20 希望の光は
――私達は、私の家を拠点とし、各自特訓を開始した。
アルビオ君、シドニエ君、ミルアちゃんはライセル君達と共に、戦闘における対応や魔法の特訓などをしている。
アルビオ君に至っては、ライラさんとの精霊についての戦闘スタイルや気をつけるべきことを学びもした。
一方でルイスちゃんとユニファーニちゃんは、お父さんと私の特訓の元、治癒魔法や再生魔法の訓練に入っている。
怪我人や病人の状態から、適切な魔法で対応できるか、平静かつ冷静な判断を下せるか、魔法だけではない。
治癒魔法術師は、何よりも把握能力が必要なのだ。
その上で治癒魔法と再生魔法の使い分けも必要である。
治癒魔法術師を目指す人達がよく勘違いしがちなところである。
そもそも治癒魔法は、体力の回復や病魔の撃退、生物が持つ再生能力の活性化によって治療を行うこと。
再生魔法はそれとは異なり、簡単に言ってしまうと切断された腕や足をくっつけるといった、元に戻すことを前提とする魔法である。
実際、腕の切断を例に上げると、切断部分を再生魔法で治療し、治癒魔法で再生能力を高め、くっつけたりする。
これが出来てこそ、治癒魔法術師と名乗れるのだが、大半は治癒魔法しか使えない人間が多い。
実際、再生魔法の習得は難しい挙句、必要とされる機会も中々少ない。
だから治癒魔法術師の組織も妥協として採用している節がある。
それを訊かされた二人は、ルイスちゃんの方は光属性ということもあって、手応えを感じ、ユニファーニちゃんはヒィヒィと弱音を吐きながらなんとか頑張っている状況。
そんな北大陸での生活も一週間が過ぎ、私達はサルドリアの研究室へと向かった。
「おはようございます! ヘレンです!」
中は相変わらず重い空気だろうと、元気良く挨拶し、ノックすると、少しやつれた様子のアライスさんが扉を開けた。
「おお……ヘレン殿に皆の者……」
「大丈夫ですか?」
私はチラッと部屋の奥を覗くと、サルドリアさんとヴァートさんがぶつぶつとテテュラさんを見下ろしながら会話をしている。
そのテテュラさんはというと……、
「目が死んでる……」
ドーンと重い物がのしかかっているような倦怠感のある表情を浮かべている。
クールな彼女からは中々見られない表情。
たまに様子を見に来てはいたが、どんどん表情が落ち込んでいくのが手に取るようにわかる。
何とかしてあげたいのは山々だったが、サルドリアさん達も元に戻すためにやっていること。
中々邪魔しづらい。
とはいえ、さすがにそろそろ状況を知りたいので、
「すみませんが!! 少しお話宜しいですかぁ!!」
話し合いに夢中になっている二人の目を覚まさせるように大きな声で呼びかけると、二人して居たのかという疑問を抱いた表情でこちらを見た。
存在の認知すらされてないとは……。
「ああっ!? すみません。もう一週間になりますか?」
「……なるな」
するとサルドリアは隣の部屋へ行くと、ドカッと何かを蹴り上げる音が聴こえた。
その部屋からのそっと出てきたのは、眠そうな顔を擦ったサドラだった。
「おい、ヴァート。ラミア呼んで来い」
「は、はい……」
サルドリアは湯気のたつマグカップを手にし、一口飲むと無言でこちらを見る。
「?」
「……お前ら誰だ」
「で、ですよね……」
そういえば自己紹介もないままだった気がすると、一週間経った今更感じたので自己紹介をすると、向こうもやっと名乗ってくれた。
「――私の名前はサルドリア。しがない魔石研究者さ」
それはもう見ればわかると、散らかった部屋を見る一同。
「コイツを運んで来てくれてありがとな。しばらくは退屈しなくて済みそうだ」
「退屈って……」
「好奇心に勝るものはないってこった。……不幸なことくらいはわかっちゃいるさ。だが、いつの時代もこういう犠牲者はいるもんだ」
くぴっと飲み物を喉に通しながら語る。
「テテュラさん、大丈夫?」
「ええ。魔石化より、念仏みたいに唱えられる意味不明な言葉を聞き続ける方がよっぽど大変だったわ」
「仕方ねえだろ? 今のお前はそれだけ複雑な状態なんだ」
そう話しているうちにラミアさんも到着。
テテュラさんの状況について語られる。
「結論から言うと、ほぼ元に戻すことは不可能だ」
「!!」
「そ、そんな……」
「待て待て。結論だけ聞いて落ち込むんじゃねえ」
気を落とす私達にそう言うと、詳しい説明も受けた。
テテュラさんの身体の状態は、以前ラミアさんの話した通り。
魔石として魔力を放出すれば消失。鉱物から人の身体にすることなど神の所業であるという結論。
しかし、あくまでほぼ無理なだけで無理ではないのだ。
一つ目としては再生魔法。
今ある人間の細胞を再生治療を施しながら、治癒魔法もかけていくというもの。
だが、これには欠点も多い。
人間の身体の成長にも勿論、限界はある。身長が十メートルな人間とかが出来るわけがない。
つまり人間の細胞を増やしても、元々形成されている魔石の細胞には勝てないということ。
ならば魔石を魔力に変換しながらと考えるだろうが、それも難しい。
今のテテュラは魔石寄りの身体である。
つまり魔力の循環率が速く、魔石の構築速度の方が速いのだ。人間の細胞の再生化と比べると圧倒的に違う。
今はインフェルを使ってコントロールしているが、治療を行う際には、それも障害となる。
インフェル自身が魔物であるため、魔力の循環速度は速い。
インフェルがいるから今の状況があるのだが、インフェルがいるからこそ、治療の妨げになっているのだ。
だからといってインフェルに出て行かれると、魔石化が進行してしまう。
魔石を魔力に変換することを誤れば、テテュラは消失する確率も高くなる。
そもそも人間の再生された細胞がちゃんと望んだ治療へと向かうのかと、欠点だらけの板挟み状態である。
二つ目としては、敢えて魔物化するという方法。
元々、テテュラは魔物化から魔石化したのだ。敢えて魔物化させることで、魔石化した部分を凝縮し、ドクターが作り上げたような擬似心臓を作り出してしまおうという手段。
だがこれも欠点だらけ……というよりは現実的ではない。
そもそもの問題として、魔物化させる技術がここにはないということ。
部屋には、以前ここに所属していた時のドクターの資料が散らばっているが、これを元手にその技術を作り出そうとすること自体が危険である。
それにテテュラ自身が耐えられない可能性の方が高い。
さっきから説明しているが、人間の細胞体は弱い。挙句、数も少ないのだ。
魔物の細胞など組み込んだ日には、テテュラは今度こそ人に戻らぬ魔物と化す。
これは望むことではないだろう。
そして三つ目は、魔物の細胞を人間の細胞へと変換することである。
生物学の研究を行なっているラミア曰く、擬態が可能な魔物には、細胞の変質が起きているとのこと。
身体を変異させて擬態する系統の魔物を利用して、テテュラの細胞体に近いものを組み込み、治療を行う手段だ。
これも欠点は存在する。
先ずは擬態が可能な魔物は生息数も少なく、発見例も少ない。
言うまでもない欠点である。擬態が得意はイコールかくれんぼが上手ということ。
生息域がわかっていても厳しい。他の魔物に擬態されていれば、見つけることは容易ではない。
二つ目の理由としては、人間に近しい細胞を作り上げることが可能かということ。
身体を変異させて擬態できる魔物のほとんどは、人間へと姿を変えることは可能だろう。
だが人の形を成すだけでは意味がない。
それに加えて、魔物とは異なる安全な細胞に組み替える必要があるが、ラミア曰くそんなことが出来れば、私の名前は広まっていることだろうとのこと。
三つ目の理由は、仮に作り上げたとしてテテュラの身体に馴染むか。
