35 旅立ちは盛大に
朝、済ませる事全てを済まし、履き慣れた茶色の靴につま先から踵を入れる。トントンと靴を鳴らすと、外へと繰り出す。
そこで待ち受けていたのは、今回、お世話になる馬車とその馬車乗りさんがお出迎え。
「えっと……バトソンさんよろしくお願いします」
ペコっと軽くお辞儀をする。
「ああ。よろしくね、リリアちゃん」
今回、王都まで連れて行ってくれる、普段は運び屋のお仕事をしているバトソンさん。長旅には慣れているという事とリリアちゃんが心配だからと引き受けてくれた。
「バトソンさん……リリアの事、よろしくお願いします」
母親は深くお辞儀をした。
「そんなに畏まらなくても……任せて下さい」
母親とバトソンさんが少し話している間に荷物を荷馬車に乗せてしまおう。
だが、上手く乗せられず、ドンッと鈍い音を鳴らしてしまった。
「……! コラッ、リリア! 静かに乗せなさい! すみません」
「いえいえ、構いませんよ。しかし、あのリリアちゃんが王都の……ましてやあの王立学校に通うなんて、いや、うちの娘に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいですよ」
「とんでもないですよ。ホントにご迷惑ばかりかけた娘で――」
話が長くなりそうだなぁと思っていると、少し向こうの方から村の人達が次々とこちらへ向かってくる。
「リリアちゃん! 今日、王都へ向かうんだってね」
「リリアちゃん! 頑張るんだよ」
「辛くなっても自殺なんてしちゃあダメだよ」
「もし、本当に辛くなったら帰ってきたっていいからね。おばちゃん達はちゃんと迎えいれてあげるよ」
次々と爺ちゃん婆ちゃん達から心配の声を掛けられる。
どれだけの人に迷惑かけてたんだ!この娘はぁーーっ!!
「う、うん。頑張るよ……」
辿々しく宥めながら返事を返す。
「でも……あのリリアちゃんが……王都の立派な学校に通うなんてね。……あたしゃ嬉しいよ……」
「そうだね……あんなに内気だったリリアが……ぐすっ……やだわ、おばちゃん……涙が出てきちゃったわ……」
集まったご老人方はまるで孫でも見送るように、鼻をすすりながら見守るように送り出す言葉をくれる。
ホントにどれだけ迷惑かけたんだ、リリア。
「ごめんね、リリアちゃん。そろそろ行こうか」
母親と話し込んでいたバトソンさんが出発を促す。
「ああっ、はい。えっと……皆さん心配してくれてありがとう。リリアは大丈夫です。行ってきますね」
心配を掛けまいと明るく振る舞い返事をした。
「こんなに立派になって……ちょっと前まで死にたそうな顔をしてウロついていたリリアちゃんがこんなに笑顔で……ううっ……」
もうやめて……それ以上聞きたく無い。
「ホントに変わったよリリア」
母親も送り出す言葉をくれるのだろう。いつもより優しさがこもった真剣な表情で声をかける。
「あんたがさ、どうして急にこんな心変わりをしたか……まぁ知らないけどさ、頑張ってきな」
「……!」
何かを悟ったように言われた。おそらく気づかれてはいないだろうが、きっとこれ以上居たらバレてたかもしれない。
――荷馬車へ乗り込み、バトソンは乗った事を確認すると、
「では、行ってきます」
パシンッと馬の手綱を鳴らし出発する。
「ママー。行ってきまーす。パパにもよろしく〜」
走り出した馬車から大きく手を振る。
「行ってらっしゃーい! 頑張るのよー!」
村の人達も大きな声で見送ってくれた。
――リリア。お前はこの愛が怖かったのか? こんなにも沢山の人達がお前を心配してくれてたぞ。
やっぱりお前は間違ってたよ。リリアは重く受け止め過ぎなんだよ。
「俺は生きるぞ……この異世界で。お前みたいに逃げないからなリリア」
こうしてリリアもとい鬼塚 勝平はこの小さな山合いの村、ミリア村を後にし、王都へ向かったのだった――。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次からは旅路でのお話となります。少しでも皆様に楽しんでいただけるよう頑張りますので、暖かく見守っていただけると幸いです。よろしくお願い致します。長文失礼しました。




