勘があるとはいえ、建物の把握など中々困難だが、


(大丈夫だ! 俺とエヴォルドならやれる!)


 自分を信じて飛んでくれるエヴォルドを信じ抜く。


 そして――、


 町の雑踏の中からレオン達が凄い勢いで飛び出して来た。


「おおっ!?」


「……」


 俺達は驚愕するが、それの一部始終を見ていたホワイト達は、見下ろし見守る。


「あれ? 距離が詰められた?」


 アイシア達は最後エリア、石柱エリアに差し掛かるところ。


「おおっ! まだ距離はあるが、追いつけるか?」


 アイシア達の独走と思われていたが、ここでレオンが姿を見せたことにテンションが上がる。


「エヴォルド! その速度のまま突っ込め!」


「ガアア!!」


 一切怯まずに突っ込む様子に無謀にすら映る展開。


「私達も負けてらんないよ、エメラルドちゃん!」


『はい! わたくしも力の限りを尽くしましょう!』


 エメラルドも速度を上げて石柱の中を飛ぶ。


 目の前には次々と迫る石柱。


 本来なら衝突の恐怖に苛まれ、恐怖し、怯むもの。


 だがエメラルドもエヴォルドも怯むことなく、駆け抜ける。それを信頼し、騎乗するアイシアとレオンも。


 そして――、


「――ゴォール!!!! 勝ったのは……アイシア、エメラルドペアぁ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