今のテテュラの状態からその細胞を組み替えても、テテュラに馴染むかは賭けである。
その細胞が魔石の身体に当てられ、魔物として活性化なんてこともあり得る。
そうなれば、本末転倒である。
以上のように、課題が多い挙句、かなり難しい状態であることを改めて認識することとなった。
「――ま、こんなもんだ」
「やはり簡単にはいきませんか……」
「少なくとも今すぐに治せは無理だ」
「わかってます……」
みんなが落ち込む中、テテュラがお礼を口にした。
「みんな、ありがとう。私の自業自得にここまで付き合ってくれて……」
「自業自得なんかじゃないよ。クルシアって奴が悪いんでしょ?」
テテュラは天井を見上げ、仕方なさそうな表情を浮かべる。
「だあーっ! 何かさ、再生魔法とか精霊の力とか、そんなのでババーッと解決できないかな?」
「ユファ、そんな横着なことは無理だよ」
「精霊……精霊か……」
ユニファーニのその一言で、サルドリアは何か思うことがあるようだが、ヘレンは閃く。
「ねえ、精霊の魔力となると、変わるよね?」
「確かに僕もそれは考えましたが、そもそも人間には霊脈はありませんよ」
「そう! それだよ!」
「は?」
「人間にはでしょ? テテュラさんは魔石寄りだよ」
そんな屁理屈をとアルビオ君はツッコむが、
「精霊石……」
サルドリアは何か覚えがあるように、その言葉を口ずさむ。
「精霊石?」
「そうだ。精霊石なら可能性があるんじゃないのか?」
するとサルドリアは再びヴァート達を呼び集め、話し合いを始めようとする。
また長くなられたら困ると私は止める。
「あの! 精霊石って何ですか?」
「精霊石っていうのは、精霊が魔石化したもののことを言うんだよ――」
精霊は思念体であり、実態を持たず、その精霊の性質のほとんどが霊脈を通った魔力で形成されている。
その中でも思念体が消失し、新たに小精霊が形成されるのだが、その残り香のような魔力が結晶化した物が精霊石と呼ばれている。
「精霊石はかなり小さいものだが、構造は何となく想像がつく」
「!?」
フィンは思わず驚き、顕現する。
「そうですね。精霊石にすることができるなら……」
「待て待て待て! どうして知ってる!?」
フィンが慌てて尋ねると、サルドリア達は呆れた顔をしている。
「そりゃあ精霊石も魔石の一種だ。知らねえわけねえだろ」
「それに精霊石は人精戦争の火種の一つ。学者で知らない人の方がおかしい」
「……ですね」
「そ、そうかよ……」
そう説得されると納得せざるを得ないフィン。
ラミアは敢えて気を使い、黙っていた。
「それで? 精霊石がテテュラさんを元に戻す方法に繋がるの?」
「ああ。精霊は構造上、ほとんどが魔力だ。だが思念体として生きられてる。つまり、テテュラの身体を精霊石の状態にしてやれば或いは……」
「お、おいおい!! それは精霊化ってことか!?」
「まあ、そうなるか」
「……」
サルドリアの突拍子もない提案にフィン以外の人達は言葉を失う。
「ふざけんな! 人間の精霊化なんて認められるか!」
「落ち着きなさい。フィン」
ルインが顕現して宥めるが、落ち着く様子がない。
「アルが精霊化なら考えなくもないが、アル以外にそうなるなんて認めない!」
「落ち着きなさいと言っています。そもそも人間の精霊化など、前例がありません」
「……けどなぁ」
激昂するフィンにアルビオが尋ねる。
「フィンはテテュラさんのことを可哀想だとは思わないの?」
「……そりゃあ思うさ。少しずつだが、人間って生き物がどういうものなのか理解してるつもりだ。それでも認められないことはある」
「精霊様、どうか落ち着いて。サルドリアの無茶苦茶な話はいつものことですから……」
そのサルドリアは、その折角のサドラのフォローをぶち壊す。
「一番、上げた提案の中じゃあ有効な手段だ。魔石の身体をしたテテュラの魔力回路を霊脈に変換し、その魔力を流し、精霊石化させ、魔力を解放。身体を構築できるようにテテュラが魔力を操作できれば精霊化に成功。生き長らえるどころか、完璧な不老不死化まで遂げられる。……お前達、精霊だってその姿形は想像したものだろ?」
「人間……てめぇ!」
「サルドリアさん! 折角、落ち着いたのに、火に油を注がないで下さい!」
アルビオとルインが落ち着かせる中、サルドリアは更にしれっと、
「そんなに騒ぎ立てるな。精霊学はそこまで精通してない。それに霊脈の取得が可能ならとっくに別の奴がやってるだろ? 不老不死の方法をさ」
一応なのか、フォローを挟む。
その緊迫した話し合いに疲れを見せるルイス。
「なんだか話し合いの規模が凄いことになってきてますね」
「うん。聞いてるだけで頭が痛くなる」
その呟きにサルドリアは、
「それだけテテュラの状況は特殊だってことだ。事の次第の規模をまるでわかってない」
「どういうことです?」
「魔石から人間に戻すことは神の身技とも言ったが、逆も然りだと思わなかったのか?」
「「「「「!!?」」」」」
その発想はなかったのかと疑問を投げかける。
「石化魔法とは違うんだ。テテュラ自身が魔石になった。これは神の身技だ。ドクターはそれを成した。なら、こちらだって常識や固定概念を壊さなきゃ、解決には繋がらねえ」
それがたとえ偶然の産物であったとしても、それを可能にした技術は確かにあるのだと明言する。
それを打ち破るには、それと同等のことをしなければならないことも。
それを踏まえた上で、サルドリアは宣言する。
「テテュラ、お前さんが人間に戻れることはない。だが、意思を持って生きられる身体にはできる。普通の身体では無くなった時点で、それは確定事項だ」
それを聞いたテテュラは、フッと微笑した。
「その覚悟なら、あの魔石を手に入れた時点からついてるわ。ただ、今持っている覚悟は別のものだけどね」
ドクターの魔石を受け入れた際は、たとえ半魔物化しようとも、理不尽な世を変えるという覚悟があった。
だが今ではそれは愚かな覚悟だったことを身を持って理解している。
必要な覚悟は、たとえ人ならざるものになったとしても、暖かな世界……リリア達と過ごせるよう考え、努力する覚悟だ。
そして受け入れられなかったとしても、その現実を受け止める覚悟を。
その悟った表情にサルドリアは納得した様子。
「ならいい。だが、一つだけ。勘違いしないで欲しいことがある」
「?」
「私はドクターの外道とは違う。これからお前には色んなことを試すだろう。入念な準備の上で施すことになるが、お前の意思は尊重し、人権は守る。仮に実験の結果、お前が化け物に成り果てようとも見捨てたりしない。責任は取ってやる」
一研究者として、誇りを持って取り掛かると宣言すると、
「私もです。貴女の置かれた立場の人間も増えるかもしれません。貴女を救う道が未来に繋がることもあります。私の知識と考えを持って、助けると誓いましょう」
「そうだね。未知への挑戦はいつだって本気で臨まないと。俺達は君という未知に挑み、勝利してみせる」
ラミアもサドラも覚悟を示した。
「この先の未来は見えないけどさ、こうして目の前で助けてくれるって言ってくれると嬉しいね。良かったね、テテュラさん」
「そうね。ありがとう……」
話が落ち着いてきたところで、ヴァートはこの先の予定を話す。
「とりあえず一度、王都へ帰ります。陛下に報告しなければ……」
「報告に行くだけだろ? テテュラは置いていけ」
「そういうわけにはいきません! テテュラさんを戻すのにどんな手段にせよ、多くの時間をかけなければならないということがわかりました。彼女の身柄について話し合う必要が……」
「ここまで連れて来ておいて、何を今更……」
確かに今までに上がった提案は、今から取り掛かるにしてもかなりの時間がかかる。
しかもテテュラは、仮にも機密事項として進めている話。
北大陸の研究員との協力を取りたいのは事実だが、連携出来なければ話にならない。
「だからサドラさん、ついて来てくれませんか?」
「おい。何で私じゃねえんだ」
ヴァート的には、道中も心身ともに過ごせるサドラの方がいいのだろう。
それに報告と今後の協議についてなら、サルドリアのような態度の人間より、印象のいいサドラの方が都合が良い。
だがそんなことを言い出せば、怒鳴られることはわかっているヴァートは、おどおどとする。
「いや、それは……その……」
「はっきり言えってんだよぉ!!」
「――ひいぃーーっ!!」
結局、怒鳴られた。
サドラの後ろを鼠のようにピュッとサドラの後ろへと隠れる。
「お前はホント、相変わらずだな」
「な、慣れるわけありましぇん……」
「……」
サルドリアは気に食わなそうに、頭をかく。
「ああっ!! わかったよ。サドラ、行ってこい。そんですぐ帰って来い! テテュラを連れてな」
「はは。わかったよ。すぐ出るのかな?」
ヴァートはこちらを振り向き見る。
「帰る準備は万端だけど、挨拶してこなくちゃ……」
一週間、お世話になった人達の挨拶周りをしたいと告げると、明日、出発となった。
「よし! じゃあ今日は飲むか! 付き合うよな? ヴァート?」
「あ、ああああっ!! ――いやあぁあーーっ!!!!」
ヴァートは全力疾走で逃げた。
「おい! アイツ、ホッントに酷い奴だなぁ!」
「酒癖の悪さが抜ければ、あんな反応にはならないし、そもそも飲ませません」
「おい、サドラ……」
私達はとんでもない悲鳴をあげて逃げていくヴァートさんを見て、ボソッと隣にいるアルビオ君に耳打ちする。
「どんな酒癖なのか、逆に気になるね」
「はは。怖いものみたさ……かな?」
***
明朝、ハーメルトへと出発の日を迎えた。
「お父さん、見送りは嬉しいけど仕事は?」
「遅れていくと連絡してある」
「まあまあ。最初もそうだったじゃない」
言われてみると、私がカーチェル劇団へと入団し、この地を離れる時も見送ってくれたっけ。
それにみんなも、
「やっぱり行くのか?」
「そりゃね。そんな寂しそうにしないでよ、ラチェット」
ラチェットは眉をへの字に曲げて寂しそうに、リーナはさっさと行きなさいよと、そっぽを向いた表情。
ジェーンは再会の時と変わらず、壁に背を向けてキザっぽく、こちらを見つめ、ニナは優しい笑顔で見送ってくれる。
本当にあの時と変わらないと、クスッと笑う。
「どうかした?」
「ううん。あの時と変わらないなって。今生の別れでもないのにさ」
「まあそれでもね。今度戻ってくるのが、いつかもわからないしね」
そんなヘレンとニナの会話に耳を澄ましていたヴェイク。
(そうそう! ヘレンがいつ戻ってくるか、わからないから、こうして……)
ミレンはそんなことを考えていることなど、お見通しのようで、スッと手を握った。
「大丈夫よ。ヘレンはまた戻ってくるわ。今度は彼氏でも連れてくるんじゃない?」
「!!? そ、そんなの認めないぞ!」
急に大声を出すからびっくりした。
「ど、どうしたの? お父さん……」
「えっ? あ、ああ。こ、こほん。なんでもない」
またお母さんが悪戯したんだな。隣でクスクス笑ってる。
一方でアルビオ達もお世話になったライセル達と別れの言葉を交わしている。
「俺達もいい経験をさせてもらった。短い間だったが、実に充実した時間だったよ」
「こちらこそ。お付き合い頂き、ありがとうございます」
「おい、勇者!」
「あのだから、僕は末裔であって……」
そんなことを言うアルビオに宣言する。
「まだそんなこと言ってんのか。勇者になれ! アルビオ」
「!」
「俺達だって冒険者だ。お前がどんなヤバイ奴と関わってるのか、噂伝いだが聞いた」
「最凶の殺人鬼、バザガジールを相手にしてるとか……」
「!?」
隠していたはずだが、さすがにギルドに所属しているだけあって、別大陸から来た冒険者から話を訊いたのだろう。
「そんなヤベー奴を相手だ。ぶっ飛ばせば、英雄……違ったな。勇者だろ?」
「そうだよ、アルビオ。あの最凶にして最強と呼ばれている彼を倒してくれ」
「……はい! ありがとうございます」
するとバルドバはシドニエの前にも陣取る。
「お前もな」
「ぼ、僕も……」
「おう。俺の技術は叩き込んだが、まだ不安があるならいつでも来い」
「そうだね。俺も出来る限り協力するよ」
すっかりライセル達と仲良くなったところを見る、ルイスとユニファーニは質問。
「よく仲良くなれたわね」
バルドバに至ってはシドニエと正反対そうな性格をしているだろうにと呟く。
「えっと、弟分みたいな感じでね」
「あー……」
そう言われると納得してしまった。
「あ、あの! ライセルさん、バルドバさん、ファナさん。短い間でしたが、ありがとうございます。また北大陸に来た時は伺います」
「うん」
「仕事してなきゃ、基本いるから会いに来な」
「楽しみにしてる」
――こうして別れの挨拶も済ませ、船は出港する。
みんな手を大きく振って見送ってくれた。
久しぶりの故郷、雪の地下にあるにも関わらず、変わらず暖かだった。
変わらない幼馴染と、テテュラの影響で思いがけずに沢山の出会いも生まれた。
そして何より家族。
お父さんもお母さんも相変わらずで、でもちょっとお父さんの情けないところを垣間見れたところは、思わずクスッと笑った。
私はこれからも夢を追いかけるけど、いつかふらっとまた帰って来た時、また暖かく迎え入れてくれるといいな。
「いやー、別大陸に行くのは久しぶりだな」
「そうだったね……」
と言いながらすごすごとヴァートは、魔法陣のかかった安全部屋へと足を運ぶ。
ここへ来る時のことが過ったユニファーニとルイスは、ヴァートを捕まえる。
「どこへ行くつもりですかぁ〜?」
「そういえばさぁ……行きが落ちるなら、帰りはどうするのかなぁって、怖くて聞かなかったけど、どうなるのか聞こうじゃないか」
「い、いやぁ……君達は派手なこと好きでしょ?」
「大好きですから、一緒に楽しみましょ?」
「好きだからさぁ、一緒に楽しもうか」
「ぼ、僕は遠慮しますから! 離してえっ!?」
そのやり取りを聞いて、アルビオはこの後、何があるのか知っているであろう、ヘレンとサドラに顔を引き攣らせながら尋ねる。
「えっと……怖いもの見たさで尋ねるんですけど、この先は何が待ち受けるので?」
船は暗がりの穴の中へと入っていく。
「この先は噴射口になっててね。水圧で一気に外まで飛ばされるの!」
「い、一気に……?」
「あっ。心配は要らないよ。船ごと結界が張られるから、外傷は起きないし、着水する時は船がひっくり返らないよう、魔法も施されてるよ」
「い、いや。そういう問題じゃ……」
するとゴボゴボとする音が聴こえてきて、船も大きく揺れ始める。
「まあ何事も経験だよ! さあ! 飛ぼうっ!!」
「ちょっと待っ――」
激しい水流が船を一気に押し上げ、船は急上昇。
アルビオ達は結界内とはいえ、空中に投げ出される。
「――わあああっ!?」
「――きゃあああっ!?」
船は北大陸の海へと放り出された。
安全だとわかると結界は解かれ、また激しい水しぶきを浴びて、私は笑う。
「はあー、楽しかった!」
私は雪が舞い散る中、遠くなっていく北大陸を見ながら約束を交わす。
――また、帰ってくるよ。
ここまでのご愛読ありがとうございました。第6.5章はこれにて終了です。
第7章はちらほらと名が出ている原初の魔人のお話です。
これからもご愛読下されば幸いです。それでは。




